10月15日(火) Four Corners ・ Arches

今日はピクニック日和

ナバホ時間7時、アリゾナ時間6時に起床。"7時起き"というとどうってことないけど、"6時起き"というと何だか早起きした気分になってしまう。このホテルはナバホ時間で運営されていて、この時間からレストランはオープンしている。
熱はすっかり下がったものの今ひとつ食欲のない息子と、昨夜の"ナバホ・タコ"が大量すぎてまだ胸焼けしているらしいだんなは軽〜くシリアルだけの朝御飯。私はというと、朝から食欲絶好調で、7ドルほどの朝食ブッフェで喰っているのであった。

朝食はごく普通のブッフェ料理ながら、なんとなくナバホな感じが漂っていなくもない。
スクランブルエッグにハッシュポテト、カリカリベーコンに、一見ハンバーグのように見える円形ソーセージ。コンビーフポテトやワッフル、パンケーキ。フルーツポンチやサラダもある。
黒糖のマフィンがあったり、プレーンヨーグルトの脇の器に黒糖が入っていたりというところが、他ではあまり見ないかな、という感じ。
パイナップルやメロン、桜桃やブルーベリーなどがざくざく入ったフルーツポンチをプレーンヨーグルトと共に盛りつけ、ヨーグルトにはうっすら黒糖かけて食べてみた。けっこうシアワセな朝御飯だ。

今日は突き抜けるような良い天気。こちらに来てからずっと晴れの日が続いていたけれど、今日はまさにピクニック日和。このホテルでは1人分7ドルほどでランチボックスを作ってくれ、昼食に何かと苦労していた私たちは昨夜のうちに注文してみていたのだった。持ち手つきの紙製ボックスに納められたお弁当が2個。昨夜のうちにサンドイッチの具を聞かれリクエストしておいていたけれど、何が入っているのか楽しみだ。

このあたりの風景、好きだなぁ……ナバホ時間で午前7時50分頃、宿をチェックアウト。今日のメイン目的地、アーチーズ国立公園に向かう前にフォーコーナーズに寄り道して行くことになっている。
US160を東へ東へ。80マイルほどひたすら進むと、「Four Corners Monument」にぶちあたる。
周囲の風景は、"プチモニュメントバレー"という感じ。平らな大地に、時折ポコポコと赤く四角い山がそびえている。赤い大地は、朝日に当たってますます真っ赤に見えちゃって、
「なんだか周囲がまっかっかで、気分が高揚してきますねぇ」
「……牛じゃないんだから……」
などと軽口を叩きつつ、他に車もほとんどいないハイウェイをかっとばしていく。

Four Corners

「Four Corners」に到着。
州境が直線であるところが多いアメリカだけど、ここは唯一4つの州が1点で交わるところ。ユタ州・アリゾナ州・ニューメキシコ州・コロラド州が接していて、そこにはモニュメントが建っている。
ただの州境ではあるんだけど、そういう"くだらないけど、なんかちょっと面白いところ"というところを我が夫、大好きなのだった。

ここの時間は一体どうなっているのだろう。
4つの州は、本来同じ時間帯で現在8時56分。だが、現在アリゾナ州は夏時間じゃないので7時56分。アリゾナ州でも、ナバホ時間だと8時56分。
ここ、8時から料金ゲートが開くのである。入場料は1人3ドル、と入り口に書いてあって
「モニュメントだけなのに3ドル!!」
と少々憤慨しながら車を入れてみたのだった。……料金ゲートに、人はいなかった。昨日のモニュメントバレーと同じく、また時差に助けられてしまったみたいで、車は料金を払わぬままめでたくフォーコーナーズに入場。

「くだらない」と言いながらもここをスキップして回ってみたり写真のような、モニュメントが1つ。コンクリートの土台に十字に線が引かれ、周囲には州の旗がはためいている。他にも観光客の車が5台ばかり。みなさん面白がって順番に"十字の交差点に片足で立って記念撮影"、"各州に両手両足ついたポーズで記念撮影"、"2人並んで州をまたいで記念撮影"などと好き勝手やっている。だんなと同じような事に喜んでいるアメリカ人(いや、正確にはアメリカ人と同じような事に喜んでいる我が夫)、もしかして我が夫はアメリカ人になりつつあるのでしょうか、神様。そのうち「Hahahaha!」とか笑いだしそうで怖いです。

