1月12日(土) 辛いものはじめ

タイ国際航空、初体験

成田9時45発、TG643便。蘭の花を模したマークがついた紫色を基調とするいかにも南国チックな飛行機が無事に離陸した。正月早々、胃腸にくる風邪を盛大にひきこんで、出発前日までトイレとお友達だった私である。途中からはだんなまでもが胃腸にガタが来ていて、「こんなんでタイ飯が喰えるのか俺たち」な、かなりピンチな状態だった。
半分本気で「食欲魔人の神様が"行っちゃいかん"と言ってるのかなぁ」とまで思っていた。
幸いなことに、体調は昨日のうちに調った。牡蠣フライを大量に食べても、腹の具合に異常なしだ。いざいざいざと早朝にドーナツ1個を腹に入れ、機上の人となった。

プーケットまで直行便で7時間40分。時間も時間なので、食事は二度出るらしい。離陸直後に朝御飯(というか昼御飯?)と、到着間際に「軽食」だそうだ。

お決まりの「Meat or fish?」のおかずは、肉は洋風味のビーフステーキ。魚はタイチックな味のココナッツソース和えのちょっとピリ辛なもの、こちらは御飯がついている。
添え物は大量のじゃがいもとにんじんといんげん、そして日本蕎麦に巻き寿司にパンとバター。デザートはミルクババロアの周囲にオレンジゼリーが固められたもの。最初のドリンクサービスでウーロン茶をもらい、続いて赤ワインをもらい、最後は紅茶をもらい、狭い席ながらものんびり食事できた。しかし、いつも思うけど、なんでパンに蕎麦に寿司が同時に出てくるんだろう。コッペパンとソフト麺が同時に出てきた学校給食を思い出してしまう。

で、フライト予約と同時に頼んでおいたはずの息子のチャイルドミール、これが全然出てこない。「ちゃんと予約したんですよーフライト予約と一緒に」とあれこれ伝えたところ、とりあえず、と大人用のセットがパン1個余分に足されてやってきた。更にラップに包んだハムチーズサンドと卵サンドも。どうやら予約の際に間違えて別の便にチャイルドミールを追加してしまったらしく、この便に息子のチャイルドミールは乗せられていないらしい。
「ごめんね、ごめんね」
とばかりに機内のあらゆる種類をかきあつめたようなおもちゃ類がやってきた。プラスチックのパズルに5歳以上対象のお絵描きノート、マグネットのパズルゲームに飛行機の模型。息子はそれなりに御満悦だったようだ。

そうこうするうちに、あと1時間で到着というところ。時差が2時間あるので、日本時間17時にプーケットは15時。そろそろ夕食間近でお腹が空くかなというタイミングでサラミとハムとチーズのサンドイッチが配られた。砂糖たっぷり溶かしたミルクティーを飲んで、いよいよ常夏の国に到着だ。飛行機を降りた途端に感じる、熟した果物のような香り。バリ島の空気と良く似ていた。バカンスだバカンスだ、遊ぶぞぉ〜。

到着ロビーを出ると、外のロータリーには「トムヤム君号」と日本語で書かれたミニバンが観光客を乗せて走っていった。ト、トムヤム君号。だんなと二人、ツボに入ってげらげら笑いまくってしまった。

お昼寝場つきのホテル〜Laguna Beach Resort

入国審査を抜け、少しばかりの日本円をタイバーツに両替し(1バーツ=約3円)、頼んでおいた送迎車に乗っていよいよホテルへ。20kmlほどの距離を進み、吹き抜けのロビーが清清しい「Laguna Beach Resort」に到着した。苺のようなザクロのような味のする赤く甘酸っぱいウェルカムドリンクなど飲みながらチェックイン。

「ようこそおいでくださいました」
と流暢すぎる日本語で出迎えてくれたのはホテルの日本人スタッフだった。
「こちら、日本語の案内でございます」
なんて日本語ガイドペーパーなどを渡されちゃったりして、「さー、英語話さなきゃー」と気負っていただんなと私は何だか毒気が抜かれた気分だ。あ、そうですか、日本語バリバリっすか、そんな感じ。ありがたいと言えばありがたい。

