7月5日(星期四) トラムに乗って朝粥を

トラムに乗って朝粥を〜「羅富記粥麺専家」

朝7時。昨夜まで辛かった風邪も、隨分症状が軽くなった。とりあえず悪寒は去った。やれやれだ。

一人早く目を覚ました私は熱い風呂につかってのんびりして、8時を過ぎてからおもむろにだんなと息子を起こしにかかる。
「おなか、すいたよー。お粥、食べに行こうよー。」
昨日の昼は「すまぬー。起きられないー。」とごろごろしまくり、ひたすらだんなと息子に迷惑をかけておきながら、元気になった途端にこれなのだった。

ホテルの周辺にも何店か粥麺専家はあるようだったが、どうせだったら美味しいお店で朝粥を食べたい。トラムに乗って上環(Sheung Wan)へ。トラムの線路沿いに「羅富記粥麺専家(Law Fu Kee Noodle Shop)」というお店があるのだ。粥を食べるぞ、粥を。病人だし(←関係なし)。
タイル張りの床の、古めかしい粥麺専家は、お客もぼちぼち入っている。日本語は当然、英語もろくすっぽ通じないような店の片隅で漢字だらけのメニューを眺め、
「これは肉団子だね。」
「こっちは多分刺身入りなんだ。」
と判断しつつ、お互いに食べたいものを注文。私は豚肉とピータンの粥「蛋皮鹹痩肉粥」をもらうことにした。だんなは肉団子の粥「肉丸粥」を。

山盛り油条♪お店のおばちゃんはニコニコと注文を聞き、「これはいるかい?」と手振りで油条の小皿を指し示した。あ、それも下さいお願いしますと、それもテーブルに置いてもらう。銀色のアルミの皿に積み上げるだけ積み上げたような油条は7切れほどあっただろうか。
店の奥ではオヤジが一人、大鍋の中身をかきまぜている。しばしかき混ぜてから、2人分ほどの粥を巨大な柄杓で小鍋にジャーッと移し、またも何やらかき混ぜている。オヤジの脇の通路の更に奥には、大人の人間が一人余裕で茹でられるほどの巨大な鍋が2個並べて温められており、そこから湯気がふわふわと立ち上っていた。あれも全部粥、なのだろうか。

粥。この底にはたっぷりの豚肉と皮蛋が……。そのうちオヤジはチョンチョンと何かを切り始めた。ピータンを左手でむんずと掴み、それをざくざくとハサミでちょんぎって器に入れているのであった。無造作に茹で肉らしきものとか肉団子らしきものをごろごろと器に入れ、上からジャーッと温めた粥を流す。上からは葱が散らしてあるのが見えるだけの、真っ白な粥がテーブルに並べられた。レンゲを差し入れると中からたっぷりと具が浮いて出てくる。ああ〜、美味しそう。

サラリとした、若干水っぽい粥はとろとろと良い感じに煮込まれている。塩気の効いた薄切り豚肉がごろごろと、そして適当にざくざく切られたピータンも底にたっぷりと沈んでいる。油条を適当に千切って粥に放り込んではかき混ぜ、ふーふーしながら口元へ。朝から気温25度は軽くあろうかという夏の香港で、朝からアツアツのお粥喰ってるのも物好きだよなぁ……と思いつつ、鼻に汗して食べる粥は美味しかった。塩気のある肉が丁度良い味付けになっている。黒々とした柔らかなピータンもまた、アンモニア臭がほとんど感じられなくて良い味がした。プリンプリンのピータンの白身(というか黒身というか)を味わいながら粥をすする。
身体から病原菌やら何やらが汗と一緒に流れていくようで気持ちがいい。

上環「羅富記粥麺専家(Law Fu Kee Noodle Shop)」にて
皮蛋鹹痩肉粥
肉丸粥
油条
HK$18.00
HK$18.00
HK$4.00

百合の花とジノリの食器〜「港灣壹號」

朝粥の後は少々ホテルでのんびり過ごし、11時半、さっぱりとした服に着替えて地下鉄で一駅。灣仔(Wanchai)から海に向かって歩くこと数分、目指すのは「君悦酒店(Grand Hyatt Hong Kong)」内にある「港灣壹號(One Harbour Road)」。ホテルの住所が「港灣1号」だから、お店の名前も「港灣壹號」。大変にわかりやすい店名だ。