広場の周囲には、囲むようにネイティブアメリカンのお土産物屋さんが並ぶ。銀細工や石のネックレス、砂絵や陶器、などなど。
ここはモニュメントバレーと同じく、ナバホ族によって管理運営されているらしい。昨日に続き、「入場料、高いね」と思ったところを料金を払わずに通過できてしまった私たちだった。ナバホ族居留地は、何かとお金がかかる。モーテルの宿泊でさえ、「Tribal RM Tax」だの「State Tax」だの「City Tax」だのと部屋代の20%もの税金が取られていた。他で泊まったホテルはせいぜい10%だというのに。
「いろいろ時代背景があるのはわからんでもないけど」
「……でも、なんだかナバホにぼったくられているような気がする……」
と、あまり良い印象をナバホ居留地に抱けなかった私たち。なんかこう、いろいろモニョモニョするものが胸にあったのだった。

だからなのか。呪いなのか。私のデジタルカメラ、昨日のモニュメントバレーからすこぶる調子が悪かった。モニュメントバレー、10枚ほど撮ったはずの写真のうち、3枚しかデータがない。昨夜の美味しかったシチューの画像は撮れていない。今日は今日で、フォーコーナーズにカメラを向けるとシャッターが押せなくなってしまう。空や風景は撮れるのに、フォーコーナーズのその場所だけは30回くらいシャッターを押してやっと4〜5枚まともなものが撮れただけだった。本気で何が起こったのかと心配した(なのに、アーチーズに到着し、その後は何事もなく快調……なんだったんだろう……)。

ともあれ、ひととおり楽しんだ後、フォーコーナーズを後にした。料金ゲートには既に開いており、後から続々来る車からしっかり料金を回収しているところだった。

Arches

Arches」(アーチーズ)はユタ州東部にある国立公園。その名のとおり、アーチ型をした岩だらけの地だ。「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」で、子供時代のジョーンズ(リバー・フェニックスがやっていたのよねぇ……(惚))のシーンでアーチーズが登場していたらしい。言われてみれば、と思い出すシーンがいくつかある。
数ヶ月前にこのあたりの国立公園群を一人旅していた留学生仲間のIさん曰く、「ここが一番だった」と断言していた公園でもあったので、是非行ってみようということになったのだった。

フォーコーナーズからUS160を東に数マイル、一瞬コロラド州に入り、Colo.41(ユタ州に入ったらUtah262と名前が変わる)を西に50マイル、US191とぶつかったら、ひたすら北に93マイル。
進むにしたがって、ちょっとこれまでとは違った岩の風情になってきた。
グランドキャニオンやモニュメントバレーのようなトゲトゲした感じがない。アーチ型の岩がたくさん出来てしまうのも頷けるような、柔らかい印象の岩山になってきた。赤や赤茶、白茶の地層が美しく横縞になっていて、ポコポコと丸っこい柱状の岩がいくつも見える。

公園ゲートを抜け、マップとパーク新聞を貰った。おおむねどの国立公園でも、ゲートを潜ると公園マップと共に10ページ前後のカラー版の新聞を渡してくれる。新聞は大体季刊の発行で、季節の注意事項とかトレイルガイド、パーク内に生息する動植物の説明や、その地形ができあがった説明などが書かれている。
他の公園は写真がベースであることが多かったけれど、アーチーズの新聞は味わい深い版画風のイラスト中心。楽しい新聞だ。

うねうねとした山道を数マイル上り、それを抜けると、豊かな起伏のある大地を数十マイル、ドライブしながらいくつものポイントに行けるようになっている。場所によっては"○○アーチまで3マイル""××アーチまで1マイル"といったトレッキングルートを歩かなければならなかったり。体力と息子連れだということを考えつつ、適当に回ってみることにした。

ユタ州時間で12時16分。お昼時なのでマップを眺めてピクニックエリアがあるところを探す。大抵、どこの公園にもピクニックエリアというのがちゃんと設けられていて、テーブルとベンチの他、トイレ(くみ取り式のところ(Pit Toiletという)も多いけど気にしちゃダメだ)やゴミ箱があったりする。眺めの良いところも多く、外でお弁当を食べたい人にはうってつけのところだ。
幸い、「Balanced Rock」のそばにピクニックエリアがみつかり、ここで休んで行くことになった。

