4月18日(金) 私を野球に連れてって

黄金色の大聖堂〜「Cathedral Basilica of Saint Louis」

「大リーグの試合というのも見てみたいよね」
「最寄りの大リーグチームのある町というと……セントルイスかな?」
「1泊2日とかで余裕で行けるよね」
と、仲間うちで話が盛り上がったのは数ヶ月前。インターネットで野球観戦チケットを購入し、仲良しの留学生仲間、9人でセントルイスを目指すことになった。試合開始の午後7時10分試合開始までに到着するように、朝8時に車3台が連なっての出発だ。
途中、数回の休憩を挟みつつテネシー→ケンタッキー→イリノイと、着々と北上を続ける。午後2時には、セントルイス近郊の町に宿も取れ、ダウンタウン散策に繰り出せることになった。
青空に精緻な彫刻が映えて、美しい〜

最初に向かったところは、Cathedral Basilica of Saint Louis(セントルイス大聖堂)。モザイクの壁画の美しさで有名な、ロマネスク様式の大聖堂ということだ。写真で見たその聖堂の内部の美しさに、行ってみたいなと思っていたところだった。
中の方まで行ってみたかったけど、それは断念

丸い大きなドームが目立つ、巨大な教会だった。入口の扉をくぐるなり、その空間の壁も天井も金色にモザイク画が金色に鈍く光っている。美しさにため息をついていたところ、何やら続々と人々が集まってきているところだった。今日はイースターの前々日。"Good Friday"と呼ばれる今日は、イエス・キリストが十字架にかけられた日であるらしい。イースターの復活を祭るイースターは、キリスト教の行事としてはクリスマスよりも大きなものだと聞いている。大聖堂では、昨日の"Holy Thursday"から"Easter Sunday"にかけての4日間、"The Easter Triduum"として特別なプログラムが開催されるらしかった。今日は3時から"Celebration of the Lord's Passion"があるとのことで、人々が集まってきている。

そのうち扉が閉められ、パイプオルガンの音が響いてきた。中に入るのはマズイかな、と地階にあるモザイク博物館などを見ながら聖堂で行われている厳粛なイベントの様子をちらちらと伺いつつ、数分だけ聖堂の中に入って席についてみた。
ちょうど、パイプオルガンに合わせて賛美歌が歌われているところだった。高く丸い天井に音が反響し、なんとも荘厳な空気が漂っている。金色の聖堂の、一番奥にはキリストの像。全てが金色に輝いているような空間だ。背筋がぞわぞわとしてくるような"気"が充満しているような感じで、物見遊山な気分で来ている自分の存在が申し訳なくなってくる。数分して、そっと抜け出してきた。

青空の下の巨大アーチ〜「Gateway Arch」

……でっかい大聖堂の後に向かったのは、セントルイスのおそらく最大の観光名所、Gateway Arch。高さ192m、米国内のNational Monumentとしては最大の高さを誇るのだそうだ。セントルイスが近づくと、かなり離れたところからでも銀色の美しい弧を描くアーチが視界に入る。近くまで行くと、ますます「うっひゃー」と唸りたくなる大きさだった。

なんでも、このアーチの中をカプセル型のトラムが走っており、アーチの頂上まで行くことができるのだとか。
「ただ、高いだけよ」
という話を聞いたこともあるけれど、
「行ってみたい行ってみたい、上に行ってみたい」
と行く気満々なのが私とHさんだった。対して男性陣は、橋を渡るのもちょっと怖いというほどの高所恐怖症のIさんをはじめ、Mさんも私のだんなもHさんも、男性は揃いも揃って高いところは「いや……別に、無理して並んで上に行かなくても」という思いを抱いているようだった。
それでもせっかくだから、と上に行くトラムのチケットを買おうとしたところ、残念ながら既にチケットは販売終了していた。この季節、午後4時10分でトラムは終わってしまうらしい。ちょっと到着したのが遅すぎたようだった。

試合開始まであと3時間。アーチにのぼって時間を潰すつもりが、予想外に半端な時間ができてしまった。
アーチの下、地下には"The Museum of Westward Expansion"という西部開拓博物館もあったりするので、それを眺めたりしながら1時間ばかりをここでぷらぷら過ごす。空は雲ひとつない良い天気。アーチの周辺は芝生の公園になっていて、ベンチなどもあちらこちらに置かれている。んぼ〜っと、アーチをこれでもかと眺めつつのんびりと過ごす時間も、それはそれで悪くない。

おばあちゃんの台所〜「Nonna G's Cucina」

今日は、11時頃に道中早めの昼御飯を摂っていた。一応、予定では野球観戦が終わった後にダウンタウンにある地ビール屋さんに行ってみようということになっている。でも、早くても9時を越えるだろう時間まで何も食べずにいるのは無理なように思えた。早くもじんわりと空腹を感じつつある。

