10月14日(月) Grand Canyon ・ Monument Valley

Grand Canyon ・ 2

Grand Canyon」(グランドキャニオン)はアリゾナ州にある。コロラド川を中心に南北の深い谷を含め、東西277マイルに広がる横長の国立公園だ。世界遺産にも指定されているらしい。

本日は、朝5時半起床。
「夕暮れと夜明けが一番美しい」と言われているグランドキャニオン、せっかく公園内のロッジに泊まっているのだからひとつ頑張って早起きしましょう、ということになった。

ぐずる息子を叩き起こし(息子、すまん)、寒かろうと厚着して外に出ると、吐く息が白くなっちゃうほどの寒さ。持ってきた服の中で一番厚めのパーカーを着込んで車に乗り込み、すぐそばにある「Mather Point」で朝日を待つことにした。東の空がうっすら赤らみ始めている。

ポイントの駐車場到着直前、車のヘッドライトに鹿が照らされた。立派な角のある大きな鹿は、Elk (エルク)だったようだ。
「鹿!しかしか!」
「おおー、鹿だー」
「でっけー」
と眠気もふっとび車内で騒ぐ。鹿はヘッドライトに照らされているのに逃げもせず、低木の葉っぱを食べていた。

いいもの見たなぁ……

Mather Point (マーサー・ポイント)

「日の出を見るのに絶好」という、グランドキャニオンサウスリム(コロラド川をへだてて、グランドキャニオンは北のNorh Rimと南のSouth Rimに別れている。人が多く訪れるのは南側のサウスリム)の東寄りのこのポイント、午前6時に到着すると既に10人ほどが夜明けを待っていた。谷は真っ暗。岬のように突き出た形になっている展望台にはちゃんと柵がついているけど、その向こうがどのくらい深い谷になっているのかは、昨夜グランドキャニオンに到着した私たちは全然知らないのだった。

じわりじわりと東の空が赤く染まり、空が紺から青になり、谷の全貌がわかるようになってくると足の裏がぞわぞわしてきた。めっちゃめちゃ、高い。めっちゃめちゃ、深い。すごーく怖い。私たちが立っているのは切り立った崖のてっぺんで、恐ろしく深い谷が岩山をえぐるようにざくざくと走っている。私は高所恐怖症ではないはずだけど、それでも膝が笑いそうになる。

突き出た展望台、朝日が見える一番見晴らしのよいあたりなどは、なんとなく「見たい人、たくさんいるから順番ね」という空気がアメリカ人旅行客の中にはあるように見えた。10分ほど眺めると、他の人にその場所を譲って別の場所へ移っていく。かたくなに自分の場所を守って譲らない人たちもいる。悲しいことに、それは大抵日本人。そして中国人とか韓国人。

明るくなるにつれ、日本人団体観光客などもやってきて、展望台はかなり騒然とした雰囲気になった。美しい。すんごく美しいけど、ここはやっぱり観光地だ。柵のある安全な高台から「すごいねー」「きれいねー」とただ眺めるところ。
感動するけど、なんかちょっと違うな、と思った。

谷がすっかり明るく見渡せるようになった頃、谷の遙か下、コロラド川のすぐ近くに小さくロッジが見えた。往復に2日かけないと行くことができない、「Phantom Ranch」のようだった。


こっちの方が静かで良い感じだったかも
Yavapai Point (ヤバパイ・ポイント)

日も上り、ツアー客も帰り始めた頃、「Mather Point」の西隣の「Yavapai Point」にも行ってみた。すぐお隣の岬なので、眺めはほとんど同じような感じではある。ちょうど夜明け見物のお客が帰っていった直後だったので、人も少なく、とても静か。
渓谷の中までじっくり眺めるには、日が昇ってから数十分くらい経った方が美しく見えるような気がする。

