アメリカ人の考える「和朝食」のナゾ

1990年から1997年、もう何年も前にアメリカで刊行されていた『漫画人 MANGAJIN』という雑誌がある。「Japanese Pop Culture & Language Learning」とキャッチコピーのついたそれは、日本の各種漫画の一部を紹介して(新聞4コマものから高橋留美子に至るまで)そこから日本文化や言葉の表現を紹介しようという趣旨の本だったらしい。

夫の通う研究所には、何故かその本のバックナンバーが2年分ほどあり、もう10年も前に発行された1993年あたりのその本をぺらぺらとめくってみた。これがもう、面白いったらない。例えば「日本における"泣き"の表現」と特集を組み、そこから数ページに渡って英文説明と共に『巨人の星』の飛馬の顔のアップとか、『銀河鉄道999』で泣き崩れる鉄郎の顔のアップだとか、『めぞん一刻』の大泣きする五代君の顔のアップだとか、そういうものが並べられていたりするんである。一部のアメリカ人たちがそういうもので「日本人」を学んでいるのだとしたら……それは大いなる誤解だ。別に私たちは星飛馬のように泣いたりはしない。

随所にツッコミを入れたくなる雑誌ではあるけど、最近一番笑えた記事をちょっとここで紹介してみたり(古い雑誌なので著作権とかにはちょっとだけ目を瞑ってくだされ、ということで)。

下の写真を見ていただきたい。
「Taste of Culture」というコーナーに載っていたこれには、

「あなたはこの"Japanese breakfast"に10個の間違いを見つけることができますか?」

と書いてあった。
アメリカ人にわかって、自国の私たちがわからないはずがない。というわけで、10個探してみてください。↓

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んもう、ツッコミどころは超満載、じゃないだろうか。 10個も何も、「このへんが和朝食である」と断言できる部分の方が少ないような写真なのである。そもそも中央の魚(らしきもの)が乗る、あの皿の黄色い物体は何なんだろう。メザシの突然変異体?などと私は頭を抱えてしまう。左端に写るものが味噌汁であると理解する方が難しいんじゃなかろうか。

間違いを見つける以前に、一度ちゃぶ台をひっくり返してから海原雄山のごとく「もう一回作って来い!やりなおしだ!」と言いたくなるところ、ここは冷静になって答えを見てみることにする。
以下、なんとなく意訳した答え10個。
写真もさることながら、解答がまたぶっ飛んでいて良い感じだった。

1.皿の上に御飯を丸く盛りつけています
御飯はアイスクリームのように盛りつけてはいけません。ふんわりと、しかも別の器に盛りつけるべきです。

2.箸が間違った方向を向いています
尖ったほうを左側に向け、揃えて置かなければなりません。紙製の袋に入った割り箸(disposable wooden chopsticks)の場合は、箸置きは必要ありません。

3.ミソスープの中に丸ごとの豆腐が入っています
スープに入れる豆腐は概ね1/4インチ角ほどのキューブ状にカットします。スープの中のワカメは約1インチにカットします。

4.「4」という数はいけません。
4は不吉な数なので、避けなければなりません。ここではその「4」が二度も出てきています。バナナの輪切りと南瓜です。

5.食器がふさわしくありません。
和朝食には和食器が用いられます。味噌スープは蓋つきの縁なしボウル(敷き皿やスプーンは不要です)に入れるべきですし、ライスはライスボウルに入れるべきです。また、お茶は持ち手なしのティーカップを使います。

6.魚が大きすぎます
より小さな切り身の魚の方が朝食にはふさわしいです。頭がついた魚であれば、それを左側に向けなければなりません。

7.ティーバッグがコーヒーカップに入れっぱなしです
「ocha」はティーポットに入れられるべきですし、カップはジャパニーズスタイルの持ち手なしのものでなければなりません。敷き皿は必要ありません。

8.焼き海苔と醤油がついていません
これらは米食の基本要素です。焼き海苔は別箱あるいは別皿に盛られ、醤油は小さく細い容器(shoyu sashi)に入れられます。

9.ピクルス
ピクルス(takuan)は半月型のスライスにしなければなりません。スライスバナナと一緒に乗せるべきものではありません。写真ではtakuanは桃のように写っているので、これはひっかけ問題でした。

10.皿の配置がよくありません
スープは手前の右側です。ライスは別皿に盛り、手前の左側に置かなければなりません。

以上が解答。
「沢庵が沢庵のように見えないのはひっかけ問題でしたー」などと洒落っけを交えて書かれているけど、私には、写真のどこもかしこも罠だらけのように見える。コーヒーカップにティーバッグが入っていても、箸や食器がおかしくとも、中央の大皿に盛られた巨大な魚とマッシュポテトのように見える御飯とどうやら南瓜だという物体の光景と、その横に添えられた怪しさ爆発のスープのインパクトが強すぎて、もうどうでも良いという感じ。

ていうか、そのバナナは一体何なんだ。旅館や民宿の朝食に、バナナはかなり不似合いだ。

で、記事はまだ終わらない。「その他のポイント」として、まだ解説がちょっと残っている。
曰く、

・ 実際のJapanese breakfastは大抵お盆に乗せられています。
・ 和朝食を通常摂る人たちは、おそらくバナナとかぼちゃが乗っていることを不思議に感じることでしょう。
・ 彩りが不足しています。より良い和食は多様な色と食感で楽しませるような構成になっています。

とのことだった。

和朝食を頻繁じゃないにしても摂っていた日本人の私としては、
「しまったー、焼き海苔と醤油を添えるのをいつも忘れていたー!」とか、
「しまったッ、お盆などは我が家にないッ!とか、
「4という数がいけないなんて、すっかり失念していたじゃないかっ!」とか、
「朝食に巨大なホッケを食べるのはいかんかったんだろうか(美味しいんだよー、ホッケの干物……)」とか、
「彩りなんてなんにも考えてなかったさー」とか、
それはそれは教えられることの多いコラムだった。

和朝食って、むつかしい。