ダービーの町、Louisvilleへ

 

キッチンつきの宿〜Towne Place Suites

ものすごく唐突に「3〜4日、ぷらっと旅行に行きますか」という話になった。だんなの通う大学の授業が、突然に数日間空いてしまったというのである。
「でも、たかだか4日で行って帰れるところとなると」
「冬だし、あまり車で北上しても雪が怖いし」
「アトランタに行きたいところだけど……なんかその週末はNBAのオールスターが開催されてホテルも取れない感じだし」
「かといって、ニューオーリンズはこないだ行ったばかりだしねぇ」
とあれこれ思案した結果、ケンタッキー州に行ってみることにした。我が町、テネシー州のナッシュビルからたかだか30マイルほど北上すればケンタッキー州に入り、更に150マイル北上するとケンタッキー州内最大の都市ルイビル(Louisville)に到達する。

ルイビルに何があるのかは、良く知らない。ケンタッキーダービーの開催地であり、"ケンタッキーフライドチキン"の総本部もあるらしい。あとはバーボンウィスキーの醸造所が周辺の町に点在していることくらいを知り、
「ま、宿の予約も必要なさそうだし」
「なんとなく行ってみましょう」
と、適当に荷造りしてぷらぷらと車で行ってみることになったのだった。

2003年2月6日木曜日、だんなの受講する午前中の授業が終わって地元でお昼御飯を食べてからゆるゆると出発。我が町からほぼ真北に位置するルイビルだけれど、1時間時差がある。17時に到着するペースで走った車は、実際には18時に町に到達することになった。途中降り始めた雪は、いよいよ本格的に降ってきている。

宿のものとは思えない完璧なキッチン ケンタッキー州に入ったところの観光案内所で貰ってきたモーテルクーポンブックを眺め、1泊49ドルの宿に今日は宿泊することにした。「Towne Place Suites」なるその宿、Marriott系列の新しいブランドモーテルなのだとクーポンブックに書かれている。「All Suite!」の文字に惹かれて、行ってみることにしたのだった。

長期滞在者をターゲットにしたようなその宿は、スイートルームというどころか「フルキッチン設備つき」という面白いものだった。ベッドはダブルサイズのものが1つきり(親子3人で寝るにはちとつらいので、息子にはソファで寝てもらうということに……)、その代わりにと言ってはなんだけど、我が家のキッチンよりも立派なキッチンが設えてある。4口コンロに電子レンジ、コーヒーメーカー、食器洗い機、そして家庭サイズの冷蔵庫。棚を見ると、鍋やフライパン、食器類やカトラリーが4人分ほど揃っている。洗剤まで。
「な、なんで、こんなでっかい冷蔵庫が……」
「ていうか、食器洗い機まで……」
と笑ってしまいながら部屋の設備に感動する私たち。冷蔵庫やコンロがあるというのは、なかなか嬉しいものだった。思わず牛乳やジュース、ヨーグルトなどを買ってきて冷蔵庫にしまってみたり。

球場地ビール〜Brownings

あのタンクの中が全部ビール……ろくな情報収集もしないままやってきてしまったので、美味しそうなレストランの情報などもほとんど持ってはいないのである。出発直前の数十分で、朝食が美味しいと評判の店だとか、ちょっと雰囲気がよさそうなレストランの情報だとかを少しだけ得ただけだった。今日の夕食のあてはない。雪もどかどか降ってきているので、遠出は避けたいところだ。近場というと……目の前に「Kobe」とかいう名前の怪しい鉄板焼き屋があるけれど、それもちょっと……。
で、ホテルにチェックインしたときにカウンターの横にある観光案内ペーパー置き場でがさがさとレストラン探しをする私だった。いかにも観光客向けな感じのハズレな店も多々あるけれど、時々すごくアタリな店も混じっていたりする。これまで何度か、「ここはきっと美味しい!」と目星をつけたレストランのパンフレットが同じようにモーテルのペーパー棚に置かれているのを見たことがあるので(で、その店が実際に美味しかったりするので)、この棚の情報もまんざら捨てたものじゃないと、私は密かに思っている。

棚の中に「Micro Brewery」の文字を見つけた。おお、地ビール屋さんか、とパンフレットを引きずり出して見てみると、宿からそれほど遠くないところにあるらしい。地ビールはいいねぇ、嬉しいねぇ、と、今日の夕飯はここに行ってみることにした。

ルイビルのベースボールスタジアム"Louisville Slugger Fiele"に隣接した……というか球場内にあるそのお店の名は「Brownings」。雪の日の夜とあって、客席はひどくガランとしていた。ボックスシートに何組かの客と、カウンターにぽつぽつと人影が、という感じ。6階分ほどがどどーんと吹き抜けになっているこのお店、カウンターの上には2層になって地ビールの醸造タンクが並んでいるのが見える。

ビールは「Blonde Ale」「Red Ale」「ESB (Extra Special Bitter)」「India Pale Ale」「Stout」といったメジャーなもの他に「Cream Ale」「Nut Brown」「Vanilla Porter」などというものも。私はレッドエール、だんなはクリームエールを注文してみた。たっぷり20オンス(約600cc)入って、たったの2.75ドル。嬉しくなってしまう。
メニューはビールのつまみになりそうなものが適当な種類揃っている。ソーセージプラッターとほうれん草のサラダを注文し、息子にはお子様メニューからスパゲティを。メインディッシュは1人1皿食べきれる自信がなかったので、だんなとサンドイッチ1皿を半分こすることにした。

ソーセージプラッターは4種類のソーセージが ちょっと辛酸っぱかったほうれん草サラダ 料理の量はどれもあまり"アメリカ〜ン"なものでなく、けっこう控えめな食べやすい量のものばかり。
半分に縦割りされたソーセージは切り口がこんがりと炙られており、ザワークラウトとフランスパンと共に美しく皿に並べられている。ほうれん草のサラダには、グリルした鶏肉がトッピングされ、酸味が強めでほんのり辛いトマト味のドレッシングつき。"Reuben"という名のサンドイッチは、コーンビーフとスライスチーズ、ザワークラウトが黒パンにサンドされたものだった。ほんのり甘いソース("ロシア風ソース"だそうで……)が、以外に塩味の肉に似合っている。こっくりしっかりした味の、いかにも地ビールですという味のビールをぐいぐい飲みながらビールに似合う料理を食べた。