旅行中、おそらく一番楽しかった昼御飯「Balanced Rock」そばの高台、てっぺんに巨大な岩を掲げる不安定な岩が良く見えるところにいくつかのテーブルが並んでいた。本当に今日は雲ひとつない良い天気。赤い奇岩群が青い空にそれはそれは綺麗に浮かび上がっている。美しい風景の中、ピクニックしている先客が何組かいた。我が家も1つのテーブルにつき、青空の下のお昼御飯。

ランチボックスには、油紙に包まれたサンドイッチが2種類入っていた。1つのランチボックスにはハムサンドとターキーサンド、もう1つにはハムサンドとローストビーフサンド。小さなポテトチップスの袋が1つ。チョコ入りのシリアルバーが1つ、オレンジが1個、小さなオレンジジュースが1本。それでセットになっている。

「ポテトチップが入ってるよー」
「いかにもこのへんがアメリカだね」
なんて笑いながら、野菜たっぷりのサンドイッチを美味しく食べた。柔らかなパンにしっかりバターが塗られ、厚切りトマトと大きなレタス、たっぷりのハムやローストビーフが挟まっている。野菜の水っぽさなんかがしみじみありがたく思えるお昼御飯だった。肉っけたっぷりなのも嬉しいところ。オレンジジュースをぐびぐび飲んで、それだけじゃ喉の乾きが癒されないので水もがぶがぶ飲んで(とにかく乾燥が恐ろしい土地なので、車には常に2〜3リットル分のペットボトルの水を積んでいる)、いざ、トレイルを楽しみつつアーチーズを回ることになった。

夕方に眺めると綺麗だそうです

Balanced Rock (バランス・ロック)

ドライブルートのすぐ近くにある、なんとも不安定な形状の岩がこれ。駐車場に車を止めると0.3マイルの短いトレイルがあり、岩の周囲を一周して帰ってこられるようになっている。左右にも、"いずれこんな形になるのかしら"と思えるような岩柱が2つ3つばかり立っている。
トレイルを半周すると、「Petrified Dunes」(石化した砂丘)なるもこもこと起伏した草原(というか低木原)と、その向こうには小さく頂上に雪をかぶった山々が良く見えるところを通ったりも。
違った角度で下から見上げたバランスロックは、巨大キノコのようだった。

今が真夏じゃなくて良かった、と思いつつ歩く
Double Arch (ダブル・アーチ)

「Balanced Rock」から少しだけ奥に進むと「The Windows Section」なるエリアが東方面に広がっている。「Ham Rock」「Garden of Eden」「Parade of Elephants」といった面白い名前のついた岩の間をドライブし、終点には「The Windows」と「Double Arch」の2つのトレイルルートが待っている。前者は往復1マイルのトレイル、後者は往復0.5マイルのトレイル。ちょっと楽をしたいという気持ちと、「ダブルアーチの方が面白そう」という気持ちから、後者のトレイルを行ってみることにした。「The Windows」トレイルにある「North Window ・ South Window」「Turret Arch」は駐車場からも見ることはできた(Double Archも駐車場から良く見える)。

地面は土と砂の中間くらいの、若干足を取られて歩きにくい道。草原の中をてくてくてくてく巨大アーチに向かって進んでいくと、遠く見えていたアーチが間近に迫ってくる。かなり巨大だ。
この地にアーチは数あれど、やっぱり"2つ並んでいる"のは貴重なものらしい。このアーチは左方向1点から右2点に向かって2つのアーチが形作られていて、人は真下まで行くことができる(けど、急斜面を上らなければいけないので、その麓で断念して戻ってきた)。


遠い……遠いぞ……
Delicate Arch (デリケート・アーチ)

アーチーズの一番の名物とも言えるものが、この「Delicate Arch」。見事なまでのアーチ型のアーチが見晴らしの良いところにポツンと立っているのだ。名所中の名所で、今年の「2002 National Parks Pass」の絵柄がこのアーチ。

しかし、その道は遠く険しい。Easy Trails ・ Moderate Trails ・ Strenuous Trails と3段階に難易度が分けられているトレイルルートの中、デリケートアーチへの道は最後の「Strenuous Trails」に属している。往復3マイル。480フィートの高低差があり、途中には滑りやすい岩を伝っていくようなところもあるらしい。説明文には「1人必ず1リットル以上の水を持参のこと!」と注意書きまでされている。とても子供連れには行けない道だった。

……で、見られない人のためには「Delicate Arch Viewpoint」というものがある。これなら3マイル歩かなくても、駐車場から往復91メートルで見ることができる(そして、ちょっと歩きたい人のために、往復0.5マイルの丘の上に上っていってもう少し近くで見るポイントも用意されている)。

