5月3日(土) 太古のパソコンに会いに

ゴルゴな気分〜「Washington Monument」

まぁ……ただの塔と言えばただの塔なんだけど 今日は、午前10時にあらかじめ予約してあるワシントン記念塔に行かなければならない。朝起きて食事してから……というのも微妙な時間だったので、
「朝起きて、すぐ塔に向かって、それで早めの昼御飯(というか遅めの朝御飯というか)をがっちょり食べよう!」
という算段で行動することにした。

ホテルの最寄り駅Union Stationから地下鉄に乗り、ワシントン記念塔最寄り駅であるSmithsonian駅に向かう。
ニューヨークでもボストンでもアトランタでも、そしてここワシントンD.C.でも、アメリカの地下鉄は割とどこも似たような感じ。昔の映画や漫画であったような、"落書きされて真っ黒な車体"などというものにはお目にかかることはなく(アメリカの地下鉄ってどこもそんなかと勝手に思っていた←いつの時代の話だよ、という……)、どこで乗ってもそこそこ綺麗だし、深夜に乗るなどということをしなければそれほど治安も心配ない。

ただ、他の町の地下鉄は"トークン"と呼ばれる乗車専用の小さなコインを購入して乗るところが多かったけれど、この町は薄っぺらい磁気カードを購入して自動改札を通る仕組みになっていた。自動券売機の前に立つと、
「20ドル分のカードを買うのー?違うんだったら金額を訂正してね」
という画面になり、5セント刻みで好みの金額のカードを購入できる。時間帯と距離によって異なるけれど、おおむね1回乗れば1ドル10セント。今日は5ドルの一日乗車券を購入して観光することにした。普通のカードにはパンダの図柄が入っているけれど、一日乗車券は文字だけのもの。
「パンダ!パンダのカード持って帰りたいね」
「いや、でもさ、金額ぴったりに購入すると出るときに回収されちゃうじゃない?」
「だから、最初から5セント多い金額でカードを買っておいて、最後に回収して記念にする!」
「……すごい情熱だね、君……」
と、だんなはパンダカード持ち帰りの野望に燃えていた。結局その後、本当に5セント多く払ってカードを記念に持って帰ったのだった。

ともあれ、無事に到着したSmithsonian駅。駅に降りて周囲を見渡すと、にょっきり伸びているベージュ色の塔はすぐに見つかり、そちらを目指して歩いていく。Washington Monumentは、アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンの偉業を称えて造られたものらしい。自立する石造建造物としては世界一の高さだけれど、米国内のNational Monumentの中ではセントルイスにあるGateway Archより少し低い。ゲートウェイアーチと同じく、上の展望台まで行くツアーが人気ということだった。
狙撃できそうかも、と不穏な事を考える

塔に上るためのチケットは、毎朝早くから配布されると聞いたけれど、数時間でなくなってしまうのだとか。毎朝配布されるチケットは無料だけれど、1人1.5ドルプラス発行手数料0.5ドルを支払えば、Web上であらかじめ「○月○日○時の分のチケットを○枚」と予約しておくことができる。クレジットカードで支払いをして、あとは当日窓口でチケットを受け取るだけ。予定時間の20分ほど早めにチケット売り場に到着してみると、既に今日の分のチケットはなくなっていた。塔の前では朝一でのぼってきたらしい学生のグループが記念撮影をしていた。塔の高さは170m。下から見上げるとけっこう迫力がある。

10時の回の列に並び、荷物検査され金属探知器ゲートをくぐってから、いよいよ上へ。巨大なエレベーターに20人ほどが詰め込まれ、一気に上まで連れていかれる。塔上部の三角錐の根元あたりが展望台にあたり、上に行ってしまえばなんてことない展望台ではあった。四辺に1つずつ小さな覗き窓がついていて、外界を眺めることができる。帰りのエレベーターは特に決められていないので好きなだけ上にいることができるのだけど、それゆえにぎゅうぎゅうと大変なことになっていた。国会議事堂を見下ろす側と、そしてホワイトハウスを見下ろす側がめちゃめちゃ人気。窓の背後に順番待ちの人が10人15人と並んでいる。唯一ホワイトハウスを下に見ることができる建物だと思うと、ちょっとわくわく。
「ゴルゴだったら狙撃できるかな?」
「できないよ!」
と塔上部で夫婦漫才を繰り広げつつ、ホワイトハウスを見下ろした。これがホワイトハウスなのねー。

