地元密着オークション

でっかいテントを発見!

留学中、お世話になっているA先生から「Barbeque Supper And Auction」なるものの招待を受けた。先生の家の近所にある教会で、バーベキューの簡単な夕食つきのオークション会が開かれるということである。夕食は4時半から6時まで、オークションは6時半から。毎年9月初旬の土曜日の「そろそろ夏も終わりですねぇ」という時期に開かれる定番のイベントだということだった。

招待状(といっても、A4の紙にコピーしただけの案内ペーパーとでも言うべきもの)には

「とてもインフォーマルな会なので、服装もカジュアルでお願いします。続くオークションの商品はケーキやパイ、蜂蜜などの家庭用グッズです」
「バーベキュー食のチケットは私(A先生)が買っておくから心配いりませんよ」
「オークションにずっと参加している必要もないし、何か買う必要もありません。"Old Counry Type of Party"を楽しんでください。勿論オークションに参加することも大歓迎です」

などという事が教会への地図と共に記されていた。
で、総勢16人で向かうことに。傾きかけた夕日の中、牧場や豪邸が点在する起伏のある道をどんどん郊外に向かって進んでいくと、そのうち小さな村に出た。すぐにみつかった教会の広場には巨大なテントが設置されていて、5時を過ぎてもう100人ほどがわいわいと集まっている。

怪しいものも含め、商品の数々大きな荷台の上には、今日の「商品」がたっぷりと並べられていた。たっぷりクリームをコーティングした美味しそうな自家製ケーキや、ぎっしり野菜が詰められた自家製ピクルス、ジャムなどがところ狭しと並んでいる。食器あり額入りの絵画あり、テーブルや子供用滑り台あり、何やら怪しげなオブジェあり、品揃えは学校で開かれる「バザー」みたいな感じ。
「ピクルスが美味しそうだよー」
「わ、私はこのケーキがちょっと気になる……」
「子供用自転車もあるじゃない」
と、盛り上がるのは主に奥様方。当然私も「うはー、ケーキがたくさん!」と感激しながら台の回りをうろうろしていた。私の目当てはサラダボウルだ。サラダを盛りつける大型の深皿が我が家になかったので、ずっと買おうと思っていたのだった。

そして、夕飯。
十数人が並んでいる列の後ろにつき、まずはバーベキューチケットを係の人に渡す。当日買いは8ドル、前売りは7ドル、とチケットに書いてある。チケットを買ってくれていたA先生に感謝しつつ、でも、
「……当日、急に来られない人が出た場合はどうすれば良いでしょう?」
と気になった夫が、事前に相談してみていたらしい。すると先生、
「あー、それはそれで構わないんです、教会への寄付なんですから」
とのこと。「教会への寄付」、これはこのイベント中にずっと感じることになったものだった。

左上のが、バーベキューチケットを渡し、そして発泡スチロール製のトレイを受け取り、カウンターへ。そこに広がるのは「給食」のような光景で、大鍋や巨大トレイを前にしたおばちゃんがずらーっと並んでいるのだ。それぞれの前にはテネシー州スタイルのバーベキューとか、鶏肉のグリルとか、ベークドビーンズとか白いんげん豆の煮込みとかコールスローサラダとか。トレイを自分で持ちつつ、
「あ、そのお肉をください」
「サラダ、ちょっとだけください」
などと伝えつつ、好みのものをどかどかとよそってもらってテントの下の席につく。教会のイベントゆえ、アルコールは無しらしい。アイスティーやレモネードが用意されていた。いかにも、というか、デザートもたっぷりと。何種類ものケーキが一人分ずつ紙皿に盛られてラップをかけたものが大量に置かれている。

「非常にスタンダードな、テネシーのピクニック料理というのがこういうものですよ」
とA先生。これまで「バーベキュー」と聞いて想像するのは、「牛の塊肉にタレをてらてらと塗って焼いたもの」とか「網や鉄板で焼く薄切りの牛肉」などだった。が、どうやら「バーベキュー」というものはアメリカの各州によって非常に独特なスタイルがあるものらしい。テネシーにおけるバーベキューとは、「豚の塊肉を焼いて、それを細かくほぐしたもの」がそれなのだった。コールスローサラダなどと共にパンに挟んでトマトソースで食べるというのが一般的らしい。ほぐしてしまったら、焼いてあるのか煮てあるのかすらわかり難いし、大体「バーベキュー」という感じがしないし、不思議な感じだ。塩と胡椒だけで味をつけてあるような肉はちょっとばかりパサついているけど肉そのものの味がしっかりとしてこれはこれで美味しいと思う。

そして、バーベキューソースをかけてオーブン焼きにした豆、「ベークドビーンズ」と、ちょっと甘めのコールスローサラダ。この3つがこの地方の「馴染みの味」というもののようだ。バターたっぷりのパウンドケーキのようなパンを囓りながらわいわいと夕食を楽しんだ。
デザートには、南部アメリカの名物のピーカンパイ(クルミに似たナッツのパイ)やチョコクリームをかけたスポンジケーキなど。どれも気合いの入った甘さで、私や息子は「あまーいねー」などと言いつつもモリモリ食べていたけれど、男性陣は一口食べてこめかみを押さえる人が続出だ。ピーカンパイ、表面にナッツを敷き詰めた下にはたっぷりのチョコレートクリームが詰まっている。ひったすら甘いけど、ただ甘いだけのお菓子というわけでもないので、慣れるとけっこういける味。

