Thanksgiving Lunch

11月4日、夫宛にE-Mailで招待状が届いた。

「11月19日、11時半から研究所で"Thanksgiving Lunch"をやりまーす。
参加する人は一品持ち寄るか、あるいは5ドル払うことになっていて、そのお金は毎年研究所から恵まれない家族のためにプレゼントを送るための資金となっていまーす。
何か料理を持ってきてくれる人は、掲示板に"何を持ってくるか"のサインアップシートがあるので名前と品物名を書いておいてねー。」

……ということだ。毎年、色々な料理が集まるらしい。面白いので、当然参加することにした。
一番気合いが入っていたのが我が家だった……ということではないだろうが、掲示板に最初に品名を書き込んだのは、我が家だ。
「Chirashi-Sushi」「Creme Caramel」
と、書いてきた。
ちらし寿司なら、多分、アメリカ人にもさほど抵抗なく食べられるだろう。万が一、アメリカ人スタッフの口に合わなくても、日本人が20人ほどいるのだから綺麗に無くなるはずだ……なんて事を、一応計算していた。そしてハロウィンの時に作って好評だったカスタードプリンも再び持っていくことに。

前日からちまちま仕込みして、楽しみにしていた感謝祭ランチ。
「ん、でもね、買ってきて済ませちゃう人も多いから……あまり期待しない方が良いかもよ」
と研究所の日本人スタッフMさんは言っていた。
それはそれで、一体どんなものが並ぶのか気になる。いそいそと11時20分頃に、会場となる研究所ロビーフロアを訪れたのだった。

ばばーん ばばばばーん

おおー。すごいすごいすごい。
壮観だった。

いくつも並んだワゴンには料理が溢れ、しかも、どれもとても美味しそう。市販品のようなものは、ほとんど全く見えなかった。ゴテゴテした配色のケーキなどもなく、手作り感溢れたパイ類が並んでいる。中央には、巨大なアルミ製キャセロールがいくつもいくつも並べられ、私の持っていった「Chirashi-Sushi」入りキャセロール型もどかっと一緒に並べられた。グラタンのような外見の料理が、一見すると多い。このパーティーの前日に同じ研究所が主催したオフィシャルな立食パーティーがあったのだそうで、その残りものもちらちら並んでいたりした(シュリンプカクテルとか、カントリーハムとか……)。

手頃な大人数向け料理であり、仕込みを済ませたら後は焼くだけという手軽さもあるオーブン焼き料理(キャセロール料理)はとてもスタンダードなアメリカ家庭料理だ。
"食材をソースと絡めてオーブン焼きにする"が基本のキャセロールクッキングは準備も片づけも簡単で、こういったパーティー時にはここぞとばかりに重宝されているようだった。

テーブルの隅には紙皿と使い捨てフォークやスプーンがたっぷりと。ロビーを離れた廊下にデザート台が設えられ、更に別のワゴンにはコカコーラやスプライト、セブンアップ、メローイエロー、ドクターペッパーといったソフトドリンク類が用意された。適当に料理を取っては適当に食べ、適当にしゃべり、という気軽なパーティーだ。

料理一品一品に説明がついていたわけではなかったけれど、後になって「あの料理って何だったんだろう?」と思うものも多々あったのでちょっと調べつつまとめてみた。
中にはいかにもな南部料理もあったりして、自分で作って食べてみたいなと思ったものもあったり。間違っているところも多々あるかもしれないけれど、備忘録代わりに書いてみることにした。

フルーツとチーズ各種
ブドウにイチゴ、一口大のメロンがたっぷりと。同じ皿にセミハードタイプのチーズ(チェダーやエメンタールなどの類)が角切りにされて、これまたたっぷりと。

リンゴとクランベリーのソース (品名不明)
生の果実のすぐ横に置かれていた、一見ジャム状の赤いもの。クランベリーを甘く煮て、細かく切った生のリンゴやイチゴと合わせたようなものだった。2種類あって、1つはオレンジピール入り、もう1つは胡桃入り。ジャムよりは甘くなくサラサラとしていて、果物の甘味にちょっと砂糖を上乗せしただけのようなさっぱり系の味でかなり美味しい。
「このまま食べるのかな?」「ハムに添えて食べるのかなぁ?」
などと不思議がりながらつついたのだった。

トルティーヤチップ&サルサ
何かと出てくるトルティーヤチップとサルサ(どこのスーパーでも大量に多種類売られているし……)。ついつい食べちゃうのよー。

コーンと豆のサラダ (Corn and Bean Salad)
コーンとグリーンピース、更に白っぽい豆やら黒っぽい豆やらが玉ねぎと和えられた甘酸っぱいサラダ。今日のはドレッシングの味だったけれど、マヨネーズ味のものもレストランで食べたことがある。どちらもほんのり甘さが強めで、けっこう美味しい。

