5月6日(火) Wind Cave ・ Mount Rushmore

菓子パン食べて、おにぎり持って

ワイオミング州の南東の端にある町、Cheyenneの郊外に宿泊した昨晩。
モーテルにはパンとコーヒー、ジュースなどの簡単な無料朝食が用意されていた。バナナとオレンジ、リンゴなどのフルーツがあるのも嬉しい限り。けれど、私たちには昨日デンバーを発つときに買ってきた菓子パンがあるのであった。
デンバーのパン屋さん、その名は「New York Bakery」。なのに経営しているのは韓国人で、売られているのは日本人にも馴染み深いあんパン、クリームパン、チョコパンなどの菓子パン類やケーキ類。日本の菓子パン的なパンが恋しければここ!……という話をネットサーフィンしていて見かけ、それは朝食に嬉しいなぁ、と昨日のうちに買ってきていたのだった。

無料朝食コーナーから牛乳やコーヒーを持ってきてテーブルに置き、ねっとりとしたカスタードクリームが詰まるクリームパンを齧る。懐かしい味の菓子パン類は、素朴な味で美味しかった。昨夜炊いたご飯もおにぎりにしたし、いざいざ出発。あ、バナナとオレンジもちょっとだけもらっていくことにしよう。

どうか車がエンストとかしませんように、と祈りつつ爆走

今日は素晴らしい青空。シュークリームのような形の、美味しそうな外見の雲がぷわんぷわんと浮かんでいる。
目的地に向かうには、高速道路に乗るよりも下道で行った方が近道かもしれないということで、今日はひたすら下の道。US-85を北東に向かってひたはしる。途中、50〜60マイルに1つほどの集落があるものの、道中にはほとんどなんにもない。車がエンストしたらどうしようと不安になってしまうほど、他の車もほとんど走っていなかった。高い木もなく、山もなく、ひたすら見晴らしの良いところを走る私たちの前に、時折、茶色くカサカサしたものが転がっていく。アレだ、アレ。西部劇のガンマンの決闘シーンなんかで足元を転がっていく"アレ"だった。

「あ〜!!"アレ"だ!!」
車内で盛り上がる私たち。いかにも西部劇みたいだね、すごいすごい、と、"アレ"が転がってくるたびにはしゃいでいる怪しい旅行客と化していた。

「あ〜!また来た!枯れマリモ!!」
「いや……おゆきさん、アレはマリモじゃないよ……」
「じゃあ……乾燥マリモ!あ〜!また来る〜」
「いや、だから枯れでも乾燥でもいいけどマリモじゃなくて」
「いや、アレはマリモだね。どう見てもマリモだ。マリモマリモマリモ」
「……も、いい……」
と、今日も車内は掛け合い漫才勃発中。しかし、"アレ"、いいなぁ。西部旅行のお土産に持って帰りたい気分だ。ちょっとトゲトゲしていそうだけど。

目的地はまだまだ先だけど、お昼ご飯時。ワイオミング州内のLuskという町の近くでレストエリアを発見したので、休憩することにした。おにぎりと、今朝の菓子パンの残り。麦茶。大荷物の中にはさんま蒲焼缶やら昆布巻きやらつぼ漬けやらもあったのだけど、とりあえずそれはもうちょっと緊急事態が迫ってからね、と今日のお昼は軽めにしておく。
他に車もいないレストエリアにはベンチとテーブルの他に、清潔なトイレと子供の遊び場まであった。さっそく遊び出す息子を見ながら、私とだんなは麦茶を一杯。ああー、コーラとかスプライトなんかより、やっぱり麦茶が美味しいよ。自動販売機やスーパーで手軽に買える「甘くない飲み物」と言ったら水くらいしかないアメリカで、青い空の下の麦茶というのはすごい贅沢のような気がする。