Louisville 「Brownings」にて
Sausage Platter
Creole Spinach Salad
Reuben Brownings
Kid's Pasta
Beer (Cream Ale)
Beer (Red Ale)
$7.50
$6.50
$6.50
$3.50
$2.75
$2.75

この店、毎週木曜日は「College Students, Faculty & Staff 10% Off」なる制度があるらしい。もしかして我が家も?と、だんなが大学発行の身分証明書をひらひらと見せてみると、「もちろん10%オフだよ」と合計金額から割り引いてくれた。
曜日によっては生ビールが1杯2ドルの日とかピッチャーが割り引きの日とか、いろいろやっているようだ。私たちにとっては今日が一番お得な日だったらしい。ラッキー。

キッチンつきの宿に帰ってからは、改めて観光情報を調べてみたり、明日の宿を検討してみたり。
調べ進むうち、私の頭の中にはケンタッキーフライドチキンのCMで流れる"ミーミードーレミファーミファーラソ♪"のメロディが流れはじめた。この曲、ケンタッキーの州歌でもあり、その歌に関係のある公園も近くにあるらしい。
「この曲って……ケンタのCMソングじゃなかったんだねぇ」
「違うよ!ケンタッキーの州歌だよ!……どっかの公園では、ずっとそれが流れてるらしいけど?州歌だし」
「うわー……公園中がケンタの歌かー。……ケンタ公園……」
「だからケンタじゃないんだって!」
とりあえず、ケンタ公園も外せないらしいということはわかった。

パラダイスな朝御飯〜「Lynn's Paradise Cafe」

2月7日金曜日の朝。
この旅行に来る前の数時間、私は自宅で、だんなは大学で、各々行きたいところや食べたいお店を少しだけリストアップしていたのだけど、2人してチェックが重なっていた店が1つあった。「Lynn's Paradise Cafe」という名のその店は、特に朝食に定評があるらしい。ランチやディナーにもお勧めらしい。
宿からはちょっと距離のある店だったので、荷物をまとめてホテルをチェックアウトしてからその店に向かった。

ちぐはぐだなぁ……

店頭にはやけに華やかな色に装飾された犬やら何やらのオブジェが並んでいる。看板も何やら派手で、店内は"パラダイスカフェ"の名の通りというか何というか、なんだか色々と凄いことになっていた。壁の一部は雲の模様が描かれておりその隣はオレンジ色に、更に目を返すと紫色の地にサイケな模様が描かれていたり。統一されていないテーブルや椅子が無造作に置かれ、床からはよくわからないオブジェがニョキニョキと生えている。天井からはアジアチックなぼんぼりがぶら下がり、朝っぱらから「これは一体どうしたことだ」的な光景を見せつけられた。でも、不思議と居心地は良さそうだ。
「うっひゃ〜……すごいね」
「すごい店だね」
と驚きつつ、8人ほどが席につけそうなほどの大きなテーブルに3人でつく。朝食メニューには卵料理をはじめ、フレンチトーストやパンケーキが並んでいる。説明文を読むと、どれもとても美味しそう。

フルーツ山盛り、グルメスクランブル こちらはマンハッタンスクランブル 私はグルメ・スクランブルエッグ。ローストガーリックとハーブ入りのスクランブルエッグに3種類のチーズを混ぜ込んだものらしい。
だんなはマンハッタン・スクランブルエッグ。コーンビーフと玉ねぎ、じゃがいも、スイスチーズがスクランブルエッグに混ぜられ、ホースラディッシュ入りのサワークリームソースが添えられるらしい。どちらもトーストやマフィン、ビスケットなどから選べるパンが1種類と、数種類の中から選べるサイドディッシュが1種類ついてくる。フレッシュフルーツをつけてもらった。

料理が出てくるまでの間は、紅茶をぐびぐび飲みながら待つ。空のカップにレモンが2切れ脇に添えられ、ステンレス製のポットにはお湯だけがなみなみと。そして籠に入ってやってきたのは10種類ほどのティーバッグが山盛りになったものだった。紅茶、選び放題だね、と笑ってしまいながらちょこちょこティーバッグを替えて楽しんでみたり。

そしてやってきた、ボリュームたっぷりの一皿朝食。
火が入ってとろんとろんに溶けたチーズがスクランブルエッグに絡まり、そこからはハーブの香りがぷんぷん漂ってくる。添えられたパンは、"ホームメイド バターミルク ビスケット"なるもの。四角く大ぶりなぽそぽそとした食感のそれが2個、味はほんのりと塩辛い。そして、マグカップにこれでもかと詰められてフルーツがすごかった。葡萄とメロンとスイカがみっちりとマグカップに詰まっている。もうこれだけでなかなかのボリュームだ。息子の分の料理を頼まなくてほんっとーに良かった、と思いつつ
「メロン食べる?パンも食べな。卵もねー」
と、息子分の小皿に取り分けて手伝ってもらいながらボリュームたっぷり朝御飯にとりくんだ。素朴な味の素朴な料理で、だんなの皿もまた良い感じ。スクランブルエッグにはたっぷり塩味牛肉の薄切りが混ざり、ごろりとしたじゃがいもや玉ねぎがざくざく入っている。アメリカのコーンビーフは、スーパーでは日本でもお馴染みのタイプの缶詰のものも売られているけれど、サンドイッチなどにするときには"塩漬け牛肉の薄切り"のものが出てくるのが一般的だったりする。牛肉版のハムのようで、これがなかなか美味しい。

内装は不安になってしまうほど個性的なお店だったけれど、味は文句なしに美味しく、朝から幸先良いねとご機嫌な私たち。
この店、昼や夜は"Meat & 2""Meat & 3"などが供されているらしい。"Mom's Meatloaf"とか"Chicken Kentuckian"(鶏むね肉にハーブ入りバーボンクリームをかけたもの……だそうだ)なんて、いかにも美味しそうだ。

