12月2日(土) 宮武・彦江・がもうなど

早朝のセルフ〜高松市「さか枝」

讃岐の朝は早い。7時から営業しているうどん屋もあると聞く。ならばと7時に起床し、身支度を整えた私たちは早速車に乗り込み出発する。目指すはホテルから2kmほどもない「さか枝」なるセルフの店。県庁のほど近くに在するこの店、昼は大変な混雑になるということだ。

ここは麺も自分でゆがかなければならないらしい。セルフサービスの中でもよりセルフ度の高い店だ。だんなは自分で麺をゆがきたくて仕方がないようなのであった。
「ゆがくんだよ!自分で!」
妙に力が入っている。はいはい、思う存分ゆがいて下さい。

午前8時、到着すると2〜3人の客がずるずるとうどんを喰っていた。奥のカウンターにいなり寿司や天ぷらが並び、客はそこでうどんを注文する。奥のおばちゃんから手渡されるどんぶりに入ったうどんを、目の前の四角い鍋に満たされた湯でゆがくのだ。各自使えるように、"味噌こし"然とした深さのある手つきのザルが置いてある。

「さか枝」

だんなは「かけ」の大を嬉々として注文。早速どんぶりに入れられた2玉のうどんをザルに移し、わっしゃわっしゃとゆがいている。楽しそうだ。
私は茹でたての麺が食べたかったので「釜あげ」の小を注文。これは奥で茹でている巨大な鍋の中から湯ごと麺をどんぶりに入れてくれる。これはゆがく必要なし。麺と蕎麦猪口に入っただしが一緒にトレイに乗せられて出てきた。天ぷらを1つ小皿の上に乗せ、お会計して席につく。背にある棚で葱や天かす、生姜などのトッピングも忘れずに。

「さか枝」釜あげ・小 こっくりと甘いつけだれだ。かなり濃い味で、東北人を母に持つ私にとっては適度に心地よい甘辛さ。対してだんなのだしは薄口で淡い塩気だ。私もだんなも天ぷらは桜海老のかき揚げ。しっとりとした衣は良くだしを吸う。

麺は若干柔らかめで、ツルンと滑らか。ずぞぞぞぞーと朝から胃袋に良く入る。朝の寝ぼけた頭と舌には丁度良いような、自己主張の強くない麺とだしだ。蕎麦猪口に入りきらない天ぷらをなんとかつゆに浸して囓りながらアツアツのうどんをすする。ああ、朝からなんだか幸せ。さ、それじゃ市外に出て本格的にうどん巡りをしよう。

08:00 高松市「さか枝」にて
釜あげ(小)
天ぷら
\160
\80

ああ愛しのゲソ天〜琴平町「宮武」

本日は、一気に遠隔地の店に赴き、市内に戻る道すがらうどんを食べまくろう、という趣向。
「"宮武"のゲソ天は旨い!」
と各所で噂を聞き、まず向かったのは「宮武」というお店。

国道を走り県道を走り、ひたすら県の北西方向にどんどこ進む。9時半についたその店は、もう近所の人やら何やらで少々賑わっていた。比較的わかりやすい看板に駐車場完備。行きやすい。
入るといきなり右サイドに揚げ物のトレイ。大きな大きなゲソ天が真っ先に目に入る。皿に乗せたら確実に溢れるそのでかさ。うひょー、美味しそー!
簡素なテーブルと椅子がいくつか並び、奥には20人ほどが入れそうな座敷もある。

「宮武」巨大なゲソ天

「あついんな?つめたいんな?」
うどんを茹でているおっちゃんが聞いてくる。壁には「あつあつ・ひやひや・あつひや・ひやあつ」とあの夢にまで見た(見るなよ)メニューがかかっている。ちなみに前者が麺の熱さで後者がだしの熱さである。だから「ひやあつ」は冷たく締めた麺に熱いだしをかけるのだ。我々夫婦は「あつあつください」「私はひやひや」と臆せず注文。