National Mall 「Washington Monument」にて
Ticket
Administrative Fee
3×$1.50
$0.50

手打ち麺を食べに行こう〜「東江海鮮酒家」

塔から降りると、さすがに腹ぺこだった。ちょっと行ってみたいと思っていたステーキ屋さんがあったので、昼もやっているんじゃないかと地下鉄に乗りそこを目指してみたのだけど、残念ながらランチ営業は平日だけで、週末はお休み。ちょっとばかりショックを受けつつ、
「じゃ、今日もチャイナタウンだね」
「あそこ!昨日食べたお弁当の店でラーメンを食べよう」
「手打ちラーメンかぁ〜……いいね」
と、すぐさま方向転換してチャイナタウンへ。

12時を過ぎ、店はかなりの混雑ぶりだった。お客のほとんどは中国人のようで、店内は中国語が飛び交いまくっている。昨夜店頭で言葉を交わしたおばちゃんが、「あらまたきたの?」という顔をして席に案内してくれた。
だんなは手打ちの汁麺を、私は豆鼓味の排骨飯を。これも食べたいあれも食べたいと、小龍包や半羽分のローストチキンなどを注文してしまったら、テーブル上は大変なことになってしまった。鶏半羽はさすがに多いかな、と言っていたら、案の定多い。それでも、美味しいものばかりが並ぶテーブルはとても幸せな光景だった。

ちょっと汁気は少なかったけれどプリプリの小龍包 優しい味の汁麺 こってり濃厚な排骨飯

最初にやってきたのは小龍包。白菜が敷かれた蒸籠に8個の小龍包がころりと並んでいる。手打ちの皮はちょっとばかりモチモチ感が足りなく、皮に包まれるスープもちょっと少なめ。「これはめちゃめちゃ美味しい小龍包だー!」……というほどのインパクトはなかったものの、優しい味の小龍包だった。
小龍包を食べている間に、小山のようなローストチキンもやってきた。ツヤツヤを輝く皮目を上にして並べられた鶏には、甘辛醤油系の味のタレがかけれらている。ブロッコリーも添えられ、更に小皿に酢漬けのにんにくと刻み葱と刻みにんにくを油に浸したものも並べられた。
「……あららー、これまたビールに似合いそうな……」
「いや、今飲んじゃったらね、賭けてもいいけど午後は使い物にならなくなるよ」
ごにょごにょと呟いた後、お茶と水を傍らにわしわしと鶏を食べる。ふくふくと身は柔らかく、皮はじっとりと脂の甘い味。そのまま齧っても申し分ない味の染み込み具合だし、葱を乗せて食べるのもこれまたいける。

そして、だんなの前には"いかにも手打ち"といった外見の汁麺が、私の前には黒茶色にテラテラと光る濃厚そうな排骨飯がやってきた。
麺は、これまたいかにも手打ちといった感じの食感で、ちょっとプツプツと切れがちの柔らかなもの。香菜がたっぷり浮いた薄味のスープの中には、薄味に甘辛く煮た牛肉と青菜。スープも麺も具も、優しい味の懐かしい風情の麺料理だった。そして私の前には濃い濃い味のぶっかけ飯。揚げてからタレに漬け込んだような骨つき豚肉がざくざくと大量に白い御飯の上に盛られ、葱や青菜も入っている。黒々としたタレは、こってりと甘口な回鍋肉のタレに似たもの。僅かに辛く、そして旨い。しかし胃に溜まりまくるヘビィな料理だった。

さすがに全品きれいに平らげることはできず、鶏と排骨飯は包んでもらうことに。テイクアウト用の小ぶりな紙箱に詰めてもらったそれを、ぷらぷらさせながら次の目的地にゴー。

Chinatowan 「東江海鮮酒家(Chinatown Express Restaurant)」にて
小龍包
鼓油鶏 1/2羽
排骨飯
牛肉麺
 
 
 
合計32ドル(チップ込)

2003年宇宙の旅〜「National Air and Space Museum」

午後はいよいよスミソニアン博物館群巡り。博物館群が集中するNational Mallエリア外にも郊外に動物園などもあり、見学できる施設数は16ほどもあるらしい。見学は、全て無料。元はイギリスの科学者の私財からつくられた協会なのだそうだけど、ばかでかい博物館群がうじゃうじゃと並ぶ様は壮観だ。博物館1個1個がめちゃめちゃでかいのに、それらが並ぶ敷地もばか広いもんだから、一体全てを見て歩くのにどのくらいの時間がかかるのか検討もつかない。
おおー、生飛行機がこんなにー

