11月25日(月) ボストン美術館と飲茶と寿司

ボストンで食べた鶏の足〜「龍鳳酒樓」

今朝は8時に目覚まし時計をかけていたにも関わらず、どういうわけか6時半に目が覚めてしまった。仕方がないので、ボストン観光情報でも見ていようかとガイドブックを捲っていたところ、今日行こうと予定していた「コンピューター博物館」が月曜閉館だという事実を掴んでしまった(事前にそういう事実は掴んでおけよ、と我ながら思う)。
「ん〜、じゃあ、コンピューター博物館は明日にまわして、今日はボストン美術館かなぁ……」
と内心焦りながら計画を立てていたところ、だんなも息子も起きてきた。今日はやっぱりボストン美術館ですかね、うん。

今日の朝御飯は、昼御飯も兼ねて飲茶に行くことに。昨日の夜も食卓を共にしたOさんも一緒に行くことになり、お店で待ち合わせることになった。行ってみるのは、"ボストンで飲茶といったらココ!"と言われているらしい、「龍鳳酒樓(China Pearl Restaurant)」。地下鉄に乗りその名も"Chinatown"なる駅で降りると、漢字に溢れた何やら懐かしい光景がそこここに。食材屋や食器屋に心ひかれつつ、とりあえずは飲茶屋を目指した。

朝8時半から飲茶のワゴンサービスをしているというそのお店、階段をのぼりビルの2階に入ると、中国人のお客ばかりが数組、席についているのが見えた。月曜の午前中ということもあってか、まだ全然混雑はしていない。コートを脱ぐか脱がないかのうちに真横を蒸しものワゴンが通り、「あれとこれ、ちょうだい」などと言っているうちにOさんもやってきた。

私の好物、咸水角ピータン粥そして、鶏の足

香港のスタイルそのままに、蒸しものワゴン、揚げ物ワゴン、焼きものワゴン、粥ワゴンなどが店内をゆったりゆったり動いている。適当に招き寄せては蓋をあけて見せてもらい、欲しいものを指さしていく。厚紙にペタンとハンコを押してもらうのも、香港そのままだ。期待以上にその匂いは本場のそれに近く、そして味も期待以上のものだった。

ちょっとばかり蒸しすぎの感はあったけれど(ワゴンサービスだし……)、浮き粉の皮の海老蒸し餃子はプリプリと海老の食感が強く残っているものだ。シンプルな味の咸水角は、表面サクサク中はモチモチ、具沢山で好みのタイプ。甘ったるいチャーシューが詰まったチャーシューパイをつまみ、テラテラと光るスペアリブの煮込みをつつき、これまで食べたことがなかった点心もあれこれ取ってみる。

角切り大根が香菜に和えられたのが詰まっている、ちょっと不思議な風味の野菜の蒸し餃子。鶏の足がその形のままにこってり煮含められた煮物。淡い味のあんがかかっている厚揚げには、海老のすり身が挟まっていた。どれもこれも、素朴な外見の素朴な味のものばかり。アメリカで食べる中華料理にありがちな甘ったるいジャムのような甘さのテロテロした色合いの調味料などは全く見られず、しみじみ美味しく食べられた。

そして、程良く満腹に近づいたところでお粥ワゴンが登場。私が頼んだピータン粥には、ひき肉と細かく刻んだピータンが大量に含まれている。椀の底には刻み葱が沈められ、上にはハサミでざくざくっと切った油条がどっちゃり乗せられていた。椀から溢れそうな粥は、塩味薄めのさっぱりしたもの。久しぶりに食べる中華粥の味はまた格別だった。何喰っても「うまー、うまー、超うまー!」となってしまうのは、ここ数ヶ月ろくな中華料理を食べていないという事もあるのかもしれない。

そして、デザートにはアメリカ大陸のお店で初めて食べるマンゴプリン。プラスチック容器に固められたプリンは、点心の美味しさと比較すると今ひとつなものだったけれど、ボストンでマンゴプリンに出会えたというだけでも収穫なのかも……しれない。
だんなは杏仁豆腐を頼んだけれど、これは椀に固められた、シロップも何もないもの。本当に杏仁"豆腐"といった様相のもので、甘さも淡く、美味しいのか美味しくないのか微妙な味わいのものだった。