エレベーターホールから歩いて店のドアをくぐると、2フロア分の吹き抜けの空間が飛び込んでくる。螺旋階段を降りて窓際の席につくと、そこからは海を越えて九龍の眺めが一望できるようになっている。あまり中華な雰囲気はしない、どちらかというとフレンチレストランとでも言った方がすっきりするような、ヨーロッパ風の内装だ。テーブルの上には豪奢な花瓶に盛られたたっぷりの百合の花が置かれ、セッティングされている位置皿は、使い込まれた風格のあるジノリ。

メニューを眺めて、コースにしようか単品にしようかあれこれ相談。
結局お決まりの点心類を少々と、あとはスープや麺などを組合せることにした。私が各店のマンゴプリンを食べまくろうとしているのと同様、だんなは各店の蝦餃を食べまくろうとでもしているようだ。どこに言ってもマンゴプリンと蝦餃と蛋撻を食べているような気がする。
また、あまり他では見かけないメニューがあったのでこれも思わず注文。「酔鳩」、酔っぱらい鳩、だ。
「面白いからこれも食べちゃえー」
と昼から鳩1羽喰うこととなった。

最初に来たのは点心2種。皮も身もプリプリの、ここもまたハイレベルな蝦餃(海老餃子)と、五香粉の香りがふんわりと少量香る、ねっとりとした咸水角(ハムスイコク)。咸水角の中身は、こってりと甘く煮たチャーシューのような、甘味のとても強いもの。餅皮の表面はさくさくと軽い食感で、しみじみとくる美味しさがある。どちらも洗練された、上品な点心だ。

続いて、スープ。牛ひき肉と蟹肉、青菜などがたっぷり入った透明なスープには、卵の白身が美しく散っている。小指の先ほどの蟹肉はざくざくと入っていて、これが嬉しい。塩気少な目のさっぱりとしたスープは、それでも飲んでいると顔中が汗だらけになってきた。上品な味、軽い食感のスープだ。

そして、おかずが肉2種類。焼きもの2種と酔っぱらい鳩が続けざまにやってきた。甘く焼かれた、中から甘い肉汁がじゅわじゅわと染み出てくる柔らかなチャーシューと、葱油を絡めて食べる蒸し鶏にも似た鶏のグリル。どちらも表面の皮はパリパリと香ばしく焼けている。チャーシューの甘辛具合と肉汁の多さがたまらなく美味しい。

「よっぱらい鳩」、こちらは香港初日に食べた「鳩のロースト」と同じく頭がついていた。ローストは茶色くこんがり揚がっていたからそれほどの衝撃はなかったけれど、こちらは毛穴の跡も美しく、「羽むしられたまんまでございます」という顔をしている。ちょっと……かわいそう、というか少々グロテスク、というか。「美味しく食べてやるからな、成仏しろよ」と心の中で合掌して、いざいざ鳩に。

よっぱらい鳩。頭がちょっとだけコワイ……。

紹興酒の味と香りが強く漂う「酔っぱらい鳩」はこちらが酔っぱらってしまいそうなほどだった。蒸した鳩を上質の紹興酒につけたもののようで、皮も肉も酒の香りが存分にする。野生の味がする鳩のケダモノ臭さが酒の香気と共に立ち上ってきて、何ともワイルドな味がした。お供にアルコールが恋しくなってくる料理だ。

帆立やイカがざくざくふんだんに入った魚介の麺を最後に啜り、待望のマンゴプリンで締めくくる。背の高いカクテルグラスに固められたプリンはマンゴーがピューレ状になって混ざったもの。他の店が果肉の塊ごろごろ入りなのに比して、個性的ではあるけれど少々面白みに欠けるものだった。美味しいは美味しいんだけどせっかく上質なマンゴーが手に入る地で、何も細かいピューレにしなくても、と思うのだ。

灣仔「君悦酒店(Grand Hyatt Hong Kong)」内「港灣壹號(One Harbour Road)」にて
蝦餃
咸水角
牛ひき肉と魚介と卵のスープ×2
焼きもの盛り合わせ
よっぱらい鳩(酔鳩)
魚介の汁麺×2
マンゴープリン×3
HK$38.00
HK$33.00
HK$150.00
HK$160.00
HK$150.00
HK$160.00
HK$114.00

蛋撻にまみれてお買い物

食後は「お買い物に行こう!」と地下鉄に乗って「中環(Central)」に行こうということに。が、地下鉄駅のそばに本屋を発見、ふらふらと入ってしまう自分だった。異国の地に行ったらばスーパーマーケットにも行かねばならないが、本屋も行かねばならないのである。観光客が行くような本屋じゃなくて、ごくごく普通に雑誌だの何だの売っているような本屋。「どんな料理本があるんだろう」と私の興味はそこに集中しているのであった。