「そのへんで、ぷらっと食べられるかな?」
と向かったのは川沿いの、かつて赤煉瓦倉庫街だったところを再開発しているエリア。ちょこちょことお洒落っぽい飲食店が軒を連ねていて、そのうちの1軒のイタリア料理屋さんに「ん、ここはなかなか美味しそうな予感が!」と飛び込んだのだった。店名は、"Nonna G's Cucina"。Gおばあちゃんの台所、とか、Gおばあちゃんの料理といった意味の店名だ。その割に、きびきびと働いているのは若い兄ちゃんや姉ちゃんばっかりだったりする。

この町には、小さいながらもイタリア人街(リトル・イタリー)があるらしい。ゆえにこの町ではなかなか美味しいイタリアンが食べられるということで、内心かなり期待していた。"お湯に入れるところ、間違って油で揚げちゃったら美味しいのができた"と、名物料理にToasted Ravioli(トーステッドラヴィオリ)というものもこの町の名物らしい。この店のメニューにも、ちゃんとそれが前菜として掲載されていた。
何しろ後でビールを飲みに行こうということになっていたので、ごくごく軽めのおやつのような夕御飯。だんなと私でパスタとサラダを1皿ずつ取って、適当につつきあおうかということになった。皆それぞれ"揚げラビオリとミネストローネ"とか、"ピザ1枚"などと適当に軽めの料理を頼んでいる。
揚げラビオリがごっつぅ美味でした

午後5時過ぎて、店の前のテラス席では何人もの客がビールを傾けていた。比較的こぢんまりとした店は清潔で、適度にシックで居心地の良いものだった。イタリアのビールPeroniを飲みつつ、サラダをつつく。
私の頼んだサラダはGilled Pear Salad。細く切込を入れられた洋梨がこんがり表面をグリルされ、サラダの上に乗ったものだ。バルサミコ酢とビネガーの酸味がほのかにきいている中に、ブルーチーズと胡桃を砕いたものがバラバラッと散らされている。

だんなの元にやってきたカネロニは、想像以上にまともなものがやってきた。
これまで、何度か"イタリアン"と名の付くものをアメリカで食べてきて、あまり期待しちゃいけないんだなという結論に達していた。どうもアメリカの人々は、"アルデンテ"という概念を知らないのか、あるいは知っていても無視しているかのような感じで、パスタ料理というとまず間違いなくグデグデに茹ですぎたものばかりが出てきていた。ミートソースはトマトソースに肉を混ぜれば良いとでも思っているかのように、トマトの味の強いもの(更に言えばケチャップの味しかしないというようなもの)ばかり。だから、この店も期待半分不安半分というところだった。

が、この店、なかなか美味しい。かなり美味しかった。
だんな好みの、肉たっぷりのミートソースは赤ワインも香るどっしりとしたもの。トマトのとんがった香りや酸味はほとんどなく、板状パスタの火の通り具合も多すぎず少なすぎず、適度なシコシコ感が残っている。上からは溶けたチーズがぴよーんと伸びて、そこら中に良い匂いが漂ってくるカネロニだった。
この町の名物、Toasted Ravioliを頼んだ人も何人かいた。1個味見させてもらったのだけど、サクッと揚がったぷりぷりのラビオリに魚介のトマトソースが添えられている。香味野菜が香るラビオリの具も、素直な味の美味しいものだった。

何の気なしに飛び込んだお店が予想以上に美味しくて、そのままごきげんで野球観戦に出発だ。

St.Louis 「Nonna G's Cucina」にて
Grilled Pear Salad
Beer (Peroni)
$6.95
$4.00

私を野球に連れてって〜「Busch Stadium」

セントルイスの野球チーム、St.Louis CardinalsのホームグラウンドはBusch Stadium。町の中心であるアーチから歩いて数分のところにある。午後6時半を過ぎて、球場の周囲は観戦客がごったがえしていた。食事をしたところから数駅ばかり電車に乗って移動したのだけど、車内はチームのロゴ入りの、トレードカラーである赤色の服を着た人ばかり。
「あー、赤い服着てくれば良かったかも」
「なんか私たち、黒とか白とかばかりだね。……地味だったかも」
と苦笑いしながら球場に向かったのだった。

野球観戦については、別ファイルにまとめました
こちらをご覧くださいませー

ナイターは、何しろ寒かった。皆それぞれ長袖の服を持ってきてはいたものの、我が町のここしばらくの暖かさがそのまま続くつもりで油断していたようだ。もしものためにと息子の上着とだんなの薄手のセーターを持ってきておいてほんっとーに良かったと思いつつ、私の薄手の上着はだんなに貸し、私はセーターにくるまって応援していた。2歳のSちゃんは毛布にくるまってお母さんにだっこされている。

そんなこんなで、楽しい観戦ではあったものの3時間弱の長丁場試合だったということもあり、終了する頃には
「早くあったかいお風呂に入りたい〜」
「ていうか、もう眠いって感じ……」
と全員、全体的にやる気がなくなっていた。もう寒くなっちゃって地ビールどころじゃないという感じ。もう私たち疲れちゃったんですオーラがそれぞれの脳天からむんむん立ち上っているような状態で、今日は地ビール屋は諦めてホテルに帰還することになったのだった。