Louisville 「Lynn's Paradise Cafe」にて
Gourmet Scramble with Fresh Fruit
Manhattan Scramble with Hash Browns
Coffee
Tea
Chocolate Milk
$7.95
$8.95
$1.75
$1.75
$1.95

ケンタの殿堂〜「Colonel Harland Sanders Museum」

雪の中の白亜の殿堂朝食後、まず行ってみたのはケンタッキーフライドチキンの総本部。そこには"Colonel Harland Sanders Museum"なるミュージアムがあるはずだった。昔々の圧力釜とか、カーネルサンダースの執務室とかあの白いスーツなどが展示されているらしい。やはりケンタ州に来たからにはケンタを満喫せねばならないのだった。

マップを眺めつつたどり着いたところには、威風堂々とした白亜の建物。昨夜降った雪がまだまだ残っているので、雪景色の中の白亜の建物という何やらムードたっぷりな光景だ。もしかしたら今日は最高気温が零下何度かでは、と思えるような寒さの中、
「ミュージアムゥ〜、ミュージアムゥ〜」
と早足で建物に入ると、受付のおばちゃんが「May I help you?」と。あの……ここ、博物館ですか?と聞いてみたところ
「あらぁ、ごめんなさいねー、今はね、博物館やってないの」
という無情な一言が返ってきた。"たまたま今はやっていない"のか、"もう閉鎖してしまった"のかどうかはわからない。それでも
「ここは見られるわよー。どうぞ」
と、入口すぐ脇のドアを開け、「どうぞ見ていって?」と言われた。

カーネルサンダースの執務室(を再現したもの?)らしい。中には肖像画や重厚そうなデスクの他、昔のラッピング袋などが飾られたショーケースが1つ置かれていた。部屋の入口には、日本ではお馴染みのカーネルサンダース立像が。あの立像、元々はカナダのとあるフランチャイズ店によってイベント用に作られたものなのだけど、それを視察の際に倉庫で発見して持ち帰り、量産したのは日本の社員なのだそうだ。日本各地に置かれるようになったあのカーネルおじさんは、今では欧米でも置いている店があるとか(情報ソースは日本ケンタッキーフライドチキン公式ページ「カーネル立像」コーナー)。
そういうわけで、アメリカのケンタではまずこの立像は見かけない。ここに立つこのおじさんも、日本から贈られたもののようだった。思わずぽんぽんと肩を叩いてみたり。

ケンタ旅行の1つの目的が絶たれ、ちょっとしょぼんとなりながら次へ進む。

ダービーを学ぼう〜「Kentucky Derby Museum」

右が競馬場入口、左が博物館入口

めげずに目指した次の目的地は、ダービー博物館(Kentucky Derby Museum)。
ここルイビルは、お馬さん好きにはたまらない"ケンタッキーダービー"の開催地だ。その会場であるChurchill Downsに隣接して博物館が建っている。冬場はシーズンオフだけれど、博物館によって運営されるツアーに参加すればシーズンオフでも競馬場の中に行けるのだそうだ。だんなの目はちょっとキラキラしている。

「あと15分ほどでツアーが始まるから、参加するなら入口に戻ってきてね」
と窓口のおにいちゃんに言われ、頷きつつ中へ。館内では"パララパッラララパッラララパラララ〜♪"と、なつかしのクイズ番組"クイズダービー"で流れていたファンファーレの音があちこちで聞かれた。ああ、そうか、あのファンファーレ……ケンタッキーダービーのファンファーレだったんだぁ、と妙に納得してしまいながら展示を眺める。これまでのダービーの映像が見られるコーナーがあったり、馬について騎手についてのあれこれの展示が想像以上にたくさんあった。「競馬のチケットを買ってみましょう!」なんていう疑似馬券発行マシーンなどもあったりする。

あと3ヶ月もしたらここに山のような人がやってくるのねー 館内で見た360度スクリーンのムービーでは、ダービーの1日を見ることができた。華やかな帽子をかぶって正装でやってくる貴婦人たち、ミントの葉を浮かべた大きなカップ入りのドリンクをがぶがぶ飲む多くの人たち。このドリンクは、"ミントジュレップ"という名のカクテルらしい。たっぷりのクラッシュアイスを詰めたカップにバーボンと砂糖水、そしてミントの葉を入れるものなので、ダービーの日には何万杯ものミントジュレップが売られるのだそうだ。ダービーが始まる直前には、会場の全員で"あの歌"(ケンタの歌……もとい、ケンタッキーの州歌)を斉唱する。そこに漂う空気は、"煙草とワンカップ酒の匂い漂うおっちゃんらの盛り場"というよりは"年に一度の盛大なお祭り"という感じ。

そして競馬場ツアーに参加。
雪の競馬場を眺める経験というのも滅多にないことなのでちょっと楽しかった(めちゃめちゃ寒かったけれど)。ケンタッキーダービーのウィナーズサークルは、ケンタッキーダービーでしか使われないそうだ。シーズン中に開催される他のレースでは、他の場所のウィナーズサークルを使うことになっている、とガイドのおねぇちゃんが言っていた。ケンタッキーダービーを見るには、最低の席でも300ドルを下らないのだそうだ。

最後は売店でお買い物。ピンバッジコーナーで、歴代の優勝馬のバッジを見つけただんなは
「うぉー!サンデーサイレンス!」
「フサイチペガサスゥ〜」
と何やら嬉しそうに漁って購入していた。やっぱりお馬さん好きにはたまらない場所だったらしい。