午前7時10分、朝御飯。
朝食が食べられるようなところは近隣にあまりなさそうで、昨夜夕食を摂ったところと同じカフェテリアに向かった。セルフサービス式のカウンターでフレンチトーストにベーコンをつけて貰い、すっかり冷えた身体にホットチョコレート。どういうわけか、フレンチトーストはカレー粉みたいなスパイス臭がした。プラスチック容器入りのメープルシロップをかけ、やわやわとしたパンを囓る。ホットチョコレートは温かかったけれど、牛乳で倍に薄めて飲みたいほど甘かった。
昨夜に続き、やっぱりあまり美味しいとは言えなかった食事。ちょっとばかり気力体力が抜けていってしまいそう。

8時半頃にロッジをチェックアウトし、今度はシャトルバスに乗って西側に行ってみることに。
排気ガスや路上駐車などの問題から、現在西方向のビューポイントはマイカー乗り入れ禁止になっているらしい。行きたければ、無料のシャトルバスに乗るしかなく、しかもそのバス、行きは全てのポイントに停車するけれど帰りは半分以下のポイントしか止まらない、というちょっと難しいことになっている。停車駅の書かれたマップを眺め、短めのトレイルを歩きつつ適当なポイントをバスで往復しようということに。

けっこう巨大なリスでした

Powell Point (パウエル・ポイント)

探検家、パウエルさんの名前がついたビューポイントで、見晴らしの良いところにモニュメントが建てられている。ここには、やたらと人なつこいリスがいた。観光客が餌付けしてしまっているようで(←自然動物に餌やっちゃいかんよ、とあちこちに書いてあるんだけどね)、人を見ると近寄ってきて"ちょうだい、ちょうだい"みたいな仕草をする。体長30cm以上はありそうな、ずんぐりとした茶褐色のリス。写真撮られ慣れているのか、妙にポーズなんてつけてくれちゃったりして。餌はやらないけど写真だけ撮らせていただいた。

ここから更に西の「Hopi Point」までは歩いても0.3マイルほど。家族で歩いてみることにする。


あの川がこの谷を作ったなんて、ちょっと信じられない
Hopi Point (ホピ・ポイント)

道路幅があり、平坦で歩きやすいトレイルを十数分。次のポイント「Hopi Point」に到着した。見晴らしのいい各ポイントにはしっかり柵がついているけれど、トレイルルートの周囲には柵はない。一応直径30cmほどの石がトレイルルートの左右に並べてあって特に危ない感はないものの、すぐ数メートル先は崖、というスリルを味わえた。
先の「Powell Point」からすぐ近くなので、特に見晴らしに劇的な変化が、というものはないものの、遙か下にあるコロラド川が良く見えた。

もうこのあたりでは冷や汗だらだら

Mohave Point (モハーベ・ポイント)

先の0.3マイルトレイルが楽勝だったので、思わずそのまま次のポイントまでもトレイルしてみることに。「Hopi Point」から「Mohave Point」までは0.8マイル。なかなかどうして大変な道のりだった。
先のトレイルは「遊歩道」という感じだったけど、今度は若干獣道のような感じがある。道はあまり整ってもいないし、「あと2歩右にズレたらもれなくあの世」というほどの崖っぷちも何度も通った。4歳児連れの我が家は、正直言ってかなり冷や冷やものだ。
「ちゃんと手、繋ごうね」
「やーだ、一人であるくー」
「おかーさんが怖いから一緒に手をつないでください、お願いします」
もう、大人のほうが怖がっちゃってるような感じも少々。

写真は、トレイルの途中、出発点の「Hopi Point」を振り返ってみたところ。左端の突端からてくてく歩いてやってきた。大きくカーブを描いて歩いてきたルートを振り返り見ると、「うげー、私たちの足の真下はあんなになっていたのか」とより背筋が寒くなってくる。

このあたり、足下の岩(というか山というか崖というか)は見事なまでの鮮赤色をしている。
朝の赤く染まる陰影の強いキャニオンも美しいけど、昼間の明るい光の中のキャニオンも、それはそれで絶景だった。このあたりまで来ると、人もまばら。いくつかある展望スペースの小さな1つでカップルが愛を語り合ったりしていた。