フェタチーズとルッコラのサラダ (Feta & Rocket Salad)
この地方の名物料理というわけではない(と思う)けど、ボウルにたっぷりのサラダは玉ねぎやトマトも入って、さっぱりのビネガー味。ちょっとこってり系のものが多かった中、すぐに空になった人気の品だった。

コールスロー (Coleslaw)
このパーティーの前日に開かれた、別のパーティーの残りものらしかった一品で、直径30cmはあろうかというパンの中央がくり抜かれてコールスローが詰まっていた。酸味は少なく、甘さが強めのマヨネーズ味がここらの基本の味らしい。

ほうれん草のクリーム煮 (Creamy Spinach)
ほうれん草にほんのりにんにくの風味をつけてぐだぐだにミルクで煮込んだような(そしてほんのりチーズ風味)な、柔らかい煮込み料理。さっぱり塩味で優しい味。ニューオーリンズ料理に「Creole Creamed Spinach」なんてものがあって、似た傾向の味だなぁと感じた(ニューオーリンズもテネシーも、どちらも南部地方ではあるし)。

じゃがいものキャセロール (Potato Casserole)
「じゃがいもをマッシュにしてクリームソースと混ぜ合わせ(ついでに小麦粉をどっさり加えて)オーブン焼きにした」といった感じのもの。じゃがいも料理か粉もの料理なのか微妙に分別つきかねる印象だった。グラタンとはちょっと違う。肉料理のつけ合わせなどの定番、らしい。

コーンのキャセロール (Corn Casserole)
コーンたっぷりのグラタン、といった食感と味のオーブン焼き料理。ホワイトクリームの他は、玉ねぎとコーンと、あとジャガイモも入っていたかな?という印象が。コーンがこれでもかと入っていてシアワセだった。うまー。

さつまいものキャセロール (Sweet Potato Casserole)
「こ、これはデザートでは……?」と思ってしまった甘い一皿。ノリとしては、"スィートポテトをキャセロール型に敷き詰めて焼きました"という感じ。でも、甘い。すごーく、甘い。鼻血出そうなほど、甘い。

ベークド マカロニ&チーズ (Baked Macaroni and Cheese)
スーパーで売っている最大級サイズのアルミ製キャセロールにたっっっぷりのマカロニ(ペンネが代わりに使われていた)がチーズクリームに和えられてオーブン焼きに。かなりどっしりと圧縮された断面になっていて、食べてみてもどっしりと迫力ある歯ごたえだった。オーブン焼きにされた独特のモチモチ食感はだんなのハートを鷲掴みにしたようで、彼は山のように食べていた。

ベークドビーンズ (Baked Beans)
南部地方の定番料理で、甘く甘く煮込まれた茶褐色の豆煮込み。微妙に味わうとそれぞれ異なる味がする(ような気がする)けれど、どこで食べてもなんとなく似たような味で、その味のヒミツは「ジャックダニエルNo.7のバーベキューソース」だという噂。

クラブケーキ (Crab Cakes)
蟹肉にほんのりハーブを効かせて一口大の団子状にして、揚げたもの。ちょっと固めの蟹コロッケという感じ。店で食べるとモチモチ巨大なすごいものもあったりするけど、今日のはほんの一口サイズの小さなものだった。香ばしくて、ビールが恋しくなるお味。

シュリンプカクテル (Shrimp Cocktail)
よくある前菜、シュリンプカクテル。さっと茹でたプリプリの海老にホースラディッシュとケチャップを合わせたカクテルソースをつけて食べる。海老が美味しくないとけっこう悲惨な味になり、そいでもって今日のはあんまり美味しくなく……(どうも昨夜のパーティーの残り物だったらしい)。

鮭のグリル (Grilled Salmon)
ほんのりレモン塩風味で、ただただ焼いただけのようなサーモン。巨大なやつが2〜3切れほど、でん!でん!と皿に置かれており、皆に崩されながらつつかれていた。

ミートボール (Meat Balls)
茶褐色の甘辛いこってりソースに絡まったミートボールは、中央にショリッとした食感の何かが入っていた。
「なんだろね?」
と言っていたところ、研究所スタッフMさんに「ああ、くわいよ、くわい」と言われる。
ソースの味は、お馴染みの「ジャックダニエルNo.7バーベキューソース」の香りがほのかに……(でも美味しいよ、うん)。