なかなか大きな本屋だったにも関わらず、料理本のコーナーは案外と簡素だ。それでも3冊、マンゴプリンのレシピの載る本を購入できた。日本語などはもちろんどこにも載ってなく、全ては広東語と英語だらけ。それでもなんとなくレシピはわからないでもないような気がしないでもない(どっちやねん)。
わさわさと本を抱えて、気が付いたら3500円分も買っていたのだった。

灣仔 本屋にてお買い物
『糖朝甜品』第8版
『[米羔]餅甜品制作』
『香港特色小吃』
HK$52.00
HK$52.00
HK$98.00

本をぷらぷらと持ちつつ、地下鉄に乗って「中環(Central)」に到着。
まずはキッチュな中華風衣料や雑貨が溢れている「Shanghai Tang」という店を覗く。チャイナカラーのカラフルな服やら極彩色のTシャツなどなど、魅惑的ではあるけれど「日本のお茶の間には絶対似合いそうもない……」な感じの雑貨類を眺め歩く。

続いて、急な坂道を上りつつ「繼L酒家(Yung Kee Restaurant)」へ。ローストダックで有名な店だけど、なんでもHK$25程度でダック乗せ弁当が買えるらしい。日程的に中での食事は諦めたけれど、弁当は諦めていない私たちなのであった。さっき昼御飯喰ったけど、当然弁当をおやつに喰うのである。
「繼L」の名前も輝かしい巨大看板の下の店には、テイクアウト専門の入口まで設けられている。どうやら弁当は大人気のようなのだった。ちなみにここのピータンもまた有名。「香港一」という人も少なくないらしい。私はピータン、大好物。「2個……いや、3個3個」と袋にピータンを詰めてもらった。

中環「繼L酒家(Yung Kee Restaurant)」にてお買い物
金牌燒鵝飯
皮蛋
HK$23.00
HK$5.50×3

この店の前の坂を更にずんずん上がっていったところに「この道一筋48年」の蛋撻屋があるらしい。蛋撻を愛しているなら行かねばならぬ。喰わねばならぬ。気温の高さは相変わらず体力を奪ってくれるけど、汗をかきつつ数百メートル進んだところに、確かにその店はあった。

店頭にはロールケーキやふわふわパンなどが何種類かケースに入っている。ちょっと奥に、ケースに並べるのももどかしいとばかりに、蛋撻が続々と焼き上がっては木箱に入って置かれていく。お客さんも次々と何個も蛋撻を買っていく。壁には白人のおっちゃんが嬉しそうに蛋撻を囓る写真が載った新聞の切り抜きが。彼、どうやら「前香港総督府代表」さんなのであるらしい。なんでもリムジンで乗りつけて食べに来ていたのだとか。気合いと年期の入った蛋撻屋なのであった。

蛋撻を3つ、それに美味しそうだったロールケーキ1切れも包んでもらう。柔らかい蛋撻は袋に入れるとすぐにグズグズに崩れてしまうものだが、ここの店はちゃんと箱に詰めてくれるのだった。これならホテルまで崩さずに持って帰れそうだ。

中環「泰昌餅家(Tai Chong Bakery)」にてお買い物
蛋撻
ロールケーキ
HK$3.50×3
HK$3.50

蛋撻の入った箱は、未だほこほこと温かかった。
「焼きたてが、美味しいんだよね……」
「なんか、良い匂いがしてくるんだよね……」
「ああっ、もう辛抱たまらんっ!」
とおもむろに路上でガサガサと箱を開け、1個だけ皆で分け合いつつ(奪い合いつつ)蛋撻を囓る。

プルンフルンとしたプリン生地の詰まるパイは、パイというよりクッキーのようだった。粉っぽくサクサクとした生地は、こんがりと表面が香ばしく焼けている。食べるのに3口ほどを必要としそうな、程良い大きさの蛋撻はプリンとパイのバランスもまた絶妙だった。まだ灼熱の、プリン部分は崩れそうなほどトロトロだ。卵の濃厚な味ととろけそうな緩い固さが口の中でふわっと甘さを残して消えていく。プリン部分が溶けていく瞬間は「んもおぉぉぉぉ〜」とくねくねしちゃうほど美味しいのだった。さすが48年この道一筋のオヤジが焼くものなだけはあったのだった。
これは確かに熱烈なファンも産まれてしまうことだろう。一体この旅行で何個の蛋撻を喰っているのか。「世界一のマンゴプリンを探す旅」は「世界一の蛋撻を探す旅」でもあるらしいのだった。

