5月11日(日) 子バイソンとGrand Teton

食後に子バイ〜「Old Faithful Inn Dining」

ピーマン入りスクランブルエッグがさりげなく美味しかったのでした 「今日はブリとか豆腐の夢は見なかった?」
と、起きるなりだんなに言われた午前7時過ぎ。
ここ数日間は何かと早起きしていたので、今日は心ゆくまでだらだら寝ていようという予定にはなっていた。が、だんなが7時過ぎに起き、私もその直後に目が覚め、息子も8時前にはすっきりとした顔で起きてきた。妙な夢も見なかったし、良い朝だ。

朝食は、昨夜どたばたな夕食を摂ったところと同じ、ホテル内のダイニング。卵やベーコンがたらふく食べたいなと、今日はブッフェにすることにした。
あまり品揃えは良いとはいえず、ジュースは飲み放題ではなくグラスに1杯、好みのものを伝えて持ってきてもらう仕組みになっている。卵料理はシンプルなスクランブルエッグと"本日のスクランブルエッグ"の2種類しかなく、目玉焼きやポーチドエッグ、ゆで卵なんてものはない。パンはデニッシュやフレンチトーストなどの甘味のあるものが主体で、あとはソーセージにベーコン、ポテトフライにフルーツにシリアル……といった感じ。8ドル以上取る割には、ささやかな内容だ。
それでも、温かいフレンチトーストやベーコン、フルーツを心ゆくまで食べられる朝御飯はけっこう嬉しい。息子はタダだし。

Yellowston内 「Old Faithful Inn Dinint」にて
Breakfast Buffet
2×$8.50

朝食後、荷物をまとめてチェックアウト。丸2日堪能したイエローストーンとも今日でお別れだ。レセプション棟はあまりにも遠かったので、近くの裏口からよいせよいせと荷物を運び出し、裏口近くに車を着けて荷物を積み込むことにした。
増築された客室棟の隅の階段から1階に下りて扉を開けると、前を歩いていただんなが「どわっ」と小さく叫んで一瞬後ずさった。
「おゆきさん……目の前にバイソンが」
と、びっくりした顔で振り返ってくる。

かーわいー♪♪

ホテルの建物のすぐ脇には、大人がまたいで渡れる程度の小さな小川があった。ドアから5mほどしか離れていない小川の脇で、巨大なバイソンが水を飲んでいる。私たちが扉から出てきても逃げようともしないし、そもそも気にしていない様子。
「あっちにもいる……って!おゆきさん!子供連れてるよあのバイソン!」
と、近くのバイソンを刺激しないように声を抑えつつ、だんなが小さく叫んだ。
川の向こうはそのまま盛り上がり小高い丘になっており、その上では2頭の大きなバイソンと大型犬ほどの大きさの子供のバイソンがこれまたのんびり草を食べている。あ、あ、あ、一昨日ちらっと見かけてから真剣に探していた子バイソンがこんなところに、こんな近くに!と、小川の向こうに渡ることはなく、できるだけ近づけるところはないかとホテル脇の坂を駆け上がる。
「子バイソン子バイソン!子バーイ子バーイ♪」
と怪しい名称を口にしながら、どうかまだ行かないでねと祈りながら20mほどの距離のところまで近寄った。もう荷物そっちのけ(コラ)。
最後に見た間欠泉の大噴出

可愛い可愛い。大人のバイソンのような黒茶色のごわごわとした印象の体毛ではなく、ふわふわとした感じの赤茶色の毛に包まれている。つぶらな瞳で「なぁーに、なんか用?」という顔でこちらを見た後、母親らしいバイソンのそばでぴょこぴょこ跳ね始めた。あー、可愛い。なでくりまわしたい。と思っても、あれは人慣れしていたとしても野生動物なので近づくのも多分このくらいが限界だ。私一人がうっとり眺めていたら、他の旅行者も気が付いたらしく、何人かが私のそばまで来てカメラを構え始めた。バイソンを近くで見る体験はここではそれほど希有なものでもないけれど、子供連れとなると話は別だ。障害物もなくそこそこ近寄れるようなところで子供を見ることはあんまりなかった。

最後の最後に子バイソンと会えて幸せだった。昨日少しも見かけなかったので、もうダメかと思っていた。

今日も残念ながら曇り空。僅かに青空は見えるけど、"雲一つない"という状況は無理っぽい。それでも、天気予報で雪が降ると聞いていたここ数日ほとんど雪が降ることはなく、それほど気温も低くなく、予想よりも滞在しやすいシーズン最初のイエローストーンだった。今日は日曜日。周辺の州のプレートをつけた車が続々と入園してきているようで、午前10時を過ぎるとOld Faithfulのビジターセンター付近は既にかなりの車が駐車場に止まっていた。