カントリーハム (Country Ham)
まんなかに太い骨が一本入った、巨大なハム。既にスライスされてあって、ペロペロ剥がしながら取り分けて食べた。塩気がちょいときつめで、でもパサパサしておらずけっこう旨い。パンケーキ屋では厚切りになって焼かれて出てきたりする。

コーンブレッド (Corn Bread)
アメリカ南部名物のコーンブレッド。薄力粉と同量ほどのコーンミールを使って焼き上げられる素朴なパン(というかケーキというか)で、モソモソポソポソとした舌触り。そのポソポソ感が、ベークドビーンズなどとは良く似合う。

……と、アメリカの家庭料理的なものを並べると、こんな感じのものだった。
私以外の日本人留学生夫人たちが作ったのは、ラップ巻きのミニおむすびとか、チーズケーキとか。Mさんは腸詰め入りのおこわを炊いてきていて、久しぶりに餅米を食べた私は涙がちょちょ切れるほど嬉しかったりした。

全種類ちょこちょこ食べてみて、気が付くとすっかり満腹に。
「デザート、別腹〜!」
と言いながらデザート台にがぶり寄る。

たっぷりのケーキ。シアワセ〜

10台ほどのパイの他、トライフルやクッキーがたっぷりと。
うきうきしながら、結局ほとんどの種類を少しずつ食べている私だった。

チーズケーキ (Cheesecake)
レアチーズケーキの上には、ラズベリーのコンポートがどっさりと、という華やかなケーキはキャセロール型にみっしりと固められていて、「すっごい光景だなぁ」と思わず笑っちゃったのだった。甘さは比較的控えめで、クリームチーズの風味がたっぷりと。

アップルパイ (Apple Pie)
誰かが作ってきてくれた、アップルパイ。上には砕いたパイ生地がパラパラッと散らされ、フィリングは煮込まれて細かく切られたリンゴとアーモンド風味の小麦粉の生地がざっくりと混ざって……といった風情のものだった。甘さが若干強いけど、シナモンが香るしっとり系生地とサクサクパイ生地がものすごく良い感じ。お代わりするほど旨かった。超、旨かった。

パンプキンパイ (Pumpkin Pie)
この季節(ハロウィンからサンクスギビングにかけて)の定番ということでか、パンプキンパイ。こちらの定番のレシピは、"カボチャの缶詰を使い、パンプキンミックスを混ぜて焼く"というもので、これもまさにそのカボチャの缶詰の味がした。ものによっては辛いと感じるほどスパイスが入っているけれど、これはスパイス控えめ。ちょっと私好みの味だった。上にはホイップクリームがたっぷりと。

さつまいものパイ (Sweet Potato Pie)
パンプキンパイとはうってかわって、スパイス臭ぷんぷんのパイ。こちらもまた、さついまいもの缶詰が売られていて、それをベースに作るのが一般的なものだと聞いた。この缶詰がそれはそれは甘いシロモノなのだけど(スィートポテトを更にシロップでのばしたようなものと思っていただければ……)、それに辛いと感じてしまうほどのスパイス類をたっぷりと。内心、「これはお菓子じゃない、お菓子とは思えない……」と思ってしまったのだった。お菓子というより……薬膳の何かみたいな。

トライフル2種 (Trifle)
アメリカ人は、Jell-Oが大好き。スーパーマーケットのゼリーミックス棚はこのブランドの各種フレーバーゼリーの素で占拠され、更にはカスタードクリームの素(Instant Pudding & Pie Filling とか Custard Mixなんて名前がある)も呆れるほどたくさんの種類が並んでいる。
そのJell-O商品を総動員して作ったようなものが、トライフル。
ニロ〜ンと、本当のカスタードクリームとはちょっと違った粘りがあるクリームに、ホイップクリームやバナナが散らされたトライフルが1種類、そしてコーヒー風味のがもう1種類、バケツに足が生えたような珍妙な巨大容器に納まっていた。
甘い……甘いよ……Jell-Oの味がするよ……。
ちょっとだけ「普通のカスタードクリーム」が恋しくなった私だった。

なんだかんだ言いつつ、最後の最後まであれこれつまんでいた私。
幸い、私のちらし寿司とプリンはそこそこ人気があったようで、会の終了までにほとんど残さず無くなっていた。が、今回はかつてなく大量の自家製料理が並んでしまい、予想を越えて料理が大量に余っちゃったらしい。

パーティー終了後1時間くらいして、パーティー担当の人からE-Mailが届いた。
「明日もまた、同じ時間に続きをやるからねー♪」
……続くんかい!