肉も魚も巨大だし

日常生活で一番必要なのは、生鮮食品の買い物だ。特に魚介を好む民族である日本人としては、「どこに行けば新鮮な魚が買えるのかなぁ」という事項が割と重要だったりする。話によると、アメリカ人は毎日買い物に行くということは稀であり、ほとんどは1週間に一度のまとめ買いで日々の食卓を作っていくのだそうだ。でも、1週間前に買った生魚なんて食べたくないし、もともとスーパーマーケットが好きだし、なんて理由で少なくとも3日に1度は買い物に行く我が家だった。で、今回は肉売場&魚売場についてのお話。

肉売場にて

日本と同じく、パックされたものも多く売られている肉売場。スーパーによっては写真のように冷蔵ケースコーナーがあるところもあり、巨大な肉がごろごろと売られている。
「あ、そこ、真ん中のあの肉、1つちょうだい」
なんて言いながら好みのやつを包んで貰う。細切れ肉なんぞはないので「300gちょうだい」などという表現はしない。「1つくれ」「2つくれ」と個数で言う。

牛肉
「貴様ら、牛肉というのはステーキにするしかないと思っているのではあるまいか?」
とアメリカ人に問いただしたくなるほど、その品揃えの80%は「ステーキ用」という感じ。
厚切りにされたステーキ肉はどれもたっぷりと大きく、そして種類も豊富。Tボーンステーキ、450gほどもある1枚が600円程度(安売りしている時は300円程度だったり)で買えるのだから、嬉しい限りだ。

そしてステーキ用以外には巨大な塊肉も。ローストビーフにしたり、たたきにすると良い感じの肉。そしてちょっと筋っぽいやつは煮込みにすると旨そうだ。スープ用の骨つき肉もスーパーに売られている。
ただし、モツ系はない。タンを始め、モツやトリッパ、すじ肉などはアジア食材を扱う専門店に行けば韓国人や中国人向けに売られている。……でも冷凍ものだったり、あまり色がよくなかったりして、あんまり美味しそうじゃないんだなぁ。そのへんはその専門店の内臓肉への意気込みにかけるしかない。田舎町ではちときついかもしれない。

豚肉
スーパーで見る限り、牛肉ほどの地位はなさそうなのが豚肉と鶏肉(アメリカはもう、肉といったら牛肉!という感じ)。
売られているのはやっぱりステーキ・ソテー用といった感じの厚切り肉、もしくは塊肉が多い。豚バラ肉はどこにあるんじゃー!と探したところ、骨つきのあばら肉あたりが、かろうじてそれにあたるかな、というところ。日本で言う"豚バラ肉"(角煮にするようなやつ)は、普通のスーパーマーケットでは見たことがない。アメリカ人にとっては"豚バラ肉=ベーコンに加工"という図式ができあがっているらしい。
我が家の周囲では1軒のアジア食材店で塊の豚バラ肉を発見することができた。日本では珍しい皮つきの豚バラで、角煮や煮豚にすると表皮のゼラチン質がぷるぷると仕上がってすこぶる美味。20分ほど車をかっとばして豚バラを買いに行く日々が続いている。

お店によっては、頼めば売られているやつを更に薄切りにしてくれるところもある。けど、塊肉を買ってきて自分で包丁握ってスライスしてもそれっぽく食べられる。薄切り肉に更なる情熱を傾けたければ(冬の鍋料理とかね……)、電動のスライサーを買ってしまうのが一番。高機能なものは200ドル前後するけれど、安いものは40ドルほどで入手可能。生のままでは切りにくいので半冷凍(冷凍したものを半解凍するか、生肉をスライスする数時間前に冷凍庫に放り込んでおくか)状態にしてシャーコシャーコするとしゃぶしゃぶ肉も夢ではない。

豚肉に限ったことではないけど、こちらの肉を焼いたり煮たりすると、ちょっとびっくりするほどの脂が溶け出してくる。「脂多めの方が美味しいよねー」とやや脂多めのひき肉でタコスを作ろうとしたら上部1cmほどに油の層が出来たほど。

鶏肉
牛肉・豚肉と異なり、パック詰めされたもの以外はまず見かけない。鶏肉はおしなべてパック詰めされ、あるいは丸のままのが冷凍されたりして販売されている。そして日本ではおなじみの「もも肉」というのはあまり見かけない。丸鶏と手羽の他は、売場は"Chicken Breast"(むね肉)で占められていて、むね肉は5〜6尾分が1パックという感じで、しかもそのむね肉、5cmほどの小さな骨がついたままだったりする。「なぁ〜んで骨がこんなとこについているかなぁ」とぼやきながら調理前に骨取りをする必要が……。