「Mohave Pointo」に到着する頃には、疲れというよりも恐怖からですっかり足がこわばった状態に。「柵の外に出て転落しした人が大勢います!気をつけましょう!」なんて看板があちらこちらにあるけれど、死にたくないのに簡単に死んでしまった人がいるんじゃないかと思ってしまう。本格的なトレイルは、こんなもの以上に大変なのだろう。

ゆっくり走るシャトルバスに乗って、再び麓のロッジ群へ帰ってきた。これから東へ抜けて、モニュメントバレーやフォーコーナーズを目指す予定だ。昨日学んだことは「国立公園から出て、すぐそばに飲食店があると思ってはいけない」ということで、でもカフェテリアの食事にも飽き飽きしていた。そこで、
「適当なところで、青空の下で御飯食べましょう」
と、適当に食べ物買い込んで車に積んで出発することにした。
幸い、ロッジのそばには巨大なスーパーマーケットがあり、中に入るとチーズ、パンから生肉までが大量に売られていた。出来合いのサンドイッチは高いうえにマズそうだったので、ハンバーガー用のパンとハム、チーズを買って自分たちでサンドイッチにしてしまうことに。嬉しいことに、"ゆで卵4個パック"なんてのもあり、それも購入。

そして車はAriz.64を東へ東へ。「Desert View Drive」と名のついたグランドキャニオンの山際を進んでいくこの道は、AAAで事前にもらってきたマップに"これは眺めの良い道だよ"のマークがついている。これは面白そうだ、と東に抜けるこの道を行くことにしたのだった。
うねりくねりながら断崖のきわも通るドライブは、絶景箇所をいくつも通り、こちらにもいくつものビューポイントが作られていた。あまり時間もなさそうなので、一気に進む。

数十マイル進んだところで、最後のポイント「Desert View」に辿り着いた。時刻もちょうどお昼時。ここで昼食を摂ることにした。

Desert View (デザート・ビュー)

煉瓦作りの円塔のあるこのポイント、円塔はネイティブアメリカンの遺跡のレプリカで「Watch Tower」というらしい。私はトレイルで疲れてしまって塔に上る気力はなかったのだけど、だんなが一人「俺、ちょっと行ってくる」と塔に向かっていった。で、1分後に帰ってきた我が夫。
「塔の入り口に"塔の上まで30分以上かかります"って書いてあってね、入り口見たら階段がすっごく狭くて"こりゃ30分かかるわ……"と思ったんで帰ってきたよ」
とのこと。中にはネイティブアメリカンの壁画なんかもあったようだ。

ポイントの名前のとおり、ここからはキャニオンの向こうに砂漠が見えるとか。青くけぶるその方向を見ても、今ひとつ砂漠は目に見えず、
「あ!あれは砂っぽいから砂漠だ!」
「……いや、あれはいわゆる"中州"では」
と今ひとつ砂漠鑑賞を堪能できなかった私たちだった。
コロラド川がかなり近くに見え、眺めは良いところだった。

そして、ここのピクニックエリアでお昼御飯。
カフェテリアも併設されていたので、ここから温かい紅茶を貰ってきて、パンにハムとチーズを挟んで囓る。カフェテリアから塩の袋を持ってきて、ゆで卵も囓る。
作りおきしまくったようなデロデロのスパゲティをカフェテリアで食べるよりは、遙かに充実した青空の下での昼御飯。ちょっと風は冷たかったけれど、熱い紅茶に砂糖多めに溶かしてだばだば飲めば、寒さもほとんど気にならない。

Navajo居留地へ

昼食を堪能した後は、Navajo(ナバホ)族居留地を東へ東へ。
Ariz.64を31マイル、Cameronという小さな町でUS89に入り北へ16マイル。US160との分かれ道が来たらそちらに入り、北東へ82マイル。そしてKayentaという町でUS163とぶつかるので、US163を北へ24マイル。そこに「Monument Valley Navajo Tribal Park」(モニュメントバレー)がある。今日の目的地は大体そのへん。行けるところまで行こうということになった。