ボックスワーク!プレーリードッグ!〜「Wind Cave National Park」

午後2時過ぎに到着したのは、Wind Cave National Park
その名のとおり、洞窟(Cave)がウリのこの国立公園は、
「どうせ目的地に向かう時に通過するエリアだから、ちょっとだけ寄ってみようかね」
と軽い気持ちで寄ったところだった。が、洞窟は面白いし、動物にはうじゃうじゃ出会えるし、想像以上に楽しい体験をすることができた。

なんでも、狭いエリアに縦横に絡まり合った複雑な洞窟なのであるらしい。以前、ケンタッキー州にあるMammoth Cave National Park行ったことがあるけれど、それとは随分趣が異なる洞窟のようだ。
ウィンドケイブという名前の由来は、ここにいつも風が吹いているから……というわけではなく、この洞窟の開口部である小さな穴(現在、人の手が加わっていない自然な状態で外界に通じている穴はそこ1つしか見つかっていないのだとか)から激しい風の音が聞こえてきたのがきっかけで洞窟の発見に至ったから、だそうだ。洞窟内には、鍾乳洞にありがちなつららっぽいものとか石塔っぽいものはそれほどなく、代わりに「Boxwork」と呼ばれる網目状の造形の天井や壁、「Popcorn」という名の粒々した丸っこい鍾乳石、「Helictite」という、石がまるで草か木のように色々な方向に細く伸びていっているもの、などが多く見られるらしい。「ちょっと寄ればいいか」なんて当初の目論見はどこへやら、
「ツアー、参加したい、中入りたい!」
とうずうずしている私。

幸い、数十分後に始まる洞窟ツアーがあるらしい。洞窟に入るには、ツアーに参加するしかないのだけれど、オフシーズンである現在は「Natural Entrance Tour」ぐらいしか参加できるものがないらしい。1時間ちょっとかけて0.5マイルほどを歩くツアーだそうなので、手頃と言えば手頃だった。ツアー参加代金を払い、チケットを貰って出発を待つ。
まるで布でもぶらさがってるかのようなBoxwork

ツアー参加は30人くらい。子供の参加は息子だけだったけれど、まぁ大丈夫でしょう、といざいざ洞窟へ。洞窟への入口のすぐ脇には唯一の開口部だという"Natural Entrance"があり、そこでしばし説明を受け、そして中へ。
前半はひたすら、洞窟歩き。特に美しい鍾乳石があるわけでもなく、息が詰まりそうに狭い通路があったりする中をざくざくと歩いていく。中程の大きな広間状の空間に着いたところで、
「ほら、これがボックスワークですよー」
とパークレンジャーの兄ちゃんが懐中電灯で天井を照らしてくれた。
このポツポツがポップコーン石

写真で見てはいたけど、実際目の当たりにすると「すっごーい……」とため息が出てしまう。
天井は、まるで無数のぼろ切れでも貼り付けたか、あるいはパイ生地かのように薄い膜が縦横に絡み合っていた。手で触るとパリッといってしまいそうな薄い薄い石が、ライトの光に照らされていて美しい。
この大空間のボックスワークが一番素晴らしかったけれど、それ以外にも途中の通路の天井、あるいは壁などもにこの造形を見ることができた。最後の最後のポイントで、パークレンジャー兄ちゃんが
「ここがね、僕がいっちばん好きなところなんです」
と指さした壁と壁の隙間のようなところには、まさにボックス、という感じの真四角の綺麗なボックスワークができあがっていた。

そして、途中にはポップコーン石も少しだけ。
ほら、と指さされた通路脇の岩には、表面にプツプツとした丸い石がみっちりとついていた。触るとイクラのようにプチンといくんじゃないかな、などと考えてしまう。このツアーでは、3〜4箇所にこのポップコーンを見ることができた。うー、面白かったぁ。

Wyoming州 「Wind Cave National Park」にて
Natural Entrance Tour Fee
2×$8.00

洞窟を出ると、この公園に到着した時にパラパラと降りはじめていた雨も綺麗に止んでいた。
来るときは雨だなんだとちょっと慌ててパーク入りしていて気がつかなかったのだけど、気がつくとビジターセンターの周囲は野生のプレイリードッグの巣だらけ!こんもりと茶色く土が盛り上がった穴が点々としており、ビジターセンターそばの道路の路肩に車を止めて眺めるとそこにはうじゃうじゃうじゃうじゃ、大量のプレーリードッグが〜〜。

あそこにも!ここにも!