「あ、そこ上がって食べてやー。席あいてるでしょ?天ぷらもそこから小皿に取ってやー。」
店のおっちゃん、親切である。県外から来た初めての客というのがもうバレバレな様子。いそいそと奥にある座敷に靴脱いで上がり、卓に置いてあるピカピカの生姜と生姜おろしを眺めて「……生姜だ。自分ですれということか。」とびっくりしている間に麺が出る。ピカッと光る麺に葱、だしもかかっている。軽くねじりの入ったような筋の通った、ずしっとした麺だ。

このお店の天ぷら、どれもこれもご立派である。噂のゲソ天も皿から余裕ではみ出るサイズだし、さつまいもの天ぷらの厚ぼったくて大きなこと、我が家でつくるものの当社比2倍くらいである。魚介の揚げ物は\110、その他は\90という価格設定だ。うきうきと思わずさつまいもとゲソ天の2つを皿に盛ってきてしまう。だんなに「おゆきさん、止めときなよ」と忠告を入れられるけど気にしない。後で後悔することになっても、私はここの天ぷらを満喫したい。ねぇそうでしょさつまいも。

「宮武」ひやひや・小 ずっしりした見かけの麺は、やはりずっしりしていた。滑らかで喉ごし爽やかだけれどもねっちりとしたコシがある。キュッキュッキュッと喉から下に降りていく。旨い。キリッとしたさっぱり味のだしは、でも旨味たっぷり。ゲソ天の油を吸ってやわやわと濃厚になっていくのがまたたまらなく美味しい。そしてそして、やはり天ぷらだ。しっとりとした衣のゲソ天の中身はこれまた巨大なイカの足が入っている。じんわりとした旨味と塩気があって、そのまま喰っても充分美味しい。だしに浸してもこれまた美味しい。油が良いのか何なのか、妙に美味しい天ぷらだった。旨いっす、何もかも旨いっす!もう最高!

しかし、こんな午前中早くに天ぷら2個喰っちゃっていいのかね。結局やっぱり後で猛烈に後悔することになるのだけど、それはまた先のお話。

09:40 琴平町「宮武」にて
ひやひや(小)
ゲソ天
さつまいもの天ぷら
\230
\110
\90

そのコシに敗北〜善通寺市「山下」

「宮武」からほど近く、「"かみしめ"のあるうどん屋」があるらしい。その名を「山下」という。
何でもものすごいコシなのだそうである。驚愕の冷やしうどんだということだった。行ってみましょうそうしましょう。

車を飛ばし、「宮武」から10分ほどで「山下」に到着。プレハブ造りの、ごくごく普通のありきたりなうどん屋さんである。造りからすると、「うどん屋ブームだから最近オープンしちゃったんだもんね」という感じであまり美味しそうな気配は感じられない。「……ここ?」と若干の不安を覚えながら店に入る。

厨房ではすごい数のおっちゃんおばちゃんが働いていた。湯気がもうもうと立っている。「はーい、何にしますぅ?」おばちゃん、元気が良い。「上に上がって食べます?下でも良いし。」と奥の座敷にいざなわれた。
私はコシがものすごいという「冷やしうどん」の小を、だんなは「釜あげ」の小を。

こちらがセルフサービスのお茶など汲み、だんながおでんの鍋に張り付いて牛すじと卵を小皿に乗せている間に座敷にうどんが並べられた。窓際のおでん鍋がその湯気で窓を曇らせているのをぽやーっと眺めつつうどんをすする。……って、何だかこの「小」、量が多いような?

「山下」冷やしうどん・小 どんぶり、巨大なのである。店によっては御飯茶碗くらいの小さなどんぶりのところもあるというのに、ここのは浅めではあるけど直径が大きい。しかもうどんは太い。大きなどんぶりにたっぷりの冷水が張られ、その中には何とも太いピカピカの麺がたゆたっているのだ。迫力だ。圧巻だ。今更ながらに「宮武」の天ぷらダブルがじわじわとボディーブローのように利いてくる。ああ、さつまいも、私は貴方を食べてはいけなかったのかしら。自問自答しつつ冷えたうどんと対峙する。

