7月16日(日) ああ麗しのバビ・グリン

午前7時半。
鳥のピチュピチュケチャケチャクルッポクルッポ言う音に目が覚め、起床。そうそう、バリ島は鳥がうるさいんだったっけか。数年ぶりのバリ島を実感しつつ、一人目を覚ます。だんなと息子は爆睡中だ。

昨日はあまりにも疲れていたので窓の外もろくに見ないで寝てしまったが、窓の外には広いラグーンプールが広がっていた。対岸にはガゼボが見える。屋根つきの4畳くらいのあずま家にお昼寝が気持ちよさそうなマットと三角クッションが置かれている。
うちの部屋のベランダのすぐ横には梯子がついていて、すぐにプールに降りられるようになっている。そうそう、ここからプールに入ってみたくて"ラグーンアクセス"という部屋をわざわざ指定して予約をしていたのだ。わーいわーい。アクセスできるぞっ!してやるぞっ!

かくして私は一人、ベランダのテーブルに端末置いて一人で旅行記など打っているのである。
丁度スタッフが庭の木々に水をやったりするのが見える。背の高い椰子の樹、ピンクや黄色の花々。ううう、ここはどうやら確かにバリ島であるらしい。じわじわと実感。感動。

20分ほどしてだんなが起きあがってきて息子もまもなく目が覚めた。皆で宿泊プランについている朝食を摂りに「CAFE LAGOON」にほてほてと歩いていく。小道とラグーンが網目のように絡まったホテル内。滝あり池あり、歩いていてとても楽しい。壁のない吹き抜けの大きなホールのある長時間営業のカフェでバイキング式の朝食。

これがこれが、絵に描いたようなイカしたブッフェだった。卵料理は全部目の前でオーダーして作ってもらうようになっており、パンケーキやワッフルもオーダーを受けてから焼いてくれる。たっぷりのフルーツに数え切れないほどのデニッシュ、ベーコンは普通のクタッとしたものとカリカリベーコンの2種類。"POTATO OF THE DAY"なんて記された盆にはハッシュドポテトが入っていた。"今日のポテト"というからには、きっと毎日変わるのだろう。

バリニーズ朝食としてBUBUR AYAM(ブブル・アヤム=鶏お粥)、NASI GORENG(ナシ・ゴレン=炒め御飯)、MIE GORENG(ミー・ゴレン=焼きそば)なども用意されている。何故かお粥や味噌汁のような日本食までが完備。燒き魚まである。ジュースコーナーには「WATER MELON JUICE」なんて怪しげな文字のものも置いてある。す、すいかジュース、っすか……。

焼きたてのワッフルの匂いに魅惑されて、大皿にワッフルを。バターを添えて、カリカリベーコンとハッシュドポテトも盛り付ける。チーズやハムなどの冷菜を皿にとってテーブルへ。コップにフレッシュミルクと、噂の「WATER MELON JUICE」も持ってくる。うーふーふーふーふー♪

焼くときもバターたっぷり使ったようなワッフルはフカフカでバターの香りたっぷりですこぶる美味だった。
向かいのだんなを見ると、ブブルアヤムとナシゴレンとミーゴレンの3点セットを持ってきてご満悦だ。お粥の上にはフライドオニオンや葱、ゆで卵なんかがしっかり盛り付けられている。あ、美味しそう……。

一口食べて、だんなは目をつぶってぶんぶんスプーンをふりまわしている。美味しいらしい。
「う、うまひー」
だんな、感動している。そ、そんなに美味しいか。どれどれ。
「う、うーまーひー」
たかがお粥であるはずなのだが、何故か妙に美味しいブブルアヤム。
私もワッフルを片付けて速攻貰いに行ってしまう。手のひらサイズのボールに葱たっぷり、フライドオニオンと揚げワンタンのようなもの、8等分にしたゆで卵に、サンバルソースもあったのでちろりとかけて持ってきた。ああ、幸せだ。

南国のブッフェだから、果物も異様な種類が置いてある。見たことないものばかりが氷の上に盛られている。SALAK(サラック)という表面が蛇皮のようないちじく形の果物は、白い果肉に強いアクのある薄甘いもの。小さなバナナ、PISANG(ピサン)にパッションフルーツMARKISA(マルキサ)、温州みかんそっくりのタンジェリン。匂いもそれぞれ強烈だ。
スイカやメロンなどと一緒に、見なれないフルーツも角切りにされたものを器に盛って、ヨーグルトかけて食ってみる。個性の強いフルーツが「俺は○○だ!」「オレは△△だ!」と主張してくるけど、しかしその正体がわからないものばかり。

