3月21日(金) 桜満開の町、メーコン

ベニエッベニエッベニエッ♪〜「Cafe Du Monde」

今日のクライマックスは、お花見だ。私たちは、満開の桜を見るために何百マイルもドライブしてきたのだ。
が、私はこの日の朝、別の目的に対して大盛り上がりだった。

ベニエである。揚げドーナツである。カフェ・ドゥ・モンドである。
ニューオーリンズが本店の、揚げドーナツBeignets(ベニエ)とチコリコーヒーが名物の、老舗のカフェCafe Du Monde。ルイジアナ州内以外では、ここアトランタに米国内唯一の支店があることを、つい最近私は知ったのだった。

アトランタは、数週間前に家族で来ている。最終日の朝にはホテル近隣の手頃な店の心当たりがなく、ホテル内で済ませたりしてしまっていた。帰宅してから知ったのだけど、滞在ホテルの目と鼻の先にこの支店があったのだ。ああ、悔しい。朝食にベニエを余裕で食べられたロケーションに滞在していたのに、知らなかった自分が憎い。
「Undergroundにあるんだよ。あったんだよ!店の前……通ったよねぇ」
「気付かなかったねぇ……。ぜんっぜん、知らなかった……」
「知ってれば日参したのに〜!」
と、しばらく己を責め、悶え苦しむ日々を送ってしまった。その屈辱を晴らすべく(?)、今日の朝飯はベニエ。ベニエ飯に燃えていたのは何より私だけど、Hさんも静かに燃えていたのを私は知っている。ついでに私の夫も相当燃えている。Hさんは燃えているのか何なのか不明だけれど、昨日着ていたのはニューオーリンズで買ってきたらしい、この店のロゴ入りTシャツだ。

8人の今回の旅のメンバーのうち、7人までがこれまでアトランタに来たことがある。Hさんもベニエが大好きらしいのだけど、ここに支店があるということは知らなかったようだ。支店があるのは、アトランタの中心部にある"Underground"。かつての鉄道駅の跡地がそのままショッピングモールになっているという面白いシチュエーションもあって、有名な観光スポットだ。我が家もHさん一家もアトランタに来た時にはここも訪れていたにも関わらず、メインストリート沿いにあったその店に気付かなかったのだった。

ベニエ〜〜〜♪♪♪ 確かに店は、ちょっと気付きにくい場所ではあった。全体的に薄暗い、煉瓦作りの壁の地下商店街。間口は狭めで少々暗めだけれど、セルフサービスのカウンターの奥には座席がいくつも並んでいる。店のロゴはニューオーリンズのものそのままだけど、ぱっと見の雰囲気はちょっと違う。よくよく見なければ通り過ぎてしまうだろう小さな入口だった。

ファーストフードのような店内、カウンターで注文して品物を受け取ってから席につく。我が家は息子の分も含め、1人1オーダーのベニエ。
粉砂糖がどっぷりかかった揚げドーナツは、3個で1セットだ。四角く、表面はカリッとしていて中はもちもち。香ばしくて素朴な味で、なんとも旨い。外見も味もちゃんとベニエだったアトランタのベニエは、でも心なしかちょっとばかり厚さが薄めだったような気がしないでもない。
この店の名物、チコリコーヒーをベースにしたアイスカフェオレをぐびぐび飲みつつ、粉砂糖をばふばふ飛ばしながら皆でベニエをつつきまわした朝御飯。粉砂糖で手だの口だのがベッタベタになるけれど、そんなに全然気にならないほど、やっぱりベニエは旨かった。

この店に来るのが本当に楽しみでしょうがなかった私は、この店に向かう道すがらMさん(独身男性・元ラガーマン・すっげぇ大食らい)に
「Mさんも、ベニエ好き?」
と聞いてみていたのだけど、
「いや、私は……ベニエは普通に好きですね、はい」
なんて言っていた割には
「あー、やっぱり喰うと旨いな、うん。……もう1皿、いってきます」
と3個のベニエを一瞬で異次元へ葬り去り、更なる1皿を早々に買い求めていた。朝からベニエ6個食いですか、Mさん……。

Maconの桜祭り

ベニエを堪能した後は、いよいよメーコンへ。
アトランタからメーコンまでは、南に100マイルちょっとだ。腹ごしらえも終わったことだし、と一気に南下して桜の町を目指す。

メーコンは、富山県黒部市の姉妹都市なのだとか。毎年3月の桜の時期にはCherry Blossom Festivalが開かれ、今年は3月21日から30日ということだった。話によると、かなりの本数のソメイヨシノが植えられているらしい。