お昼寝マットだ! 部屋はサウスウィングの374号室。プールには遠いけどラグーンビューの静かな部屋だった。ノースウィングがプール際でありオーシャンビューなのであるらしい。
リゾートホテルらしく、広い広い部屋だ。部屋の中央にはダブルサイズのベッドが2つ、窓近くには大きな籐のソファーとテーブル、1人用チェアが1つずつ置かれる。広々としたライティングデスクもある。
風呂もこれまた広い。バスタブがあるというのか無いというのか、面白い構造だ。シンクやトイレのあるタイルの床がそのまま階段になっていき、奥がえぐれてバスタブ代わりになっている。広々としたバスタブはとても気持ち良さそうだけど、これに湯を溜めるのは少々大変かもしれない。

そしてベランダにも応接セット。ベランダの脇の窓際には30cmほどの高台になった「お昼寝コーナー」がついていた。断面が三角形の、ぱたんぱたんと丸まっていくお昼寝マットが並んでいてこれがとても良い感じ。
「おおー、お昼寝コーナー」
「これこれ、これに寝そべりたかったの!」
「お昼寝、するぞー」
「絶対するぞー」
できないような気がするのである。多分全力で毎日遊んじゃうんだろうなという予感がひしひしと。

Laguna Beach Resort 空港からの送迎
ミニバス
2 × 200.00 B

いきなり水着だ

日本から履いてきた靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、シャツも薄手の半袖に着替えたところで「ちょっと探検」とホテル内をぷらぷらしに出かけた。ロビーを抜けてレストランの入り口を覗き、ショップに立ち寄ってから明るく開けたプールの方へ。気温も高く湿気もあり、4時過ぎて水遊びはまだまだ絶好調な気配だ。奥にはウォータースライダーの出口があり、金髪の女の子がキャッキャと言いながら楽しそうに滑ってきた。もう「水着にならなきゃやってられません」という気分に。

「お、泳いじゃう?」
「急いで部屋に戻って、着替えてきちゃう?」
そわそわと浮き足だった私たちは早々に部屋に戻ることに。ジーパンはベッドの上に放置、Tシャツも脱ぎ捨てて速攻水着に着替えてパタパタとプールサイドに戻ってきた。

広々としたメインプールの奥まったところにウォータースライダーの出口。更に奥は1メートルほど高く水球用ゴールやバスケットゴールなどのついたアッパープールがあり、その他に洞窟じみた細い通路状になった水路が続いていく。水深3メートルのダイビング練習用のプールなんてのも。周囲には椰子の木が何本もそびえ、植えられた低木からは紅色の花がはらはらとプールに降ってきている。今日の朝には気温1桁前半台のところにいたなんて一気に忘れてしまうほど、天国のような光景だった。

椰子の木もさもさ、プールサイド

「キャー、海がすぐ向こう!」
「おぉープールでっけー!」
「それよりもそれよりも、ウォータースライダーァァァァ!」
はっきり言って、子供よりも親が夢中になっている。2階分ほどの高さから滑るスライダーは100mほどの長さで、それほど長いものじゃない。それでも結構なスピードが出るし左右にふられるそれはなかなか恐怖感も出るしで、何度滑っても楽しいのだ。50cm四方ほどのざぶとん状のマットを抱えて階段を登ってスライダーの入り口を目指し、お尻の下に敷いてからンピューと滑っていく。仰向けになろうが腹這いになろうが、「危ないですからおやめください」なんて無粋な事を言う係員はいない。「○歳以下はご遠慮ください」なんてことも言われない。見ているとお父さんが1歳2歳ほどの子供を抱えて一緒に滑っているのだった。すばらしい。