濃厚な朝食のあとは、部屋の前のラグーンでひとしきり遊んでみる。
日中は30℃を越えるバリでも夜間に水温は下がってしまうのか、プールの水は案外と冷たい。ヒャーヒャー言いながら部屋から向かいのデッキチェアが並ぶ岸へ向かう。花盛りのベランダからはピンクや赤の花がふわふわとプールに降ってきている。

今日に備えて、大人用プールは産まれて初めての息子のために浮き輪を買ってやってきた。ミッフィーの模様の、前方のハンドルがついて中央のボタンを押すと「パフパフ♪」と音がする浮き輪だ。沈まないように足の間にビニールがついている幼児用のやつだ。

大きなプールが初めての息子は最初は怖がって泣いていたものの大はしゃぎだ。
ラグーンプールは1.5mくらいの深いところもあり、膝丈の浅瀬もあり、なかなか楽しませてくれる。一部には砂を敷いて砂浜にしているところまである。膝丈の砂浜コーナーでは水かけっこをしてみたり。おおお、楽しいぞラグーンプール。
(←写真の1階手前の梯子つきの部屋がわしらの部屋なのじゃ)

1時間ほど遊んだ後。
「トラギアに行こう!」
といきなり燃えている一家なのである。
"TRAGIA"とは、バリ島各所にあるスーパーマーケット。怪しげな調味料や缶ジュースやお菓子などがたっぷりと売られている。ビールなどは8,000Rp。日本円にすると90円というところだ。すばらしい。

ホテル隣接の"GALLERIA NUSADUA"というショッピングモール内にその店はある。
両替屋も兼ねているそこを一旦目指し、当面のお金を工面したところで周囲にあったレストランの1つに入ってみる。"RAYUNAN"なるそのお店、何故か店頭で30%OFFのチケットなぞを配っているのであった。
私は"CHIKIN SATAY"と表記されていたSATE AYAM(サテ・アヤム)を。だんなは目玉焼きの乗ったスペシャルミーゴレンを。ジンジャーエール2つに、息子用にはミックスジュース。

SATE(サテ)、は焼き鳥のこと。AYAM(アヤム)は鶏。豚だったらSATE BABI(サテ・バビ)になるし牛肉だったらSATE SAPI(サテ・サピ)だ。甘いピーナッツソースや甘辛いサンバルソースなどをつけつつ食べる。
大きな皿にこんもり丸く盛られたタイ米にサテが8本、レタスとトマト、巨大なきゅうりのようなものが添えられる。きゅうりと言うより"瓜"のようなそれは直径が5cmくらいもあるものだ。大味であまり美味しいものではない。別添の小皿にたっぷりとピーナッツソース。

サテ、旨かった。表面がちょっと焦げていたりして、そこのところがまた良かったりする。お米も何だか火で炊いたもののようにお焦げの匂いがするようなものだった。バリ料理は、そんなに辛いもんじゃなくて、辛いものの苦手なだんなもぜんぜん平気らしい。ていうかミーゴレンには魅せられてしまっているフシもある。


↑これが"SATE AYAM"↑

GALLERIA NUSADUA内 "RAYUNAN"にて
CHIKEN SATAY Rp 55,000
GINGER ALE Rp 24,000

食後、前回やってきてお買い物したお店に再び赴く。
アジアンチックな柄のワンピースに、ココナッツ素材のスプーンなどをたっぷり購入。全部で39万9千Rpと言われたところを35万Rpまで値下げしてもらった。……けど、まだぼったくられているような気がしないでもない。……まぁいいや。

GALLERIA NUSADUA内にてお買い物
ワンピース
猫の木彫り人形
ココナッツ素材のスプーン×6
合計Rp 350,000

食後はトラギアでお買い物。
コカコーラ4,500Rp(56円)、ナシゴレンミックス5,000Rp(6.2円)、バニラビーンズ12,500Rp(156円←日本だったら700円くらいするもの)、などなどなど。思わず日本で使う用にスパイスやらサンバルソースやらを山のように買ってしまう。日清のカップヌードルのインドネシア版、なんてものもあってこれは1つ3,000Rp(38円)。笑っちゃうような値段だ。

私の大好物のマンゴスチンも売っている。「30,000Rp」(約360円)という値段に、
「1ピースでの値段ですか?」
と店員さんに聞いてみると1kgあたりの金額だという返答が。買うしか!

