5月2日(金) ワシントンD.C.木槌蟹とチャイナタウン

プレッツェルとの空の旅

空から見たシカゴの町並。都会だわぁ〜

5月2日から12泊13日の旅。10ヶ月間のアメリカ暮らしを堪能しまくった我が家の、これが最後の大旅行だった。この旅行から帰ると、だんなには最後の大仕事が待ちかまえており、それが終わればとうとう帰国。長いようで短かったアメリカ滞在だった。
「2週間くらい休みが取れそうだけど、どうする?」
とだんなから話を聞いた時に、真っ先に考えたのは「イエローストーン」。忘れもしない、アメリカに来て1ヶ月後。今が一番良い季節よね♪とイエローストーンに向かったはずなのに、何故かニューオーリンズ旅行をする羽目になったことは、多分一生忘れられない思い出だ。あれはあれで楽しい旅行だったけど、だんなが楽しみにしていたイエローストーン、せっかくだから行っておきたかった。

ワシントンD.C.にも行ってみたいねとずっと話していたこともあり、そこにも立ち寄れないかと各航空会社の飛行運賃をあれこれ検討。安いところを探した結果、American Airline使用で
テネシー→シカゴ経由でワシントンD.C.→シカゴ経由でデンバー→シカゴ経由でテネシー
という、ちょっと謎な旅程ができあがった。選択した航空会社では直行便がなかったとはいえ、シカゴ経由でワシントンD.C.って、めちゃめちゃ効率が悪いような気がする。シカゴ、まだ行ったことのない(行ってみたい)ところなのに乗り換えだけで今回三度も立ち寄ることになったのだった。

軽くパンの朝食を摂った後、空港へ。出発する時にはまだ曇り空だった空は、空港についた途端に雷雨になった。搭乗口付近のでっかいガラス窓からは、どっかんどっかん雷が落ちまくっているのがよく見える。とびきりでかい雷が近くにドドドーンと落ちた途端、空港の電気が一瞬ふっと暗くなった。すぐに明るくなったけれど、予備系統でも使っているかのように薄暗い。飛行機飛ぶのかなぁ……と心配していたところ、案の定
「雷雨で滑走路が全面閉鎖になってまーす。復旧したら順番に離陸するので、しばらくお待ちくださーい」
というアナウンス。乗り換え時間が1時間ほどしかなかったのでやきもきしていたのだけど、無事に15分遅れで離陸した飛行機は20分ほどの遅れでシカゴに到着した。

30分ほどしかない乗り換え時間、同じ航空会社の便なのに目指す乗り口は遙か彼方。ちょうどお昼時でお腹も空いていたけれどファーストフード店で何かを買う余裕もなく次の便に乗り込む。ワシントンD.C.近郊のバルチモア空港に到着したらシャトルバスで駅に向かい、そこから鉄道でワシントンD.C.まで30分。シカゴを飛び立った直後に通過したシカゴのダウンタウンを
「おおー、都会だわぁ。五大湖って、でっかいなー」
と感動して眺めた後は、ひたすら空腹との戦いになってしまった。2時間程度のフライトだから、御飯なぞ出ない。出てくるのは飲み物とプレッツェルくらいしかなく、塩気の強いプレッツェルをポリポリポリポリ食べながらひたすら我慢していた数時間だった。

やっと食べ物にありつけたのは、バルチモア空港の鉄道駅。ファーストフードくらいはあるだろう……と思っていたら小さな小さな売店しかなく、そこで売られていたサンドイッチは1個6ドル!それでも空腹を抱えて大荷物でホテルまで移動する力はとても出なさそうだったので、6ドルの卵サラダクロワッサンサンドと6ドルのハムチーズラップサンドを購入して電車の到着を待つ間にホームで食べた。ああ、何だか今日はとても忙しい。
自由の効く車の旅ならともかく、飛行機に乗る時はクッキーの袋を常備しておこうと心に決めた私だった。

