4月19日(土) バドワイザーとゲートウェイアーチ

バドワイザーって、美味しかったんだ〜「Anheuwer-Busch Brewery Tour」

9人でのセントルイス旅行、2日目。今日の主な目的は、
「ビール工場見学に行ってみよう!」
ということで、9時からの工場ツアー開始時間までに到着するように8時半にモーテルを出発した。
この工場のシンボルの時計塔

セントルイスには、Budweiser(バドワイザー)で有名なビール会社、Anheuser-Buschの本社がある。カルフォルニアやコロラドなどでもバドワイザーのBrewery Tourはあるということだけれど、「やっぱり本社があるセントルイスでしょー」と、見学してみることになったのだった。
週末とはいえ、朝9時に到着するとさすがに他のお客さんの影もまばらだ。それでもツアー開始には20人ほどが集まり、ぞろぞろと1時間半ほどかけて工場見学をした。

昔は馬車でビールを運んでいたのだそうで、工場内には馬がいたり当時の馬車が飾られていたりする。大きなタンクが並ぶエリアを通り、ムービーを見、缶に詰める工程のフロアを一周歩いて回ったりした。もう、このエリア一帯にホップやイーストの"ビールの元"みたいな匂いが充満している。それだけでなんとなく酔っぱらってしまいそうな気分だ。

「これは、この工場のシンボルでもある時計塔です」
と説明を受けて見上げると、古い古い時計塔が建っていた。この建物以外にも、この一帯はいかにも古めかしい煉瓦造りの建物ばかりだった。

てくてく歩いて敷地の奥まで行った後は、ロゴ入りの赤いバスに乗って入口まで戻ってくる。あとはお一人様2杯まで飲めるバドワイザーの試飲コーナーだ。子供用にソーダ類も用意されている。
"工場直送"どころか"この場でできたて"のバドワイザーが手渡され、つまみにはちゃんとプレッツェルが渡される。1杯飲み干した後は
「"Michelob"って、バドワイザーと同じ会社のだったんだねぇ……」
「あ、この、"Bacardi"ってカクテルっぽいの、なかなか美味しいですよ」
などと言い合いながら好きなものを入れてもらってもう1杯。別に1杯目からバドワイザー以外のものを飲んでも良いのだろうけど、係の人が「ほらよっ」って感じでバドワイザーを手渡してくれちゃうのだった。

「バドワイザーなぁ……薄いんだよなぁ(好みじゃないんだよなぁ)」
と思いつつも一口飲んでみると、これがすごく美味しい。いつものどこかうすらぼんやりとした味ではなく、しっかりこっくりした味がした。昼間っから飲むという状況がそう思わせているだったのかもしれないけれど、バドワイザーを美味しいと思って飲んだのは初めてだった。

見学後は、併設グッズショップをぷらぷら。"Bud Light"のラベルがついたミニライト(Lightとライトを掛けているのね……)と、旅行中に困らないようにと栓抜きつきのキーホルダーを購入した。そういえば、以前、ビールを買ったは良いけれど栓抜きがなくて非常に苦労したんだっけ。アメリカのビールは大概手で開けられるようにスクリューがついているのだけど、購入したCoronaはそういう仕様になっていなかったのだ。ホテルの従業員に助けを求めても、「ごめんな、ないんだ」と言われ、だんなが鍵や歯をつかって無理矢理ビールの蓋を開けたのだった。これで旅先でも心おきなく瓶ビールが飲めるね、と、ちょっと安心してみたり。

St.Louis 「Anheuser-Busch Gift Shop」にて
Bud Light Keyring Flashlight
Keychain / Bev Mich Ambebock
$1.95
$0.95

公園行って〜、食事して〜

ビール工場見学後は、この工場の近くにあるらしい"フローズンカスタード屋さん"を目指してみることになった。
フローズンカスタードは、セントルイスの小さな名物であるらしい。というより、絶大な人気を誇るフローズンカスタード屋さんがセントルイスにある、と言った方が正しいだろうか。その正体がアイスクリームのようなものかソフトクリームのようなものか、はたまたシェイクのようなものかアイスクリンのようなものか今ひとつ謎だったのだけど、その名前からして美味しそうな響きだ。発祥のお店が1軒あり、セントルイス内に支店を含めて2店舗営業しているらしい。それ以外にも、似たようなものを出しているアイスクリーム屋さんが何軒か存在しているような様子だった。
絵葉書にありそうな光景ね