もも肉は"Thighs"という名前で"Skinless"(皮なし)、"Boneless"(骨なし)などがお店によっては置かれている(らしい)けれど、我が家の近辺のお店では骨なしもも肉(日本で"もも肉1枚ちょうだいねー"と言って買う、あのごく普通のもも肉)は今のところ見かけたことがない。骨つきだったら比較的簡単に見つけられるので、骨なしもも肉の1枚肉を焼いたり揚げたりしたい場合は、骨つきもも肉を買ってきて自分で1枚肉に仕立てるしかないのが我が家の現状なのだった。

スーパーマーケットで買う鶏肉の値段はおおむね安価であるけれど、実のところ日本で普通に購入する鶏肉よりもブロイラー臭さが鼻につく。鶏肉そのものが合成飼料臭いというか化学調味料臭いというか、「なんでこんなに美味しくないかなぁ」とぼやいていた数ヶ月だった。
渡米後数ヶ月してから通い始めたオーガニック系スーパー(Wild Oats)では牛肉や豚肉と同じく冷蔵ケースで鶏肉を量り売りしてくれていて、その肉は少々価格は高いけれどすごく美味。むね肉よりもも肉は人気がないのか、もも肉が1ポンド1.99ドルで購入できるのもありがたかった。もっぱら鶏肉はこの店で買うように。

丸鶏もサイズが色々揃っている。一般のスーパーマーケットでは冷凍ものが普通。オーガニックスーパーでは冷蔵もの(冷凍ものをお店で解凍しただけかしらん)も。両手にすっぽり収まるくらいの"Cornish Hen"などは、丸鶏調理の練習には面白い食材かもしれない(2人くらいで食べきれるサイズだし)。
鶏肉の他、鳥類はTurkey(七面鳥)、Quail(ウズラ)なんかも頻繁に見かける。サンクスギビングデー前になると肉売り場は巨大な冷凍七面鳥で溢れかえる。七面鳥の肉は一般的に脂が少なめでパサパサしているけど、丸焼きの焼きたては格別。

魚売場にて1 魚売場にて2

そして魚。
写真の冷蔵ケースは近隣で比較的魚介コーナーが充実している店のもので、それでも
「どーして鮭ばっかなんじゃいゴルァ」
と怒りたくなるほど、その品揃えは偏っている。
写真にあるとおり、「魚」と「海老・蟹・貝」の比重は同じくらい。冷凍ものの海老なども冷凍コーナーにあったりするけど、冷凍魚やパック詰め冷蔵魚というものはあまり見かけない。魚を買うならこういう冷蔵ケースがあるところ、となってしまう。更に、冷蔵ケースの中にあっても、その鮮度が多少不安に思えてしまうスーパーも少なくない。
売られている形態は、筒切りもしくはステーキ肉のような外見の厚切りで。魚によっては骨を取って開きになっていたりする。丸魚はスーパーマーケットでは見かけない。

Wild Oatsなどのオーガニック系スーパーに行けば、値段はかなり高めではあるけれど常にある程度の種類を揃えた魚介コーナーにお目にかかることができる。牛肉が1ポンド3ドル程度で買えるこの地で平目を1ポンド12ドル出して購入するのはちょっと勇気が必要だけれど、時々特売していたりもする。

以下は、我が家近所のスーパーでよく見かける魚介の名前。

Salmon
お馴染みの鮭。これだけはどこに行ってもいつ行っても買うことができる。
日本の塩鮭などよりは脂のノリがすごいので、鮭おむすびなどをするときにグリルすると溶け出る脂の多さにちょっとびっくりしてしまう。なので最近は御飯に混ぜるときは焼かずに茹でちゃったり……。

Tuna
和食の救世主、マグロ。幸いなことにあちらこちらで鮮度の良いものが入手可能で、ごろっとした塊が積み上げられて売られている。「その塊を2個くれぃ」などと注文し、包んでもらう。「Sashimi Quality」なんて書かれていることも多く、そういう時には遠慮なく生で食べちゃう。トロは売ってない。ひたすら赤身のみ。"Yellowfin Tuna"(キハダマグロ)

Sword Fish
カジキマグロ。スーパーでは「あとはステーキにするだけ」みたいな形にカットされていることが多い。

Cod
タラ。比較的あちらこちらで見かけられるけど、"たかがタラ"という印象のこの魚が1ポンド8ドルくらいしていたり。ナマズじゃない白身の魚は内陸では貴重品なので、ソテーにしてみたり煮込んでみたりありがたく食べる。身はホロホロで崩れやすいのは日本のと同じ。