目の前には蕎麦猪口だ。そして刻み葱の乗った小皿。つけだしは巨大な巨大な徳利に入ってテーブルにやってきている。冷やしうどんには冷たいだし、釜あげには温かいだし、徳利が2つ、ごろりとテーブルに乗っている。どぼどぼと各自黒々としただしを器に注ぎ、では食べましょうか、といよいようどんを啜る。

……堅い。
そして長い。
噛み切れない。
そう沢山のうどんを口に入れたわけでもないのに、そのうどんの太さで口の中がうどんだらけになってしまう圧迫感がある。見た目迫力のあるうどんは、口の中に入れても迫力だったのであった。こちらに来て、うどんの1本が隨分長いものだと何度も感じてきてはいたけれども、ここもまた長い長いうどんなのである。しかも噛み切ろうとしても、ボヨヨンとした強い弾力があって噛み切ることはかなりな困難を要する。目を白黒させながらなんとか一口目を飲み込んだ。……うひー、美味しい。

濃いめのだしもさることながら、このうどんの力強さにびっくりだ。
ぞぞぞぞぞ、ねちもちねちもち(かみ切ろうとしております)、うひー。
ぞぞぞぞぞ、ねちもちねちもち、どひー。
うどんは噛んじゃいかん、とも聞く。そうは言ってもこれ噛みきらなかったら私、窒息してしまいます。ここはひとつ噛ませてもらいます。でも噛めません。どうしましょう。
はたしてだんなの「釜あげ」の方は冷水で引き締めてない分、若干噛みやすくはなっていたけど、やっぱりすごいコシなのであった。だんなの大根を奪って食べ、牛すじを奪って食べる。うどんとおでんという組み合わせも合うものだ。

座敷の周囲はいつのまにか親子連れが2組座っていて、全ての家族がうどんをずるずると啜っているのであった。何だか壮観な光景になっているのであった。

10:00 善通寺市「山下」の
冷やしうどん(小)
おでん・牛すじ
おでん・たまご
\250
\90
\80

おかんのうどん〜坂出市「彦江」

今日の午後のメインは坂出市にある「がもう」である。「がもう」の近くには「彦江」もある。この「彦江」にとりあえず車を向けてみることにした。うどん粉のプロがお墨付きを与えたという製麺所である。

詳細地図を見ながらどんどこ進む。地図を見てもわかりにくい。川の側、神社の裏、とキーワードはいくつかあるのに、そもそも車が入れないのだ。止める場所が見つからないまま行き止まりに突っ込みそうになり、神社の境内に進入しそうになり、よろよろしながら民家の脇に「ごめんなさいごめんなさい10分で戻りますから」と頭を下げていそいそと徒歩で店探し。

周囲はまんま、ただの住宅街である。二階建ての普通の民家がえんえんと続くなか、アタリをつけてさまよい歩く。目の端にプレハブの小綺麗な小屋。あ、あれか!?
ガラス窓の向こうに透けて見えるおばちゃんの姿、あの前後に揺れる動作はうどんを打ってると見て良いのか?良いのか?じわりじわりとプレハブ小屋に移動する。「彦江」の文字はどこにもない。「中へどうぞ」とアピールするような目安も何もない。ただただ普通のプレハブ小屋で普通のサッシの入り口だ。ここで臆してはいけない。がらりと扉を開けて、「食べられますか?」と問うだけである。「どうぞ」と言われたらそれで良し、「何を?」と言われたら「失礼しました」とそのまま後ずさって扉を閉めれば良いことだ。

果たして、「食べられますか〜?」と扉を開けた私たちに返ってきたのは
「どうぞどうぞこちらに入って」
と想像以上に元気なおばちゃんの声だった。

「彦江」うどんぐらぐら

すごい。中はおばちゃんしかいない。おばちゃんが麺を打ち、おばちゃんが麺を茹で、おばちゃんが麺を水で締めている。魅惑のおばちゃんワールドだ。どこから見ても作業場、という風景の片隅、ドアのない区切りを抜けたところに椅子がずらりとカウンター式に10個ほど並んでいる。中ではこちらもおばちゃんがうどん喰ってる。

