7月19日(月) 9年ぶりの香港、13年ぶりのペニンシュラ

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9年ぶりの香港

2010年の夏は、9年ぶりの香港へ。
 
横浜中華街あたりに行くたびに
「焼味(=お肉のロースト、チャーシューとか豚バラの皮側をカリッと焼いたのとか)って美味しいよねぇ」
「香港行って、また本場のを食べたいよねぇ……」
と盛り上がり、「では日本の夏休み本番が始まる直前の、海の日あたりの日程で、いっちょう行ってみませんか?」と旅程を組んだ。
 
6月に大きな仕事を終えただんなも、その日程で何が何でも休みを取る!と宣言し、秋田に住む私の母も「香港、一度行ってみたかったのよ〜」と同行することに。
 
その同行の母の希望もあって、滞在ホテルはペニンシュラ(香港半島酒店 (THE PENINSULA HONG KONG))。友人と2人、初めて香港に行った時に数日滞在した思い出のホテルで、私は13年の時を越えての再滞在だ。
 
このカテゴリーのお部屋でね、コネクティングルームにしてね……とネットで予約してあれこれリクエスト。かの時代に比べると、インターネットの普及で諸々の手続きは本当に簡単にできるようになった。飛行機もとれたし宿もとれたしと、数ヶ月前からうきうきと準備をして旅行の日程が迫るのを指折り数えて待っていた。
 
今日の出発は6時半。私はベランダの花と猫たちの世話があるから5時半には起きないと……と思っていたのに、目覚めたのは3時50分。いやいやいくらなんでも早すぎでしょう、と二度寝しようとしたのに目が冴えてしまって、そのまま起きていることにした。花の世話も完璧、猫の世話も完璧、旅行中に何度か来てもらうペットシッターさんへの指示も完璧、と漏らさず準備して、大きなスーツケース2つガラゴロ転がして成田空港に向かった。
 
同行の母は、昨夜は空港にほど近いホテルに宿泊していた。空港で母と落ち合って、キャセイパシフィック航空のカウンターでチェックイン。
 
事前にオンラインチェックインを終えていたところ、30人以上並ぶ行列窓口ではなく別のところから「こちらへどうぞー」と速やかに案内され、ものの数分で手続きが完了してしまうことに。オンラインチェックインをやっておくと空港で色々らくちんになるのはわかっていたけど、ここまで簡単に事が進んだのは初めてで、とても快適だった。
 
腹ぺこの胃袋抱えてとりあえず朝御飯にとうどんを食べたり、出国手続き後に免税店をひやかして「うひょーBobbi Brown!うひょーLUNASOLもある!2割引!」と興奮しつつも自制して、無事に定刻通りに飛行機は飛び立った。
香港への道中、飛行機の窓から見えた富士山  
飛び立ってすぐに、右前方に見え始めたのは、ほとんど雪の無い富士山。
 
今日は薄曇りで、日本もたいそう蒸し暑くなるらしい。
 
さして揺れもしなかった快適な空の旅は3時間半ほどの短いもの。
 
途中出された機内食は「和風の鶏の照り焼き」か「中華風の牛肉煮込みかけ御飯」の2択で、他にはテーブルロールとバター、フルーツ(ピンクグレープフルーツ、メロン、パイナップル)、おまんじゅう(よもぎ餅?)といった感じ。ビール飲み飲み冷たい烏龍茶飲み飲み私は中華風の牛肉御飯をいただいたけれど、「香港についたら早速色々食べ始めるんだろうしなぁ」と自重して御飯は半分以上残しておいた。
 
だんなが完食するのはいつもの事だけど、息子がぺろっと餅まで平らげていたのにはちょっとびっくり。
 
キャセイ便は、以前は食後のデザートにハーゲンダッツのアイスクリームが出されていたのだけれど、いつの間にかそのサービスがなくなってしまったようで、「アイスは無いんですか?」と聞いた息子が涙目になっていた。「キャセイって素晴らしい!」の理由の一つがハーゲンダッツだったりしたから、それはとっても残念ね……。