日本で言えば、「村の秋祭り」という感じだろうか。おじいちゃんおばあちゃんが多いし、子供達も多い。学生くらいの年齢の人は極端に少なく、そして見るからに"異邦人"なのは私たちだけだ。周囲はみんな、白人だった。
草原の中の教会といった雰囲気なので、虫も多い。蠅や蚊をぱたぱた払いつつ、しかし日が暮れると周囲にはホタルも飛び始めた。

オークションの模様夕方6時半になり、薄暗くなってきた中、いよいよオークションが始る。会場に集まった人数は200人ほど、だろうか。
テントの前方に向けてライトが照らされ、オークショニアーが商品を次々に紹介していく。チケットと引き替えに私たちは「57」「61」などといった番号札を貰っていて、それをオークショニアーに向けて掲げると入札の意志の提示になる。しかし……その金額をしゃべる口調ときたら早くて早くて、まだまだ英語が堪能でない私はしばらく呆然と「い、いまいくらだって……?」と硬直してしまっていたのだった。
「はい、次は……このケーキ、○○夫人の作成したケーキいきましょう、最初は10ドル10ドル10ドル……はい57さん25さんあがりました12ドル50、12ドル50、はい42さんも、次は15ドル15ドル……」
てな感じで1品あたり1分ほどでだだだだだーとしゃべりまくって、「はい42さんに決定しましたっ」と終わる。金額を聞き取るのがやっとだ。それすら15ドルと50ドルの区別がいまいちつかない。私にとっては大変危険なオークションなのであった。

それでも、5番目くらいにサラダボウルが登場したので、必死に聞き取りつつ入札してみる。最初は5ドルくらいで、対抗する人もそれほどいなかったのか無事に7ドル50セントで落札できた。大きなボウルと一回り小さなボウル、カーブが綺麗なサラダサーバーもついている。全部木製で、私が前から欲しいと思っていた良い感じのものだ。中古品だろうけど、新品を買ってくるよりは安く済んだし、おいしい買い物だった。
落札した人の手には、その商品が即座にやってくる。商品名と金額、落札ナンバーが記された紙がまとめられて最後に集計され、金額を払うシステムだ。

次々と品が売れていくにつれ、場も白熱してきた。入札されない商品はほとんどなく、しかも市価よりも高いくらいの金額で売れていく。しばらく眺めていると、「安く買おう」というよりは、場を楽しんで教会の寄付に貢献しようという空気が周囲に漂っていることに気がついた。この地域のケーキ焼き名人おばちゃんが出品したケーキ類もあったりして、そういうケーキは1ホールが55ドルなどという値段がついてしまったりする。「おりゃぁ、もう、オークションが好きなんだよなぁ」という風情のおっちゃんが、シャンデリアから怪しいオブジェから絵画まで落札しまくっていたり。もう、何だか大変。

結局、我が家はサラダボウル1セットとA先生が出品していた「自家農園で採れた蜂蜜2ポンド」を落札。合わせて20ドルのお買物をした。もう1つ、ひとつの木からくりぬいて作られた巨大なリンゴ型のサラダボウルもとてもとても気になっていたのだけど、競争者に負けてしまったのだった。15ドルくらいまでは競るつもりだったけど、落札は20ドルちょっとで他の人に渡ることになった。
Hさんはピクルス1瓶落札した直後にピクルス4瓶セットも落札してしまって、だんなさんに
「バッカじゃないの、なんでこんなにピクルスばっかり落札してるんだよー」
と嘆かれ、大学生M君は腹筋鍛錬マシーンを5ドルで落札していたりした。

帰り際、大量にケーキやピクルス、紅茶のセットなどを落札していたA先生の奥さまが
「ピクルス、お好き?ケーキもお好き?どうぞ1つ持って帰って」
とたっぷりお裾分けしてくれた。ケーキ、密かに気になっていたのでありがたくいただいた。キュウリのピクルスも1瓶。

オークションの間、息子は教会の裏手でブランコに密着して遊びまくっていた。途中からは2歳だという金髪のキュートな女の子と2人で遊んでいたりして、ちゃっかりお友達になっていたり。息子よ、他に男の子もいっぱいいたのになんで女の子とばかり仲良くなるのか。母はちょっとだけ頭が痛い。

それぞれに楽しんだオークションの夜。
街中に住んでいるだけじゃ味うことのできないような、のんびりのどかなイベントはとても貴重な体験だった。
帰ってから舐めてみたA先生の蜂蜜はふんわり甘くて柔らかく、
「これでチャーシューを焼こう!」
「とりあえずパンに塗って食べてみよう!」
と盛り上がる私たちだった。

戦利品
これが戦利品(いただいたものも含めて)