「1玉、ください。」
と言うと、おばちゃんが今水で締めたばかりの麺を小さなどんぶりに入れてこちらにくれる。
「そこで茹でてねー」
と指さされたところには、巨大なうどん茹で機(というか鍋というか)が今まさにうどんをグラグラ茹でているところだ。置いてある一人用のざるにうどんを入れ、茹だっているうどんと共に湯の中に入れて少々ゆがく。ゆがいたところで椅子席そばのコーナーにあるタンクからだしを入れ、トッピングをかけて食す。お代は後払い。

「葱乗せてねー。だしは出が悪いけど、ごめんなさいねー。」
おばちゃん、めちゃめちゃ親切だ。トッピングは葱や胡麻、生姜は無料。おあげや天ぷらも別途揃っている。ここはシンプルにただだしと麺と葱でいただくことにする。

「彦江」かけ・小 ツルンツルンとしたうどんだ。コシも柔らか、だしの味も柔らかだ。一口啜るとふぅ、とため息が出てしまう。優しい優しい柔らかな印象ばかりの麺とだしだけど、物足りなさは不思議と全くない。「おかん手作りのうどん」という感じで何とも暖かみがある。均質な麺は飲み込み始めるといっくらでも入っていきそうだ。ああ、こういうタイプもまた美味しい。

後払いの代金は自己申告制。
「かけの小2つとね、揚げ物1ついただきました。」
と言って計370円を払って出る。
「ありがとねー。」
の声を背に聞きながら。
うーん、いいなぁ。何だか肩の力がすっと抜ける、良い感じのお店だった。しみじみしちゃう。

11:00 坂出市「彦江」にて
かけ(小)
\130

おやつを食べよう

時間は丁度、昼時。ここまで喰ったうどんの玉数は総計9玉である。まだ午前中終わったばかりなのに何ということだろう。今までのは「朝御飯」とカウントして良いのだろうか。悩む。

うどんを食べまくるということは、水分を取りすぎてるということだ(だしを相当量飲み干してるから)。ついでに塩分も取りすぎているに違いない。おそらく炭水化物も脂肪分も著しく摂取過多であろうけど、それにはとりあえず目をつぶる。
水分と塩分を取りまくるとどうなるかというと、トイレが近くなるのであった。

「"がもう"に行かなきゃ」
「で、でもその前にトイレ。トイレトイレトイレ。」
と、近隣にあった坂出駅前のサティに飛び込むことにする。ついでに食料品売場をちらっと覗いて香川ならではの妙なものはないかという探索も兼ねて。

出すもの出して、身も心もすっきりさっぱり。食料品売場で調味料やジュース類を物色した後、再び駐車場へと戻る通路脇で私の目は釘付けになってしまった。シュークリーム専門店である。カウンターの向こうにはシュークリームが山と積まれていて、さらにその背後では巨大なオーブンで続々と更なるシュークリームが焼き上がっている。周囲に漂う甘い匂い、お店の名前は「beard papaの作りたて工房」というらしい。何だかとても美味しそう。よせばいいのに思わず3個購入する……もとい、だんなに買ってもらう。

「うどん散々喰ったあげくに"シュークリーム3個ください"なんて、俺はおゆきさんの気が違ったのではないかと思いました。」
と後にだんなは述懐する。
でも私は口の中のだしと醤油と小麦粉ばかりの後味をちょっと何とかしたかったのだ。卵と乳製品のハーモニーが私を呼んでいたのだ。実際シュークリームは美味しそうだったし。

サティの駐車場で一休みしつつシュークリームを囓る。1つずつ、四角形の2辺が閉じられた小袋に入れてくれていたシュークリームはふかっサクサクッとした食感。滑らかなカスタードクリームもたっぷり詰まっている。クリームの水分でぺっしょりしてないシュークリームはかなり良い感じ。おやつを美味しくいただいた……ってもう12時ですがな!
ああ早く「がもう」に行かなくちゃ。

まじ最高のロケーション〜坂出市「がもう」

本日のお昼のクライマックスターゲット「がもう」を目指す。
『恐るべきさぬきうどん』にて曰く、「ダシはイデやぞ」なのだそうである。"イデ"とは用水路のようなもの。うどんを喰った残りのだしをイデに捨てるのだそうである。いや、実際はバケツがあるのでそこに入れなきゃいけないらしいけど。何でもものすごく風光明媚な地にあるのだそうだ。味も抜群。となったら行かなきゃいけない。