へそぬけの私たち(主に私)は往復91メートルの軟弱ビューポイントから遙か遠くを眺めるだけに至った(いや、この直後に往復2マイル歩くことは決めていたことだし……)。確かに見える。アーチが見える。が、小さすぎー。双眼鏡抱えて、「おー、確かに穴が!」「ちゃんとアーチだ!」と騒いでみたりして。
(これじゃどんなアーチかさっぱわからん!という方はこの公式写真をご覧下さい)


地面から沸いて出たような形
Fiery Furnace (ファイリー・ファーニス)

更に奥へ奥へと行くと、また面白い奇岩群のビューポイントが。「溶鉱炉」といった意味のFiery Furnaceは美しく紅白がシマシマになっているモコモコの岩群だ。その赤いモコモコが立ち上るように並んでいる様が溶鉱炉っぽいのだろうなぁと思う。ちょうど私たちが眺めているとき、レンジャーが引率するトレイルツアーがゆっくりと奥に進んでいくところだった。このツアーのみは有料で、予約しなければ参加できないものだということだ。

早朝が美しいところだそうです
Landscape Arch (ランドスケープ・アーチ)

ドライブルートの終点は、「Devils Garden」へのトレイルルートの入り口になっている。トレイルルートの終点まで行こうとすると往復7.2マイル、所要時間3〜5時間という大変なものになってしまうけれど、その道中にはいくつも見どころがあり、特に「Landscape Arch」への往復は2マイルたらずということで初心者にもオススメのトレイルルートになっている。適度な距離だし、子供にも歩けそうな道だ。昼食もしっかり摂れたことだし、行ってみることにした。

板状になった薄い岩壁の間を通り、草原を見下ろしつつ少々起伏のある道を歩いていく。途中、ちょっと横道にそれて「Tunnel Arch」(トンネル・アーチ ちょっとばかり厚みのある岩壁の中央に、斜めにスコーンと穴がある)、「Pine Tree Arch」(パインツリー・アーチ アーチの下の部分に松の木が生えている。まぁ、それだけなんだけど……)を眺めつつ、奥へ奥へと。10月半ばといえどもけっこうな暑さで、ついつい水が恋しくなってしまう。

「目的地が見えないねぇ……」
と歩くこと数十分、左手に大きなアーチ(アーチというよりは"橋"という感じではある)が見えた。ずいぶん細く、繊細なアーチだ。全長306フィート、世界一長いアーチなのだとか。中央部はたったの11フィートしか厚みがない。しかも、1991年にアーチの一部が陥落し(写真右側の一番薄そうなところ)、現在非常に危ない状態なのだそうだ。
以前はアーチの真下まで行けたらしいが、もう危ないということで、数百メートル手前から眺めるのみだった。それでもその巨大さは良くわかる。

行きより時間をかけて、ゆっくりと駐車場に戻る。おやつに持ってきたチョコが良いおやつになった。


確かに羊だわぁ……
Three Gossips (スリー・ゴシップス)
Sheep Rock (シープ・ロック)

そして帰り道。これは比較的入り口付近にあるスリー・ゴリップスとシープ・ロック。行きに素通りしてしまったので、改めてじっくり眺めて帰ることに。
左側が「3人並んでごにょごにょ立ち話」な感じに見えるスリー・ゴシップス、その脇が羊のように見えるシープ・ロック。こういう妙なものが好きな私は「おー、羊だ、羊」と喜んでカメラを向けるのだった。
角度によっては、よりそれっぽく見えたり、全然それっぽく見えなかったり。スリー・ゴシップスというのは、良いネーミングじゃないかなと思う。

午後3時半、日がちょっと赤みを帯びてきたところで公園を後にした。

だんな、倒れる

アーチーズからUS191を25マイルほど北上すると、インターステートI-70にぶつかる。特に今宵の宿は決めていなかったけれど、明後日にはラスベガスに到着しなければいけない。
「あと、見るとしたら……」
「ブライスキャニオンとか、ザイオンとかですかね」
「じゃあ、そこに行きやすい町で……」
と、I-70を150マイル弱、西に西に。Richfieldという小さな町に到着した。マップを見ると、郡都であるらしい。周囲は国有林に囲まれている、静かなところだった。郡都であったらインターネットのアクセスポイントもあるだろう、という期待感もあった。