伝票を締めてもらったのは10時半近く。その段になって、これまで出ていなかった大根餅とかニラ饅頭とか、更には大好物の"蛋撻"(カスタードタルト)までやってきた。
「あ"〜!蛋撻!タンタッ!タンタッ!」
と騒いだ挙げ句、「それ、持って帰ってもいい?」と包んでもらって別会計。
ずっと持ち歩いた挙げ句、夕方になってからホテルで食べた蛋撻は、皮はサクサクホロホロの完全な中華パイ、中はプルプルほにゃほにゃの舌触りの完璧なる蛋撻だった。


Boston Chinatown 「龍鳳酒樓(China Pearl Restaurant)」にて
蝦餃
ふかひれ餃子
大根餃子
スペアリブ
咸水角
チャーシューパイ
揚げ湯葉巻き
鶏足の煮物
厚揚げの海老すり身詰め
ピータンと豚肉の粥
魚介粥
揚げ胡麻団子
マンゴプリン
杏仁豆腐

蛋撻

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
合計$39.00

$2.30

飲茶、おっそろしく安かった。1人あたり10ドルちょっとでこれだけ食べられたなんて、なんて良いお店なのだろう。
飲茶屋の前で、「今日はハーバード大学見てくるわー」というOさんと別れ、私たちはちょっとだけチャイナタウン散策。
まずは店頭で中国野菜を大量に売っていたスーパーマーケットを覗き、オイスターソースと中国茶を購入。続いて食器屋を覗き、1個60セントのレンゲを4個と1個85セントの中国茶湯飲みを4つ買ってしまった。陶器は何かと高値で、しかもアジアものとなると我が家の近くではなかなか入手できないものだったので、この価格はなんとも魅惑的。土鍋やラーメンどんぶりを買いたくなる気持ちをぐっとこらえて、小さなものだけ買ってきた。

芸術を浴びに〜「Museum of Fine Arts, Boston」

チャイナタウンから地下鉄に乗り、今日のメイン目的地は「Museum of Fine Arts, Boston」(ボストン美術館)だ。
「ブルーライン」「オレンジライン」「レッドライン」と色別になっているボストンの地下鉄は、途中で行き先が枝分かれする路線もあるものの、基本的にはとてもわかりやすいものになっている。初めて乗った「グリーンライン」は、車体があからさまに他のと異なるものだった。
「これって……バス?」
「路面電車みたいな?」
と、乗り口に数段階段がある、バスのような外見のその地下鉄にびっくりしながら乗り込むと、その地下鉄は途中から地上に出て路面電車として走り始めた。地上に出て数駅進むと、その名も「Museum」という駅に到着する。それがボストン美術館真正面の駅なのだった。

正面玄関付近の踊り場入場料は、大人15ドル。このチケットを持っていると、30日以内ならばもう1回無料で入場できるらしい。4歳児の息子は無料。
クロークに荷物とコートを預け、身軽になっていざいざ、と館内を歩き回った。

わかっていたはずだったけど、ボストン美術館、めっちゃめちゃ広かった。なんとなく「イスラム美術」「日本美術」のエリアから歩き始めたところ、「中国家具ギャラリー」「エジプト美術」あたりで一度力尽きそうに。このままじゃ絵画まではとても辿り着けない、とやっと悟って早足でヨーロッパ家具の展示コーナーあたりを早足で通り抜け、「アメリカ絵画」コーナーをじっくり眺め見終わる頃には、再び力尽きてしまいそうな状態になった。

"この人の画集を開けば必ず出てくる"なんて絵がごろごろと目の前に展示されていて、しかも日本で見る時のように柵があるわけでもなく、ガラスカバーがついていることもない。鼻息がかかってしまいそうなほどの間近で芸術品を眺められるというのは、贅沢なことだ。普段はあまり見ることもない絵画だの彫刻だの家具だの細工ものだのを浴びるように見てしまい、何だか芸術に酔っぱらいそうになってしまった。

ヨーロッパ絵画も見たいけれど、ちょっと休まなければ限界だということで、美術館内の喫茶店で休むことに。館内にはカフェが2つにレストラン1つが入っているらしい。手っ取り早く、ミュージアムショップに隣接した吹き抜けのカフェに入ることにした。