が、メーコンにたどり着く以前に、なにやらジョージア州というところは桜だらけなのであった。ジョージア州と接しているのに、テネシー州、サウスキャロライナ州では桜はほとんど見かけられない。ごく稀に、視界にちらっと「あ、あれ、桜なのかな?」みたいな影が見える時があるという程度だ。だけれど、テネシーからジョージアに入った途端、高速道路の中央分離帯の草地に、出口に、あるいはモーテルの隅にと至るところでぽつぽつと桜が目に入り始めた。アトランタでもそこここに桜は見かけられ、それらはどれも良い感じに満開。ファミレスの入口付近に植えられた桜からひらひらと花びらが散るのを見て、
「これだけあちこちに桜あるんじゃ、メーコンに行く意味があんまりないかも……」
などと昨日から苦笑していた私たちだった。

アメリカンな建物とソメイヨシノ そんなこんなで、メーコンに到着。高速道路を降りたばかりの頃は「そんなに桜ばかりというわけじゃ……?」という印象だったのだけど、町をちょっと走ってみて、私たちは
「うきゃー」
「うおぉ〜」
と大騒ぎ。

あちらこちらで桜が咲き乱れている。高速道路沿いなどで見かけた桜はどれもまだ比較的若い木が多かったけれど、ここにはどっしりと大きく枝を広げた桜が多く目につく。公共の建物の前に5〜6本まとめて植えられたソメイヨシノ。消防署の前にも、マクドナルドの前にも植えられているソメイヨシノ。民家の庭先で満開に咲き誇る桜も、ちょっとドライブするだけでいくらでも目に入ってくる。
アメリカ〜ンな建物を背景にした桜というのも、悪くない。淡いピンクが白い壁に映えて、しかも今日は雲一つない青空。なんとも絵になる光景がそこら中に広がっていた。

ウェルカムセンターの入口 ともあれ、どこに何があるのかさっぱりわからないので、町のウェルカムセンターを目指す。町中心部にあった、その大きな建物の入口にはリボンと造花でピンク色のリースがかけられていた。ウェルカムセンターに限らず、公共の施設や民家、あちらこちらでピンク色のリースが飾られていて、それもまた心を浮き立たせてくれる。

ウェルカムセンターでは、数十ページもある桜祭りの案内冊子を貰えた。町のそこここで行われているイベントのマップなどが載っており、更に別紙で桜鑑賞用のドライビングルートのマップと町中心部のレストランガイドマップも用意されていた。とりあえず、ドライビングルートマップを頼りに桜見物に行くことに。
ドライビングルートのほとんどは民家の間を走る細い道だということだ。残念ながら駐車スペースなどはないそうで、基本的に"桜並木をドライブする"のがここの桜見物であるらしい。日本でよくあるような、広い公園に桜が大量に植えられていて、その桜の下でピクニックシート広げてお弁当……というのはあまり望めないことのようだ。でも、桜が見られるだけでもけっこう幸せよね、と車で出発。

桜のトンネル "ここが見所"とマップに記されたルートは、確かに素晴らしいものだった。片側1車線の小さな住宅街の道路のあちらこちらに、それは見事な桜のトンネルができあがっている。もう何十年もこの地に根を生やしているような見事な枝っぷりの桜から、花がこぼれるように道路の上に覆い被さっていた。
「うっひゃー!あっち、きれーい」
「こっちも、きれーい」
と、助手席から前や左右を見て大騒ぎする私。我が家の車の前を走るHさん家の車では、Hさんが助手席から身を乗り出すようにして写真を撮りまくっている。

幸い今日は平日ということで、桜が満開という嬉しい状況の中、人影は少なかった。道路幅の広いところでちょっとだけ駐車して桜の下を歩いたりする余裕もあり、更にはルート沿いにある小さな公園に駐車スペースがあって、そこで桜を眺めながら休憩ができたりもした。さすがに"花の下でお弁当"はできなかったけれど、2〜3時間ばかり存分に桜を眺めまくることはできた。

素朴なサンドイッチ屋さん〜「Sid's」

素朴な味の卵サラダサンドイッチ 気がつけば、午後2時。そういえばお腹空いたよね、ガソリンもあんまりないや、と車と人間の栄養補給のために町に戻ってきた。
レストランマップを眺めてみるものの書いてあるのは場所と店名だけで、そこがデリなのかバーベキュー屋なのかハンバーガー屋なのか、いまいち判別がつかない。実際に店を見てみないとわからないしねぇ、と飲食店が一番密集していそうな区画に車を止め、歩きつつ美味しそうな店を探してみた。

