10月16日(水) Bryce Canyon ・ Zion

氷嚢と共に

高熱を出しただんなのそばで、何度か氷嚢を取り替えたりしながら過ごした一夜。
朝には、"高熱"は"熱"くらいになっていた。
「昨夜は127ダメーくらいでしたが、今は55ダメーというくらいです」
と、よくわからない指標ながら、回復途中であると報告を受けた。

私は現在、運転免許取得修行中なのだ。日本の運転免許を持っていない私は、住んでいるテネシー州で一から運転の練習をしている。現在、仮免許保持。隣に免許保持者を乗せていれば、運転できることになっている("テネシーでは"という注釈つきで、かもしれない)。
なので、ある程度覚悟を決めてだんなに提案。
「あの……今日は私が運転しましょうか……?」
即座にだんなに答えられた。
「今の運転技術の君と、今の体調の僕と、どっちが危なくないと思う?」
……う……多分、私の運転が危ないです。いや、多分じゃなく、絶対。
「……でしょ?だから僕が運転するよ」

まぁ、ともかくも熱は下がったし、彼が"行ける"と言うのだからあとはサポートに回るしかないのである。なるべく負担のない道で、ラクして行けるようなルートを行くことにしよう。

朝御飯は、昨夜も食事した隣接のファミレス「JB's」で。
ブッフェになっていて、フルーツくらいしか食べる気がしないというだんなと、風邪はすっかり全快で昨日あたりから食欲満載状態になっている息子と、相変わらず体調は淡々と普通の私、の3人で食べに行く。
パンケーキにワッフル、マフィン、ドーナツ。スクランブルエッグ、ベーコン、ソーセージ、コンビーフポテト、ローストポテト、などなどなど。ありがちな朝食ブッフェではあったけど、グレープフルーツやメロンがあるのが嬉しかった。
牛乳たっぷりミルクティーが飲みたくて、注文した紅茶にシリアルコーナーの牛乳をだばだば入れて飲んじゃう(テーブルにはコーヒーミルクしかなかったので)。

午前9時半、息子が外に出たくてうずうずしてしまっていたのでチェックアウトして出発。新しく巨大な氷嚢を作り、運転席のだんなにあてがいながら車を動かしていく。
「……なんか、運転席に座ったら脳内麻薬が出てきたのか平気になってきました」
と、我が夫、何やら微妙に元気だ(カラ元気かもしれない)。
「……ムリしないように、ゆっくり行きますね」
とか言いながら、ナチュラルに時速80マイル踏んでいる。……あ、90マイルになった。
大丈夫かー、脳内麻薬、ヘンな方向に効いちゃってないかー、とちょっと妻は心配。

Bryce Canyon

ユタ州の小さな町、「Richfield」からI-70に乗り、西に15マイルほど。そこからUS89を70マイル南下してUtah12を14マイルも進めばブライスキャニオン国立公園だ。
なるべく高速道路に乗る時間を少なくして、川沿いの風光明媚な道をゆっくり行くことに。このあたりは、ここ数日走ってきたところに比べると、隨分樹木が多い。これまでは荒涼とした土地に見えるのは低木と草ばかり、といった感じだったけれど、黄色く紅葉した木々が美しい道だった。

のんびり行きましょう

11時、「Bryce Canyon」(ブライスキャニオン)に到着。この国立公園もユタ州にある。グランドキャニオンの北側(ノースリム)からそう遠くないところにあるはずなのに、ここの岩々はまたちょっと独特。白からピンク、赤にかけてのグラデーションのようになった地層が美しい、塔状の岩が山盛りのところなのだった。写真で見て、「行ってみたいなぁ」と思っていた場所だった。

柵はあるけど、切り立つ断崖の上なのでちょっと怖し

Rainbow Point (レインボー・ポイント)

南北に長い形をしているこの公園は、山の尾根に道路が走っていて、主に東側に広がる断崖の向こうを眺めるようになっている。最初に奥まで行ってしまって、戻りつつビューポイントを回っていこう、ということになった。
車で行ける最奥の地点がレインボー・ポイント。ここまで来ると標高9115フィート(2778メートル)と、かなり高地になっている。心なしか息が苦しい感じ。
ブライスキャニオン名物の尖塔岩群はここではそれほど見えないけれど、2778メートルの高さからんばーっと下界を眺める景色の爽快さときたら、「ひょー」とか「うひょー」としか言葉が出ないのだった。かなり涼しい。寒いくらい。
天気の良いときには、ニューメキシコ州あたりまで見えてしまうのだそうだ。