……しかし、暑い。
「喉渇いたよー。休みたいよー。何か飲みたいよー。」
と最初に音を上げたのは私だった。
「ここの先、トラム乗り場に向かう途中に蛋撻の美味しい喫茶店があるんだよー。」
チェックも怠らない私なのだった。

オヤジだらけの喫茶店〜「檀島珈琲餅店」

先の蛋撻屋さんから坂を下り歩くこと数分、折り悪く、雨がパラパラと降ってきた。どうやらまた台風が近づいているということだ。
急ぎ足で目指す「檀島珈琲餅店」を見つけ、かけこんだ。店頭で名物蛋撻や菓子パンなどが売られる、どこかレトロな雰囲気の喫茶店だ。

店員、オヤジだらけだ。どうも日本じゃ「店員オヤジだらけ」なんて店はあまり無いものだから、妙に「オヤジだわ、オヤジがいっぱいだわ」とドキドキしてしまう。メニューは漢字だらけ。コーヒー紅茶などの飲み物の他、トーストやマカロニ類などの軽食、麺や丼ものなどもたっぷり揃っている。食事メニューの方が多そうではあったけど、あくまでここは「喫茶店」なのであるらしかった。時間は午後3時、それでも食事をしている人も少なくない。

「凍鴛鴦」に「凍檸檬茶」「凍鮮[女乃]」を注文。注文を聞きに来たおっちゃんが、
「これは喰わねぇのかこれは?」
みたいな感じで蛋撻の写真を指でつつく。あ、当然それもいただきます。2個ね。蛋撻の名前は「極品蛋撻」だ。自慢の蛋撻なのだろう。

極品蛋撻。確かに極品。飲み物が来るまで、店の中をちょっとキョロキョロ。すぐそばのテーブルでは「POLICE」の腕章をつけた、制服着用のおっちゃんが一人「今は休憩なんだよね」てな顔をして茶を啜っていた。大口開けて、幸せそうに蛋撻を喰っている。外は雨。オヤジの店でオヤジが蛋撻。何だかとてものどかな光景だ。

ずらりと目の前にドリンク類がやってきた。「凍鴛鴦茶」は香港名物、紅茶とコーヒーのミックスドリンク。「凍鮮[女乃]」は冷たい牛乳。Nestleの瓶牛乳にぷすっとストローが刺さっている。私の前の前に来た「凍檸檬茶」はアイスレモンティーだけど、「何もそんなにレモン入れなくても」と言いたくなるようなものだった。大きなグラスに並々と甘い紅茶が入り、レモンの薄切りがこれでもかと押し込めるように6切れ7切れと沈んでいるのだ。もうこれは誰が何と言おうとレモンティー!てな感じの迫力のアイスティー。

少々大きめの、名物蛋撻もやってきた。ねっちりしたプリン生地に、タルトは基本のサクサクパイ皮タイプ。これもまた素朴な、懐かしくなってきてしまうような味がした。上品さはあまりないけれど、「お母ちゃんの蛋撻」という感じの、柔らかな優しい味。
今日は何だか蛋撻ばかり食べているような気がするなぁ。(それもまた本望)

中環「檀島珈琲餅店」にて
凍鴛鴦茶
凍檸檬茶
凍鮮[女乃]
極品蛋撻
HK$15.00
HK$15.00
HK$14.00
HK$4.00×2

止まったトラム

雨はいよいよ本降りになり、「檀島珈琲餅店」を出た私たちは目の前のトラム乗り場からトラムに乗ってホテルに戻ることにした。雨の中、冷房のないトラムは窓も開けられず、温室のようになってしまっている。折良く空いた1階のベンチ席に腰掛けてぼーっと雨の街を眺めつつ進むこと100mちょっと、「中環(Central)」の繁華街ど真ん中で止まったトラムはそのまま動かなくなってしまった。「あり?」と待つこと数分、今度は救急車の音が聞こえてきたかと思うとトラムの前方で止まっている。客たちも何事かと運転席に寄っていっては「動かないの?じゃあ降りるよ」と料金も払わずにざらざらと次々に降りていくのだ。