昼過ぎた。混雑必至の時間帯である。話によるとかなりシビアなカーブを抜けていかなくてはならないらしい。我が夫の運転技術で果たして「がもう」に辿り着けるのだろうか。

入るべき細道はすぐに視認できた。でもこれ、一車線しか無いのですけれども。畑の脇のその道路、細い上にかなりくねくねしている。本当に"シビアなカーブ"だ。

「多分そこ、そこをね、ぐぐぐーっと奥に入っていく。」
「よっしゃ、行くぞー。」
「……せ、狭いね。1車線分もないね。」
「……おおおーカーブがあるぞー狭いぞー。……で、まだ?」
「まだ先……だと思う。がんばれー行けー。行っちゃえー。」
「ふおー、落ちるーっイデに落ちるーっ!」
大騒ぎである。

するとそれまで民家だらけだった目の前が田畑になりぱっと開ける。開けたところの右手に「うどんがもう」の看板が見え、周囲は人と車で大混雑。その奥にはなんとも美しい紅葉の山が見える。絶景だ。しかし……凄い人だねこりゃ。

「がもう」全景

何とか車を専用駐車場に止め、行列に並ぶ。店の前にはイデ。建物に沿う形でイデが走り、店へは橋を越えて入る。イデは思ったよりもかなり深いし案外と幅広い。見ていると、うどんの茹で汁らしき白く濁った湯がどぼどぼと店からイデへ流れていく。周囲に漂うもうもうとした白い煙。
「おおおーここにダシを捨てるのかー。」
と妙な感慨がある。だから捨てちゃいけないんだってば。

ほったて小屋のような、失礼ながらぼろっちい店の中ではおっちゃんが大釜の前でうどんを茹でていた。「何でこんなに混んじゃうかなぁ」といった感じに憮然としたしかめ面のおっちゃんである。
そこへ「小ください」「大ください」と申告し、ゆでたての麺を入れてもらう。更に奥に進むと揚げ物のトレイがあり、好みで乗せてからそこでお勘定を払うシステム。私はさつまいもの天ぷら(←また喰ってる)、だんなはちくわの天ぷら(※写真はこちら)。全部で340円とこれまたお安い。

「がもう」かけ・小 お勘定を済ませ、人の波をかいくぐって更に奥に進むと大鍋に熱いだしが入っている。これを適宜自分ですくい、脇のねぎを乗せ、そのへんの席かあるいは外のベンチで食すのだ。言うは簡単だけど大混雑の店でこれをやるのはなかなかに大変だ。だしがこぼれる。天ぷらが揺れる。息子が踏まれる。

店の真っ正面のがたがたベンチでうどんを啜る。紅葉を見ながら食すうどんは最高だ。伸びやかでツルンとした麺は、さっぱりめのだしと良く合っている。天ぷらはごくごく普通の味ながらこれまたいける。適度なコシと適度な塩気。これまたツルツルツルツルーといくらでも食べられそうなうどんなのであった。旨い!ここのうどんもうーまーひー。ロケーションもさることながら、これまたかなりヒットなうどん屋であった。

「……じゃっ次の店行こうか。」
次は本日6軒目のうどん屋である。まだ喰うんかい。喰うんである。

12:20 坂出市「がもう」にて
かけ(小)
天ぷら
\100
\70

濃縮いりこだし〜綾南町「田村」

さて、そろそろ私は限界が見えてきた。車に乗り込む時、屈んだ瞬間腹の中で「ちゃぽん」という、うどん以外の何物でもありえない音がした。今、腹をかっさばいたら私は恐怖うどん人間だ。
ああ、もう食べられないなんて何が原因なのだろうか。「宮武」の天ぷらダブルがいけなかったのであろうか。サティで思わず買ってしまったシュークリームがいけなかったのであろうか。そもそも朝からうどん5玉食べ続けてるんだから食べられなくなって当然という意見もある。