このあたりは本当に木々が多い
Black Birch Canyon (ブラック・バーチ・キャニオン)

レインボー・ポイントから3マイルほど戻ったところにあるポイント。"Birch"とは樺の木のことらしい。ということは「黒樺の木がいっぱい見える渓谷」ということなのだろうか。
眼前に独特の尖塔状の岩が見えるようになった。レイボー・ポイントからそう遠くないポイントなので、眺望そのものはあんまり変わらない。

ちゃんと樹木の写真も撮っておけば良かったと思いつつ、岩ばっか撮影していた私
Ponderosa Canyon (ポンデローサ・キャニオン)

ポンデローサ、とは松の木の一種らしい。ブラック・バーチ・キャニオンからはほんの数十メートル隣のこのポイントは、ポンデローサ松ポイント。これらの石柱はマップ内の説明では"hoodoos"とあった。この言葉、「浸食作用による奇形の岩柱」という意味の他に「疫病神」なんて意味もある。

このあたりには、やたらとリスが多い。グランドキャニオンで見かけた茶一色の巨大なやつではなくて、日本で言う"シマリス"そのものみたいな小さなリスで、これが観光客に餌付けされてしまっていて人を見ると寄ってきて周囲をちょろちょろする。最初は「かわい〜」と眺めていたけど、あんまり大量にいるので気にならなくなってきてしまった。
餌をやっちゃ、いけません。


見事なグラデーション岩
Agua Canyon (アグア・キャニオン)

「光と色彩が織りなす眺望は、公園内でもトップクラス」という説明がマップに記されていたビューポイント。「塔」ではなく「壁」か「門」といった感じに見える奇岩がすごく美しい。
尖塔の1つ、てっぺんに小さな木が生えているものがあって、その木は「The Hunter」と名付けられているのだそうだ。アメリカ人は名前をつけるのが好きだねぇ。

実物は、すごく巨大でびっくりしました
Natural Bridge (ナチュラル・ブリッジ)

川の流れではなく、雨と霜の作用によって作られたブリッジ型の穴あき岩。柵から見下ろすとすぐそこにどどーんと穴のあいた岩が見え、それがまたなかなかに巨大で迫力がある。
先に私が柵にしがみつき、思わず
「うひょー」
と声を出してしまい、その直後に私の背後からやってきただんなも一緒になって
「うひょひょー」
と驚きの声をあげていた。先客で来ていたアメリカ人のおばちゃんに笑われて、
「本当に大きいわよねぇ」
と言葉をかけられた。このへんもリスがいっぱい。急な斜面をドカドカと走っている。

見える森森は国有林らしい
Farview Point (ファービュー・ポイント)

グランドキャニオン、ノースリムまで見渡せるという絶好のパノラマビュー・ポイント。
この一体にポンデローサ松が生えているけれど、ここからはモミの木(ダグラスモミと、コロラドモミ)に変わるのだそうだ。全体的に深緑な木が多いこのあたりの風景。

尾根を走る道路なので、少なくとも片側は崖、ともすれば両側が崖、という道が続く。木々は生えているけれど柵はなく、かなりスリリング。時速30マイル前後でじわじわと進む。


いかにもブライスキャニオン、という風景になってきた
Bryce Point (ブライス・ポイント)

ブライスキャニオンの中心地、「Bryce Amphitheater」の最奥にあるビューポイントで、馬蹄型になっているキャニオンの形が良くわかるポイント。ブライスキャニオンらしいブライスキャニオンの光景、がこのあたりでは楽しめた。

見る場所によっては、数十マイルは続いているんじゃなかろうかという赤と白のシマシマの尖塔岩群が奥の奥まで見えてかなり壮観。石化したニョロニョロのようだ。


確かに何か悟ってしまいそうな風景かもしれない
Inspiration Point (インスピレーション・ポイント)

あまりの光景に天啓を受けちゃった人続出、ということから「インスピレーション・ポイント」と名付けられた……らしい。ブライス・ポイントよりもより近くにトゲトゲモコモコした岩群が良く見える。白やピンクの地層のグラデーションがくっきりはっきり見えて、確かに何か啓示を受けてしまいそうな気がしなくもない。

1つ1つの尖塔は、まるで東南アジアの寺院の模様か何かのよう。


いつかはあそこを歩くぞ、と誓う
Sunset Point (サンセット・ポイント)