最初に行ってみたのは、National Air and Space Museum(国立航空宇宙博物館)。博物館群の中でも特に子供に人気がありそうな館で、しかし楽しみにしているのは私とだんななのだった。私は宇宙分野の展示に目がハートになり、だんなは飛行機の展示に胸ときめいている様子。私が子供の頃に日本にやってきた"月の石"もあるし、火星の石もある。広い広い展示ホールの中には、本物の飛行機がずらずらと空中に展示され、床下からはいくつもロケットが生えている。月着陸をしたロケットも内部が見えるような展示がされており、
「うっひゃー」
「すごいー」
子供のようにはしゃいでしまう私たち。だんなは
「おー……零戦」
「……おー、ブルーインパルス」
と本物の戦闘機を前にため息をついていた。

館の隅にフードコートがあるのを見越し、後半にそこを通るようにルートを考え、館内を一周。予想通り、フードコートにたどり着く頃には足がガクガクになるほど疲れていた。ジュースを飲み、ソフトクリームを舐めて一休み。
ぐるりと一周した後はミュージアムショップを軽く眺め、次の目的地まで再びてくてく歩く。

これが太古のパソコンか〜「National Museum of American History」

おそらく我が夫がワシントンD.C.で一番楽しみにしていたのが、次に向かったところNational Museum of American History(国立アメリカ歴史博物館)。その名のとおり、アメリカの歴史が詰まった博物館で、人気のコーナーは歴代大統領に関する展示コーナーや、その夫人であるファーストレディに関する展示コーナーあたりであるらしい。現在はファーストレディコーナーの向かい側、けっこう目立つところに9.11のテロ関連の展示も作られており、入口前にポールが並んでいたところを見ると混雑時にはかなりの人がやってくるような感じだった。

私たちの目当ては、大統領でも夫人でもアメ車の展示でもなく、コンピューター。以前ボストンに行った時に閉館していて見られなかったコンピューター博物館が、それはそれはだんなは残念だったようで、
「初期型パソコンならスミソニアンにもあるらしいよ」
という話を聞いてからはここに来るのをそれはそれは楽しみにしていたのだった。入口でマップを眺め、どこを目指すべきか検討する。全てを見ようとしたら、1日あっても足りなさそうだ。

最初にちらりと眺めたのは、ファーストレディのコーナー。歴代のファーストレディが着用したという夜会服の展示があったり、直筆手紙や招待状まで飾られている。そのまま早足に、「パソコンがあるのはここじゃろうか」とElectricityのブースへ。んが、そこに展示されているのは初期の電球やモーター、発電器などの類ばかりでパソコンという感じじゃない。どこどこ、どこよー?ともう一回マップを眺め、Information Ageなるコーナーに向かった。
こちらは手回し計算機

1つのブースだけで1回分の展覧会の内容が余裕であるんじゃないかという膨大な展示物の中、前半に見かけたのは「手回し計算機」。日本製のタイガー計算機の話を、確かプロジェクトXか何かで見たことがある。外見は、計算機というよりはレトロチックなレジのよう。その後、黒いタンスが並んでいるかのような巨大な初期も初期のコンピューター(でも性能は現在の関数電卓よりも低かったらしい)の展示があり、そしてパーソナルコンピューター時代の到来だ。8インチサイズのペナッとしたフロッピーディスクが5インチ、3.5インチのものと共にケースに入れられている。
「そうそう、フロッピーディスク以前はさ、テープレコーダーに記憶させたりしてね」
「そうそう、ファミリーベーシックとかでね、ピーヒョロヒョロガーッてね」
もう私ら、古い世代の人間じゃけぇ、という気分になってくる。あたりまえに使っていたものがこうしてガラスケースの中に展示されているのは微妙な気持ちだ。
昔昔のパソコンたち

そのうち、テレビのモニターに厚さ5cmほどはありそうなキーボードがくっついたような外見のパソコンの展示も並び始めた。
右側の写真に写っているのは、左が「APPLE U」、右が「COMMODORE 64」。APPLE Uは1977年に世に出され、それまで主に使われていたカセットテープの記憶媒体ではなくフロッピーディスクを使用するようになっており、カラーかつ高解像度のモニターが画期的だったとか。デザインも優れていたということで、かなりの人気が出たらしい。COMMODORE 64は1982年に発売されたもので、最もポピュラーなホームコンピューターとして売れまくったもの。入力にはキーボード以外にジョイスティックも使えるようになっていた。当然、使用目的はゲーム。ワードプロセッサーとしても役立っていたということだ。

「うぉー!アップルツー!」
「ああっコモドアだぁ」
と、だんなはうきうきと各マシンの前に張り付いて説明文を読んでいた。最後には、チェスのワールドチャンピオンに最初に勝利したコンピューター、IBM社の「Deep Blue」も置かれていた。

コンピューター関連の展示を見るだけで、既によれよれに疲れていた私たち。
最後にモハメッド・アリが使っていたというボクシンググローブや、ベーブルースのサイン入りのボールを眺め、貨幣とメダルの展示コーナーをざざっと眺めて博物館を後にした。うう……地下鉄駅まで遠いじゃないか。