Louisville 「Kentucky Derby Museum」にて
入場料
 
ピンバッジ
2×$7.00
(AAA割引適用・本来は$8.00)
3×$5.00

Power Ball に挑戦

当たるといいなぁケンタッキーにやってきた、密かな目的は「宝くじを買う」ことだったりした。
私たちが住むテネシーでは認可されていないPower Ballという宝くじが、ここケンタッキーでは買うことができる。1口1ドルで、53までの番号から5つを選び、更に"Power Ball"を42のうちから1つ選んでマークする。合計6つの番号が、全て当たったらジャックポットだ。「5個中3個あたり」「5個中のあたりはゼロだけどパワーボールがあたり」などでちょこちょことした賞金(最大で10万ドル)はあるけれど、魅力はなんといってもジャックポット。ジャックポットが出なかった時は次回次回にと賞金が引き継がれていき、昨年の12月には1億7050万ドルというとんでもないジャックポットが出た。もう、めまいがしそうだ。

購入場所は、ガソリンスタンド併設のショップとかスーパーマーケットなど至るところで見かけることができる。昨日のうちにスーパーで用紙を貰ってきた私たちはホテルでこせこせとマークをし、道中通ったスーパー内の窓口に持っていったのだった。
用紙1枚で5つの組合せが記入できるようになっている。"Multi Draw"という欄で2、4、6、10、26を選ぶことができ、それはその回数分連続で同じ番号を賭け続けるというもの。抽選は通常週に2回だ。私もだんなも5口ずつ2回分賭けることにしてみた。掛け金は全部で20ドル。当たるといいなぁ。

ハヤシライスもどきだ!〜「211 Clover Lane Restaurant」

そろそろ昼食の時間。私がネットサーフィンしてみつけた、ちょっと気になるお店に行ってみることにした。「211 Clover Lane Restaurant」というそのお店、ホームページのメニューを眺めたところ"これはアタリな匂いがする"と感じたのだった。雰囲気はちょっと高級そうな感があるけれど、値段は手頃。ランチタイムならば子供連れでも大丈夫かなぁと思われた。

ちょっとばかり洒落た雰囲気が漂うエリアの一角にある、小さなショッピングモールの片隅にあるお店だ。表通りからは全く目立たず、看板も控えめ。重厚そうな茶色い扉を押して入ると眼鏡に髭のコック姿のおっちゃんがぬ、と出てきて窓際の4人席に案内してくれた。知っていなければ入ることを躊躇してしまいそうな、ちょっと敷居が高く感じられる店だ。板張りの床に置かれるテーブルや周囲の調度品がなんとなくアンティークっぽくもある。そもそも、テーブルクロスやナプキンがランチ時なのに布製だということにちょっとびっくりだ。ディナー時ですらテーブルにクロスをきちんとかけるようなレストランは、田舎町にはあんまりない。

ランチメニューは、スープやサラダなどの前菜が4種類、メインディッシュはサンドイッチがメインで8種類ほど、というところだった。りんごの木でスモークされたベーコンを使い、アボガドディップとバジルソースが添えられたBLTサンドなんてとてもとても美味しそうだ。カラメリゼされた玉ねぎを一緒に挟んだ豚ひれ肉のサンドイッチ、ブロッコリーとチーズのタルト、なんてものもある。
"本日のスープ"の内容を聞き、私はそれを。だんなはサラダ。そしてメインディッシュにはバジルローストチキンとレタスとトマト、レモンソースを挟んだ発酵種のパンのサンドイッチを頼んだ。だんなのメインディッシュは「Beef Bourguignonne with basmati rice」なるもの。
「これさ、"ブルゴーニュ"って読むんだよねぇ?……ってことは、ワイン?」
「ワイン煮とか、そんな感じ?それに御飯がついてくる、と」
「そうするとさ、俺の予想では"牛肉煮込みの御飯かけ"ということで"ハヤシライスもどき"ということになるんだけど、どうだろう?」
「……うん、良いんじゃない。頼んでみなよ」
とテーブルでごにょごにょ話し合う私たちだった。

うまうまサンド うまうまハヤシライス(もどき) うまうまデザート

私の元にやってきた前菜のスープ。本日のスープは"ムール貝のクリームスープ"だ。胡椒が効いた黄色いスープの中には、小指の先ほどにカットされたムール貝がざくざくと。色を見るだけではコーンスープのようだけど、啜ってみると磯の香りがぷんぷんと漂ってくる面白いスープだった。とても滑らかでクリーミー。野菜の風味もふんだんに感じられ、いかにも手間がかかっていますという味がする。
そしてやってきたサンドイッチ。少しだけ酸味のあるパンに厚切りトマトとたっぷりのレタス、そしてこんがりと焼かれた鶏肉にバジルの香り。レモン風味のマヨネーズソースが薄く塗られている。外見はなんてことのないサンドイッチだけれど、何だかすごく美味しい。生のバジルを使ったような強い香りが心地よい。添えられたポテトチップは自家製のもののようで、透けるほどに薄くスライスされたポテトがサクサクパリパリに揚げられていた。バリバリと強い歯触りではなく、シャクシャクシャク、と口の中で溶けてしまいそうな食感。初めて食べるポテトチップだった。

そして、だんなの前にやってきていたのはまさに"ハヤシライスもどき"。牛肉の他にはにんじんとじゃがいも、そして椎茸(マッシュルームじゃなくて?……と観察したのだけど、あれは絶対椎茸……)が赤ワインベースのソースでじっくり煮込まれている。中央に盛られた御飯は細長い米を使ったもので、パラパラとした軽い食感のもの。
「ほら、やっぱりハヤシライスだ」
と、だんなはとても嬉しそうだった。

あんまり美味しかったものだから、思わずデザートにまで手を出してしまう。
ココナッツタルトにも後ろ髪引かれつつ、頼んだのは「Pot de Creme」というもの。ポットでクリームだなんて、きっとプリンかクレーム・ブリュレに似たものだろうと想像できた。
やってきたのは、チョコレートプリンというかチョコレートムースというか、なもの。ココットケースにはふわんふわんのチョコレート風味濃厚な生地が入り、下の方はとろんと柔らかくクリームのようになっている。上に絞られたクリームも、ふんわりとチョコレート風味。全体的にチョコレート味山盛りのデザートだったけれど、不思議とくどくはなく、しかもアメリカ的なくどい甘さもない。久しぶりに感じた"繊細な"という表現がしっくりくるデザートだった。