「夕日を見るのに最適」ということで、サンセット・ポイント。同様に「Sunrise Point」(サンライズ・ポイント)も存在するけど今回はそちらは行かなかった。

私たちが立つそのすぐ足下の崖の下、石柱群がどどどーんとそびえていて、そこに向かって降りていくトレイルルートがいくつも伸びている。一周1.3マイルの「Navajo Loop Trail」は比較的簡単そうだけど、それでも高低差159mを降りた後、登って帰ってこなければいけない。(その帰りのルートが写真の右下に写っている)
下から見上げる尖塔群を味わわなければ、この公園の真の面白さはわからないとも言われていて、いつか歩いてやるぞと誓ったのだった。くねくねとした登り道を、ハイカーがゆっくりゆっくり登ってくるのが見えた。


……と、ポイントを巡り巡っている間にすっかり1時を過ぎてしまった。
公園内のロッジでお昼御飯食べて、次の場所を目指しましょうかね、と公園内唯一のロッジ「Bryce Canyon Lodge」に行ってみた。……これが、かなり悲惨な昼食体験になってしまおうとは。

山小屋風に作られたロッジは、全体的に丸太で出来ているような感じで暖炉などもあったりして、非常に良い雰囲気のところだった。星空が美しいというこの地で、こういうところに宿泊できたら楽しいだろうなぁと思わせられた。
もう1時半近くにもなり、そろそろランチタイムも終わろうという時間だから店員が少なくなっていたからだろうか、レストランは空席だらけだというのに案内を待つお客が6人ほど待っていた。これならすぐだろう、と私たちも待ったけれど、案内されたのは15分ほど経ってから。待っている間にメニューを見せてもらっていたので注文する品はとっくに決まっている。だが、今度は注文を取りに来ない。やっと注文できたと思ったら、最初に通常来るべきドリンクも出てこない。待って待って待って待って、席についてから料理が来るまで30分が経過していた。

私たちだけじゃない。周囲のテーブルに同じくらいのタイミングでついたお客全員がそういう扱いを受けていた。そのエリアのテーブルを担当していたおばちゃんは、一度厨房に引っ込むと数十分は出てこない。
「あのおばちゃんが全員の料理を作っているのかしら」
と思ってしまうほど、不自然な接客だった。

味は……良かったんだけど……やっとやっとやってきたのは、「Bryce Beef Stew」。

Our own house recipe served over roasted red potatoes with a square of jalapeno corn bread. Includes house salada.
と説明に書かれたそれ、サラダかスープかを選べたので白いんげん豆のスープをつけてもらった。ポソポソしたコーンブレッドにバターがたっぷり添えられ、"ハラペーニョジャム"が添えられている。白い陶器の深皿に入ったシチューには周囲に紫キャベツを刻んだものが彩りに散らされ、シチューは黒々と濃い色をしていた。
だんなは「Build Your Own Bryce Burger」なるハンバーガーで、オニオンリングとモッツァレラチーズのフライを添えてもらったものと、息子はキッズメニューからホットドッグを。

料理が来たけど、ドリンクは来ない。
「ドリンクは?」
とだんなが地を這う低音で睨みながら言うと、おばちゃん、
「聞いているわよ」
と溜息をつきながらドリンクを持ってきた。聞いてるならさっさと持ってこいボゲェ。すっかりすさんだ気分の私たち。

散々な接客や料理の出具合だったけど、味はまぁまぁ良い感じ。
黒々としたシチューには角切りの牛肉がたっぷり入り、皮つきのレッドポテトがざくざく切られたものが3個分ほど、ごろりごろりと埋まっている。いんげんや、角切りにんじんやコーン。具沢山で素朴な味の美味しいシチューだった。
コーンブレッドに添えられているのは、本当の本当にハラペーニョジャム、唐辛子のジャム。甘さは感じられるけど、薄紅色のジャムの中に散らされているのは、赤唐辛子のみじん切りだ。飲み込んだ後に舌の根がじんわり辛くなる。これもこの地方の名物なのだろうか。不思議な味だ。

料理は悪くなかったけれど、とにかくその他が滅茶苦茶なレストランだった。
「……チップ、どうしようか?」
「"屈辱の1セント"にしてしまえ。そいでもって、レシートに"EVERYTHING TOO LATE !! "と殴り書きして去るのだ」
などとごにょごにょ言っていた最終段階、件のウェイトレスおばちゃんが
「ごめんなさいねぇ。アイスクリームを子供さんにサービスするわよ?」
とバニラアイスクリームを持ってきた。

たっぷり2スクープのアイスクリームに息子は大喜びだったし、横に座る私たちもちゃっかり何口かずつ分けてもらってそれでなんとなく幸せな気分に。単純なものだ。
最後にそんな愛想ふりまくなら、最初からもうちょっとなんとかしてよ、と思ってしまう。