13年ぶりのペニンシュラ

香港國際機場に無事着陸〜♪

飛行機を降りて「さて入国手続きだね」と空港建物内に足を踏み入れたその場所に、立っていたのは私たちの名前を書いたボードを持った、赤いジャケット着用のホテルマン。
 
せっかくペニンシュラに泊まるなら、との母の希望もあって、空港からの往路のみ、送迎のリムジンサービスをお願いしていたのだった。片道HK$1,350(1万5千円くらい?)。通常、ツアーにしてもホテルに頼んだ送迎にしても、税関を通り抜けた先で係の人と出会うのが普通だけれど、入国手続きも済んでいないうちからというのは初めて。
送迎ロールスロイスの車内。目の前のコレはフットレストかなぁ……と思いつつ
 
こっちですよー、と、機内に持ち込んだキャリーを持ってもらって先導してもらい、滞りなく入国手続きやスーツケースの受け取りなどを終えた。
 
荷物をカートに載せたところで赤ジャケットの若いスタッフから、黒スーツの白髪のおっちゃんにバトンタッチ。「これから40分ほど車の移動にかかりますが、レストルームに寄らなくて大丈夫ですか?」的なアドバイスも受けつつ、送迎専用エリアに案内された。
 
車止めに既に止まっていたのは、深緑色(ペニンシュラグリーン、という色なのだそう)のロールスロイス。
 
ホテル到着後、改めて送迎車を撮影してみました。おお、カッコイイ…… 椅子の下におしぼりと冷たいお水の用意があり、だんなは助手席、私と母と息子は後方座席に乗り込んでの30分ほどの快適移動。
 
ベージュの皮張りの車内は足をゆったり伸ばせる広々としたもの。
 
エンジン音がとても静かで振動もほとんど感じない、滑るように走る車だった。
 
ただ、「後方座席のお客様もシートベルトをしてくださいねーと言われ、座席下に収納されたおしぼりやらを手にするのがやっとの有様で、「目の前に見えるコレは、フットレストとかなのかなー、でも全然手が届かないなー」と目で観察することしかできなかった私。
 
飛行機を降りたところからストレスなく移動できるこの感じ、東京ペニンシュラの成田からの送迎が片道65000円であることを考えると(まぁ、移動時間も倍以上かかるわけだけど)、香港で味わっておくのは悪くない選択なのかもしれなかった。
 
THE PENINSULA HONG KONG、正面玄関前から見上げてみる。 今回予約してみたのは、本館にある「デラックスコートヤードルーム」。
 
眺めの良い新館の魅力も捨てがたかったけれど、呆れるほど高い天井の本館が良いなぁと思ったし、低層階の方が移動は簡単かなと思い、「このお部屋はどうかなぁ?」と提案してみた。
 
幸いコネクティングルームの用意もできるということで、なおのこと「このカテゴリーの部屋が良いわ」ということに。
 
案内されたノンスモーキングルームは4階。正面玄関向いて左側の本館用エレベーターに乗ると数メートル先にドアがある便利な場所にあった。海際の建物が若干邪魔ではあるけれど、香港島の風景もそこそこ見える。眼下にはロースルロイスが停まる華やかな表玄関。
 
「そうそうこの無駄な天井の高さ!」と懐かしくなる(前回の宿泊もやっぱり本館)お部屋は、天井の一部が隣室(ベッドルームとホワイエ、トイレとバスルーム)と繋がっている面白い構造。真っ白な壁に天井から長く落ちるカーテン、2人用のディナーも充分いただけそうな広々としたライティングデスクに、ソファセット。
 
私とだんなはダブルベッド、母と息子はツインベッドのお部屋 何より、寝室とドアで仕切られた「ホワイエ」(劇場では屋外と観客席の間にある空間=ロビーの事だが、住宅では建物入り口から居間などの部屋の前に設けた広い空間をさす、のだそう)の存在が素晴らしい。
 