全体的に美味しくて、大感動。しかもこれだけしっかりゆっくり食べたのに40ドルしなかったことにも満足。
「朝御飯に続いて、昼御飯も大アタリ〜♪」
と、次の観光に向かったのだった。この旅行、別に食べることは目的じゃないはずだったんだけど……(やっぱりつい熱が入っちゃうのね)。

Louisville 「211 Clover Lane Restaurant」にて
Bowl of Soup
211 Salad of Baby Organic Green with French Vinaigrette
Basil Roasted Chicken with Lettuce, Tomato, and Lemon Aioli on Levain Bread
Beef Bourguignonne with Basmati Rice
Pot de Creme
Tea
Espresso
$4.50
$4.50
$7.50
$8.50
$6.00
$2.25
$3.50

巨大バットがお出迎え〜「Louisville Slugger Museum」

巨大なバット 小さな美術館に立ち寄ったりしつつ、次なる目的地はルイビル・スラッガー博物館(Louisville Slugger Museum)。"スラッガー"とは、ホームランバッターの事なのだそうで、この博物館を運営するのはLouisville Slugger というバットのメーカー。つまりバッターとバット専門の博物館ということらしい。お馬さんと共に野球も好きな我が夫は、これまた楽しそうだった。

「このへんだと思うけど……?」
とマップを見ながら車を走らせたところ、どこをどう間違っても「ここが博物館だ」と思わないはずがない目印が視界に入った。隣のビルに寄りかかるように、巨大な巨大な巨大なバットがそびえている。後でもらったパンフレットによると、長さは120フィートの世界最大のバットらしい。ていうか、それはもはや、バットではないのでは……?と心中ツッコミを入れたくなる。写真を撮ってもファインダーにおさまらないし、バットの前で記念撮影したところでそれがバットだと見る人にはわからない、なんともいえないやっかいなオブジェが博物館前ににょきにょきと伸びているのであった。

これがぜーんぶバットの元 チケットには「PM3:40」という文字がでかでかとついていて、なんじゃこれは?と思っていたところ
「3時40分という表示のお客さまー!」
とロビーで係員さんが呼んでいる。先導されるまま扉をくぐると、そこはシアター。10分ほどのムービーを見た後、ゴゴゴゴゴとスクリーンが上がって奥の扉が開いた。な、なんだか万博のパビリオンのような、何かのアトラクションのような。よくできている。
あまり野球の事は詳しく知らない私には、目の前のお宝がいかほどありがたいものなのかは今ひとつだったけれど、ベーブルースの使っていたバットだとかサミーソーサーが使ったバットだとかが展示されている。何人かの投手の名をこちらで選択すると、その投手が投げる球のスピードでピッチングマシーンがボールを飛ばしてくる(別に打ったりするわけではなく、それがクッションに当たるのをバッターの視点から見られるようになっている)ものがあったり。

そして展示の後半はバット製作工場の見学。ミュージアムからそのままガイドさんつきで工場見学のルートに入る。丸太からの切り出し作業や削りの工程、ラッカーを塗ったり塗装したりとちょっと面白いものを見ることができた。
バットの需要はこんなにあるのかしらと思いたくなるほど、工場の中はバットの元で溢れている。

そして、最後には1人1本、長さ40cmほどのミニミニバットがお土産として全員に配られた。"Louisville Slugger Museum"の刻印つきでラッカーまで塗られ、かなりきちんとしたミニチュアバットだ。息子のおもちゃとして丁度良いサイズであるし、大人にも肩たたきとしての効能が期待できそうな感じ。なかなか面白い博物館だった。

Louisville Slugger Museum」にて
入場料
2×$5.5
(AAA割引適用・本来は$6.00)

超内陸で超美味牡蠣を〜「Z's Oyster Bar & Steakhouse」

今日の宿は、チェーンモーテルの「Best Western」。どのチェーンのモーテルもそれほど差異はないけれど(昨夜のキッチンつきというのが極めて特殊だったというくらいで)、なんとなく"色々泊まってみた方が面白くない?"と、"Comfort Inn"だの"Days Inn"だの"Holiday Inn"だの"Quality Inn"だのをこれまで試してきていた。高い宿には高いだけの事があるし(ランドリーがあるとか屋内プールがあるとか、ホテル内に飲食施設があるとか)、安いには安いだけの理由がある。幽霊がいたりとか。

クーポンブックを眺めて目星をつけたこのホテルは、1泊42ドル。クーポン持ってるよ、とペーパーをひらひらさせながらチェックイン手続きをしていた間、受付に立つおっちゃんはかかってきた電話に応対していた。
「うちはな、正規料金で1泊85ドルなんだよ。あぁ?その週はな、ダービーの次に忙しい週なんだよ」
なんて言っている。なんと、クーポン使うと半額以下ですか。ところで"ダービーの次に忙しい週"というのが一体いつなのかが気になるところだ。

カウンターのおっちゃんは、人なつこくあれこれ話しかけてくる。
「おぉ、テネシーから来たのか。俺も何度か行ったことがあるけどよ、あそこの訛はすごいよなぁ!何言ってるか全然わかんねぇよなぁ!」
なんて言ってくる。いや、テネシーから180マイルしか離れてないケンタッキーのアンタも相当すごい訛だよ、とだんなは笑いを堪えるのに必死だったらしい。
「あんたのクーポンは42ドルだ。部屋も142号室だ」
とニヤニヤしながらカードキーを手渡してきた。もう、何がなんだか。

さて、今晩の食事はどうしよう。今ひとつ心当たりもないままホテルの部屋で家族会議。昨日私がモーテルで漁ってきた飲食店パンフを眺めていただんなが
「ここ……確か"旨いステーキ屋"とかいうので、どっかで紹介されていたような気がする……」
と呟いた。「Z's Oyster Bar & Steakhouse」という店名からして、ステーキ及びオイスターがウリの店のようだ。こんなド内陸で牡蠣って言われてもねぇ……と、あまり期待はしないままこの店に行ってみることにした。目当ては美味しいステーキだ。肉だ。