モダ〜ンなホテル〜「Holiday Inn on The Hill」

HolidayInnとは思えないモダンな内装 午後4時過ぎ、無事にワシントンD.C.の鉄道駅Union Stationに到着した。予約したホテルは、駅から余裕で歩いて行けそうな数ブロック先にある Holiday Inn on the Hill。目の前には高級ホテルであるハイアットホテルがあり、高級感溢れるそのホテルの向かいにこぢんまりと建っていたホテルだった。今日金曜日は1泊110ドルくらい、明日明後日の週末は130ドルくらいの宿泊費。1泊38ドルとか42ドルとかいうモーテルの値段に比べるとめちゃめちゃ高級ホテルじゃん!という感覚だったけれど、ワシントンD.C.内のホテルの中ではそれでも比較的安価なホテルだった。何より、ユニオンステーションから歩いて行けるのが嬉しい。大荷物抱えてよたよたと歩いてホテルを目指し、チェックイン。

これまで何度かホリディ・インに泊まる機会があったのだけど、これまで体験したどのホリディ・インよりも小綺麗かつモダンな内装だった。ロビーには妙にスタイリッシュなソファが並び、アースカラーを基調にした客室も広さは普通だけれどモダ〜ンモダ〜ンな印象。ふんだんに用意されたタオルや、持ち歩き用のカップが添えられたコーヒーメーカーなど、「備品もやっぱり豊富だなぁ……安モーテルとは違うよね」とあちこちいじりたおしてみる。
建築関係の仕事をしているお義父さんの言葉によると、"ホテルやオフィスビルの「格」は便器のメーカーなどである程度わかっちゃう"ものなのだとか。あー、そういえばここのメーカーは○○だね、普通モーテルとかって××だったりするよね、とトイレを指さして話し合ってしまう私たち。
10階の、広々としたクィーンサイズのベッドが2つ並ぶ部屋からは向かいのハイアットホテルが良く見えた。

木槌でベキバキ〜「The Dancing Crab」

ホテルにチェックインして一休みしてしまうと、そこから観光に出る体力気力は今ひとつ沸かなかった。博物館なども閉まり始めてしまう微妙な時間帯だ。
「とりあえず、早めの夕飯にしちゃおっか」
「シーフード!カニ!!」
と、まだ日も高い町に繰り出した。なんでも、ワシントンD.C.の名物料理の1つに"木槌で叩いて食べる蟹"というものがあるらしい。そこらへんの店に入ればどこででも食べられるというものでもないらしく、事前にそれが食べられそうな店を調べておいてみた。向かったところはThe Dancing Crabという、可愛らしい名前のお店。ホテルからはちょっと距離があるその店に、地下鉄に乗って目指す。

金曜日の夕暮れ。近くに大学があるらしく、店の最寄り駅近くのメキシコ料理屋やカフェは学生らしき若者たちで大混雑だった。数百メートル歩いたところで目当ての店を発見したけれど、この店はそれほど混雑していない。どころかテラス席で数組の客がビールを傾け蟹を食べている以外には、店内の席にお客はいなかった。
「……同名の違うお店に入っちゃったとか?」
「……もしかして、観光客に有名だったりするだけで地元民には全然愛されていないとか?」
と少しばかり不安になりながらも、とりあえず店内の席につく。テラス席も気持ち良さそうだったけれど、長袖では汗ばむほどの暖かさの中、西日がガンガンに当たる席は汗まみれになりそうだった。

「もしかして全然人気の店ではなかったかも?」というのは杞憂だったようで、午後7時を過ぎると続々とお客さんがやってきた。店内のテーブルもちょこちょこと埋まっていき、帰る頃にはテラス席は満席。帰り際にはカップルが楽しそうに山盛りの蟹に木槌をバコバコ当てているのが見えた。
で、テーブルにつき、とにかく蟹だ。「カニ!」「カニ!カニ!」とメニューを見ると、
「"Hard Shell Crab"はご注文に応じてその日のマーケットプライスで提供していますよー。サイズもいろいろ!お出しするのに30分ほど時間がかかるのでお早めに!」
などという事が書いてある。シーフードもの以外はステーキやハンバーガーくらいしかメニューには載っておらず、その代わりシーフードものは蟹あり牡蠣あり海老ありロブスターあり、と嬉しい品揃えだ。