目指したのは、当然フローズンカスタードのパイオニア店。Ted Drewesというその店は、しかしながら目指して行ってみたところ、店頭に「CLOSED」の厚紙が置かれていた。汚い手書きの文字のそれを見ると、
「この店は1月(12月、だったかな?)で閉まったぜい!もう1つのChippewa店はオープンしているのでそっちに行ってくれ!」
というような事が書いてある。
閉店しちゃったのかな?そんなバカな、機械もあるし、と店の前でわちゃわちゃ話し合ったものの、そのもう1つのChippewa店の場所が今ひとつ正確にはわからなかったのでフローズンカスタードは断念することになった。ああ、悔しい。セントルイスで一番食べたかったのがこれだったのに。

今日の天気予報は"雷雨もあるかもよん"というものだ。予定では"グラント農園"という子供向けな公園でも行ってみるかと言っていたのだけど、外を歩くようなところには行かない方が良いかもしれない。朝からどんよりと重そうな雲がたれこめ、少しも晴れそうにない。パラパラと時折小雨もちらついてくる。

他に行くあてもないし、では昨日行けなかったGateway Archのてっぺんをもう一回目指しましょうということになった。今日は土曜日。観光客が押し寄せるアーチは昨日より格段に混雑していた。だったら、と頂上行きのチケットは2時間後のものを買って、その間に食事を済ませることにする。
アーチ近くで適当に昼御飯を……と話し合いつつ、ぷらぷらとダウンタウンを歩く。
アーチからまっすぐ、The Old Courthouse(旧裁判所)の周辺がずっと長いベルトのように公園というか緑地地帯のようになっている。旧裁判所の正面の噴水あたりに立つと、絵葉書に出てきそうな風景になった。アーチのラインが裁判所にかぶさるようにのびている。綺麗だねぇ、と皆でしばし写真撮影などしてみる。
このフライの感じからして「天ぷら」じゃないよねぇ

「あそこ、再開発地域ってことで新しめなモールがあるところなんだけど、食べるところも多分あるんじゃないかと」
と、セントルイスは2度目のIさんが先頭に立って連れて行ってくれたのは、St.Louis Centreという名のショッピングモール。一見した感じは華やかな印象もあるけれど、実際は"開発してみたんだけど、入店してくれるテナントが少なくて困ってるんです"という感じのところ。食べ物屋もないではなかったけれど、よくあるタイプのフードコートだった。しかも、メジャーなファーストフード店などはひとつもなく、聞いたことも見たこともないような中華料理屋さん、ハンバーガー屋さんが並んでいる。「君たち、一度も日本に来たことも本当の日本料理も食ったことがないだろう」と問いただしたくなるような南米系のおっちゃん2人が鉄板で炒め物をしている怪しい日本料理屋さんもあった。そもそも、"Sakkio JAPAN"という店名からして面妖だ。が、「サンプル、サンプル」とニコニコしながらおっちゃんに手渡されたチキンテリヤキは思いの外まともな味がした。ここでいいか、ここでいいね、とほとんどの人がこの店の料理をつつくことに。

私が食べたのは、チキンテンプラコンボ。"天ぷら"というより"テンプラ"というか"Tempra"というか、とにかく私の知る天ぷらじゃないものが皿に上に盛られていた。衣はモコモコサクサクとしていて、それが塩味の野菜炒めの上に乗っている。野菜炒めの下にあるのはチャーハンだ。おそらく、料理として想定されているのは"丼"なのだろうなと予想されるけど、それにしたって「どこらへんが日本料理やねん!」とツッコミどころ満載な料理だった。幸いにして、それほど不味くはない。そこそこ素直な味でまぁまぁ美味しかった。

St.Louis Centre内 「Sakkio JAPAN」にて
 チキンテンプラコンボ
 スプライト

カプセル乗って頂上へ〜「Gateway Arch」

これもまた絵葉書のような 昼食後は、再びGateway Archに戻り、今度こそ頂上を目指す。
「西部への入口」の象徴であるらしいこのアーチは、テロ対象にされやすいということで、現在は警戒がかなり厳しくなっていた。トラムに乗る人だけでなく、アーチの地下に入るだけ(チケットを買ったり土産物屋を覗くだけ)でも、荷物検査と金属探知ゲートがあるので入場するのに10分近くもかかってしまう。ここに来るの3度目だね、などと言いながらトラム乗り場の入口に並んだ。