ウェイティングバーあり、客席には大きな水槽あり、という薄暗い店内はかなり大人な雰囲気。メニューを開くと、各種ステーキ、オーブン焼きの牡蠣や魚介料理などに並んで生牡蠣が品種別に7種類ほど紹介されている。ニューヨークで食べてきた"Kumamoto"という名の牡蠣もあった。
「牡蠣の種類が選べるなんて、ニューヨーク以来だねぇ……」
「もしかしたら、ここの牡蠣、美味しいかもしれないねぇ……」
と、その気合いの入ったメニューを眺めているうちに"牡蠣食べたいぞ"熱が盛り上がってきてしまった。値段は決してお安くない。ニューオーリンズで食べてきた牡蠣の、単価は約4倍だ。

牡蠣〜、半ダースの牡蠣〜 白髪白髭の渋いおっちゃんが私たちのテーブル担当のようだった。
「ご注文、何にしましょ?」
と聞いてくるその人に
「牡蠣……どれが美味しいのかなぁ?」
と聞く我が夫。
「メニューに並んでいる順番は、上から牡蠣のサイズが小さいものから大きいものへとなっているんです。"Kumamoto"なんかは、すごく小さいけどその代わり香りがすごく濃厚で、とても美味しいですよ。……あぁ、6種類を1個ずつ盛り合わせたサンプラープラッターもお作りできますが」
と勧められ、結局前菜は私もだんなも牡蠣プラッター。ついついクラムチャウダーなども頼んでしまいつつ、メインディッシュはがつんとステーキを食べることにした。マグロ好きの息子には前菜の刺身(品名もまさに"Sashimi")を彼用のメインディッシュとして取ってあげることに。
"Kumamoto"という名前は日本の地名なんだけどね、でも日本にはその名前の牡蠣ってないんだよねぇ、なんて話も担当のおっちゃんとしていただんな。「ほー、"Kumamoto"は日本にはないんですか」と、軽く目を見開いたおっちゃんはしずしずと下がっていった。

テーブルには、グラスで頼んだスパークリングワイン。ちびちび飲みながら待っていると、大きさや形が全く違う6個の牡蠣の盛り合わせがやってきた。小さなもの(多分それが"Kumamoto"は親指の先ほどのサイズしかないし、殻がやたらと丸っこく、ぽってりとした深さのある大きな牡蠣もある。かと思うと縁がヒラヒラとフリルのようになった華やかな外見の牡蠣もあったり。
実際、小さなものは甘さも香りも豊かなものが多かった。大きなものは大きなものでブリブリとした充実した食感が心地よいし、瑞々しさが強いものもある。どれもこれも新鮮そのものの味で生臭さは少しもなかった。キーンと冷えた生牡蠣で、ここが内陸とは思えない美味しさに感動してしまう私たちだった。

そして巨大なチーズケーキ メインディッシュは10oz(約300g)の分厚いステーキ。"Best Filet In Town"という名の自慢のステーキは、厚さ3cmほどもあろうかという分厚いヒレ肉ステーキだった。味つけは塩胡椒のみ、添え物はクレソンのみというシンプルな皿だ。切り取ると、断面からは肉汁がじわっと染み出て皿に垂れてくる感じ。脂っこさなく、けれども固くもなく、サクサクとナイフで切れてしまう。だんなの前には私のよりもちょっと薄めで激しく大きいニューヨークステーキ。迫力がある大きさのそれを、だんなはぺろりと食べきった。私も当然完食。

「これだけ美味しいとさ」
「デザートも食べなきゃなぁと思うよね」
と、シメにはニューヨークチーズケーキまで注文。
苺のさっぱりとしたソースが添えられたチーズケーキは、厚さはさほどではないけれど、どっしりと巨大だった。口の中でふわふわと溶けていく食感なのにすごく濃厚。3スクープほどもある大量のバニラアイスクリームは息子とだんながつついていた。

ちょっとばかり高くついた(本日のモーテルの宿泊費の3倍ってどういうことだ……)夕御飯になってしまったけれど、胃袋的には大満足でモーテルに帰還。
美味しいものばかりが続いた今日の食事に感謝しつつ、明日はルイビルを発つ予定。

Louisville 「Z's Oyster Bar & Steakhouse」にて
1/2 Oyster Sampler
New England Clam Chowder
Sashimi "Bigeye Tuna"
14 oz New York Steak
10 oz "Best Filet In Town"
NY Cheesecake
Ice Cream
Espresso
Coke
Glass of "Dom Ste Michelle"
2×$10.95
$4.95
$10.95
$29.95
$24.95
$5.95
$2.95
2×$2.50
$1.95
2×$7.00
  

あの曲が公園中に〜「My Old Kentucky Home State Park」

2月8日土曜日の朝。
モーテルの案内には「スペシャルなコンチネンタルブレックファーストがつきますよー」と書いてあったのだけど、実質は"ただのモーテルの朝御飯"に過ぎないトーストやジュースで腹ごしらえを済ませ、出発。今日向かうところは、帰り道をちょっと東に入ったところにある"Bardstown"という小さな街だ。そのあたりにはバーボンウィスキーの蒸留所がいくつもあるらしく、それが本日の目当て。

photo最初に目指したのは"My Old Kentucky Home State Park"という州立公園。作曲家のフォスターが、今もここに残されている建物を見つめてインスピレーションを得、"My Old Kentucky Home"(←ケンタのCMソング、略してケンタの歌)を作りあげたのだそうだ。
雪がまだまだ溶け残る中、真っ白に染まる公園へ。入口には売店がついた建物があり、それを抜けると広い広いなだらかな高低のある公園に出る。左手には野外劇場があり、鐘が鳴るドームがあったり。でも基本的にはフォスターゆかりの建物だけが見所のような公園だった。鐘の鳴るドームからは、数分置きにフォスターが作った曲のメロディーが公園中に響き渡る音量で流される。当然ケンタの歌も流れてくる。
「うーん、この建物を見てインスピレーションを、ねぇ……」
「どっちかというと、フライドチキンの味が思い起こされちゃうよねぇ」
とすごく失礼な事をフォスターの銅像の前で呟いたりしながら、今日も冷え込む中そそくさと見学を終えた。