スーツケース置き場に、収納力たっぷりのクローゼット。引き出しも充分にあり、トイレやバスルームに至るまでに「ドアがもう一枚余計にある」という贅沢感がたまらない感じ。
 
日本式の形状のコンセントがそのまま使える電源に、無線LANの使用も無料。テレビ台には充実のミニバーの用意もあったけれど、冷蔵庫は自由に使わせてもらいたいなと、事前に「冷蔵庫空にしておいてー」とお願いしておいた。
 
バスルームからトイレが別ドアで独立していて(天井は繋がっている)、トイレには手洗いのシンクもついている。むろん、石鹸とタオルも。
洗面台は一つで、洗面台と向かい合う形でシャワーブース。一番奥が、ゆったり寝そべることもできるサイズの、「目線の先にテレビ画面」つきのバスタブ。アメニティはコットン、麺棒から爪磨き、ソーイングセットまで過不足なく。
 
シャンプーや石鹸のアメニティのブランドは「Davi Napa」だ。カリフォルニアのワイナリーオーナー、ロバート・モンダヴィの孫、カルロ・モンダヴィによる「葡萄のポリフェノール成分を生かしたスキンケア・ライン」なのだそう。香りが良いし、コンディショナーが好みな触感だった。
 
部屋の窓からの眺めはこんな感じ。今日はとても良い天気♪ そうそう、洗面台には人数分の「彫刻つきの赤いケースに納められた石鹸」が。
 
これもこのホテルの名物の一つで(以前泊まった時は緑色のプラスティックケースに納められたエルメスの石鹸だった記憶があるけど)、ホテルからのお土産なのだそう。
 
彫刻はホテルロビーにある「お客様とホテルスタッフを守るガーディアン像」を模したもの、なのだそうだ。汚さないうちに引き出しにしまっておいた。中身は「made in Thailand」とある、半透明の丸い蜂蜜色のソープだった。良い香り。
 
ベッドの両脇にあるパネルでカーテンの開閉やクーラー温度など、部屋にある電器機器類全ての操作ができ、ここでメインの照明をOFFにするとベッドサイドの明かりのみがタイミングをずらしてゆっくり消えていく(その間にベッドにちゃんと横たわることができる、と)ギミックが施されていた。
 
部屋にはティーセットがない。お茶は無料のもの(残念なのは対象がジャスミンティーだけで、プーアルなどは有料になってしまうそう)がいつでも電話一本でやってきて「お客様が自ら手を動かすことはございません」というスタイルを昔も今も貫いている。ただ、母はお湯で薬を飲むことが多々あるので、「お部屋に湯沸かし器も置いておいてくれる?」と、こちらも事前にリクエストしておいた。リクエストは完璧に通っていて、息子は豪華な部屋のドアをあちこち開けて確認して大喜び。
 
ウェルカムティーが来ましたよー ソファの前のガラスのテーブルの上には、これから毎日中身が入れ替わっていくことになる、ウェルカムフルーツ。
 
今日の内容はバナナと洋梨、赤いリンゴとオレンジという、見慣れた果物だった。果物の前には、果物の説明絵本が用意されているけど、でも滞在中「これはナニ!?」と頭をひねる果物も多く登場するのだった。
 
「こんなこともあろうかと」と、スーツケースからフルーツナイフを私が取り出すと、荷物を片づけるのも早々に、母が猛烈な勢いで果物を剥き始める。
 
果物と並んでいるのは部屋に落ち着いてほどない頃に届けられたウェルカムティー。白地に赤い模様の茶器も「あ、この茶器は香港のペニンシュラのだよね」と、一度でも泊まった人は「ああ、これは」とピンと来るだろう、伝統の柄のもの。そうそうこのお茶器だったよ、あの時も、と前回の訪問を懐かしく思い出した。
 
母が剥いてくれたリンゴは今ひとつ味がないものだったけれど、洋梨は甘くて美味しい。これから毎日のように届けられることになるバナナは、最後まで息子が美味しくいただいていた。
 