ここで、最後のOld Faithful Geyserの噴出を見て去ることに。ちょうど20分後くらいに予定時間が迫っていたので、近くのショップを見たりしながら噴出を待った。
時刻はかなり忠実(Faithful)だけど、何度か見ていたところ、噴出の規模はあまり一定ではないのだなぁと知った。昨日は数分に渡ってショボショボと小噴出を経た後にちょっと物足りない規模の大噴出があったのだけど、今日は予兆少なめの一気に来る大噴出。風も少なく、真上に向かってどどどーんと吹き上がる水と水蒸気がこれまでの中で一番美しく見えた。面白いねぇ、イエローストーン。温かい季節だったら「いつ出るかわからない間欠泉の前で2時間粘る」なんてこともできるかもしれないけれど、この季節にこれだけ見て回れたんだから良かったよね、とイエローストーンを後にした。つい数日前にオープンしたばかりの南口のゲートを抜け、イエローストーンを後にした。

迫る雪山〜「Grand Teton National Park」

イエローストーンを南に抜けると、数十分のドライブですぐに突入するのがGrand Teton National Park。イエローストーンと組になっているような存在の国立公園で、3000m台後半から4000m台の高さの山脈が連なるTeton Range(ティトン山脈)を臨む公園になっている。見どころは?……と尋ねられると、「……うーん、"大自然とたわむれる"……ことかな?」とちょっと苦しい言葉を返してしまいそうな、間欠泉も深い渓谷も洞窟も奇岩もないところ。避暑地としてのんびりするか(今はまだ寒すぎるのでそれどころじゃないけど)、湖で遊ぶか、トレイルを歩くか、眺めの良いドライブルートをドライブするか、そんな感じ。

ハイジな風景ね、と盛り上がる

説明だけ読んでいると、「つまりあんまり面白くないかも?」という風情ではあったのだけど、入ってみるとこれがなかなか。想像していた以上に雪山は間近に迫っていて、ちらりと覗きつつある青い空に雪山がよく映える。右手全体に雪山が連なりその手前に湖が、という光景の中、南に向けてどんどこドライブ。
「これならのんびり山を見ながらお弁当食べられるかもね」
なんて言っていたのに、山の天気らしい不安定な天候になってきてしまった。前方に厚い雲がたれ込みだしたと思ったら、雪まで降ってくる。

今日のお昼ご飯は、朝炊いたご飯で作ってきたおにぎり。ごはんですよ入りと鮭フレーク入りの2種類のおにぎりに、つぼ漬け麦茶といういつもの組み合わせ。そして更に、「さんまの蒲焼き缶」。
「おにぎりに蒲焼き缶って、けっこう合うと思うよー」
なんて冗談半分に、デンバーに到着した後向かった日本食材屋で2個ほど買ってきたものだった。大自然の下でさんま蒲焼き缶。似合うような似合わないような微妙な感じ。

マップを見ながら目指したピクニックエリアは雪で埋もれていたり、気温もどんどん低くなってきたり、とちょっと途方に暮れつつもとにかく南に抜ける道を進もう、と車を進ませる。そのうち、今のシーズンは閉鎖しているという小さな園内のビジターセンターに辿り着いた。ここにもベンチとテーブルが用意されており、屋根つきのところもある。これなら雪も雨もとりあえず防げるね、とコートを着込んで外に出ると、「タイムリミットは20分です」といった感じに一瞬晴れ間が覗いた。他に青空は見えなくなっているのに、上空だけぽっかりと雲がなくなっている。
「ああ〜、日光があるとあったかいね」
「今がチャンス!とっとと食べちゃおう」
とテーブルに食料を並べ、缶詰をパッカンと開けた。てろーんとしたタレが絡まる甘辛味のさんま蒲焼き缶。懐かしき味だ。微妙に貧乏臭さが漂うけれど、この際気にしない。

「でもね、私、けっこさんま蒲焼き缶って好きなんだわー」
「うん、俺も実は好き」
「ぼくもねー、おさかな好きよー?これおいしいねー」
と、我が家の人間にかつてなく愛され評価されているさんま蒲焼き缶。数切れ入っていたそれを、だんなも私も息子もよく食べた。このこってり濃い味が、あっさりしたおにぎりにこれがまた似合うんだわー。

20分ほどで食事を終えると、再び曇り空が戻ってきた。

安モーテル経由、デンバー行き

グランドティトン国立公園を南に抜け、デンバーを急ぎ目指すには高速道路に乗らねばならない。US-191を200マイルほどドライブすれば、I-80沿いのRock Springsという町にたどり着く。予定では、今日はこのあたりで宿を取ろうと言っていたのだけど、
「うーん、まだ日も暮れないしねぇ」
「どうせ8時までは明るいし?」
「なるべくデンバーの近くに行くのが後々楽じゃないかな」
と、更に先を目指すことに。結局、更に東に200マイルほど移動したところにあるLaramieという町まで行くことになった。

今回の旅行、デンバーを発ってぐるりと北部を回って再びデンバーに戻る旅程なのだけど、一度通ったところはほとんど通っていない。国立公園の中とか通り抜けはできないところに立ち寄ったとかという以外は、ひたすら別の道を進んでいる。あまり飽きなくていいかもねー、なんて気軽な事を言いつつ、乾いた台地を今日も爆走(一昨日警告されたばっかりなのに……)、無事に午後7時過ぎにLaramieに辿り着いた。