で、日が暮れるまで全力で遊んでしまった。初日から。いきなり。

辛いものはじめ〜RIM TALAY

日も暮れて、ぺたしぺたしと部屋に戻る。シャワー浴びてちゃちゃっと着替えて、夕食だ。
だんなはごっつい外見の割には案外と中身は繊細らしく、旅行に行くとどうも初日は体調がいまひとつなことが多い。大抵、初日の夕飯はあまり食べられずに終わってしまうのだ。名古屋旅行初日にだんなの"ひつまぶし"を私が奪って食べてしまったことも記憶に新しい。
が、今回は初日から全力で遊んでしまった所為もあってか、一家揃って食欲はたまらなく旺盛だった。
「タイに来たからにはやっぱりタイ飯でしょ〜」
と、タイ料理レストランに赴いた。

タイ料理店、私は東京で5年ほど前に入ったきり、だんなに至っては初めてかもしれない。タイ料理に関しては、我々初心者中の初心者なのだ。しかも、辛いものは双方ちょっと苦手ときた。
タイの人々は、全員が辛いものが平気というわけでもないらしい。赤ん坊の頃は、当然ながら辛いものは食べられないし食べさせない。話によると、離乳を終えた頃に「辛いものはじめ」なる儀式をするとかしないとか。今の私たちの心持ちは、ちょっとそんな感じだった。

で、
「まだ屋台は怖すぎるし、外のお店もちょっと不安だし」
と、ホテル内のタイ飯にとりあえずの挑戦。ラグーンに向かって突き出た、"湖上レストラン"といった感じの吹き抜けの店だった。冷房の効いた屋内席も用意されているけれど、ラグーンに面した半屋外席の方が上席といった感じだ。夕闇の中、行き来する水上バスの灯りや、対岸のホテルの灯りがチラチラと光り始めている。テーブルにはキャンドルが1つ。なんとも幻想的な雰囲気だ。

座ってすぐに日本語のメニューなど出されてしまい、苦笑しながら料理を選ぶ。日本語で品名、更に英語で説明文も少しばかり。「正式名称は何なんだー」と内心頭を抱えつつ、前菜の盛り合わせとか、焼きそばをぽいぽい注文。その日の入荷の魚介をお好きなように調理します、と記されているのを見て、氷の敷き詰められたケースに張り付いて色々見せてもらった挙げ句、鯛に似た外見の白身の魚を蒸してもらうことにした。「Lemon & Garlic Sauce」なんて調理法に書いてあるのを見て「それそれ、そのソースで!」と。

メニューにはしっかりと辛さを表す唐辛子マークがついていて、サラダに至っては「サラダ」の項目のところに唐辛子マークが輝いている。どれ喰っても辛いということらしい。悲しいけれど、とりあえず唐辛子マークはことごとく避け、ただひとつだけ、唐辛子マークが1つのトムヤムクンを。

前菜盛り合わせ、うまうま♪ 足つきの器に恭しく飾られてきたのは前菜盛り合わせ「Rim Talay Ruam」。一緒に4種類ほどのソースもやってきた。全体的に"さつまあげ盛り合わせ"といった感じの前菜は、それそのものはほとんど辛さはなく、どころかほんのり懐かしい味すらするものだ。魚のすり身のさつまあげ、鶏肉のすり身のさつまあげ、コーン団子の揚げ物、蟹の爪、葉でくるまれた鶏肉味のもの、などなど。どれも揚げたてで香ばしい。タレはスイートチリソースとかハチミツっぽい甘いものだとか、オイスターソースに似た甘辛いものだとか、唐辛子やレモングラスがざくざく入ったいかにもな甘酸っぱいものなどなど。どれをつけても良く似合う。タイのローカルビール、「Singha」のドラフトビールが進む進む進む。カラッと後味が軽いビールはこの気候とタイ飯に素晴らしく似合うような気がする。しかも安い。

食べやすい前菜を経て、
「なんだ、怖れるほど辛くないじゃーん」
「タイ飯、めっちゃ美味しいじゃーん」
と侮りつつあったところにやってきたのがトムヤムクン。唐辛子マークはたったの1つ、これがすこぶる辛かった。ごめんなさい、まだまだ初心者です。トムヤムクンもきついっす。