結局お土産ものやら色々買い込み、お会計は27万Rp。丁度3000円というところ。
ちなみにマンゴスチンは11個入ってた。1個40円以下。日本で買える冷凍ものは1個300円近くしたりするのに。ううう、幸せ……

"TRAGIA GALLERIA"にてお買い物
ポカリスエット Rp 5,000 ×2
スプライト Rp 4,500
コカコーラライト Rp 4,500
ナシゴレンミックス Rp 3,000 ×5
アヤムゴレンミックス Rp 3,000 ×2
ソース/KECAP MANIS Rp 3,000
ソース/BANGO MANIS Rp 3,000
ソース/SEAFOOD Rp 3,500
ソース/SAMBAL ASLI Rp 3,500
カップヌードル Rp 3,000 ×2
えびせんべい Rp 7,500 ×2
黒胡椒 Rp 6,500 ×2
サフランパウダー Rp 16,500
バニラビーンズ Rp 12,500 ×5
スパイスセット Rp 16.500
マンゴスチン Rp 31,500
ココナッツスプーン Rp 18,500
木製ノート Rp 27,000

合計27万Rp。日本円で3000円ほど。両手たっぷりのビニール袋に抱えてホテルに戻る私たちはちょっと幸せだった。

部屋に戻るなり、だんな爆睡。息子も爆睡。私も爆睡。
目覚めたら4時過ぎ、行こうと思っていたホテル内の無料アフタヌーンティーサービスに行くこともできなかったのであった。

そして夕食。
「230,000Rp/personでケチャとファイアーダンスショーをやるよ。ブッフェディナーつき。」
という案内をホテル内で見たので、昼頃に予約しておいてみた。
部屋からラグーンに沿った小道を抜けていくと海際のメインプールコーナーに進む。松明が各所で灯されて、なんとなくダンスショーの雰囲気が漂っている。
プールサイドのテラスそばに仮設テーブルや椅子が美しくセットされて、前方に小さな舞台がしつらえてある。
私たちはその舞台のまん前の席に案内された。わーいわーい。

食べ物は、周囲に屋台形式で用意されている。デザートの屋台にアイスクリームの屋台、スープに前菜に温菜のワゴンの数々。何だかうきうきしてくるではないか。

食前酒代わりに"BALI・HAI"(バリ・ハイ)なるビールを注文。バリの建築物のシルエットが印刷された、いかにもバリっぽいラベルのビールだ。なんでも、私たちの最愛のビール社、サン・ミゲール社が作っているらしい。キリリと冷えているバリ・ハイは後味すっきりでとても美味しい。バリの空気に良く似合う。

ダンスショーの前座で生バンド演奏が流れる中、とりあえず腹ごしらえ。
厚揚げのピーナッツソースかけの"GADO GADO"(ガドガド)に牛肉の辛みだれの前菜、ポテトサラダやクスクスのサラダ、前菜からして種類は豊富に10種類以上はある。スタッフも「スープ?」と色々とお伺いをたててくれる。前菜とスープの皿を抱えて、とりあえず着席。

すると、だんながニヤニヤしながら私に言う。
「おゆきさん。バビ・グリンがあるんですって。くふふふふ。」
"BABI GULING"(バビ・グリン)とは子豚の丸焼き。古くからバリにある、祭礼用の食べ物らしい。名前を聞いてからこれを食べたくて食べたくて、しかし前回の旅行では冷めたものしか食べることができずに残念だったものだ。
今、この場にバビグリンがありますかー。しかも食べられますかーー。か、感動だ!

かくして本当に子豚の丸焼きが、温菜コーナーにはあった。こちらに顔を向けた豚さんはまだまだあどけない顔の小さなやつだ。ツヤツヤした皮がスタッフの手で切られて盛られている。白い肉もたっぷり♪
バビグリン担当者と思われる人に皿を渡し、入れてくださいと頼む。肉たっぷり、皮もたっぷり、ああでも皮はもう少し欲しい。
「モアスキン、プリ〜ズ♪」
と更に皮をいただいた。ちょっとピリ辛の緑色のソースを添える。

2回目のこのバビ・グリンの乗ったお皿のテーマは"NASI CAMPUR"(ナシ・チャンプル)、そう決意して美しい盛りつけに励む。
御飯を中央に乗せておかずを周囲に盛り合わせるというナシ・チャンプルのスタイルを真似して、中央に"NASI KUNING"(ナシ・クニン)という名の黄色くほの甘い御飯をこんもりと盛りつけて、先のバビ・グリンと一緒に魚介のステーキやガド・ガド、野菜やステーキ、"AYAM GORENG"(アヤム・ゴレン=鶏の唐揚げ)などを盛りつけまくる。