道中の風景もまた、なんとも風光明媚。グランドキャニオンを抜けると、道はそのまま下り坂になっていき、谷のえぐれ方も段々少なく穏やかになっていく。そのまま"グランドキャニオン小型版"のような風景を左に見ながら、北東へ北東へ。このあたりはネイティブアメリカン・ナバホ族の居留地だ。眺めのよいポイントの道路近くには屋台のような小さな店がいくつも出ていて、装飾品や工芸品などのおみやげ物が売られていた。興味があったので、少し車を止めて眺めてみる。ビーズをつなげたネックレスは15ドルから30ドルほど、バレッタは5ドルほど。弓矢や花瓶など色々あるけれど、どれも私の感覚からすると"ちょっと高め"という感じ。美術品の域には達していないし、普段使いとするにも若干チャチな印象が。もしもあれば織物や布の類は欲しかったのだけど、残念ながらそのテの店は見つからなかった。

州道からUSハイウェイに乗り、ひたすら驀進。周囲の色は、「赤」一色、という感じになってきた。グランドキャニオンに来るまでは、埃っぽい白茶とか、せいぜい赤茶とか、そんな感じの色だった周囲の土の色が、"いかにも西部劇に出てきそうな色合いでございます"といった感じの赤色に。
州道とUSハイウェイが交差するようなところは大概小さな町になっている。が、このあたりは町といってもガソリンスタンドとチェーンではない個人経営のモーテルが1軒、とかその程度。食事をするのも苦労してしまいそうな、町とも言えない集落がぽつりぽつりとあるだけだ。他の車の影もあまりなく、このレンタカーが故障して止まったら大変な事態になるだろうな、と緊張しながらだんなは運転、私はナビ。

Monument Valley Navajo Tribal Park

午後3時半、モニュメントバレー付近にやってきた。時間からして、今日の宿をそろそろ決めておきたいところではある。ここまで来ると、宿は1軒のみ。さっき通ってきた道を25マイル戻ると数軒のモーテルがあるし、この先に同じほどの距離を進んでも、やはりモーテルがある。だが、モニュメントバレー近辺に宿泊するのも魅惑的なことじゃないか、と唯一の宿「Goulding's Lodge」に空き部屋があるかどうかを直接聞きに行ってみたけれど、残念ながら満室。
仕方がないので、モニュメントバレーをちゃちゃちゃーっと見た後は今来た道を戻ろうということになった。

午後4時15分、モニュメントバレーに入る。
正式名称は「Monument Valley Navajo Tribal Park」。多くの西部劇映画やCMに登場している地で、その風景を見れば「ああ、これか!」と誰しも納得できてしまうだろう赤い大地にそそり立つ岩山(Butteビュート、と言うらしい)が点在するところだ。ここは国立公園とは関係なく、ナバホ族の人々が管理運営するところなので、入場料は別途必要。

ゲートをくぐるとビジターセンターがあり、それ以外は未舗装の道路のドライブルートがあるだけ。自分の車でも入れるし、ドライブツアーもあれこれあるらしい。ドライブする気がないならば、ビジターセンターから有名なその光景を眺めるくらいしか、やることは特にない。
が、ゲートの前に貼ってあった案内ペーパーには、「入場料:1人5ドル」とあった。
1人5ドル??私とだんなで10ドル?息子も取られたら15ドル?ビジターセンターと未舗装の道路があるだけのところで10ドル??
正直、けっこうぼったくってるなぁ、と思った。国立公園群は金を払うだけの設備やビューポイントが整えられているし、観光しやすいように道路なども整備されている。それに比べて……と、比較の基準がそもそも違うかもしれないけれど、ついつい国立公園と比べてしまうここの料金。

が、そんなことを思っているうちにゲートをあっさり通り過ぎてしまった。誰も料金所におらず、未払いでそのまま駐車場に車を入れることができてしまった。じっくり案内を読むと、この公園の開園時間は午後5時まで、とある。車の時計はラスベガス時間になっていて、午後4時過ぎだ。