「えー!?、ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってよ」
「何を待つというんだ、おゆきさん」
「いやー、こんなにいるなんて聞いてないよー。うわー」
もう、私は言ってることが支離滅裂。どこを見て良いのかわからない。どこを見てもプレイリードッグだらけ。つい数日前(一昨日だ)にワシントンD.C.の動物園でそれを見てきたばかりだというのに、やっぱり自然のプレイリードッグが目の前にいると思うと、何だかとても感動してしまうのだった。

車を降りた途端、周囲にいた30匹以上はいたと思われるプレイリードッグが一斉に鳴き始めた。「キャンキャン!キュキキキッ」と、"ドッグ"の名がついているだけあって、子犬のような鳴き声だ。鳴かれるのは警戒されているということで、近くにいるやつはとっとと巣穴に逃げていってしまい、顔だけこちらに向けてくる。いや、危害を加えるつもりは全然ないから、そのままにしていてよ〜と言ってみても、そんなものはプレーリードッグに伝わりゃしないのである。しばらく道路沿いから彼らを眺めて堪能しまくってから、プレーリードッグの巣を後にした。
この後、Badlands National ParkDevils Tower National Monumentの周辺でも巣穴をけっこう見かけたけれど、これだけ多くのプレイリードッグがうじゃうじゃ動き回っていたのはここが一番だった。雨上がりだったとか、ちょうど日が傾いて来た頃で、とか、色々要因もあったのだと思うけれど、幸せなひとときだった。

生プレーリードッグ〜♪ 生シカ〜♪ 生ヒツジ〜♪

その後も、道路脇にはまだまだプレイリードッグの巣。けっこう警戒心が強い動物なのに、道路脇にまでちょろちょろと出てきていたりする。
「うわー!危ないなぁもう、車が通ったらぺちゃんこになっちゃうぞ君たち」
「いや、ぺちゃんこにするくらいならテネシーに持って帰る!」
と、茶色い小動物に横目に見ながらそろそろとウィンドケイブ国立公園を南から北に抜けていく。
途中には、鹿(多分、Mule Deerというやつ)の群がいたり、進行方向目前にでっかい角をつけた羊(多分、Bighorn Sheepってやつ)がどどどーんと立っていたり、遠くにバイソンが見えたり、「ここはサファリパークですか?」みたいなドライブ。息子は後ろの席で、
「しかさんー!あ、うしさんだー」
と楽しそうに飛び跳ねていた後、
「ここ、すごいね。どうぶつえんが、いっぱいだね」
ニコニコとそう言った。
いや、動物園がいっぱいなんじゃなくてね、これは野生の動物でね、と説明したんだけど、彼にはまだちょっと難しいようだ。

眼鏡まで彫ってあるよ〜「Mount Rushmore National Memorial」

でっかいねー Wind Caveから50マイルほども北に行けば、「4人の歴代大統領の巨大顔が彫られた岩壁」で有名なMount Rushmore(マウント・ラシュモア)だ。今日のメインイベントは、ウィンドケイブじゃなくて、本当はこっちだったのである。地図を見て、すぐだね、行けるね、と言っていたのに、途中の道は全てが山道。直線が続く道路は200mもないんじゃないかという勢いで、こっちにぐねぐねあっちにぐねぐねと、山の中をひたはしる。当然スピードもそんなに出せるわけではなく、到着した時は5時を軽く過ぎていた。日はまだ高いけれど、さすがにもう売店もミュージアムもやっていないかなぁ……と諦め半分で到着してみれば、まだまだ営業中。冬には5時で閉まる各施設は、この季節なら7時まではやっているらしかった。真夏になったら夜10時まではやっているとか。