車は一路、「がもう」からほど近い「田村」に向かう。何でもイキイキピチピチな麺であるらしい。時間は1時前と昼も終わりにさしかかっていた。
なかなかわかりやすいところにあった「田村」。駐車場はないので店の並びに「ごめんなさいよ」と10分の路駐。ここで、私は香川に来て初めて弱音を吐いてしまったのであった。
「ごめん……1玉食べられそうにない。」

「田村」かけ・小 あああ。周囲に車はいっぱいで、ついでに店の中も客でいっぱいで、それはそれは何だか旨そうな雰囲気を醸し出している店であるのに食べられないとは痛恨だ。だんなが買ってきた1杯のかけそばならぬかけうどんを横から奪って2口3口ずるずると食べる。

むちっとした良い感じの麺だ。コシは強からずさりとて弱からず、なかなか旨い。それになんと言ってもだしだ。こんなにいりこの味の強いだしは香川に来て初めて味わった。ほぼ全ての店がいりこだしではあるけれども、磯の香りが強くて強くて、強い塩気まで感じさせてしまうような濃厚ないりこ風味のだしは新鮮だ。旨い。皆店内で店頭で、あるいは横の民家(多分店主の住まいだろう)の前に座り込んだりして各自うどんをすすっている。マイうどんを持っていないのは私だけで、何だか情けなくなった。とほほほほー。

12:50 綾南町「田村」にて
かけ(小)
\100

スペシャルぶっかけ〜高松市「大円」

「田村」堪能の後、私に続いてだんなも満腹になってしまったらしい。そりゃそうである。朝から計12玉が我らの腹の中に消えたのである。車が揺れると私も揺れる。胃袋の中でちゃぽちゃぽと音がする。うどんが揺れるのが体感できる。全身うどん人間と化した我らだったのであった。今、事故ででも死んで死体検分とかされたら……イヤだなぁ。
「大変です!被害者の死体からうどんが計12玉出てきましたっ!」
「死因はそれですな。」
なんてことになったら浮かばれない。ここは安全運転で高松市に戻ろう。

宿に戻る。戻って昼寝だ。製麺所系うどん店は大概のところ昼過ぎで閉まってしまうし、15時頃にやっているうどん屋ならば18時頃までやっていたりする。ここは一旦退いて、体勢を立て直してから再度うどん屋と対峙することにしよう。

14時過ぎに宿に帰り、そのまま昏々と昼寝。17時頃にもそもそと全員が起床して、夕飯の算段を始める。もとよりうどん以外を食べるつもりはなく、高松市街及びその周辺地で「ここはどうか」「そこはどうか」と検討する。

まず目指すのは19時まで営業している「ぶっかけの館」なる「大円」だ。何でも呆れるほどに「ぶっかけ」メニューが並ぶ店であるらしい。太い通り沿いにある店は見つけやすく、すぐに発見して入ることができた。時間は午後6時。客はなし。土曜の夜にうどん屋というのはあまり皆さん行かないものなのだろうか。

ごくごく普通の町のうどん屋(東京だったら蕎麦屋であろうか)といった感じの店内だ。木製テーブルに椅子、数人が腰掛けられるカウンター。メニューと一緒に掲載雑誌のコピーがちらちらと貼ってある。

で、あるわあるわのぶっかけメニュー。「スタミナぶっかけ」「なっとうぶっかけ」「山かけぶっかけ」、ひたすらぶっかけぶっかけ、とメニューが続く。私は海老天ととろろと卵、それに胡麻と海苔と葱が乗った「スペシャルぶっかけ」\500を注文。だんなは「天ぷらぶっかけ」\460を注文。それまで新聞を読んでいた店主がよっこらしょ、と立ち上がってちゃかちゃかと動き出す。ほどなく2つのぶっかけが目の前にやってきた。

ところで……カウンターには変な紙が貼ってある。
「麺出るすゾーン」
とでかでかと書いてあるその紙の上に、どうやら店主が出来立ての麺を置くものらしい。茶髪のお姉ちゃんがぱたぱたと動き、その「麺出るすゾーン」に乗る麺を運ぶ。べったべたのギャグだ。力が抜ける。これが香川か。香川のギャグなのか。悩む前にうどんを食べよう。