部屋が快適すぎて、チェックイン後になかなかお出かけできない私たち。

雑踏の中でお買い物

果物を囓って呆けていても仕方がないので、「両替もしなきゃいけないし」と外に出ることに。
 
徒歩数分の距離にある、メインストリート沿いの「重慶大厦 (Chungking Mansions)」は上階に怪しいゲストハウスなどを抱える、ちょっと怖い感じのところでもあるけれど、両替のレートがすごく良い店もあるらしい。通り沿いの目立つところにある両替屋のレートを確認しながら、ビルの1階をずんずん進んで奥まったところにある両替屋で香港ドルを手に入れた。手数料なしで、\100=HK$8.90 (HK$1=\11.23)という良い感じのレート。
 
今回は、事前にSIMフリーの携帯電話を日本で購入してきていた。
 
ここ重慶大厦には中古携帯屋さんも多く入っていたけれど、「こういうところで中古の買ってバッテリーが全然保たなかったりしても悲しいし」と、電話だけは日本で購入。で、この携帯屋でSIMカードを購入した。SIMカードの種類は色々で(キャリアも日本同様、複数ある)1枚500円程度で買うことができる。1分の通話料金はHK$0.05/min(10分6円程度)から。国際通話に強いカードなどもあるし「○ドル分までの通話無料」といった枠つきのものもある。我が家が買ったのは、確かこれ。重慶大厦内のショップで普通に売られていた。
 
今回、4人での旅行ということで、2人と2人に別れての行動もありえると予想して「レンタルはどうだろう」「いっそ電話機買ってしまうというのは?」とあれこれ検討してきたのだけれど、結果的にはSIMカードは実に簡単に買えたし、純粋に通話料金だけみれば大変にお得な結果になった。電話機は次の海外旅行時にも重宝してくれるはず。電話を持っていることで、「僕、部屋で待ってるよ」「じゃあちょっと買い物行ってくるね」なんてことが容易にできたし、実際別行動で役立つことも多かった。英語に堪能なだんなは外出先からレストランの予約をしてくれたりもして、本当に役立った。
 
重慶大厦には、コスメショップ「莎莎(Sasa)」が入っている。両替終えてSIMカード買ってビルを出たところで、「ここ、ここを覗きたいです!」と主張して、だんなと息子が「じゃあ俺たちはお部屋で携帯のアクティベート作業してるよ」と帰還した後、母と2人でぷらぷら。
 
資生堂などの日本のメーカーの化粧品も含めてあれこれお安いお店で(日々愛用中の"塗るつけまつげ"も80%ほどの価格で売られてた)、お店の一角では試供品あれこれが1個数百円の価格で売られている。ちょっと使ってみたいなと思っていたクリニークの美容液の試供品があったので1つ購入。新調したいと思っていた眉毛用のハサミと毛抜きも購入してみた。

尖沙咀 「莎莎」にてお買い物
CLINIQUE turnaround concentrate 7ml
小彎剪(ハサミ)
斜咀劍形眉鉗(毛抜き)
HK$38
HK$22
HK$28

一度部屋に戻った後、改めてだんなと2人町へ出て、ドラッグストアとスーパーでお買い物。
 
スーパーの果物売り場。ドリアンが山積みに…… だんなが友人から頼まれているのだという「百合油」と、私が欲しいなと思っている「正骨水」はないかなと、ドラッグストアの「屈臣氏 (Watsons)」覗いて、引き続いてスーパー「惠康 (wellcome)」でもお買い物。
 
「正骨水」売ってたけど、"アンメルツヨコヨコ"的パッケージのものしかなくて「こういうんじゃなくて、普通の瓶入りのが欲しいんだよなぁ」と、1本だけお買いあげ。捻挫や筋肉痛に効く伝統の塗り薬なのだそうで、使ってみたいなと思っていたのだった。なんと入浴剤にもなるそうで。
 