とにかくいっぱいあるのよ?〜「Senatores Grille」

せっかくのワシントンD.C.。食べたいものはあれこれあったけれど、午後5時過ぎて宿に帰ってきた頃にはもう、膝も腰もがっくがくになるほど疲れていた。ベッドに倒れ込むと、もう遠出する気力は1mgも残っていない。
「ユニオン駅に行けば、フードコートにいろいろあったよねぇ」
「……いや、駅まで行くのがそもそもつらい……」
「じゃあ、このホテル1階のスポーツバーってのは?」
「あ……いい、それ、いい」
「エレベーター降りて1階に行って、スポーツバーでビールかっくらって終わりにしようか」
「そうそう、そんな感じがいい」
と、やる気ないまま、ビール飲んだらそのまま倒れて寝てもOKなようにシャワーを浴びてから階下に向かった。

今回滞在しているホテル、Holiday Innは、何でもオーナーが「昔、子連れ旅行をしていたときに、子供向けのサービスがあるところが全然なくて、非常につらい思いをしたので……」とかいう理由で、子供の飲食代は全てタダ。一般のお客さんもやってくるスポーツバーなのでメニューには子供向け商品の値段が記載されてはいるものの、「宿泊客だよ」と伝えれば料理もジュースもアイスクリームも全部無料だ。ちょっと嬉しい。
ナチョスというより……ピザ?

昔、ワシントンD.C.にあった野球チームSenatorsの名前がついたスポーツバーは、古めかしさを演出したいかにもなダイナーの光景の店だった。メニューは、ハンバーガーとかステーキとかいかにもな感じのものばかり。私たちのテーブル担当の黒人のおばちゃんは、やたらと明るい表情豊かな元気な人だった。とりあえずビールのつまみにとナチョスを注文し、続いて他のものも注文しようとしたところ、
「だいじょーぶ?ナチョス、すっっごく大きいのよ。食べきれないかもよ。ゆっくり食べて、それから次の料理を決めるといいわ」
とまくしたてたかと思うと、そのままどすんどすんと去っていく。息子にコーラをくれる?と言ったらば、
「ノンノンノーン。コーラはないのよ。悪いわね。ペプシならあるわよ。ペ・プ・シね、ペプシ。それでOK?OKよね。アッハハハ」
これまた当社比500倍くらいのテンションの返答が返ってくる。もう大変。
ホテルについている店だけど、常連客もそこそこ多いらしい。隣のテーブルにやってきたおっちゃんらは常連さんらしく、テンション500倍おばちゃんと「あんらぁ〜、久しぶりね」てな感じに抱き合ってチューしたりしている。

テーブルには、地ビールらしい"Sanators Ale"という褐色のビール。濃い味で後味軽く、けっこう好みな味だった。そして、確かにボリュームたっぷりだったナチョス。ナチョス本体がなかなか見えないほどに、上からはチーズとトマトとオリーブとハラペーニョが散らされている。アツアツで腹も膨れて、なかなか旨い。チーズがどっぷりついたところをつまんでポリポリポリポリやっているとビールもすぐになくなってしまい、更にもう1杯ずつ注文。おばちゃんの忠告どおり、ナチョスを食べていたらかなり腹が膨れてきてしまったため、メインディッシュはハンバーガー1皿をだんなと分け合うことにした。
「ハンバーガーね?1つでいいのね?2人でシェアするのね?オゥケェェェイ♪」
やっぱり元気にオーダーをとっていったおばちゃん、数分後には2皿にきっちり等分したハンバーガーを持ってきてくれた。巨大な肉と分厚いトマト、レタスとマッシュルーム。高さ10cmくらいになっているようなハンバーガーが、見事にまっぷたつになって2枚の皿に盛り分けられている。ポテトも半分、ピクルスも半分。見事なまでに"2人分にシェアされたハンバーガープレート"がやってきて、ここまでは予想していなかった私たちは顔を見合わせて笑ってしまう。

どれも、とんでもなく美味しい!というほどのものではないにせよ、安心して食べられるなじみ深いアメリカの味のものばかりだった。ナチョスとハンバーガーで腹を満たし、ビールも美味しく、ご機嫌になり上階の部屋に帰還。
しっかし、足がもうパンパンなんだけど、明日も無事に歩きまくれるかどうかがちょっと不安。筋肉痛になりそうだ……。

Capitol Hill 「Senators Grille」にて
Monumental Nachos
Killebrew Burger
Beer (Sanators Ale)
Mac & Cheese
Ice Cream
Coke
$6.95
$9.25
4×$3.75
無料
無料
無料