チケットに記された時間にトラム乗り場に行くと、「あなたは何人のグループ?2人?そっちは3人?」と係員が"3"だの"5"だのと記された札を配ってくる。トラムは5人乗りのが8個連結した形になっているので、その札に記された番号のトラムに乗らなければいけないようになっていた。なんだかんだと待ち時間があり、20分ほどしてやっとトラムに乗り込む。トラムというより……カプセルだ。座っても頭が天井についてしまいそうな丸っこい狭い空間に5人が膝をつきあわせるようにして座り込み、入口のドアにしか窓がないそれが薄暗い筒の中をのぼっていく。ガタ、とかビシ!とかバシビシ!ときしむ音があちこちで響く中、少々の不安を感じさせつつトラムは上に到着した。狭い階段を上ると、そこが展望台だ。
今日も球場は真っ赤だね

アーチなので、展望台もゆるやかに坂になっている。高さは、背の高い人なら天井に頭をぶつけるんじゃないかというほどのもの。幅も2m程度しかなく、両側に細い小窓が並んでついている。そこに人がぎゅうぎゅうとかなりの密度で詰まっていた。……なかなか怖い。
上からの眺めは、さすがに良かった。さっき下から写真を撮った旧裁判所のあたりの道路がまっすぐ一直線に見える。そのすぐ横は昨夜観戦した野球球場だ。土曜日の今日はデイゲームの真っ最中で、今日も真っ赤な応援席が上から良く見えた。窓にへばりつくようにして真下を見ると、真下の地面、左右にアーチの土台が銀色に光るのがよく見えた。ああ、この足元数メートル下はもうなんにもないのね、と思うとイヤな感じにぞくぞくしてくる。高所恐怖症気味の面々は、
「ね、そろそろ降りない?まだ?」
とそわそわそわそわしていた。確かにこれは、ちょっと怖い。普段のんびり構えている屈強なMさんも
「これ……揺れてませんかね?揺れてない?もー、怖いなー」
と本気で脅えていた。

帰りも再びトラムに乗り込み、下に戻る。またガタ!ピシ!と怪しい音が満載の中、トラムは数分かけて再び地上に戻ってきた。アーチの内部にえんえんと階段がついていたのが窓から見えたけど……これを上ったり降りたりするのはかなりイヤな感じだろうなぁと思う。

St.Louis 「Gateway Arch」にて
Tram (Adult)
 
Tram (Child)
2×$5.00
(国立公園パス所持割引/正規$8.00)
$3.00

我が家は今晩、もう一泊するつもりだった。ちょっと寝不足気味の今日、かなり歩いて疲れてもいるのに4時間かけて車で帰るのも危ないような気がしていた。それにまだ、リトル・イタリーにも行っていない。フローズンカスタードにも再チャレンジしたいところだ。色々と思い残すことがあった。

既に一度セントルイスに来たことがあるIさんは、ここでお別れ。
「私も、今日のうちにできるだけ帰って、無理そうだったら途中で一泊するつもりで……」
というMさん夫妻ともお別れ。最後まで私たちに同行してもう一泊しようかと悩んでいたHさん一家も、
「明日、天気があまりよくないって予報で見た記憶があるので……」
と今日のうちに帰宅する道を選んだ。

山盛りパスタ〜「Cunetto House of Pasta」

仲間を見送り、今日の宿の検討を始める私たち。今までの経験から言うと"転んでもただでは起きない"がポリシーというか座右の銘というか理想の展開というかな私とだんなであったので、たとえ明日、雨が降っても嵐になっても一泊余計にこの町に宿泊しただけの何かは得られるような気がしていた。

とりあえず、セントルイスのリトル・イタリー"The Hill"のエリアに宿を取ることに。クーポンも何も持たないままAAA割引だけで宿泊したHoliday Innは、安くはなかっただけあって(1泊$100越えた宿なんて、すっごくひさしぶりだよ……)広くて快適で清潔だった。The Hillのレストランマップもホテル受付で手に入れ、何よりフローズンカスタード屋さんの住所やマップの入った案内カードも入手できた。これで明日、本店に行ける!と喜ぶ私たち。いつもだったらインターネットでちゃちゃちゃっと調べるところだけど、現在ノートパソコンの内蔵モデムが壊れかけていてインターネットサーフィンが限りなく難しい状況なのだった。そんな中でのフローズンカスタード情報は、まさに僥倖。神様、食欲魔人の神様、今日もどうもありがとう。

夕食に目指してみたのは、タウン誌などで"St.Louis NO.1 Italian Restaurant"に選ばれたことがあるという人気のお店。店名からしてパスタがメインのお店らしい。タウン誌でNo.1というだけではいまひとつ信用ならないので、これは事前にちょこちょこ調べていたのだけれど、そこそこ評判も良いようだ。ただ、"2時間待ちはあたりまえ"という記述を見かけたのが気になっていた。土曜日の夜、やっぱり混雑するのだろうか。