歯が黒くなってしまいそうな濃厚ケーキ1時過ぎて、ちょうど昼食を摂る人でも混雑していたカフェでは、巨大なサラダをつついている人が多かった。飲み物だけを注文するつもりでいたけど、メニューを開くとケーキはあるわクラムチャウダーはあるわ、しかもどれも美味しそうだ。思わずクラムチャウダーを注文してしまっただんなと、チョコレートケーキを注文してしまった私がいた。
"チョコレートファッジケーキ"なんて名前だった、"本日のケーキ"の中の1つだったそれは、歯が黒くなってしまいそうな漆黒のケーキ。温められて出てきて、中心部はとろけてしまいそうな柔らかさだ。たっぷりのホイップクリームと、下にはベリーで彩られたエスプレッソ風味のクリームソースが添えられている。"小麦粉を使っていませんよー"とメニューに紹介されていたそのケーキ、味はチョコレートそのもの、といった感じの濃厚なものだった。甘さがないホイップクリームをなすりつけて食べて、やっとちょうど良くなるという感じ。
シナモンの香りがこれでもかと効いたチャイラッテは大きなマグカップ入り。啜り終える頃には、疲れもなんとか取れてきた。

Museum of Fine Arts, Boston」内「The Galleria Cafe」にて
チョコレートファッジケーキ
チャイラッテ
$6.50
$3.50

重い足を引きずって、最後に見たのがヨーロッパ絵画のコーナー。
マネありドガありモネありルノアールありセザンヌありゴッホあり。学校の美術の教科書に出てくるような、どこかで見たような絵ばかりがズララララーと並んでいる部屋が、いくつもいくつも並んでいる。どれをとっても展覧会の目玉展示になっちゃいそうな、すごい絵ばかり。実際、日本の展覧会でかつて見た絵が実際にいくつもあった。

知っている絵ばかりがある空間。なんて贅沢な。

かつて友人と一緒に展覧会で見たモネの"La Japonaaise"を見て(上の写真中央の、赤い着物の女性の絵)、
「おお〜、本来の場所で再会できたねぇ」
と内心感動している私。
また、19世紀に活躍したアメリカの画家、"John Singer Sargent"という人を私はこれまであまり知らなかったのだけど、女性画の美しさが印象的だった。

しかし……疲れた。4歳児の息子にとっては美術館など"面白くないところ"の最たるもののようで、しかも歩いて疲れるばかりということもあり、不機嫌も極まってきた。ヨーロッパ美術コーナーをだだだだーと見たところで、ミュージアムショップに寄って美術館を後にすることに。
この美術館は日本美術が充実しているということもあってか、ショップには和物が妙に多かった。寿司マグネットとか、和食器とか、浮世絵絵葉書とか。欲しいな欲しいなとあれこれ眺めた挙げ句、結局は美術館のカタログを1冊買うだけに。400ページもあるカタログ、全部眺め終わるにはしばらくかかってしまいそうだ。

Museum of Fine Arts, Boston」内「Museum Shop」にてお買物
『A Guide to the Collection of the Museum of Fine Arts, Boston』
$19.95

上からボストンを眺めてみよう〜「Prudential Center」

ボストン美術館散策後は一度ホテルへ。
部屋備え付けのコーヒーメーカーでコーヒーいれて、午前中に飲茶屋から持ち帰ってきた蛋撻などつまんで小休止。そろそろ夕方という時刻ではあるけれど、まだ夕飯にも早い時刻だったので「では、ビルの上からボストンを眺めてみましょー!」と、歩いていける距離にあるプレデンシャルセンター(Prudential Center)に行ってみた。

周辺のビルが繋がり、下部は巨大なモールになっている。まだ11月だというのにすっかりクリスマスな装飾になっていて、あちらこちらに巨大なクリスマスツリーが出現していた。ちらちらお店を覗きつつ歩くと、インフォメーションコーナーに"AAAのカードを見せると何かサービスしますよー"という表示が。カードを提示すると、分厚いクーポンブックが渡された。買い物すると割引サービスが受けられたり、レストランに入ると無料クラムチャウダーがもらえたりするようだ。これから行こうとしていた展望台の割引クーポンもついていた。AAA、ありがとー。

古い町並みだねぇ……

プレデンシャルセンターの展望台は「Skywalk」という名がついている。入場料は大人7ドル、子供4ドル。AAAのクーポンで大人料金が3ドル引きになり、結局家族で合計12ドルで入場できた。360度ガラス窓の、特に何の変哲もない展望台だ。ボタンを押すと観光地のポイントが光で記される装置とか、細々とした仕掛け物がちょっとだけあるけれど、本当にただの展望台。それでも高いところが好きな私としては、それなりに楽しかった。碁盤の目のように道路が走り、煉瓦づくりの古い建物が並ぶ町並に、高層ビル群もいくつか見える。うねる太い川は「Charles River」と言うらしい。