Utah州 Bryce Canyon 「Bryce Canyon Lodge」にて
Bryce Beef Stew
アイスティー
$7.25
 

食事が終わってみると、予定と大きく違ってしまっていてもう午後3時目前というところ。ブライスキャニオンを後にして、先に進もうということにした。予定じゃ午後2時前にはここを出るくらいのつもりだったけど、まぁ仕方がない。だんなの体調も気がかりだし、"早く宿を取って休もう"という思いもあった。

今日の宿泊予定地はユタ州の「St.George」。"インターネットのアクセスポイントが絶対あって、ラスベガスにほど近いところ"と昨夜のうちに目星をつけておいた地だ。ブライスキャニオンからは、ザイオン国立公園の中を通り抜けるようにして向かうことができた。

Zion

ブライスキャニオン国立公園からUS89に入り、南下して40マイルほど。途中いくつか小さな町を過ぎ、Utah9に入って西に向かえば「Zion」(ザイオン国立公園)だ。「Zion」とは、ヘブライ語で「避難所」の意味らしい。巨岩と豊富に生息する動植物で有名なところだ。
巨大な岩山と深い谷で構成されていて、他では見られない動植物もいるらしい。マウンテン・ライオン(ピューマ)もいるとか。

この公園の醍醐味は、「The Narrows」歩き。車で行ける最奥地点から川岸を歩き、コンクリート舗装の道が終わってからは切り立った岩壁の間を流れる川の中をじゃぶじゃぶ歩いていく、というすごいトレイルルートがある。
が、ここに行くにはマイカーではダメで、シャトルバスに乗らなければいけない。園内の主な見どころルートは南北に走る道路沿いにあるけれど、そのほとんどは環境汚染対策にとマイカー乗り入れは禁止されているのだった。数分ごとに走るシャトルバスに乗るしかなく、今回の旅では時間がなくて奥に進むのは断念。マイカーで入ることができる東のゲートからそのまま南ゲートに抜ける道だけを行ってみることになった。

本当に四角いマス目になっている

Checkerboard Mesa (チェッカーボード・メサ)

東ゲートを入ってすぐにところにあるのが黒々としたこの巨岩。日も傾きかけてきていて、逆光気味になっていて少々見にくくなってしまっていたけれど、岩の表面には「一体何がどうしてこんな模様に」と思ってしまうマス目模様がみっしりとついている。よくよくみると、岩を洗濯機に入れて削ったかのような急流に揉まれた後のような模様も見える。本当に、一体何がどうしてこんな模様になってしまったのやら。

まだ見通しが良い道路、これは序の口だったのだと数分後に思い知るのだった。


ゲートを入ったときのUtah9道路は、そのまま目的地の「St.George」につながっている。が、公園の中だけ、道路の舗装は周囲の光景に合わせて茶褐色になっていた。芸が細かい。

風光明媚というか、圧倒されちゃうというか

それからは、片側1車線しかない道路のすぐ脇まで迫る巨岩を眺めながらのドライブとなった。巨岩を眺めつつ、というよりは"巨岩に押しつぶされそうになって"と言った方が正しそうな、車からはその岩の頂上が見えないほどの大きな重量感ある塊の脇をいそいそと通らせていただいている、という感じ。他の公園では感じられなかった圧迫感のある公園だった。

どこにカメラを向けたら良いのやら、岩肌は、ブライスキャニオンと同じような赤や白、ピンクに加えて、黒っぽいものも多い。あまりに目の前ある巨岩なものだから、どこにカメラを向けても全貌を撮影することはできなくて、「ガイドブックを見ても、今ひとつザイオンの印象がわからなかったのはこういうことだったのか」となんとなく理解してしまう。スケールがでかすぎて、何をどう表現して良いのかわからない場所、といった感想を持った。

こんな巨岩の谷を流れる川の中をトレイルなんて、それはそれは楽しそうなことだ。息子が川の中をじゃぶじゃぶ歩けるくらいの年齢になったら、改めて是非来てみたい。

そして必死の宿探し

そして一路「St.George」へ。大きそうな町だ。モーテルも多数あるに違いない、と目指して行ったが、確かにモーテルはあった。数多くあった。が、イベントもあった。
いくつかのチェーン系モーテルに「空き室ある?」と聞きに行くも、
「Sorry. Sold out」
だの、
「We don't have any.」
だの、想像していなかった答えが帰ってきた。これまで何度も「飛び込みでモーテルに泊まる」ということをやってきていたけど、ノーと言われたのは今回が初めて。よくよく町を見ると、街灯や公共施設の壁などに「World Senior Games」の文字があちらこちらに見えた。
「これか〜」
「このイベントやるから、どこも混雑しているのか〜」
と納得。
後でそのイベントの公式ページを探してみたところ、毎年この時期にこの町で開かれる盛大なイベントらしい。今年は10月5日から19日まで、ちょうどこの日もボーリングやバレーボール、バスケットボールなどの試合が予定されていた。明日も明後日も予定は目白押しで、イベント最後の週末としてちょうど盛り上がりつつあるところだったようだ。