家は……なんというか、普通の豪邸という感じ。公園主催のツアーに参加すれば、中まで見学できるらしいけどそれは止めておいた。
「やっぱりケンタ公園だね」
「ケンタの歌が流れてたね」
と、そんな程度の感慨しか抱かず(ひでぇ……)、次の目的地ウィスキー醸造所へ。

樽のそばまで、がぶり寄り〜「Maker's Mark」

このあたりにある醸造所は「Makers Mark」「Jim Beam」「Heaven Hill」など。足を伸ばせば「Four Roses」「Wild Turkey」「Labrot & Graham」などもあるらしい。どこでも見学ツアーをやっているというわけでもなさそうで、その内容もバラバラらしい。どこが良いのか今ひとつわからなかった。で、
「この、"赤い蝋で最後の封をする"っていうのが面白そうなんだよねぇ……」
とだんなが興味を示した「Maker's Mark」をなんとなく目指すことに。マップ表示サイトで事前に調べていた道順のとおり、運転するだんなのナビを私が務める。
「えっとー、○○の道路に出て、3マイルくらい進んだら左折して……あ、その後は"あとは道順出せないのー、がんばってねー"って書いてあるよ」
……なんだか全然ダメなナビなのだった(私がじゃなくてそのマップ表示サイトが……)。

ここを曲がればあとその道路を行くだけ、多分マップを見る限りでは1マイルほど、と思えたその道路は牧場が左右に続く中を1車線だけの道路が通っていく人の気配があまりない道。起伏が多く、行けば行くほど山奥に連れて行かれるような感覚があった。
「ないよー醸造所、ないよー」
「牧場ばっかだよー」
「ていうか、どんどん田舎に行ってるみたいな」
と運転するだんなもナビする私も泣きそうになりながら5マイル以上進んだだろうか。黒々とした周囲と違った雰囲気の大型建物が並び、煙が上がっている一角が見えた。黒々とした壁に赤い窓枠、Maker's Markのボトルの配色に似たその光景に一安心。タイミングよく、あと5分ほどで無料見学ツアーが始まるという時間にツアースタート地点の売店に入ることができた。

もしかしたらすごく貴重な光景? ツアー参加者は中年の夫婦連れが多い感じ。シアトルから来たカップルなんかもいて、全部で10人ほどだ。ガイドさんは女性。
「今日は寒いわね。だから、外でする説明をちょっとここでしちゃうわね」
と、この蒸留所についての概要を売店入口のホールで話し始めた。
現在実際に操業している蒸留所の中ではここがアメリカ最古のものなのだとか。バーボンはアメリカ発祥なので、アメリカ最古ということや世界最古ということなんですよー、なんて事を言っていた。それからぞろぞろと工程見学。穀物(バーボンはその原料の51%以上がとうもろこしであることが必須条件なのだそうで)を挽く機械、そして醸造する大樽が並ぶ空間、濾過する機械、樽置き場、瓶詰めエリア、と、建物をいくつか移動しての1時間ほどの見学ツアーだった。

醸造エリアでは、深さ10m直径5mといった感じの古びた木製の大樽に麦芽やとうもろこしが粉砕されたものが満たされているものなども間近に見ることができた。まさに発酵のまっただなかで、まだ穀物の粒々が見える樽の奥の樽ではフツフツの中から細かな泡が絶えず立ち上っていたりして。
「これ……さぁ、こういうところってさぁ、確か雑菌持ち込んじゃいけないんじゃなかったっけ……」
「そうそう、お酒作ってるところに納豆食べた人が無防備に入ったりするとパァになったりするんだよねぇ……」
「いいのかなぁ……」
「こんな、コート着たまま防護服とかも着てないのにねぇ」
と、内心"ほんとにこれでいいのかなぁ"と思ってしまいつつ貴重な光景を堪能した。

売店で何やら取材してます そしてこの醸造所にはたまたまBBCの取材陣が来ていた。ドキュメンタリーか何かの撮影だったらしく、樽置き場で撮影現場にぶちあたった直後、撮影スタッフさん一同は私たちがツアーを終えて戻ってきた売店にもやってきた。カメラマンと音声さん、あとは数人のスタッフたちが見学ツアーの人々に取材を始めている。私たちも取材された。
「どこから来ましたかー?」
「テネシーからです。今は留学中で、元々は日本から」
「バーボン、お好きですかー?」
「ええ、好きですよ」(嘘だー、だんなはあんまり、ウィスキー飲まないじゃないか……)
「日本でもこのバーボン、有名?」
「ええ、よく見かけますよ。僕もよく飲んでますし」(うそつきー、だんなのうそつきー)
いけしゃあしゃあとカメラに向かって答える我が夫。イギリスのみなさん、ごめんなさい。日本人嘘ついてます。

手前のが私。ちょっと失敗…… 売店には、このメーカーの象徴である"赤い蝋"でコーティングされたものがあれこれと売られている。グラスの底に赤くコーティング、ショットグラスの底にもコーティング、しまいには帽子のつばにまでコーティングしたやつまで。だんなは「おもしれー」と、ノリ部分を赤くコーティングしたメモパッドを手に取っている。ついでにショットグラスも買うことにした。

そして、蝋のコーティングが未だされていないバーボンの瓶詰めを購入すると、自分でコーティング体験をすることができる。売り場の隅にコーティング鍋があり、エプロンと手袋装着の上、店員さんに指導されながらコーティングするのだ。
「直角に鍋に入れます。3インチくらい、ね」
「イエース」
「そのまま静かに直角に引き上げます」
「イエース」
「そしたら、右手では瓶をしっかりホールドしたまま左手を添えて真横にし、蝋を切るようにくるくると素早く回転させるの」
「イエースイエース」
他の人の作業も眺めつつ、私とだんなも一瓶ずつ購入してやってみることにした。ラベルには、コーティングした人の名前と日付が入れられるようになっている。