どれもほんの少し観光客用にアレンジされているらしく、匂いが強くて食べられない、というものや得体の知れないもの、というものは一切ない。若干の物足りなさを感じつつも、子供連れにはこのくらいで丁度良いのかもしれない。息子もガド・ガドの厚揚げにかぶりついていることだし。

席につき、いよいよバビ・グリンと対峙する。ああ、何年にも渡って夢見ていたバビ・グリン。子豚ちゃぁ〜ん。
パリッパリの茶褐色の皮は皮の下の脂肪がトロリと柔らかになっていて噛むとパリパリの中からじわぁと肉汁が溢れてくる。腹に香辛料を詰め込み、皮にターメリックをつけつつ焼くというだけあって、肉からもスパイシーな香りが漂ってくる。柔らかで味のある旨い肉だ。そうそうこれこれ!イメージしていた以上の味だ。ナイスバビグリン!

「スープ、どですかー?」
と日本語でスタッフに聞かれてしまい、苦笑しながら貰ってきたスープはオックステールのスープだった。細かい筋肉質の牛肉がぷかぷかと浮いている。それにたっぷりの野菜も。ちょっと香辛料の効いた匂いのあるスープは妙に美味しい。牛肉も煮こまれてホロリと崩れる柔らかさ。いけるいける。

そしてビールのあとはカクテルを1杯。「ピーニャコラーダ」ならぬ「バリコラーダ」という名のカクテルを頼んでみる。ウォッカベースかなんなのか、ちょっと苦味のある酒にパインやオレンジの果汁がたっぷり入ったカクテルだ。飲み始めたところで、ケチャが始まった。

やっぱり観光客用ということで、あまり気合の入っていないケチャだ。
ケチャ軍団には覇気がなく、「僕たち昼間は別の仕事していて、夜のバイトでこれやってるんですー」という感じが漂ってくる。本気で声を出していないし、どころか声そのものを出していない輩までいる。ニヤニヤしてたりキョロキョロしてたり。ゆえに動きや声もいまいち揃っていなくてあまり面白くない。

以前、州都DENPASAR(デンパサール)にあるアートセンターまで見に行ったケチャは"人間の身体って楽器になるんだ!"と教えられてしまったすごいものだった。リズム感や躍動感、気合の入り方も息を呑むものだったのだ。
んん〜、それに比すると今日のはなんとつまらないことか。
でも食事しながら見るものはこのくらいで良いのかしら、とこっちも気を抜きつつアイスクリームなぞ食べながらダンスを見やる。

踊り手担当も頑張ってはいるのだけれどもやっぱり上手とは言えない。ヒロイン役と従者役、ハヌマン(←正義のお猿さん)役が巧かったのでついついそちらばかりを目で追ってしまう。

ケチャに並び"ファイアーダンス"と案内にあったので、一体何をやるんだ、リンボーダンスでもするのか!?と密かに思っていたのだが、ファイアーダンスはケチャの劇中に出てきたのであった。
劇の流れでおもむろに場の真中に干草のようなものが置かれ、火がつけられる。正義の味方ハヌマンが縛られて火あぶりの刑に処されようというときにハヌマンが脱出し、敵にその火を蹴散らしつつ戦う、というシーン。ハヌマンは裸足だというのに燃えている干草を勢い良く蹴り、舞台の上は火だらけに。こ、これはすごい。なんだかすごい。良く分からんが、すごい。

だが、ハヌマンより凄かったのはケチャ軍団だ。
ファイアーダンスの最中は自分の場から遠く舞台の上に避難していたケチャ軍団だったが、そのシーンが終わるやいなや手前に戻ってきて、
「まだ火がついてるじゃんねー」
という感じで、やっぱり素足でその火を踏みつつその燃え跡にぺたりと座ってまた「ケチャケチャ」やっているのだ。ケチャは下手だがその火の扱いに恐れ入ったぞケチャ軍団。

1時間程度のショーは、そういうわけでまあまあなかなか楽しかった。
テーブルから20cmくらいのところに上半身裸の男たちがうようよと座り、「チャッチャッチャッ!」なんてやられる体験はあんまりできないかもしれないし。
部屋に帰ると午後9時。大きな浴槽にお湯溜めて、のんびりお風呂に入ってまた早々に就寝。健康的な日々です。