ピンクのクマなバレンタイン

日本のバレンタインデーは、女性から男性へ贈り物をする日であり、しかも贈るものはチョコレートに特化している。日本で販売されるチョコレートの年間売り上げの50%以上がバレンタインデー期間に集中しているのだという話を聞いたことがある。そこまでの規模ではないとしても、アメリカのバレンタインデーも大差ない内容なのかと思っていた。

が、実際は”女性から男性に""男性から女性に"のどちらもありとのこと。贈るものもチョコレートに限らずお菓子・花束・アクセサリーなど何でもありらしい。
「ん、でもね、バレンタインデーに何か贈るというのはちょっとだけロマンティックな意味合いがあるから、住宅の管理人のおばちゃんに何かあげたり、あるいは自分のボスに何かあげたりというのは……ちょっと違うと思うのね」
と、研究室スタッフのMさんは教えてくれた。恋人同士、夫婦同士が違いにプレゼントを交換したり、あるいは子から親へプレゼントをしたりという日のようだ。

メーカー菓子コーナーも真っ赤っか年始のバーゲンが終わると、大型スーパーの売り場はバーゲンの目玉商品からバレンタイングッズへと変わっていく。売り場のあちこちには赤やピンクの風船が浮かび始め、プレゼント用の怪しいオブジェクトが並び始める。色はハートをイメージさせる赤やピンク、白。モチーフもそのものずばりなハート型がものすごく多い。
ハートをちりばめた写真立て、ハート模様の皿やコーヒーカップなど、この季節以外に一体いつ使うのだろう、と首を傾げたくなるものが多く見かけられた。赤いハート型のクッション(しかも中央に"I Love You"の刺繍入り)を抱えたピンクのクマのぬいぐるみなど、もらったところで一体部屋のどこに置けば良いのだろう。バレンタイン限定特別バージョンの菓子類はともかく、各種ハート模様満載の様々な物体が店には溢れまくり、見るたびに「すっごいなぁ……」と思わされたのだった。
菓子はクッキー、キャンディー、何でもありだけど主流はやはりチョコレートのようだ。大手メーカーのチョコレート菓子が特別パッケージになったものなどが棚を赤とピンクに染めている。

やっぱりすごい色使い……そして当日。
ハロウィンにはオレンジと黒、クリスマスには赤と緑に染まっていたスーパーの生菓子売り場は、今日は赤とピンクと白に染められている。赤とピンクのクリームが絞られたカップケーキの脇には、"I Love You"の真紅のクリームも鮮やかなハート型のケーキ。これを見かけたのは夕方5時を過ぎた頃だったけれど、恐ろしいことに昼時にはいつも山積みになっているこのケーキコーナーのケーキが、2個ばかりを残すのみだった。誰が買っていくんだろ……と見ていると、スーパーの買い物客として今ひとつ似つかわしくない風情の学生っぽい男性2人組が
「何買ったらイイんだろ……」
「こういうの、喜ぶかなぁ……」
といった表情でそのケーキの前に立ち、何やら品定めをしている。彼らが押すカートには既に赤いパッケージのチョコレートやビールが入っている。彼女への貢ぎ物、だろうか。

我が家では、特にプレゼントを交換するということもなく、チョコをあげるということもなく(正直、アメリカの市販チョコはネロネロとした粘りが強いものが多く、しかも強烈に甘くて今ひとつ美味しいとは思えず……)、代わりに私がホワイトチョコのムースを作って皆でつついて終わりとなった。
そしてバレンタインデー当日のスーパーには、次なるイベント、"イースター"のグッズが早くも……。