で、BBCはまだそばにいるのである。カメラが蝋鍋の前で回っているのである。今日のコーティング体験を希望する人たちは、全員カメラに撮られる運命にあるのだった。
緊張したままコーティングし、何だかちょっと失敗した気分。本来なら、美しく波形に蝋が垂れねばならないのである。こんな、ラベルにかかってしまうほどデレンと長く1本蝋が垂れるようなものは売り物には存在しない。まぁ……いいか、私のバーボンだし。
「楽しかったね」
「この醸造所でアタリだったね」
「BBCのおまけもついていたしね」
と、ランチタイムになってすっかり腹が減った私たちはBardstown中心街へ戻ったのだった。

Bardstown 「Maker's Mark」にて
お土産バーボン(375ml)
ショットグラス
ノートパッド
2×$13.00
2×$4.95
2×$0.95

レンジがチンチン〜「The Spicy Lemon」

午後1時を過ぎて、Bardstown中心部に戻ってきた。小さな小さな小さな古びた街だ。隣の州なのに、テネシーとはまたちょっと住宅の造りなどが微妙に違う。街の中央に教会があり、いくつかの太い道路はそこで交わっている。
「確かね、このあたりにダイナーっぽいものがいくつかあったよ」
と行きにここを通った時の事を思い出しつつ、昼飯処探し。何人かが店に入っているのが外から見えた「The Spicy Lemon」という名の小さなお店に入ってみることにした。サンドイッチメニューがメインで、ダイナーというよりはカフェだ。
「僕はこれで、彼女はこれ。あとは息子に……これ」
と注文するやいなや、奥の方から電子レンジが何度も稼働する音が聞こえてきた。「チーン」「チーン」という音が店内に鳴り響く。

「あ"〜……この店は、ハズレだったかなぁ」
「スーパーの冷凍コーナーで見かけるようなものが出てきたりね」
とチンの音が1つ増えるたびに気持ちが沈んでいく私たち。でも、出てきたものが案外とまともなものだった。

このじゃがいもがまた、巨大で……「Loaded Baked Potato Stuffed with Chicken Salad, Gravy and Cheese」なる、私が注文した長い名前の料理は、塊のままの大きなじゃがいもが縦2つに割られ、その間にふんわりとしたマヨネーズ味のチキンサラダがたっぷりと挟まれたものだった。上からはチーズがかかり、焼かれて(いや、チンされて)いる。あとはパンが2枚。温かいじゃがいもに溶けたチーズが良い感じだし、チキンサラダの味だって上々だ。
だんなはコーンビーフのサンドイッチ、息子はハーフサイズの卵とハムのサンドイッチ。どちらも出来合いの味はしない、いたってまともなものだった。

「電子レンジは……作り置きしていたのを直前に温めるために使っていたみたいだね」
「基本は手作りって味だよね」
と納得しながらの満足なお昼御飯。それでもやっぱり、店中に電子レンジの音が鳴り響いちゃうのは……よくないような気がする。

Bardstown 「The Spicy Lemon」にて
Loaded Baked Potato Stuffed with Chicken Salad, Gravy and Cheese
Hot Tea
$5.95
$1.00

バーボンチョコは旨かった〜「Jim Beam」

食事を終えて、午後2時前。時差があるので、テネシー時間ではまだ午後1時。
もう帰っちゃうのもなんだかもったいないよねと、醸造所をあと1つくらい訪れようということになった。売店に寄るだけでもまぁ良いじゃないかということで。

立ち寄ったのは、バーボン音痴の私もさすがに知っている「Jim Beam」。
さきほどとは違い、近代的な"いかにも工場"といった光景が広がっており、丘の上に売店とかつて創業者たちが住んでいたらしい家屋が残されていた。売店に入るなり、
「チョコ、どうぞー」
と、カウンターのおばちゃんがバーボン入りのチョコレートを差し出してくる。ねっとりした甘さのアルコールの風味たっぷりの大人っぽいチョコレートだ。くどい甘さはあるけれど、けっこう美味しい。

「見学ツアー?あと10分くらいよ」
とおばちゃんに言われたので、売店の中をぷらぷらと。そのうちに
「ムービー、見る?」
とそのおばちゃんに再び声をかけられたので、うんうんと頷くと売店のすぐ横の小さなホールでJim Beamについてのムービーが流された。ウィスキーについて云々というよりも創業者とその一族についての話が多いような感じのムービーで、面白さは今ひとつ。ムービーが終わって外に出ると、
「そこの裏口から出てね、向こうの家に行ったら色々展示があるから」
みたいな事を言われた。醸造見学ではなく、どうやら創業者の家と周辺の展示を自分の足で歩いて勝手に見てねという内容のツアーだったらしい。

唯一面白かったのはここだけ、というか…… 豪邸と言うほどのものでもない、こぢんまりとした家の中には創業者たちの写真や、この醸造所の施設全景のミニチュアなどが転じされている。バーボンの試飲コーナーもあるけれど、案内係のおばちゃんは今ひとつやる気がない様子。ストレートのバーボン飲んで酔っぱらっても困るしねと試飲は止め、あとは屋外にある展示をちらちらと見る。
"これは50ある倉庫のうちのほんの1つです"と説明文のあった古めかしい倉庫(入口からだけ中が見られる)には、中にぎっしりと樽が並んでいるのが見えた。そして、写真は樽工場の展示。納屋の中には古めかしい道具類が並んでいた。

Maker's Markよりは格段に面白くない展示を見終え、それでもなんとなく知人へのお土産にミニボトルなど買ってみたり。
他に数人の見学者とすれ違ったけれど、ほとんど全員が「なんかここ、おもしろくなーい」という雰囲気を漂わせていたのがほんのり面白かった。

Jim Beam」にて
お土産小瓶バーボン
5×$1.95

ではそろそろ家路につきましょう、とあとはひたすら南下して我が家を目指す。ケンタッキーでは積もっていた雪も、テネシーが近づくにつれて綺麗になくなっていった。
「また牡蠣食べたくなったら来よう」
「またパワーボール買いたくなったら来よう」
「ていうか、パワーボール当たったら引き替えにこなきゃいけないし!」
とか言いながら夕方帰宅。おつかれさまでしたー。