キャッシュレスなお買い物

「アメリカでのお金の支払いはチェック(小切手)が使われるのが普通」
なんて事を聞いていたのは、もう10年以上も前の事だっただろうか。その印象をなんとなく引きずったままアメリカにやってきてしまったのだけれど、今はもう"チェックが普通"というほどには小切手は使われていなかった。代わりに一般に流通しているのは、日本でも普及しつつある"デビッドカード"。スーパーマーケットでの買い物もガソリンスタンドでのガソリン補給もレストランでの食事も、日常生活に必要な出費のほとんどはカード1枚で処理することができる。現金でなければいけない場面はそうそうないので(自動販売機でドリンクを買うとか、カードもチェックも使えない小さな料理店で食事をしたりだとかがせいぜい)、その気になれば手持ちの現金は10ドルだけという状態で1週間以上を乗り切ることも難しくない。

アメリカで経済活動を行うには、まずアメリカの銀行に口座を作ることから始まる。口座を開設し、1週間ほどして郵送で届くのが、カードとパーソナルチェックだ。チェックには私の名前の他、住所や電話番号まで1枚1枚印字されており、"誰に""いくら""いつ"払うのかを自分で記入した後、サインを入れて渡せばそれが貨幣の代わりになる。我が家では家賃の支払いにこれを使っているけれど、その他の場面ではこれを使う事がほとんどない。公共料金や電話料金などの支払いにチェックを使うのも一般的だけれど、インターネット経由で振り込んだりもできるので、そのあたりは好みで、という感じのようだ。我が家はあんまりパーソナルチェックを使いたがらない傾向にあるけど(←ペンで書くのがなんだかめんどくさいというのがその理由)、人によってはチェックが大好きで"もう○冊目になっちゃった……"とせっせとチェックを切っていたりもする。

VISAカードの機能がついている銀行のキャッシュカードの機能は、日本のものと同じ。ATMでお金をおろすことができるけれど何しろ現金の必要性があまりないので、圧倒的にデビッドカードとして、またはクレジットカードとして店で使う方が多い。

面白いなぁと思ったのは、店員にカードを渡すことなくカード払いができるシステムがあちらこちらで整っているということ。多くはスーパーマーケットやガソリンスタンドで見かけるものだけれど、カードをスライドさせる(そしてデビッドカードとして使う場合は暗証番号を入れる)機械がお客の側についているのだ。
スーパーのレジではおばちゃんが品物のバーコードを全て読みとった後、自分でレジの前についている機械にカードをスライドさせ暗証番号を入れれば、それで買い物は完了。ガソリンスタンドではカードをスライドさせた後、自らガソリンを入れることで全てが終わる。なんというか……簡単だ。

近所のスーパー、HarrisTeeterのセルフレジ そして更に面白いのが、右の写真のような"セルフレジ"の存在。
全てのスーパーマーケットについているわけではないけれど、一般のレジと並んで、よくこういうコーナーがあったりする。自分でバーコードをピッピピッピさせるのが微妙に面白く、少量の買い物の時などになかなか便利。コーナーの隅からは店員さんが常に見ているし、その他にも万引き防止対策があれこれ施されているので、悪さはできないようになっている。

我が家最寄りのスーパーマーケット「Harris Teeter」でのセルフレジの流れは、こんな感じ。

  1. そのスーパーチェーンの会員か会員じゃないかを選択し、会員の場合は会員カード(往々にして車のキーチェーンにつけられるようなバーコード入りの小さなプラスチックプレートになっている)をスキャンさせる。会員になっておくと、"会員様特別価格"で色々購入できたりするのでお得。

  2. 品物をスキャンさせ、スキャンさせた品物は横にある荷物台に大量に用意されたビニール袋の中に入れていく。荷物台にはしっかり重量メーターが内蔵されているので、イカサマはできない。スキャン台の上にテレビカメラがついていて、そこから店員さんも見ているので、一層イカサマはできない。
    バーコードがない商品(量り売りの野菜や果物など)は、モニターから当該の商品を選択し、商品をスキャン台に乗せると重量を計算してくれる。商品名がモニターに見つからない場合は、"そのまま台に置いておいてね"などという表示が出てくるのだけど、それはコーナーの隅の店員さんがテレビカメラで商品を確認して商品コードを入れてくれるのであった。最初は全部コンピューターで画像データを読みとって判断しているのかと思っていて"なんてすごい技術だ!"と感動していたのだけど、実はけっこうローテク。
    アルコールを購入するときは、"身分証明書を見せてね〜"という表示が出るので、これもまた隅の店員さんに免許証などを提示して年齢を確認してもらう。

  3. "買い物終わり"のボタンを押すと、"ATM(デビッド)・クレジットカード・現金"の選択画面に。
    現金を選択した場合は、貨幣とコインを入れる口があるので、そこからニョロニョロとお金を投入。ATM、クレジットカードの場合はテンキーつきのカード読み取り機にカードをスライドさせ、暗証番号を入れたりする。ATMを選択したときには、更に"キャッシュバックするかーい?"という画面も登場。$10とか$20とか好みの金額を選択すると、商品代と一緒にその金額が口座から引き落とされる代わりに、レシートと共に現金が手元にやってくるという仕組み。例えば$10を選択すると、レシートのプリンターのすぐ下あたりに口から$5札がペーッと2枚出てきたりするのだ。これが、下手に銀行のATM目指すよりもよっぽど便利で、ついつい利用。

英語だらけのモニターの画面に最初は「どどど、どうしろと!」と戸惑ったりもしたのだけど、下手に店員さんと会話を交わしたりせずに済む分(←"大根"がわかってもらえなくて説明するのにすっごく苦労したりだとか)、らくちんで楽しいセルフレジなのだった。荷物台に乗らないほどの大量購入でなければ、ちょくちょくここを利用しちゃう私たち。

最後に。"ATMで預金する"やり方が、なんともローテクで面白い。日本の銀行のように、現金を機械に放り込んだらお金をカウントしてくれたりはしないのだ。あらかじめ銀行の封筒に預けるお金(とかチェックとか)を入れ、名前を書いておき、そしてATMに預ける。封筒に入ったお金は係員によって回収され、後に手作業で確認されつつ預金終了となるのだった。以前の留学生で400ドルだかを現金丸裸のままATMに放り込んだ人がいたそうだけれど、そんな事をするのはその人しかいなかったということで、明細(いくら預けたかはATMのキーを叩いて記録されている)と照らし合わせたうえ、お咎めなしということだったそうだ。