スーパーでは母が食べたがっていたヨーグルトと水、安売りされていた陸羽のティーバッグなどを購入。肉骨茶ミックスがお目当ての一つだったけれど、残念ながらこのお店では見つからず。

尖沙咀 「屈臣氏」にてお買い物
正骨水摩擦装
HK$36

尖沙咀 「惠康」にてお買い物
陸羽ティーバッグ(Buy 2 get 1 free)
ヨーグルト(Buy 2 get 1 free)
水(ONAQUA) 500ml×2
8×HK$0.5
2×HK$8.9
HK$7.0

スーパーの中には、入店するなりモヤモヤンとドリアンの香りが漂っていた。
あ、ドリアンの匂いだーとフルーツコーナーを見渡すと、端に数十個単位で積み上げられたドリアンの山。カット済みのパック詰めのも並んで販売されていて、「いいぞいいぞー」と思ってしまった。うん、香港来たんだなー私。

王道の美味しい中華を食べに〜「欣圖軒」

今回の香港旅行は、食事の予約などは全く入れないままやってきた。
「その日の気分によって部屋でだらだらしたりする日もあるだろうし、天気によっては一日お出かけにする日もあるだろうし」と、その日の気分で過ごすことに。
 
で、今日の夕飯はどうしましょう、さっそくこのホテルの味を堪能しに行っちゃおうか?などと大人たちで協議した結果、「香港ならではの"美味しい高級中華料理"を食べに行ってはどうか」ということになり、交差点向こうの「香港洲際酒店 (InterContinental Hong Kong)」内のレストラン「欣圖軒 (Yan Toh Heen)」に行ってみることにした。
 
かつてはリージェントホテルだった、ここインターコンチネンタルホテル。"ヤントーヒン"が現在店を構えるこの場所も、かつては翡翠の食器をふんだんにつかった「麗晶軒(Lai Chin Hing)」というお店だった。ホテルもレストランも変わってしまったけれど、名店と名高かった麗晶軒は、欣圖軒となってなお、ミシュランの星を取るなどして評判をあげている。
 
「1時間後に行くよ〜」といった直前の予約だったにも関わらず、窓際の眺めの良い席を用意しておいてくれて、同じく窓際で食事した9年前を懐かしく思い出した。
「窓際だったけど、もうちょっと端っこの席だったんだよね」
「ランチで、息子が寝ちゃってさぁ」
なんて、話がはずむ。あんたは私の蛋撻を食べちゃったのよ、部屋に持ち帰ってきた私の蛋撻!と、ほろ苦い思い出まで沸き上がってきた。
 
テーブルにセットされている翡翠の飾り皿(というか"飾り台"?)箸置きやスプーン置きなどはのきなみ翡翠製で、麗晶軒時代を思い起こさせてくれるものだった。残念ながらデザートのマンゴープリンの器が翡翠ではなくなっていたけれど、でもその美味しさは今なお素晴らしいものだった。
 
おつまみにと出てきた飴がけの甘じょっぱい胡桃をつまみながらサンミゲールで乾杯して、「コースよりは……」「アラカルトのが魅力的だよねぇ」と、中国語の脇に英語と日本語の説明が併記されたメニューを眺めまくる。
 
実のところフカヒレやアワビ、ナマコ、ロブスターといった高級食材にはそれほど興味がない私たち。そういうのも日本で食べるより断然安いんだけどね、とメニューを眺めつつも、結局普段から好んで食べる類の内容に落ち着いた。魚介や肉、野菜も組み合わせて、適度に濃い味のものも交えつつ、母が好みそうなものも取り入れ打つ、良い感じの献立になった……と思う。何から何まで美味しくて、暮れゆく香港島の風景を眺めつつの食事は、旅行初日から大満足のものだった。