この地方の地ビールらしい"Foggy"というビールを注文し、そして蟹。
「この、ハードシェルクラブが食べたいんだけど?」
とメニューを指さしながら伝えると、給仕のおばちゃんは
「今日はね、ラージサイズがあるわよ」
とニコニコ。続けて「何個欲しいの?」と問われたけれど、ラージサイズの蟹がどのくらいのサイズなのかが今ひとつわからない。ついでに値段もわからない。とりあえずは1個ずつでいいか……?と、注文した蟹は2尾。あとは生牡蠣1ダース、メリーランドクラブチャウダーの小サイズ1つ。テーブルにはざら紙のテーブルクロスが敷かれ、床には巨大なバケツが置かれた。じゃんじゃん汚してじゃんじゃん喰え!というテーブルセッティングが整い、最初にやってきたのは生牡蠣。

どこに行っても生牡蠣は食べるのね…… 蟹風味ミネストローネという感じ スパイスまみれの蟹〜♪

大ぶりにざっくり切ったレモンが添えられ、小さなプラカップにはケチャップとホースラディッシュ。氷の上に盛られた生牡蠣はプリプリツヤツヤとして、鮮度も良かった。サイズはばらんばらんなそれを、
「あ、これはすごく大きいね。……おゆきさんにあげるよ」
「じゃあその代わりに一番小さいやつも私が食べるね」
と、1人6個の生牡蠣をぽいぽいと食べていく。レモンだけをぎゅっと絞って食べるのも美味しいし、ホースラディッシュを多めにケチャップと混ぜ合わせ、それをちょいと身に乗せて啜りこむのも、これまた旨い。海辺の町は、内陸と比べるとさすがにシーフードが美味しい。幸せだ。

そして、"具沢山のミネストローネ"といった風情のクラブスープ。トマト味が濃厚で、それ以上に蟹の味が濃厚。中には豆やピーマン、セロリなどがざくざくと入っていて、ほぐした蟹の身がこれまたたっぷりと。蟹入りのスープというより蟹の煮込みと言っても良いくらいの濃厚な蟹風味の、トロリこってりしたスープだった。クラブスープを前に、早々に幸せそうな我が夫。

そして、蟹。各々の前にはフォークと先が尖ったナイフ、そして木槌が置かれた。テーブルの中央に置かれたのは、片手に乗せるとちょっと溢れてしまいそうなサイズの、想像よりはささやかな大きさの蟹。表面は土で汚れているかのように赤茶色のスパイスが大量にふりかけられている。さて、どうやって食べたら良いやら。
「どうやって食べるの?」
と、持ってきてくれたおばちゃんに尋ねてみたところ、
「こうやってね、こう。殻はこうすれば簡単に取れるから、ここのところ取って、あとはこのへん食べられるから」
目の前でおばちゃんは鮮やかに1尾の蟹をパキョパキョと解体してくれた。ハサミの部分、身に沿う形にナイフの刃を当て、峰の部分木槌を当てて刃を押し込むようにカンカン当てると、殻が綺麗にパキョッと割れる。小さなプラカップには蟹にまぶされているものと同じスパイスと、ビネガーの2種類が入れられてきており、ビネガーにちゃぽんと身を浸して食べると、これがとても良い感じ。身そのものにはちょっと強めの塩気を感じるくらいだけれど、殻にまぶされたスパイスが手にぺたぺたつくので、その手で触った身ももれなくスパイス風味になってしまう。ニューオーリンズのケイジャン料理あたりで味わえるような、ピリ辛のツンとした香りが強いスパイスが、ビールとこの上なく似合う。ほんのり甘さのある、飲み口がカラッとしたビールも魚介によく似合っていた。

「からー!」
「うまー!」
「止まらないね」
「やっぱり、人は蟹を前にすると無言になっちゃうね」
などとわいわいやりながら蟹と格闘。しかし、1人1尾では物足りなかった。たとえラージサイズでも、この蟹だったら1人3〜4尾は楽勝で食べられそうだ。追加注文したいところだけど、また30分待つのか……と思うと、ちょっとめんどくさくもある。すごく美味しかったけれど物足りなさも感じつつ、この店を後にすることにした。

「あー、そういえば、ホテルに帰る途中の駅で降りるとチャイナタウンじゃなかったっけ?」
「中華街か。お弁当、売ってるかもね」
「チャーシュー丼とか、食べたいなぁ〜!」
と、急遽夕食第2弾を探しに行くことになったのだった。

Tenley Town 「The Dancing Crab」にて
Oysters on a half shell
Maryland Crab Chowder
Hard Shell Crab (Large)
Beer (Foggy)
$16.00/doz
$2.75
2×$4.00
3×$4.50