仕方がない。そういうこともある。
ならば少しでもラスベガスに近づいて宿を取ろう、とI-15に乗りマップを眺めつつ30マイル、アリゾナ州に入り「Littlefield」という町を目指してみた。……が、どうにも小さな町でモーテルがあるのかないのか、今ひとつ確証が持てない。そのまま20マイルほど進み、ネバダ州に突入。ラスベガスまであと70マイルちょっとという「Mesquite」という町に到着した。夕方の早い時間に宿に到着する予定だったのに、日はどんどん暮れていく。

綺麗な夕焼けだけど、でもまだ沈まないでと祈る

ネバダ州の州境を越えたところで、嬉しいことに時計が戻る。時差があるのだ。
ユタ州時間で「あー、もう6時半過ぎちゃったよー」と言いながら車を走らせていたけど、ネバダ州に入ってみればまだ5時半。ちょっと気分が救われて、「Mesquite」という町で無事にモーテルを見つけることができた。

「Budget Inn」は1泊50ドルと、嬉しい価格のホテルだった。AAAの会員証を見せて、10%引き。旅行中、何度も何度もAAAの割引サービスにはお世話になっている気分。
価格が安い代わりに、コインランドリーなどの設備はなかった。プールとジャグジーが外にあり、この寒空の中、水着でジャグジーにつかるおっちゃんらの姿が見えたり。
ダブルベッドが2つ並ぶ部屋はそこそこ広く、バスルームも湯が豊富に出る快適なものだった。

宿についてまず思ったことは、「ビール飲もう!今日こそ飲もう!」ということだった。
ここ3日間、やれナバホの宿だ、やれユタ州の宿だ、とビールが飲めない日々が続いていた。
「汗かいたー」
「疲れたー」
「喉乾いたー」
「ビール飲みてぇ〜!」
が4段論法で展開されているのが常の私たちに、ビールがない状況は、はっきり言ってしんどいものだった。ビール。何がなんでもビール。今日こそビール。

遅めの昼御飯でまだ空腹とは言い難かったので、夕飯はホテルの部屋で軽く何か食べよう、ということになった。
ホテル内にコインランドリーがないため、2マイルほど離れたランドリーセンターに何度か車で往復しつつ、その合間にビールを買い、ケンタッキーフライドチキンで数ピースのフライドチキンを買ってきた。
さあ、コロナビールの瓶を開けるぞ、という段になってから、「……そういえば、栓抜きってあったっけ?」という話に。

アメリカのビール瓶の栓はゆるいものが多い。大抵、手でグキンを回せば外すことができる。が、コロナは別だ。けっこう頑丈についているのでそう簡単に開けられない。だんなが宿のお兄ちゃん(ランドリーの場所を丁寧に教えてくれた、すごく感じの良いメキシコ系の顔立ちのお兄ちゃんだった)に栓抜きを借りに行ったところ、
「ゴメーン、栓抜き、ないんだよねぇ。歯でガシッと、まぁがんばってよ」
とジェスチャー交えて言われたのだそうだ。だんなはそのとき、
「ここまで来てビールが飲めないのかよ!!!」
とかなり追いつめられた気分だったのだと、後に語った。歯を駆使し、車のキーを駆使し、ビールの栓をこじあける。やっとやっと飲めた4日ぶりのビールだった。

日本のとそう違わないフライドチキン(でもなんだか恐ろしく巨大な胸肉だった)をわしわし食べつつ、ビールで乾杯。数日ぶりに飲むビールは臓腑にしみ渡りまくるほど美味しく感じた。
「うまいよ……ビールが旨いよ……」
と紙コップに注いだコロナを喉に流し込むだんなは、何だかすごく元気そう。
「……で、身体の調子はどうなったの?」
と聞いてみると、
「うん、14ダメーくらい」
と数値激減の返答が戻ってきた。そんなに減ったんかい!いつの間に!?

どうやら、明日からの"ラスベガスでギャンブル"がすごくすごく楽しみらしい、我が夫。
ギャンブルに合わせてきっちり体調を回復させたらしかった。……やるわね。