Mahi Mahi
"マヒマヒ"という名前がなんともキュート、日本名は"シイラ"。ハマチのような色合いの肉で、ステーキ肉のような厚切りの状態で売られている。

Red Snapper
赤いウロコの鯛のような外見……と思っていたらやはり鯛(笛鯛)の仲間らしい。日本で言ういわゆる「鯛」よりも小ぶりなのが売られている。

Halibut
カレイの仲間の白身の魚。ペローンと開いた"ほっけ"のような外見で売られている。イタ飯屋でレモンバターソースのグリルを食べたけど、なかなか美味。

Sole
舌平目。品の良い味で美味しいけれど、値段も素敵にハイクラス。我が家周辺では"最高級の魚"という感じ。

Catfish
南部料理の名物食材、"ナマズ"。内陸という土地柄もあってか、これは必ず見かけることができる。大きな切り身で売られていたり、「このまま揚げろ」と言わんばかりに一口大にカットされていたりする。南部料理では衣をつけて揚げるのが主流のようだ。やっぱりちょっと泥臭い。この地に住むアメリカ人男性曰く、
「やっぱりキャットフィッシュは美味しいとは思えないよ。これしかないからこれを食べているんだ」
だそうで……。

Tilapia
ティアピア。アフリカ原産のカワスズメ科の淡水魚、なのだそうだ。日本名では"イズミダイ"(泉鯛)という名前で地方によっては養殖もされている魚だとか。ピラニアと名前は似ているけど全く違う種類。ナマズよりもくせがあるらしい。塩焼きにしたら、やっぱり泥臭かった。

Perch
"パーチ"という川魚。ホロホロとした外見の白身の肉で、けっこうクセがあるらしい。

Trout
マス。皮つきのまま3枚におろされたような状態(骨なし)で売られていることが多い。クセのあまりない川魚として貴重な存在……かもしれない。

Crawfish
こちらも南部料理の名物食材、"アメリカザリガニ"。
子供の頃に玉川上水に進入して釣っていた奴と全く同じ外見で、「……これを食べるの?」と最初は苦笑していた。私の中ではタニシと同レベル程度の生物だったけど、ニューオーリンズでスープや煮込み料理を食べてみたところ、海老とさほど変わりはない(ちょっと泥臭いけど)。

Lobster
巨大な海老、ロブスター。「WAL☆MART」(スーパーマーケットの巨大チェーン)では水槽に生きたままのを売っており、どうも人気がある様子。旨そうだけど、他の魚介に比べると明らかに高値。

やはり魚介を愛するのはアメリカ人よりアジア人ということで、アジア食材店を目指せば丸のままのサンマっぽいものとかアジっぽいものとかを買うこともできる。丸のままの鰻も売っていたりする。何やら深海魚のようなものまである。なかなかすごい光景だ。
……が、鮮度については多少懸念を持った方が良い様子。

アジア食材屋の魚介売り場。見た目は良いんだけど……

日本の魚屋の匂いってのは磯臭さと魚の血の匂いが同居しているような感じだけど、アメリカのそれは、そこにかなりの「腐臭」も感じられてしまう。それがアジア食材屋だったりすると隣接して果物や野菜も売られているわけで、ドリアンだのマンゴーだのパパイヤだの各種南国フルーツの香り(果物からも、これまたわずかの腐臭あり)が混ざると、バリ島の市場ですかここは、といった何ともいえない香りになる。そして丸魚を買うのがほんのり怖くなってきてしまうのだった。

最後に。
アメリカに来て驚いたことは、「スーパーへの生鮮品の入荷は毎日ではない」ということだった。日本なら、肉のパックに書かれた「調理日」は当日で、賞味期限はせいぜい2〜3日、翌日になったら「50円引き」「半額」なんてシールを貼られて安売りされているのが普通だ。その感覚でしばらく買い物していて、数週間して気がついた。

土曜日に買った鶏肉の賞味期限は7日後だった。きっちり密閉されたパックには腐敗防止のガスが充填されているようで、豚肉も牛肉もパック詰めされているものの賞味期限はおしなべて長めだった。
そして数日後の火曜日に買い物に行くと、鶏肉の賞味期限は4日後になっていた。新鮮なものを求めて頻繁にスーパーマーケットに行っても、タイミングによっては数日前と全く同じものを買う羽目になるのだと、この時にようやく気がついたのだった。

だからある意味、1週間に一度のまとめ買いというアメリカ人の生活スタイルは理にかなっているのかもしれない。我が家もだんだんそのスタイルになりつつあるようで……。