それでも、「5時開店らしいから、6時頃に行ったら余裕かな?」と車で3分ほどのその店に早めに訪れてみたところ、なんと店頭には多くの人が入店待ちでたむろっていた。予約は受け付けておらず、受付に名前を伝えておくといずれ呼ばれる……という形式らしい。受付に名前を告げ、どのくらい待つの?と尋ねると
「ん、2時間ってところかしらね」
と軽やかに返答された。ほんとに2時間待ちなのね……とハニワ顔になってしまった私たちに対して、もう1人の受付のおねぇちゃんが
「家に戻っていてもいいわよー。その頃に戻ってきてくれれば」
などと言ってくる。じゃあ、まぁ、ホテルで待ちましょうかと一旦帰ることにした。

The Hillsは、10分もあれば車で軽く1周できてしまうほどの小さなエリアだ。街灯にはイタリア国旗色の飾り旗がついていたりするけれど、とりたててイタリアイタリアという印象ではない。並ぶ民家も、普通のアメリカ〜ンな一軒家だ。
「あんまり、イタリア!って感じじゃないね?」
とハンドルを握るだんなに向かって呟くと
「なに言ってるんだよおゆきさん!」
と激しい返答があった。
「そこらへんでガキがサッカーしてるじゃないか!それってすごいイタリアだよ!」
と言っている。ああ、そういえばアメリカのお子様ってバスケとか野球とか、そいでもってフットボールのレプリカユニフォーム着たりしているよね、サッカーは違うよねぇとしばし車内で盛り上がる。

そして午後7時40分頃。再びその店を訪れてみると、受付のおねぇさんに
「……ああ、もう名前呼んじゃったわ。いないからキャンセル扱いにしちゃったんだけど、じゃあリストの一番上にもう一度名前を入れておくわね」
と言われ、数分後に席に案内された。
普通の家屋を改築したかのような、どことなく民家のような雰囲気の店だ。古めかしい壁紙の上に油彩画がいくつもかけられ、広いフロアには多くのテーブルがぎしりと並んでいる。賑やかな話し声があちらこちらから聞こえてきて、少なくはない店員さんたちは誰もがパタパタと忙しそうに立ち動いていた。いつのまにかテーブルの上に、投げられるようにパンの籠がやってきている。
サクサクラビオリ。うまー

メニューには、前菜、スープ、サラダから始まり、舌平目を中心とした魚料理、仔牛を中心とした肉料理に至るまで、かなりの品数があった。やっぱり"House of Pasta"というだけあってパスタ料理が充実している。前菜に、この町の名物である"Toasted Ravioli"の文字をみつけ、皆でそれをつつくことにした。あとは……パスタとメインディッシュを1人1皿ずつ、というのが美しいかな、と注文をする。
「私は、この"Cunetto風フェットチーネ"とサルティンボッカを」
と伝えると、給仕のおっちゃんは目をパチパチとさせ、
「サルティンボッカは、彼の分?」
と聞いてくる。うんにゃ、私が食べるんだよー、と答えると、一瞬苦笑いした後
「それはやめておいた方がいい。量がたくさんありすぎる。パスタは、大きなボウルみたいなのに入れられてくるんだよ」
と真顔でアドバイスしてきた。そうかそんなに量が多いのか、とこのときはその事の次第に気付かずに、メインディッシュのサルティンボッカをだんなと分け合うことにして、私は"Cunetto風フェットチーネ"、だんなは"ボロネーゼソースのブカティーニ"を。
Cunetto風フェットチーネ

この店のToasted Ravioliも、非常に美味しかった。揚げたてのブリブリとした巨大なラビオリにおろしチーズがたっぷりとかけられ、それが半ば溶けかけている。小皿にはミートソースが溢れるほど入っていた。ソースのじゃぼんとラビオリをつけつつ、グラスの白ワインをくぴくぴ飲みながら食べる。昨日の夕方、一口分けてもらったものより素朴な素直な味の揚げラビオリだった。サクサクした生地の中には、適度に塩気のきいたひき肉と野菜の練り物が肉汁たっぷりにじゅわっと出てくる。トマトの主張が強すぎないミートソースも、かなり好みな味だった。