ここ、ナバホ族の居留地では、アリゾナ州(夏時間非採用なので、本来今の季節はラスベガスと同時刻)にあっても夏時間があるのだった。
私たちの時計で4時ならば、ここでは今の季節、5時。5時を過ぎていたから、料金所は閉まっていたのだった。なかなか、ややこしい。

夕焼けに映える風景。ちょっと感動ともあれ、タダで入場できて上機嫌な私たち、もう日も傾きつつあるので無舗装道路ドライブは諦めて、ビジターセンターからの雄大な眺めを満喫した。

赤茶けた平原に、正方形と台形を組み合わせたような小山がいくつもいくつも。グランドキャニオンが"削られた"という印象を与えるのに対し、こちらは"そそり立った"という印象がある。ほぼ平らな、広々とした平原に大きなそれがぼっこんぼっこん生えている様は、「何がどうしてこうなったのやら」と感動を前に驚きを覚えてしまうほど。

テンガロンハットに赤いスカーフ、ブーツなんか身につけちゃって、馬にまたがったガンマンが夕日をしょって現れちゃったりするのに、確かにこれ以上似合う風景はないかもしれない。きっと画面には、巨大マリモみたいな物体が右から左に風にふかれて転がっていったりするのだ(マリモじゃないって……)。

良い具合に日も傾きはじめ、赤い大地がますます赤くなっていく。周囲は日の落ちていく様を撮影しようと、三脚を立てて撮影に臨む人々がたくさんいた。
ほんの数十分しかいなかったモニュメントバレーだけど、この風景が見られて良かった、と思う。

Holiday Inn のナバホな夜

日が落ちる前に宿に着こう、とモニュメントバレーから25マイル南に戻り、Kayentaの町へ。ここでいっか、と決めたホテルはチェーンの「Holiday Inn」だった。モーテルなのに、内部の感じがとてもナバホ的だ。独特の織物があちらこちらに飾られ、内部の壁にはロッジのように丸太が積み上げてある。

1泊89ドル。AAAの会員証を見せて10%引きでの宿泊となった。
ダブルベッド2つの部屋は、けっこう広いし、清潔だ。窓からは赤茶けた荒涼とした大地がよく見え、それが夕日で真っ赤に染まっていた。ベッドカバーもナバホの織物を模したもので、壁にはモニュメントバレーをモチーフにした絵がかけられている。ロビーと同じく、壁には丸太がはめられてちょっとばかりロッジ風。

ロビーには、2つの時計が壁にかかっていた。「Arizona Time」と記されたそれは5時半、「Navajo Time」と記されたそれは6時半となっている。この宿はNavajo Timeで運営されているのだそうだ。6時半と聞くと、なんとなく「夕食食べなきゃ」という気分になってくる。荷物を置いて、ホテル内のレストランで食事することにした。モーテルが数軒ある、そこそこ大きな町とはいえ、選んで食べに行けるほどの飲食店は周囲にほとんどなかった。

ホテルの従業員は、顔立ちがちょっと日本人にも似ているネイティブアメリカンの人々ばかり。レストランのメニューには、「South west Favorites」として、Navajoの料理が数種類掲載されていた。
私の目を釘付けにしたのは「Navajo Mutton Stew」。

A traditional hearty stew of simmered mutton and fresh garden vegetables, in a tasty tomato broth, served with our homemade Navajo fry bread.
"Navajo fry bread"ってなんだろう、と思いつつ、トマトベースのマトンのシチューは何やらとても旨そうだ。
だんなはその真下に掲載されていた「Navajo Taco」を。これは
Our homemade Navajo fry bread topped with homestyle chili, diced onion, diced tomato, shredded lettuce, olives, cheddar and monterey jack cheese.
とあった。