ちょっと気になる店はちょうど2時で昼の営業が終わっていたりして、ばたばたしながら「えーい、ここでいいや!」と入ったところは小さなサンドイッチ屋さん。ファーストフード形式で、店内で食べることもできるけど多くの人はテイクアウトしていくような、そんな店だった。

今日は長袖シャツだと汗ばむほどの陽気。メニューが書かれた看板にフローズンヨーグルトの文字をみつけ、何人かが早速フローズンヨーグルトを注文する。サンドイッチメニューは、ターキー、ローストビーフ、ツナ、ベジタブルなど種類豊富に並んでいる。私は卵サラダのサンドイッチとレモネード。
サンドイッチは注文してから奥で作ってくれるらしい。
「トマトとレタス、入れてもいいかしら?」
と聞かれ、こくこくと頷くと、ほどなくパラフィン紙にくるまれたサンドイッチが手渡された。ほぐしたゆで卵はマヨネーズで淡く味つけられ、代わりに胡椒が効いている。ベージュがかった胚芽入りのパンには刻みレタスと厚切りトマトがたっぷりと卵と共に挟まっていた。味の強いパンに、新鮮な野菜が良い感じ。素朴な素直な味のサンドイッチだった。

腹ごしらえした後は、ジョージア州を抜けサウスキャロライナ州目指して出発。

Georgia州Macon 「Sid's」にて
Egg Salad Sandwich
Lemonade
$2.25
$1.04

魚介たっぷりアイリッシュパブ〜「Tommy Condon's」

今回の旅行の最終目的地は、海辺の町Charleston(チャールストン)。サウスキャロライナの南にある港町で、魚介料理がたらふく食べられるらしい。事前にたてていた旅程ではチャールストンに向かう途中で1泊しようということになっていたけれど、道路が空いていたこともあって予想以上に距離を縮めることができてしまった。サウスキャロライナのウェルカムセンターで協議した結果、到着は夜7時を過ぎてしまうだろうけれどチャールストンまで一気に進もうということに。同じ宿に2泊すれば色々楽だろうという思いもあった。

午後2時半過ぎにメーコンを出発し、途中数度の休憩をしつつ5時間ほどのドライブ。午後7時半を過ぎてチェックインしたのは、チャールストンダウンタウンまで車で15分ほどの郊外にあったモーテル、Howard Johnsonだ。アトランタで以前宿泊したことのあるモーテルだったけれど、アトランタのは全室スイートルームでバスルームの広さやアメニティの充実ぶりなどが嬉しいホテルだった。だからそこそこ期待して1泊$42.95のここにしたのだけど、到着したホテルは何だかやたらとボロ。真横にグレイハウンド(長距離バス)の発着所があり、微妙に治安も良くなさそうな感じだ。それでもダウンタウンのそばに近づくほどホテル代が高くなってしまうので、このホテルに宿泊することにした。

内装や設備はかなりガタがきているような古ホテルだったけれど(かつては個人経営のホテルだったのをハワードジョンソンが買い取り、ろくな改装もせずにそのまま運営している……という感じ)、部屋の広さだけは充分だった。部屋の奥には2人がけの小さなダイニングテーブルがあり、妙に床面積が広め。冷蔵庫も置かれている。だけれど、壁紙が剥がれそうだったりバスルームにはちらちらカビが生えていたり、タオルは使い古されてわずかに黄ばみ始めていたりと、色々とヘビィなホテルだった。メンバー8人の中で一番の潔癖性はHさんだ。女性である私やHさんはけっこう図太く、ボロホテルでもあまり気にしないし気にならないのだけど、Hさんはやはりタオルなどを見てかなり「うえぇぇ……」とひいてしまったのだそうだ。同じチェーンと言っても、色々あるんだなぁと学んだホテルだった。何しろこのホテルにはシャンプーすら置かれていない。アメニティは石鹸だけだ。

そして、荷物を置いてすぐに夕食に出発。初めての町に夜到着するというのはなかなか緊張するもので、2台の車に4人ずつ乗り込んでそろそろとダウンタウンに向かってみた。駐車場の具合とか、どれくらいの規模の町なのかとか、細かいことが今ひとつわからない。目当ての魚介レストランだけは、事前に「ここがいいな」とチェックしていた店が1軒だけあり、とりあえずそこを目指すことに。