そしてほどなく、テーブルにずらりと並べられた残りの料理。私のパスタと、だんなのパスタ。それに1皿注文したメインディッシュはテーブルの中央に。それと、もう1皿、ミートソーススパゲティ(小サイズ)がやってきた。……え?パスタ3皿?それは頼んでいないよ、と首をかしげかけると、
「これはサルティンボッカのサイドのやつだよ」
とのこと。どうやら、メニューの注意書きをすっかり読み飛ばしていたようで、この店のメインディッシュにはもれなく"本日のパスタ"がついてくるようなのだった。あー、そういえば注文するときに「ミートソースかい?クリームソースかい?」と言われ、それってメインディッシュのソースかなぁ、でもサルティンボッカって、ミートソースは組み合わせない料理じゃなかったかなぁ……と思いながら「ミートソース」と答えたことを思い出す。ああ、あれってサイドディッシュのパスタのソースの事だったのねぇ……(遠い目)。

遠い目をしてみてもしてみなくても、目の前には小山のような1皿のミートソースパスタと、山のような2皿のパスタ。
「……とりあえず、喰いましょう」
「そうね、食べられるところまで食べましょう」
と、ある種の決意を固めてパスタ料理に取り組み始めた。一体、1皿何グラム分のパスタが使われているのだろう。我が家でパスタ料理をするときもかなりの量を茹でるけれど、それよりも多いんじゃないかと思われる量のパスタの山だった。

"Fetccine alla Cunetto"は、フレッシュバターとクリームとパルメザンの滑らかなオリジナルソースのフェットチーネ。息子の
「白いすぱげってぃが食べたいなぁー」
のリクエストもあってこれにしたのだけど、胡椒がガツンと効いたこってり濃厚なものだった。シコシコとした絶妙の茹で具合の麺の旨さに泣けてくる。そうそう、パスタってこういう食感に茹でるものだよね、と激しく頷きたくなる。ソースも美味しい。

しかしながら、なんといっても美味しかったのはだんなの注文した"Bucatini con Salsa al Bolognese"。
「うめーよぉ……僕が今まで食べてきた中で、一番旨いボロネーゼだよぉ……」
と心なしか涙目になって、だんなは感動しきりに麺を啜っている。ミートソースより、より肉がごろごろしている感じのソースは、一度ハンバーグ状にした肉を焼き付けてからほぐしたのではないかという感じに肉がモロモロとところどころで塊になっている。淡い味のトマトをベースに香草や香味野菜類もほどよく感じられて甘すぎず酸味も強すぎず、かといってワインの主張が強いというわけでもなく、素朴な懐かしい味すらした。すごく丸い味のソースだ。
ミートソースは私も大好物であちこちで食べたけれど、妙に赤ワインの匂いが強かったりトマトっぽさが勝っていたり更にはケチャップの味ばかりしたり、パセリの風味がとんがっていたりと、なかなか"これ!"というものに出会えない。この店のものは、「まさに、これ!」と両拳をぐっと握りしめたくなる味がした。
ボロネーゼとは微妙に異なる味に仕上がっている、サイドディッシュとしてやってきたミートソーススパゲティだってなかなかのものだ。

メインディッシュ"Vitello con Saltimbocca"は、薄く叩いた仔牛肉を生ハムで巻き、グリルした後にチーズのソースを絡めたような料理。これもまた悪くはなかったけれど、パスタの美味しさに比べるとちょっと印象が今ひとつなものだった。何しろもう、パスタだけでいっぱいいっぱいな私たち。メインディッシュはまるで口直しのように口に運ばれることになってしまった。ごめんよ仔牛肉。

さすがに、2皿の巨大パスタと1皿のメインディッシュで腹一杯。だんなはなんとかブカティーニを平らげたものの、私のフェットチーネはまだ1/4ほどが残っていた。ミートソースは、ほぼ手つかず。
最後にアイスクリームを注文しついでに
「この料理、持ち帰ってもいい?」
と尋ねると、ものすごく慣れた感じに「Sure.」と言い置いて給仕のおねぇちゃんが皿を下げていった。数分後に渡された紙袋の中には、円形のタッパーに詰められた2種類のパスタ。そういえば、周囲のテーブルはその紙袋だらけだ。アメリカ人をして食べきれないほどのパスタ料理を出す店であったようだ。

美味しかった美味しかった。大満足だけど、ちょっと苦しい。
「なんで、美味しい料理を食べたのに、僕たちはため息ついてばかりですかー?」
「美味しい料理を食べたからだと思うけど、なんだか下が向けませんねー」
などと言いつつ、ホテルが近くて良かったね、本当に良かったよ、とよろよろとホテルに帰還した私たちだった。

St.Louis 「Cunetto House of Pasta」にて
Toasted Ravioli
Bucatini con Salsa al Bolognese
Fettuccine alla Cunetto
Vitello Saltimbocca
Vanilla Ice Cream
Double Espresso
……を、家族で適当に分け合いつつ。
$5.95
$8.65
$9.15
$13.50
$2.50
$3.50