困ったときの中華街〜「東江海鮮酒家」

この、店の内装からしてそそられちゃう

"Chinatown"と名のつく地下鉄駅で降り、
「一体どこらへんがチャイナタウンなのかのー?」
と地上に出て見上げると、目の前に色鮮やかないかにもな門がそびえていた。一目瞭然、このあたり一帯がチャイナタウンであったらしい。ただ、広さはそれほどあるわけではなく、この周辺数ブロックにわたって飲食店や食材屋などが集中しているだけなような感じだった。10分もあれば一周できてしまいそうな印象の小さな中華街だ。エリア内にはスターバックスや、タンクトップ着用巨乳おねぇちゃんのウェイトレスさんが名物のHootersなどもあるのだけど、その看板には中国語が併記されている。Hootersは「猫頭鷹餐廳」だそうだ。

あそこ美味しそうだね、ここも気になる、とぽてぽてと歩いているうちに、
「そう、ここ!」
「我々はこんな感じを求めていたのだ!」
的な店が目に入った。道路に面した壁は大きな窓になっており、その向こうでおっちゃんが無表情に麺を打っている。その背後にはテラテラ光るチャーシューやダックや鶏がぷらんぷらんとぶら下がっている。いかにも、焼物弁当なんかを出してくれちゃいそうなところだ。
店頭で客引きしていたおばちゃんに
「テイクアウトもできる?」
と聞いてみると、できるよできるよさぁどうぞ、とドアが開かれ中に誘われる。調理台では麺打ちおっちゃんとは別のおっちゃんが褐色に焼けた肉をガシッガシッと円形まな板の上でカットしているところだった。あああ、美味しそう〜。
うまーうまーうーまー!!

ペラ紙のメニューを渡され、見ると懐かしの"飯"の文字が。
「"叉焼飯"、あるよ〜!」
「いや、僕は"油鶏飯"がいいなぁ」
さすがに1人1個の弁当を食べるのは多すぎると判断し、1個だけ作ってもらって皆でつつくことにしたのだけど、ずらりと並ぶ料理名を見て真剣に議論し始めそうになる私たち。幸い、その飯もの欄の一番下に"三寶飯"なる"三種の焼き物盛り合わせ丼"があったので、これにしようと全員一致で決定されたのだった。

ホテルに戻り、ちょっと落ち着いてから食べたのだけど、これがもう涙ちょちょぎれるほどの美味しさだった。
たまらなく懐かしい味が充満した弁当は、以前香港で食べた焼きもの弁当の味を思い出させてくれる。チャーシューは赤くテラテラと光り、懐かしい甘辛味。骨つき鶏のスライスはふくふくと柔らかく、刻み葱と刻みにんにくを油に浸したタレが添えられていた。香ばしく焼けた皮がつやつや光っているダックは、そうそうこの骨が喉に刺さりそうに鋭いんだよね、と妙なところに懐かしさを覚えて感動してみたり。鼻の奥にじわっと残るような燻製臭が良い感じだった。

ご飯がちょっとばかりポソポソモロモロとした今ひとつなものだったけれど、そのご飯の表面を埋め尽くすような大量の肉も嬉しかったし、その懐かしい味が何しろ感動ものだった。箱の隅っこ、ご飯にぎゅうぎゅう押し込むように塩茹でブロッコリーが添えられていたりして、それも一緒にだんなと奪い合うようにがふがふと食べた。
このお弁当が、昼には4.95ドルで食べられるらしい。私たちは夜に購入したので6ドルちょっとに値上げされていたのだけど、それでもお得感溢れる幸せな味だった。

Chinatown 「東江海鮮酒家(Chinatown Express Restaurant)」の
三寶飯(Triple Delight Roasting)
$7.40(税込で)

初日から食い気全開なワシントンD.C.旅行になってしまったけれど、明日明後日はスミソニアン博物館や美術館に入り浸る予定。建物そのものが何しろでかそうだし、そもそも博物館にたどり着くまでに駅からけっこう距離がありそうだし、だいたい博物館同士が隣接しているくせにこれまたえらく互いが遠そうだし、と
「一体どれだけ歩くことになるんだろ……時間が足りないというより体力が保たないような気が……」
など予感してしまうのだった。