町中心部、駐車場はどこもかなりの混雑だった。公的な駐車場である路上パーキングなどはすっかり満杯で、民間の駐車場は時間に関係なしに5ドル6ドルとかなりの値段。でも他に駐車場もなく、仕方なしに6ドル払って駐車して町に出た。
目当ての店は、かなりの有名店だったらしい。サウスキャロライナ州に入ったところのウェルカムセンターで入手したこの町のパンフレットにも広告が載り、高速道路沿いにも看板が立てられていた。そうそう、ここなんだよ、と店にたどり着いてみると、午後8時を過ぎて超混雑だ。待ち時間は35分かそれ以上、と言われてしまった。

さすがに空腹極まり、子供もいることだしと、この店で待つことは諦めて適当にふらふらして別の店に入ることに。
「ここ、蟹料理のお店みたいだね」
「あっちは……ああ、あれも魚介料理屋っぽいけど……ダメだ、すっごく高そう」
と、暗い町を歩き回る。潮風は生ぬるく、気温は春というより初夏だった。そこここにタンクトップ姿の女性や短パン姿の男性が歩いている。

「ここにしよう!」
と入ってみたのはTommy Condon'sというお店。アイリッシュパブの店で、シーフード料理もウリらしい。屋外の席ならすぐに座れるわよん、と言われ、屋根つきの吹き抜けの席に案内された。薄暗い屋内では生演奏が始まっている。

具沢山のポテトチャウダー 山盛り牡蠣フライ アイリッシュパブらしく、メニューには各種アルコールや各種ビールがずらりと並んでいる。ビールは味の濃そうなスタウトやアンバーエールがいくつもあり、それぞれ適当にビールを選んで注文。酒のアテにとクラブディップとほうれん草ディップを注文した。
やってきたのは、蟹肉たっぷり……というか蟹肉そのものという感じのマヨネーズ味のディップ。ほのかに香草の香りがするそれを、添えられたクラッカーにつけつつバリバリと齧る。ほうれん草ディップは冷たく、爽やかなチーズの風味。こちらはナチョスにつけて食べる。
「お腹すいたねー」
「もう、動けなくなるところだったよ」
などと言い合いながら、全員でぽりぽりぽりぽりと前菜をつつく。ナチョスはすぐになくなってしまい、「もう少しくれる?」と伝えたら山のようなお代わりがやってきた。

そして料理。私が頼んだのはポテトチャウダーと牡蠣フライ。残念ながら、この店には生牡蠣は置かれていないらしい。
ポテトチャウダーには、形の残ったじゃがいもと、すっかり煮崩れたじゃがいもがみっしりとカップに入っていた。汁気よりもじゃがいもが多いんじゃないかというスープには、上にグリーンオニオンを刻んだものとナチョスを刻んだものが飾られている。こってり濃厚で、ほのかに甘い美味しいチャウダーだった。私以外の多くの人は、"Charleston She-Crab Soup"という名のクラブスープを飲んでいた。クリーム色の蟹入りスープはこれまた濃厚で、皆に大人気。

メインディッシュ、私の元に来たのは牡蠣料理。"Lowcountry Oysters"という料理名で説明を見ても揚げてあるのか焼いてあるのかわからなかったのだけど(生じゃないらしいということはわかったけど)、牡蠣ならなんでもいいや〜、と注文してみると、やってきたのは牡蠣フライ。だんなはフィッシュ&フライを注文しており、Mさんは私と同じ牡蠣フライ、Iさん、Hさんは魚介フライの盛り合わせ。全体的に揚げものばかりだ。Hさんとうちの息子はシーフード入りのアルフレッドスパゲティ。
牡蠣フライには、生牡蠣につけるようなカクテルソースが添えられていた。牡蠣20個分以上はある盛り沢山な牡蠣フライの脇には、ブロッコリーとマッシュルームの炒め煮と、"レッドライス"という名のケチャップライスもどきが盛られている。すごく美味しい!……と感動するほどの美味ではなかったものの、たっぷりの魚介が嬉しかった。できれば揚げ物じゃなければもっと嬉しかったのだけど、それは明日の夕食に期待することにしよう。

「デザートはどうですか?」
とニコニコしながら店員さんが聞きに来る頃には、全員揃って喉からフライが溢れるんじゃないかというほど満腹になっていた。もう時間も9時半を過ぎている。
「ご、ごめん、みんなお腹一杯なんだ……」
と苦笑いしながら店員さんに伝え、よろよろとホテルに帰還した。

South Carolina州Charleston 「Tommy Condon's」にて
Irish Potato Chowder
Lowcountry Oysters
Beer (Newcastle Nut Brown Ale)
$2.99
$13.99
$3.75