「大円」スペシャルぶっかけ ピカッと光るうどんに各種のトッピング。ビビンバを彷彿とさせ、なかなか壮観だ。小さめの徳利に入っただしを一気にぶっかけ、これまたビビンバのごとくに混ぜて食す。あ、天ぷらは混ぜたら崩れちゃうから横によけておいて、と。

艶やかで適度にコシのあるうどん、甘味と塩気のバランスが良いだしと相まって心地よい調和を醸し出している。山芋のねばりや黄身のとろみ具合、葱や海苔と一緒にずるずると啜るとちょっと独特の美味しさだ。こういう麺は東京にもあるかもしれないけど、このどしっとしたコシのある麺でやられるととても快感。天ぷらはサクサク系でこれまた悪くない。ていうか美味しい。幸せ幸せ、と一気に麺をかっこんで、じゃ1kmほど先にある次なる店を目指そうか。

18:15 高松市「大円」にて
スペシャルぶっかけ(冷)
\500

サクサク天ぷら、作りたて〜高松市「うどん棒」

太い道路沿いに車をまっすぐまっすぐ走らせる。「うどん棒」今里店がそこにある。何でもゴムのような伸びのあるうどんなのであるらしい。しかも注文聞いてから茹でるらしい。天ぷらも注文してから揚げるらしい。それはとてもとても美味しそう。

「大円」から車でまっすぐ1kmほど、「うどん棒」今里店にたどり着く。店の駐車場にぐいーんと車を止め、中へ。だんなの縦列駐車もだいぶコツをつかめてきたようだ。

メニューは豊富。「ちゃんぽんうどん」「めんたいこうどん」「玉子とじうどん」とまぁあるわあるわ。麺メニューは大体600〜800円、天ぷらが入るとちと高くなる。それでもかなりお安いのではないかと思う。
私は「天ざるうどん」\900、だんなは「冷天うどん」\600。どう違うかと言うと、私のはざる盛りのうどんに天ぷらが別添なのに対し、だんなのはどんぶり入りの冷たい麺に冷たいだしと天ぷらがぶっかけてあるというものだ。味的には対して変わらないとは思うけど。

「これから茹でますので、7分ほどお待ちいただけますか?」
と丁寧な店員のお兄ちゃんの言葉にうんうん、とうなずいてしばし待つ。待ってる間お茶を足しに来てくれたりもする。教育が行き届いている。店はいわゆる普通の「うどん屋」という感じ。壁には「かにすき」「とりすき」と季節の鍋物メニューもかかっている。

「うどん棒」天ざるうどん トレイに乗って恭しく天ざるうどんがやってきた。やや細めの麺が美しく盛られ、横には天ぷらの盛り合わせ。海老天2本に茄子に南瓜、海苔に青じそとなかなか豪華だ。天ぷらのつゆを入れるのに使うようなとんすい型の容器にだしを注ぎ、もみじおろしと葱、生姜の薬味を落として食べる。

「大円」に比べてまた一段とコシのあるというか伸びのある麺はキリッとしまっていて相当いける。味醂がしっかり入っているちょっと甘口のだしにうどんをとぷんとつけては食べ、天ぷらをつけては食べする。天ぷらの油がだしに溶けてコクが強くなってくるのがまた旨い。本当に揚げたての天ぷらが出てきたのはこの旅行で初めてのことで、これまた嬉しい。サクサクの衣は程良い感じでこれまた良い。

全部で1500円くらいしたけど、それだけの価値あるナイスなうどん屋だった。ああ、我が家の近所にあったらしょっちゅう出前しちゃうよ、という感じ。

ここまで食して、さすがに今日はもうダメだという結論に。宿に帰るとまだ7時半だ。
これから風呂入って、足揉みほぐしてテレビでも見ながら寝ることにしよう。明日はどこに行こうかなー(もう一回山越!?←日曜は休みじゃ!←が―――ん)

18:40 高松市「うどん棒 今里店」にて
天ざるうどん
\900