今日はそこそこの距離を歩き回ったこともあり、全員すっかり疲れていた。
高速道路を降りてすぐ、チェーンモーテルの「Quality Inn」の看板を発見し、
「モーテル発見〜」
「いーやー、ここでいーやー、すぐ入ろ〜」
とヨレヨレと車を入れ、宿泊手続き。1泊60ドル、すぐ隣にファミレスがあって、そこでの朝御飯が無料でついてくるということだった。昨夜の「Holiday Inn」よりは質素な部屋だったけれど、バスタブの蛇口からは大量の湯が出てくるのが嬉しかった。今日はちゃんとお風呂に浸かれそう。

今日のトレイル、更に連日の運転で、さすがのだんなもヘロヘロ状態。
「うん、大丈夫よ大丈夫、運転は好きだから苦になっていないんだけど……さすがに疲れた……」
と、笑っているけどやっぱり疲れている。
食事処を探す気力もなく、夕食は隣接のファミレスへ。

魚が恋しかった。フライとかじゃなく、チーズソースなんかもかかっていない、シンプルな塩味ベースのグリルものの魚が食べたかった。私は肉喰いだと自覚しているけど、さすがに魚が恋しくなる。
メニューに「A salmon filet with lemon pepper served with tartar sauce」なる Salmon Filet があったので、私はそれを。だんなはアルフレッドソースのスパゲティ。

"レモン絞ってタルタルソース添えて食べる"という、その鮭のグリルがそれはそれは有り難く思えた。美味しく感じた。添えものに、ソテーしたコーン(これが何故かセロリの味が……)とピラフ、サラダがついてきた。
ぺろっと鮭を平らげた私の前の我が夫、シンプルな生クリームソースのパスタ(と、添え物にガーリックトーストとサラダ)を前にして、困った顔をしていた。
「……初めて、"疲れすぎて食欲がない"って状態になっちゃった……」
と、1/4ほど残ったパスタを前に、ちょっとつらそうだ。

つらかったのは、もうひとつ。
ここはユタ州、ビールを注文しても「ウチにはないのよ」と言われてしまったのだった。一日動いて疲れた夕食時、恋しい恋しいビールが、当然あるだろうと思っていたビールがなかったのだった。
ユタ州は、州民の7割がモルモン教(←キリスト教の一派)であり、信徒はアルコールを飲むことを禁じられている。現在はアルコールに対する規制も多少緩くなり、レストランの中には置いてあるところもないではないらしいし、スーパーに行けばビールも買えるらしい。が、これから他の店を探す気力はなかった。

「ビール……飲みたかったね……」
とちょっとだけシオシオになりながらホテルの部屋に戻った。

Utah州 Richfield 「JB's」にて
Salmon Filet
Iced Tea
$7.99
 

日が落ちてから、一気に涼しくなってきた。水量が多いバスルームを有り難く思いつつ、熱い風呂に入って就寝。
残念ながら、この町にはインターネットのアクセスポイントがなかった。丸4日接続していないと、さすがに仕事のメールでも入っているんじゃ、と心配になってきて、テネシーの大学アクセスポイントへ長距離電話してみることに。27分接続して、なんと15ドル50セント!国際電話じゃないんだから、という請求が後になって手元に来た。
(こういうときのためのコーリングカードなんだけど、なんでパソコンで繋ごうとすると認識されないかなー、もー)

……で、夜中。
だんなが深夜、妙に寝苦しそうにしているなと思っていたら、高熱を出していた。一気に疲れが出ちゃったらしい。もしくは出発時に息子がひいていた風邪がだんなに伝染ったか。

「あらあらあらあらー」
と、とりあえず息子用に持参していたクールパック(ベチンと叩いて中の薬剤を混ぜると数十分アイスノン代わりになるシロモノ)を渡し、氷水に浸したタオルを渡す。……そんなもんじゃ全然ダメみたい。
で、アイスペールの容器にセットされていたビニール袋に氷を詰めてきて、髪留め用に持ってきていたゴムでビニールの口を縛る。更に部屋についていたヘアーキャップをかぶせ、またゴムで留める。立派な氷嚢になった。
「……フロアスタンド、ベッドの横に持ってきてさ、上から電話線か何かでおでこの上につるそうか?」
と半ば本気で提案してみたけど、
「……そこまでしなくていいよ〜」
と笑われた。

明日一日、この宿でおとなしくしていても良いしね。とりあえずいっぱい寝ておこう。