海老のXO醤和え
「欣圖軒」にて、海老のXO醤和え お店からのサービスです、と出てきた「突き出し」。
 
青菜を添えたおおぶりの海老の上に、卵白入りの淡い味のあんがかかる。具沢山のXO醤が海老に少量添えられて、貝柱や干し海老などの濃厚な旨味が絡んでいた。
 
じわっと辛くて食欲をそそる品……だけど、息子は「うわ!辛!」と悲鳴を挙げていた。そんなに辛くないって。美味しいって。
 
脆皮燒腩肉(豚肉のロースト)
「欣圖軒」にて、豚肉のロースト。皮が、んもう、パリッパリサクッサク♪ シンプルながら、断面の見事な美しさ、表面の見るからにクリスピーな豚バラ肉のローストは、息子が「これ食べたいなー」とリクエストした料理。
 
こういった「焼味」系は繁華街の安価な店のものもたいそう美味しいけれど、この料理の皮の食感の良さは最高のものだった。
 
肉はジューシー、適度に脂っ気の抜けた口当たりの良さで、塩加減も淡めで上品。
 
龍帶五梨香(帆立貝と洋梨のフライ)
「欣圖軒」にて、帆立貝と洋梨のフライ。不思議な組み合わせの美味しさ 見た目「たこ焼き」みたいなこの料理は、お店の"オススメマーク"つきメニューから。
 
「気になる……帆立と洋梨がどうなっちゃうのか、ものっすごく気になる……」と、私のリクエスト。
 
レモンソースを添えていただくけれど、料理の下味もちゃんとついていてソースはお好みで、という感じ。ちゃんと帆立でちゃんと洋梨の味がするけれど、「洋梨の塊」的なものが、断面からは今ひとつ確認できない不思議な料理。海老のすり身も入っている模様。花のような香りの上品な甘さの洋梨は帆立によく似合っていた。絶妙な組み合わせ。
 
芹香炒爽菜(しゃきしゃき野菜の炒めもの)
「欣圖軒」にて、最高の美味しさだった野菜炒め。 あっさり味の野菜炒めも途中に欲しいかも、ということで、何種類か揃っていた野菜炒め系メニューからこの料理を。
 
シンプルながら、これがものっすごく美味しかった。なにこの野菜料理、すっごく美味しい!と一同大喜び。特に母が喜んで、「これが一番美味しいわ」とばかり、すごい勢いで口にしていた。
 
使われているのはアスパラガス、セロリ、さやいんげん、人参、くわい、レンコン、きくらげ……という感じ。それぞれの食材への火の通り具合が神懸かり的に「的確」で、素晴らしきシャキシャキ感。
 
一見地味なのに、目をつぶって食べても「あ、私は今、いんげんと人参を噛んでるんだ」とわかる、野菜の味の濃厚さ。
 
豉汁白露筍明蝦球(海老と白アスパラの黒豆ソース炒め)
「欣圖軒」にて、海老と白アスパラの黒豆ソース炒め。濃厚な旨味です。 「ホワイトアスパラ」の文字を見て「良いねぇ」と。
 
「旨味はあるけどこってりじゃない」という味付けがとても好み。
 
海老が巨大でプリップリなリッチな食感。その海老のボリュームに負けない存在感のアスパラも、柔らかで甘さがある美味しいものだった。
 
焼雲腿拼片皮雞
    (骨なしクリスピーチキンの中国ハムフライ添え)
「欣圖軒」にて、ペキンダック!?な外見の「骨なしクリスピーチキン」 「鴨が食べたい」という母の要望。でも、鴨料理に好みな感じのものがなく、代わりにこちらを。
 
「クリスピーチキン」という言葉に、「まぁ、唐揚げ的な感じの?」と想像していたのだけれど、やってきたのはこの料理。「あれ?北京ダック?」」と訝しんでしまったけれど、これまた美味しい料理だった。
 
「皮つき北京ダック」のような、カリコリした皮にふくふくした肉のついた鶏の盛り合わせ。そして下にひっそりと敷かれた「中国ハムのフライ」は素晴らしく酒の肴的な味。鶏と共に盛られた「えびせん」は、息子がすごい勢いでつまんでいた。
 