「石壁に刻まれた4人の大統領」の観光ポイントがあるということは、子供の頃からなんとなくは知っていた。けど、それがサウスダコタにあるのだと知ったのはアメリカに住むようになってからだ。まさかニューヨークの近くということはないにせよ、何しろ有名な観光ポイントでもあることだし、サンフランシスコから車で30分とか、フロリダから車で1時間とか、そういったわかりやすいところにあるのだろうと勝手に思っていた。が、マウントラシュモアがあったのは、決して大きな町とはいえないだろうラピッドシティから車で30分くらいかかるところ。周囲は深い森と山ばかりで、ウィンドケイブ方面から向かうと一層人の気配も少なく、会えるのは鹿とか羊とか山羊とかバイソンとか、人間以外の生き物ばかり。

ちょうど、彫刻の向こうに日が沈もうとしていたので逆光となって少し見にくくはあったけれど、4人の巨大な顔はきっちりおがむことができた。
彫られているのは、左から初代大統領George Washington、第3代大統領Thomas Jefferson、第23代大統領Theodore Roosevelt、第19代大統領Abraham Lincoln。1927年から1941年にかけて、Gutzon Borglumの指揮のもと400人が携わって作られた彫刻なのだそうだ。その彫刻のある岩山の向かいに作られた展望台から眺めるだけのものではあるけれど、グランドキャニオンに匹敵するくらいの巨大なお土産物屋があり、飲食店もあり、いかにも観光地だなぁという感じ。
ここを出る時にはもう6時も過ぎていたので、今日は麓の町に宿を取ることにした。

ガツンと肉を〜「Holy Smoke Restaurant」

今日の宿は、マウントラシュモアの麓の町、KeystoneにあったBest Western Four Presidents Lodge、1泊$57.60だった。けっこう高かったけど、他に選択肢もあんまりなかったのでここに泊まっちゃうことに。

夕食は、朝も昼も軽めだったこともあってこれでもかと肉にかぶりつきたい気分だった。
「がっちょり、肉をね」
「ステーキとかね」
と話していたところ、まさにホテルの目の前にそんな店が建っている。ステーキだったらどこもそんなにハズした味のものは出さないだろう、とここに入ってみることにした。
肉だ肉だとかぶりつく

メニューは、グリルものばかり。メインディッシュを注文すると、ベイクドポテトかベイクドスィートポテト、サラダとパンがついてくるらしい。私はリブアイ、だんなはTボーン、息子には、キッズメニューもあったのだけどありきたりなものばかりだったので(ハンバーガーとかホットドッグとかフライとポテトの盛り合わせとか、チーズサンドイッチとか……)、大人用のメニューからパスタを指さして
「子供用に作ってくれる?」
と尋ねてみたら半額で用意してくれた。

サラダには、自家製っぽいサラリとしたマヨネーズベースのドレッシングがかかっている。レタスをメインにした普通のサラダだけど、ドレッシングがけっこう美味しい。そして大皿に盛られたでっかいステーキに巨大なじゃがいも、小ぶりのパン。更に皿にはロメインレタス1枚の上にオレンジのスライスが飾られている。
肉は、とびきり旨い!最っ高の焼け具合!……というほどのものではなかったけれど、強めの胡椒が効いていて、なかなか良い感じ。塩気も程良くついていて、噛みしめると肉汁がじゅくじゅく溢れてくる。そうそう、こういう風に肉をガツンと食べたかったのよね、なんて言いながら12〜13ozほどの肉を数分で食べきった。

明日もまた国立公園。そうしたら、次はイエローストーン目指して西への移動が待っている。またプレイリードッグが見られるといいなぁ〜。

South Dakota州 Keystone 「Holy Smoke Restaurant」にて
私:
 Rib Eye Steak
 Beer (MGD)
だんな:
 T-bone Steak
 Beer (MGD)
息子:
 Kid's Pasta
 Coke
 
$17.95
$2.25
 
$16.95
$2.25
 
$6.49
$1.00