当初止まる予定だったRock SpringsもLaramieも、契約しているプロバイダのアクセスポイントがある町だ。高速道路上には、この2つの町の間にそれがある町は1つもなかった。
「なぁ〜んで東京名古屋間の距離があるようなところにアクセスポイントが1個もないかなぁ〜」
と言いつつ道を進み、その理由はすぐに分かった。町らしい町がほとんどないのだ。時折小さな小さな集落(というかガススタンドとファーストフードの集合体みたいな)を見かけることはあっても、せいぜいモーテルが1つか2つという感じ。それじゃアクセスポイントもないだろうねぇ、と納得せざるを得ない光景が続いていた。人間より牛と馬の方が多そうな風景だ。

Laramieの町、ちょっと外れたところにあった事前チェックしていた宿を訪れてみると、思っていたよりやけに高い金額が提示された。この町の分のモーテル用クーポンは持っておらず、「えぇ〜?」と顔をしかめた私たちの前で、受付の兄ちゃんは提示した金額の10ドル引きくらいの金額を告げて
「ここまではディスカウントできるけど?」
なんて言ってくる。だったら最初にその金額を言えよ!と激しく心中ツッコミを入れつつ、更にその兄ちゃんの口調が非常に横柄でイヤな感じだったこともあり、
「いや、その金額ならいらないよ。泊まらないことする。バ〜イ」
とそのチェーンモーテルを後にした。

さてどうしよう、と訪れたのは、そのモーテルのすぐ脇にあった「Motel 6」。似た名前に「Super 8 Motel」というのも存在するのだけど、旅行好きな留学生仲間曰く、
「8はね、普通。設備をしてはマシな方かも。でも6はひどかったよ。隣の部屋の音は丸ぎこえだし、シャンプーも置いてないし」
とのことだ。でもまぁいいか、と値段を聞いてみたら1泊$40.99。先に提示された金額の半額くらいだったこともあり、
「もう……いいか〜?」
「ここでいいか〜?」
とチェックインしてしまった。……で、数分後、部屋に入って「ありゃりゃー」と呻く私たち。

バスタブはなく、シャワーだけ。部屋の広さはまぁまぁ普通だけれど、ダイニングセットも無ければコーヒーメーカーも無い。噂のとおり、シャンプーも無い。そして最悪なことに、このモーテルの周辺には飲食店もほとんど無いようなのだった。この町の中心部はちょっと離れたところにあるようなので、そちらを目指せば何らかの食べ物にはありつけるだろう。でも、時刻も8時にならんとしていて遠出するのもめんどくさかった。第一、疲れていた。

「うう……今晩は自炊しようと思っていたのに」
「コーヒーメーカーもないとなると……お湯沸かすのが大変だなぁ」
ショックを受けつつ、それでも「部屋飯」に挑戦することにした。部屋の設備がこれだけ乏しいのだから、ホテルのロビーに行ったところで何があるわけでもない。高級モーテルなら夜も飲めるコーヒーサーバーがあったりするのでそこから湯を持ってきたりできるのだけど、そんな設備は当然なかった。どころかどうやら朝食もついてないらしい。

ご飯だけは炊ける。水も米も炊飯器もあるので、あとは電源さえあればご飯は炊ける。
「せめて味噌汁飲みたいね」
「お湯を沸かすには……」
と、そこで、ああそうか炊飯器で沸かせば良いのか、と思い至った。炊飯器は米と水を熱するものなんだから、水だけ入れてスイッチを入れればいずれ沸騰するはずだ。ただ、どのくらい時間がかかるのかがちょっとわからない。それでも、

    炊飯器で米を炊く。
    → 米が炊けたら、炊けた米を別容器に移す。
    → 炊飯釜を洗い、水をセット。
    → インスタント味噌汁を作る。
    → ご飯と味噌汁準備完了。
    → (゚д゚)ウマー

なる手順でやってみようじゃないかということになった。ただの白いご飯じゃつまらないので、持ってきた松茸ご飯の素を入れることにして、炊飯ボタンスイッチオン。ご飯をよそう器は、ホテルに置いてあったアイスペールにラップを敷いて使うことにした。ご飯も炊け、湯も沸いた。思ったより早く、味噌汁1杯分程度の湯ならば3分くらいあれば沸かせるようだった。
狭い部屋でちまちまちまちまこういう事をするのは、なにげに楽しい。テーブルがないのでベッドサイドテーブルをちょっと手前に引きずり出し、ベッドをソファ代わりにして食べ物を並べる。紙コップに麦茶。発泡スチロール容器にご飯と味噌汁。割り箸もちゃんとある。

期待の松茸ご飯は、期待が大きすぎたのかごくごく普通な味しかしなかった。
「松茸の風味ってこんなだっけ?」
と思いつつ、それ以前にご飯に何だか芯がある。標高が高くて炊き具合が微妙に違ってしまったのか(でもイエローストーンでもちゃんと炊けたしなぁ……)、単に水加減を勘違いしてしまったか、それともその両方か。それでも、赤だしのインスタント味噌汁には
「あぁ〜、味噌汁だぁ」
「あったかーい」
と皆が皆して癒された。

明日は朝御飯がついていないということだし、ここは秘蔵のカップ麺かな。