紹興酒をいただいていたところだったから、「鶏うめー」「ハムうめー」と、こういう味のものが嬉しくて仕方がない私とだんな。
 
三文魚瑤柱蛋白炒飯(サーモン、貝柱入り卵白チャーハン)
息子のリクエストの、鮭チャーハン。
「一人で食べるよー」とか言っていたものの食べきれず、結局半量ほど残ったそれを包んでもらってホテルに持ち帰ることにした。喜んで!と下げられた皿は、ほどなくしてホテルのロゴ入り紙袋に納められてやってきたのだけれど、中には電子レンジ使用可能な、金の箔押しつきの立派なタッパーが。
 
部屋に帰還してしばらくしてからお茶もらってだんなと食べたのだけど、冷めてもなおパラッパラと素敵な食感。さやいんげん、コーンがシャキシャキとしていて、単調ではない口当たりが楽しかった。
 
香芒凍布甸 (マンゴープリン)
「欣圖軒」にて、マンゴープリン。後ろは食後のプチフールセット。 ガラスの器に固められた、とても上品な外見のマンゴープリン。
 
「麗晶軒」からの伝統の翡翠の器入りではなくなったのは残念だったけれど、「そうそう香港のマンゴープリンの美味しさってこんな感じ〜!」と両手を天に突き上げたくなるほど美味しかった。
 
トッピングは甘いマンゴー果肉とラズベリー、ミントの葉。エバミルクは無し。生地に果肉がたっぷり混ぜ込まれ、食感は口の中でクシュクシュと崩れて溶けていく絶妙さ。
 
ミルク分が多すぎたらババロアのようなプルプルした感じが出てきてしまうところ、適度に水っぽくもあり牛乳っぽくもありのバランスが最高だった。惜しむらくは、果肉にまぶしたらしいレモン汁がちょっと多かったかなと思われた事。尖った酸味が僅かに感じられて、もうちょっとそれが柔らかかったら「やっぱりここのマンゴプリンが世界一!」と言いたくなるだろうな、という味わいだった。
 
私の影響もあってかマンゴーデザートが大好物な息子が、一口食べて目を剥いて感動している。どうだ、旨いだろう(←何故か偉そうな私)。
 
迷你雞蛋撻 (ミニエッグタルト)
「欣圖軒」にて、今旅行初蛋撻♪♪ 「蛋撻もメニューに載ってた!」
と、マンゴープリンと共に頼んだ、エッグタルト「蛋撻(タンタ)」。
 
1皿が3個セットということだったけれど、
「お客様4人でいらっしゃるから、4個お持ちしますよ?」
と言ってくれた。数日後に訪れることになる福臨門とは大違いの対応。
 
小ぶりのサイズ、波打つ美しい中華風のパイ生地、ちょっと水っぽさもある(実際、レシピには卵液に相当量の水が加わる)「甘い茶碗蒸し」みたいなプリン生地。卵や牛乳などが多すぎると途端にリッチな味の「ポルトガル風」寄りになって、これもまた美味しいなとは思うのだけれど、「蛋撻」はやっぱりちょっと水っぽいこの感じが好き。
 
ほのかに温かさがある蛋撻は、手で持ち上げるとクシャリとその場で崩れてしまいそうな繊細さ。ホロホロと口の中で崩れるパイ生地も、口の中で溶けていく食感のプリン生地も、"技術"のすごさを感じる出来映えだった。美味しい……すごく、美味しい。

 
やっぱり香港の街は蒸し暑くて、
「最初にビール〜。やっぱりビール〜」
と、最初の一杯にサンミゲールをもらった後、つい調子に乗ってしまって紹興酒を。
 
25年ものの「越山仙雕陳貳拾伍年花雕」375mlを頼んだところ、「温めますか?それとも冷たいままで?」とのこと。温めて、とお願いしたら、テーブルの背後のワゴンにティーウォーマーをセットして、キャンドルでゆるゆるとお酒を温めながら注いでくれるのだった。自然な甘さがあり、香り豊かでこれまた美味しい紹興酒。すっかり良い気分になってしまった。
 