トムヤムクン、からから〜 本場のトムヤムクンは、やはりそれはそれは強烈に辛かった。
海老がたっぷり、ふくろ茸もたっぷり。ハーブもふんだんに投入された赤く光るスープは辛くて酸っぱくて旨味濃厚で、それはそれは美味しかった。一口食べて「美味しい!」と思う。思った直後に喉から舌から唇からブワ〜ンと熱くなってくる。2口3口と飲み進むうちに、唇は5倍ほどに腫れたんじゃないかと錯覚するようなビリビリ感に支配されてきた。もはや、一緒に食べ進もうとする他の料理の味はわからない。何喰ってもトムヤムクンの味がするような感じ。

でも美味しい、美味しいのだ。海老はプリンプリンだし、私の大好きな大好きなパクチーの香りがそこかしこにふわんふわん漂ってくるし、甘さすら感じられる複雑美味なスープなのだ。でも辛い。しかも熱い。日が暮れて気温が下がり、一度は引いた汗が一気に押し寄せてくる。
「おいしー!けど辛い〜。けど、おいし〜。でもでも、かーらーい〜〜」
と涙目になりつつハフハフと啜っていたところ、店員さんがにこやかに
「辛いデスカァ〜?」
と言いながらミントの香りがする冷たいおしぼりを持ってきてくれた。これ以上なく嬉しいおしぼり。ありがとうありがとう、と引き続き涙目になりつつ口と顔を冷やしながらトムヤムクンと対峙する。うう、辛い。辛いけど、旨い。

テーブルには、既に魚料理も焼きそばも供されている。トムヤムクンに相対しながら他の料理もしっかりいただいた。
赤い肌の白身の魚は、小型の薄切りレモンがたっぷりまぶされている。にんにくの香りがぷんぷんと漂い、ほのかにパクチーとココナッツミルクの香り。一緒にタイ米の御飯もやってきて、1尾の魚をスプーンとフォークで取り分けながら御飯と一緒にいただいた。これでもかとにんにくの効いた魚はほのかに甘くほのかに酸っぱく、淡白だけれども脂もしっかり乗っていた。ふわんと柔らかで、とても良い感じ。
オイスタソースに似た例のタレの味のする焼きそばは、縮れのない太めの麺。アスパラや空心菜などの野菜や魚介がざくざくとはいっている。どこか懐かしい味のする素朴な焼きそばだった。

「ほら、タイ飯、辛くないじゃん(トムヤムクンは除いて←心の声)」
「そ、そうね、案外俺でも食べられるものだね(トムヤムクンは除いて←心の声)」
辛いものがそれほど得意ではない私たちは、「おいしかったねー(辛かったけど)」「タイ飯、いいねー(辛かったけど)」と、口の中をハヒハヒさせながら食事を終えた。トムヤムクンショックが抜け切れない私はココナッツアイスクリームを所望。こってり濃厚で滑らかなアイスは、これまで日本で食べたどのココナッツアイスよりも美味しかった。脂肪分の量が全然違うという感じ。こってり感がものすごく強かった。息子に半分ほど略奪される。

ちょっと高級な品のいいタイ飯を堪能した初日の夜。
広い風呂にお湯をたっぷり入れて入浴し、寝たのは10時。ほんとのタイ飯的タイ飯、タイ飯ofタイ飯を食べられる日は来るのだろうか(うーん、不安だ……)。

Laguna Beach Resort 「RIM TALAY」にて
Rim Talay Ruam
Pla ob Sauce
Tom Yam Gong
Kaeng Liang
Mee Sapam Pad pa Steamed
Red Snapper Coconut I/C
Open Food
Coke
Singha Draft
395.00 B
75.00 B
225.00 B
175.00 B
245.00 B
475.00 B
70.00 B
90.00 B
2 × 150.00 B