Natchez Trace Parkway ピクニック

どこまでもこんな道

私たちの住むテネシー州ナッシュビルから、ミシシッピ州Natchez(ナチェス)へ続く400マイル強の道がある。日本で言うところの"中山道"のような古き良き街道、それが「Natchez Trace」(ナチェス トレイス)だ(公式ホームページはこちら)。

営利用の乗り物の乗り入れが禁止され、制限速度は50マイル/h。古き時代からの景観をそのまま残すよう、国立公園ではないものの「National Park Service」に管理されている道路だ。また、「National Scenic Byways Program」なるものにも制定されているらしい。
起源は先住民の時代に遡り、かつては水牛道として利用されていた。その後にやってきた移民たちは、ミシシッピ川を船で下り物資をニューオーリンズなどの河口街に輸送し、その帰りに(船は解体して材木として売り払い)家への帰り道としてこの道を通ったのだそうだ。

現在の道は、1938年に片側一車線の複線道路として作られたもので、さらに古き道は「Old Trace」として未舗装のまま新道と平行し絡み合うようにしてトレッキングルートとして残っている。ノリとしては"中山道と旧中山道"という感じだろうか。

草原を越え、森を抜ける道はうねるように蛇行し起伏し、なかなかにのどかで面白いらしい。このトレイス内にはハイウェイ沿いでは随所に見られるガススタンドもファーストフード店もなく、それらはトレイスと交差する州道などに出て探さなければならないようになっている。代わりに点在するのはピクニックエリアとキャンプ場だ。
「そりゃもう、ピクニックしかないでしょう!」
ということで、留学生仲間が連れだって秋晴れの10月にピクニック決行となったのだった。

トレイスの終点であるNashvilleから南下して70マイルほど進んだところの「Meriwether Lewis」なるスポットが今回の目的地。自転車で疾走する人たちあり、連れだってバイクでゆく人あり、「のんびり自然を楽しみましょう」的雰囲気が道行く人から漂っている。途中には「Baker Bluff Overlook」だの「Fall Hollow」だのといった立て看板が立っており、ここからの眺めが良いよだとか、ここには滝があるよだとか、数マイルごとにそういった細々とした案内があった。

1時間ほどかけて近郊では一番の休憩所である「Meriwether Lewis Site」に到着。Meriwegher Lewisさんという人のモニュメントとお墓があるところであったらしい(ピクニックすることに専念してしまい、それには帰ってから気がついたのだった)。トイレが併設されたピクニックエリアやキャンプ場があり、「Foot Trail」なるトレッキングルートもあるし、何より「Little Swan Creek」なる小川がピクニックエリアの真横に流れているのだった。ピクニックにはもってこいの素敵な場所だ。

木漏れ日の中で飯を喰う駐車場に車を止め、十数メートル草原を突っ切ると林になる。木漏れ日の中、ベンチとテーブルが何台か置かれており、小さなバーベキュー用の固定グリルまであったりする。人の気配はまるでないのに、蓋つきのゴミ箱にはちゃんと真新しいゴミ袋がセットされていて、ゴミはひとつも入っていない。管理が行き届いているんだなぁ、とちょっとびっくり。
膝までの深さの可愛らしい小川にはメダカほどから体長20cmほどの小魚までがたくさん泳いでいた。絵に描いたようなピクニック環境で、絵に描いたようなピクニックを堪能した私たち。

3家族がお弁当をたっぷり持ち寄り、独身男性陣が紙皿やフォーク、ジュース類などの小物を準備。クーラーボックスにはしっかりビールまで冷えていた。
ビールで乾杯し、おにぎりや唐揚げやサンドウィッチ。卵焼きやミニハンバーグやタコさんウィンナ。小川の隅にペットボトル入りのジュースや麦茶を冷やし、木漏れ日の中のピクニックは期待以上に楽しいものとなった。子供達は胸までずぶ濡れになってしまいながら10月の水遊びを堪能しまくり、男性達の中には1マイルほどのトレッキングルート散策に出る者も。ビーチボールやらバットやゴムボールなどが続々と各車のトランクから出され、良い年した大人がすっかり「遠足」に盛り上がっていたのだった。
適度にトイレなどの設備があり、適度に余計な施設がないこの環境はありそうでなさそうで、日本ではなかなかお目にかかれないような気がする(良い感じの川岸のすぐ側にはしっかりちゃっかりコンビニなんかがあったりしてね)。

驚いたのは、トイレ。
ゴミ箱と同じく、掃除の行き届いたトイレは水洗でトイレットペーパーもちゃんとセットされていた。手洗い場の横にはちゃんと手拭き用ぺーパーも整っている。30マイルごとに1ヶ所ほどしかないトイレなので、ピクニック客以外にも道を通る人々がトイレ休憩にとぽつぽつやってくるのだ。毎日掃除しなければやっていられないだろうに、人気のないところの清潔なトイレにかなり驚いたし感心した。有料道路というわけでもないのになぁ。

滝だ滝だ、と盛り上がる日も傾きかけての帰り道、「Fall Hollow」という看板が道中にあったよね、と
「滝だ」
「滝みたいだぞ」
「見てみるか」
と立ち寄ることに。駐車場から狭い山道を下ること5分ほど、2つの滝壷のところまで降りられた。数段になって滑り落ちている白糸の滝チックな可憐な滝と、岩盤が奥に深くえぐれた形になっていて滝の裏側に回れるようになっている滝と。どちらも可愛らしいサイズだし、特に「うぉー、アメリカ!」という感じはしないけど、ほとんど柵もないような場所だというのが自然そのままといった風情でとても良い。

どうも、広い大陸に住むアメリカ人にとっては滝は珍しいものであるらしい。山の多い日本に住む住民にとっては滝は少しも珍しくはないものだけど、
「グレートスモーキーマウンテンに、人の身長の3倍くらいのショボい滝があったのね。珍しくもなんともない光景なんだけど、アメリカ人は大喜びしてたんだよなぁ」
とは、公園巡りが好きなIさんの証言だ。この滝にも次々と車を止めて立ち寄る人がいたのだった。

そしてまた70マイルを家路に向かう。起伏のてっぺん、木々の隙間から見えた風景は、どこまでも広がる深い緑の森だった。我が家から1時間程度でこんな環境に来られてしまうことに感激しつつ、その反面、我が家がどれだけ田舎なところであるのかも再確認できちゃったのだった。