最後までメニューを見て、「気になる……でもマンゴープリンを食べたら、私きっとお腹一杯……もう頼めない……」と煩悶していたのが、「五色彩凍 (5種類の冷たいムースのコンビネーション)」というデザート。椰汁紅豆糕(あずきとココナッツのプリン)、白芝麻奶凍(白胡麻とミルクのプリン)、燕液紅棗糕(燕の巣とナツメゼリー)、杏香木瓜凍(アーモンドとパパイヤのゼリー)、燕麥香芋糕(麦シリアルとタロ芋のプリン)という組み合わせだそうで、そのそれぞれの味も気になるし、それらの盛りつけはどんな感じなんだろう?と興味が尽きない料理だった。
 
卓上には中国茶器を飾るためのような小さな飾り棚に6種の中華焼き菓子がプティフールとしてやってきていた。これもちょっと食べきれないねと包んでもらって、炒飯と焼き菓子を入れた「美味しい袋」をぶらさげてホテルに帰還。
 
お菓子は翌日のお茶の時間に皆で適当に分け合いつつ食べたけれど、手の込んだものばかりで、最後の最後まで「手抜かりのないすごいお店だったなぁ」という印象を新たに持ったのだった。今回の旅行、他にもいわゆる「高級店」に行ったけれど、ここまで美意識を感じるお店は他になく、その美意識もヌーベル・シノワ的な方向でないのがまた好みなのだった。

尖沙咀 「香港洲際酒店」内「欣圖軒」にて
突き出し(海老のXO醤和え)
脆皮燒腩肉(豚肉のロースト)
龍帶五梨香(帆立貝と洋梨のフライ)
芹香炒爽菜(しゃきしゃき野菜の炒めもの)
豉汁白露筍明蝦球(海老と白アスパラの黒豆ソース炒め)
焼雲腿拼片皮雞
    (骨なしクリスピーチキンの中国ハムフライ添え)
三文魚瑤柱蛋白炒飯(サーモン、貝柱入り卵白チャーハン)
香芒凍布甸 (マンゴープリン)
迷你雞蛋撻 (ミニエッグタルト)
ビール(San Miguel)
紹興酒(越山仙雕陳貳拾伍年花雕 375ml)
コカコーラ
中国茶(烏龍)
 
HK$165
HK$138
HK$165
HK$290
HK$220
 
HK$140
3×HK$48
HK$42
3×HK$70
HK$580
HK$60
HK$20

冷房の効いた涼しいお部屋に帰って、改めてのんびりお風呂でも……と戻ると、お部屋はちょっと、がっかりな状況。
 
ペニンシュラ香港のターンダウンは素晴らしいんだよ、夕食で部屋をちらっと空けているタイミングに、短い時間でも魔法みたいにお部屋が綺麗になっちゃうんだから……なんて話していたのに、お部屋は全然、汚いままだった。
 
夕食前にシャワーを浴びて出たのがタオルも何もかもそのまんま。まぁ、ベッドの足元に敷かれるタオルだとかシーツめくっておいてくれるとか、そういうのはどうでも良いのだけど、ベッドサイドに置かれるはずの水が欲しい。ウェルカムフルーツ剥いてあれこれやっていたので食器類も入れ替えて欲しいし。
 
あらまぁ〜がっかり〜……と、「ターンダウンしてください」とハウスキーパーに電話して、片づけてもらった。母が初日の移動疲れでかちょっと具合を悪くしていたから、ささっと寝かせてあげたかったんだけどな。
 
ホテルの中にはこの時期、そうたくさんのお客さんが滞在している風でもないし、微妙に人手不足なのかしら、なんて思いつつ、この初日以後「いつの間にか部屋が綺麗に」という期待は止めて、朝と夜の外出時にはきっちりと(そりゃもうきっちりと)ドア横にある「Clean Up Room」のボタンを押すようにした私たちなのだった。
 
がんばれ、ペニンシュラ。