メニューにはアルコールも掲載されていて、「ビールちょうだい」と言ったところ、「アルコールは何もないのよ」とのこと。
ここ、Navajo居留地には「禁酒法」がある。アルコールを売るのも飲むのも禁止されているということだ。観光客であってもダメ。乾いた風にさらされて、すっかり疲れた身体はビールをこのうえなく求めていたけれど、しょうがないので「Stewart's Orange'n Cream」なる怪しげなソーダ水を頼んでみた。

ここだけでなく、他にもいくつかのレストランのメニューで見たことのあった「Stewart's Orange'n Cream」、"Old Fashioned Soda"などと紹介されているソーダ水だ。密かに気になっていたものだった。
やってきたのは、かき氷のシロップにでもなりそうな、鮮やかなオレンジ色のソーダ水。瓶にはオレンジのアイスバーのイラストがついていて、飲んでみるとまさに"オレンジクリームのキャンディーバー"の味がした。ほのかにバニラ臭く、オレンジシャーベットのような特有の甘ったるさがある。何だかものすごく懐かしくなっちゃうような味だった。けっこうハマる。旨い。
「うははは、キャンディーバーの味がするよ、溶けたアイスクリーム飲んでるみたい」
と笑いつつ、息子のコーラも分けてもらったり。

ほどなくやってきたシチューも、モーテルの食事とは思えないほど美味しいものだった。
トマト色をした羊肉のスープは、ボルシチにちょっと似ている。じゃがいもとにんじんとセロリ、角切りになった肉がたっぷりと入っていて、素朴な素朴な味がする。大鍋で大量に作ったような"おっかさんの味"的なシチューだった。ここ数食、ろくなものを食べていなかったのでしみじみありがたかった。

そして"Navajo fry bread"はナンというか揚げピザというか、というものだった。つなげると直径20cmほどになろうという円形の揚げパンが、ピザの1切れのように8等分にざくざく切られ、それが8つ(1枚分)、シチューの横にどかどか積まれている。給仕のおばちゃんが、"これをつけて食べてね"とケーキシロップのような琥珀色のシロップを置いていった。パリパリサクサクと香ばしく軽い食感。アツアツでとても美味しい。そのまま食べても美味しいし、シロップかけてもそれもそれで悪くない。でもシロップかけたらまるで"揚げドーナツ"だ。

小麦粉やコーンスターチが原料だというこの"Navajo fry bread"がNavajo族の主食なのであるらしい。だんなの前には、その揚げパンが1枚、ででーんとそのまま置かれ、その上にタコスの具のようなものが放射状に美しく盛られているものがやってきていた。トマトにオニオン、チリソースやオリーブ、チーズなどなど。適当に具を混ぜつつ、ナイフで切った皮でくるむようにして食べる。


Arizona州 Kayenta 「Holiday Inn」内「Wagonwheel Restaurant」にて
Navajo Mutton Stew
Navajo Taco
$14.50
$11.50

ホテルの部屋の設備は悪くなかったけれど、シャワーの出はショボショボとあまり良くなく、3夜続けて湯船につかれないこととなった。狭いバスタブの中であっても、湯を張ってだらだら浸かって疲れを取りたいなぁ、と思ってしまうけど仕方がない。次の宿に期待だ。

インターネットも繋がらない。この町にアクセスポイントはなく、ちょっと離れたところに市内料金で繋ごうとすると「それは長距離よーん」とアナウンスされる。ならば、とコーリングカード(←フリーダイヤルのアクセス番号にかけ、パスワードなどを入れて安価に長距離&国際コールができる電話会社のカードのこと)を使おうとすると、それもパソコン内でエラーになる。たとえ同じ州内であっても、長距離電話をコーリングカードも使わずにかけようとすると大変なチャージ料金がかかると聞いていたので、今日もインターネット接続は断念だ。
アメリカ旅行、想像以上に広大だった。家族が一緒だからへこたれる気持ちも沸かないけれど、一人旅だったらけっこう寂しくなっちゃいそうだ(ここらはビールも飲めないしねぇ……)。