高層からの眺めを堪能した後は、ショッピングモールを少々散策。好みな柄のクリスマスカードを見つけたのであれこれ購入し、更にサンクスギビング頃に押し寄せるらしい寒波に備えて、息子用の手袋などを探して歩く。ここボストンは、175ドルまでの衣料品の買い物に対しては無税(越えたら越えた分に対して税金がかかり、それがまたテネシーなどよりすこぶる安い)という嬉しい制度があり、「防寒着を買おう……」「手袋を買おう……」と密かに燃えている私たちだった。あまり時間もなく、買い物は明日に持ち越しだ。

爆撃機の名の寿司〜「銀座」

夕飯は、お寿司を食べにいくことになっている。
だんなが所属している研究所の日本人スタッフMさんが言うには
「ボストンってね、お寿司がけっこう美味しいわよー。少なくともテネシーで食べるよりは絶対美味しいものが食べられるし、ものによっては日本により美味しいものもある……かもしれないわね」
だ、そうなのである。確かに海にほど近く、生牡蠣などが名物であるボストンのことだから旨い魚介には事欠かないかもしれない。ちょっと期待して、美味しそうな寿司屋を探してみた私たちだった。

本当のところ、「OISHII」(おいしい)という珍妙な名前の寿司屋が気になっていた。が、ここはホテルからけっこう遠く、しかも地下鉄を降りてからも長い距離を歩かなければならないようで断念。チャイナタウンにある「銀座」なる店が評判が良いらしいのでこちらに行くことにしてみた。

迫力のある巻物だなぁ……店に入るなり、「いらっしゃいませー」とナチュラルに日本語がかけられ、ボックス席に案内された。店で待ち合わせしているOさんは未だ到着していなかったので、巻物を適当に注文して待つことに。
「ネギハマ巻」は、ハマチ版のネギトロ巻のようなものであるらしい。「サーモンスキン巻」は、その名のとおり、鮭の皮を巻いたもの。こんがり炙り、にんじんやキュウリなどと共に巻かれる。そして、
「これ!これ食べたい!気になる!」
と、だんなが燃えてしまったのが「B-52巻」だった。爆撃機、の名前だったはずだ。説明書きには
「An outrageous combo of yellowtail, in a double layer tempura roll」
と書いてあり、いかにもすごそうだ。

巻物を待っている間にOさんもやってきた。日本のビールも当然置いてあって、それがあまり高値ではなかったので思わずサッポロビールなど注文。「カンパーイ」と盛り上がる間に巻物もやってきた。

海苔を内側にして巻くアメリカの巻物にもすっかり慣れたのでそれには驚かないけれど、さすがに「B-52」はすごかった。中央にはハマチやら蟹肉やらアボガドやらが入り、それをギュッと押し包むようにして天カスと海苔が2層にぐるぐる巻かれている。最後に御飯が周囲をとりまき、巨大な巻物として完成している。
で、天カスがまだジュワッと温かいのである。噛むと油が染み出てくるのが、寿司飯と似合うような似合わないような微妙な味わいだけど、妙に美味しく思えてしまう。巨大イロモノ寿司は、奇天烈だけど旨かった。他にも「キャラピラ巻」「ファンシー巻」「スコーピオン巻」などという怪しい巻物がメニューに載っていて、笑ってしまう。

更に、「とりあえず握りのセットを注文してみよう」と、1人前16ドルほどの握りセットを人数分注文。
マグロが2つに鉄火巻、ハマチと平目とサバとサーモン、海老の握りがやってきた。量は少なめだったけれど、テネシーで食べる寿司よりも、さすがに漁港がある町だけあって旨かった。"日本で食べるより美味しい"と言えるほどのものではなかったけれど、ちゃんと寿司として味わえる寿司だった。握りセットを平らげた後は、調子に乗って各自それぞれ好みのものを追加注文。私はイクラとウニと穴子を久しぶりに食べられて御満悦だった。穴子はふくふくだし、ウニにはちゃんと甘味があってプリプリしていだ。

Boston 「銀座」にて
Nigiri
巻物(Negihama)
巻物(Salmon Skin)
巻物(B-52)
握り(Tamago)
握り(Ika)
握り(Anago)
握り(Mirugai)
握り(Ikura)
握り(Uni)
サッポロビール
コーラ
3×$15.95
$4.95
$5.50
$10.15
2×$2.75
$3.85
2×$4.95
$4.95
2×$4.65
$6.35
3×$3.75
$1.50

飲茶に行って寿司食べて、ボストンっぽいのかぽくないのか微妙な心持ちのまま、それでも美味しいものが食べられて満足気分でホテルに帰還。
もう明日はボストンを去らなきゃいけないなんて、何だかまだまだ物足りない。2泊3日は短いなぁ。