降りて地下鉄に乗り換えても良いけど、何しろ雨も佳境なので外を歩きたくない。そうこうしているうちに10分ほどが経過してしまった。良くあることなのか、客はあまり動じもせずに降りて行く者あり、おとなしく待っている者もあり。息子が窓ガラスに顔を押しつけて眠ってしまったので、私たちはぼんやりとそのまま発車を待つことにした。雨の香港、台風大接近中の午後であった。

そうこうしてホテルに帰るともう午後4時を軽く回ったところだ。
部屋についてまもなく、本日のウェルカムフルーツもやってきた。昨日はリンゴで今日はマスカット。「置いておきますねー」という感じに、昨日のリンゴに積み上げるようにマスカットの房がどかどか上に積み上げられた。日替わりの果物は、なんとなく嬉しい。

繼L酒家の弁当。お肉たっぷり♪

ちょっと酸味のあるマスカットをつまみつつ先に買ってきた「繼L酒家(Yung Kee Restaurant)」の弁当を皆でつつく。
細長い米の飯がみっしりと紙箱に詰まり、青菜の炒めとともにガチョウのローストがどかどかと詰め込まれている。梅の香りのハチミツのソースつき。
御飯にはガチョウの焼き汁というか煮汁というかが混ぜ込まれているようで、妙に味わいがある。少しばかり野性味のある肉はジューシーで、茶色く光る皮はパリパリ。梅のさっぱりとした後味のある甘いタレと絶妙に良く似合っていた。おやつにしてはディープな丼の弁当は、カラッと晴れた日にでも公園かどこかで食べたらさぞ美味しいことだろう。
雨はいよいよ本降りだ。大丈夫かなぁ。

最後の晩は、排骨飯〜「美味厨」

ちょっと部屋で休んでから午後6時頃、「買い物しがてら食事に行こう〜」とホテルを抜け出した。
宿泊ホテル、「港麗酒店(Conrad International Hong Kong)」にはショッピングモール「太古廣場(Pacific Place)」が隣接している。ホテルのエレベーターからそのままモールへ直結しているのだ。そしてそこには西武デパートもあるのだった。日本メーカーの化粧品から何から、ぎっちり詰まったデパートだ。

日本のデパートに特に用事はないけれど、ここの地下食料品売り場は凄いらしい。昨年末に改装された「great」なる名前のスーパーを覗きに行ってみる。香港ローカルの食材よりは輸入品が多い売り場ではあったけれど、バーゲンシーズンの今、食料品売り場もまたバーゲンセール実施中なのであった。イタリアメーカーの大きな瓶入りオリーブが、通常価格HK$73.00のところHK$25.00などとなっている。シーザーサラダのドレッシングも半額程度。あまり嬉しいので、重さを考えずについついお買い物。香港でオリーブ買ってきてどうするんだ、まったく。

金鐘「太古廣場(Pacific Place)」内「great」にて
黒オリーブの瓶詰
緑オリーブの瓶詰
シーザーサラダのドレッシング
HK$25.00
HK$25.00
HK$20.00

排骨菜飯

三鮮炒麺

蒜子[見](←草冠つき)菜

そして夕食。最後の晩餐は、地元民に愛されているらしいチープなお店で食べてみることにした。どこかで見た排骨飯の写真がめちゃめちゃ美味しそうだったのだ。銅鑼灣(Causeway Bay)にあるその店の名前は「美味厨(Delicious Kitchen)」という。

そろそろ「土砂降り」と言っても良いのではという雨の中、表通りから少々奥に入ったところにあるらしいその店を目指す。広くはないその店は地元民でごった返していて、店員さんも忙しそうに走るように動き回っている。待望の「排骨菜飯」はHK$28。注文した、一番高い野菜炒めがHK$50(約800円)程度という、なかなか安く食べられる店だった。ビール飲んでコーラ頼んで、御飯と麺と野菜炒めで2800円くらいだ。

サンミゲールで喉を潤していると、テーブルにずらりと料理が並んだ。高菜を混ぜ込んだような、葉の混ざる御飯の上にはこんがり揚がった骨付き豚肉がどかっと乗っている。噛むと肉汁と油が両方一斉にじゅわ〜と染み出てくるような柔らかで香ばしい肉だ。野菜の塩気が程良い飯をわしわし食べつつ、これまた程良い塩味の効いた肉を囓る。上品さなどとはかけ離れた、「腹が空いたらとりあえず喰っとけ〜」てな感じの、迫力ある丼飯だ。

だんな垂涎の「三鮮炒麺」は海老と鶏肉、ハムの入った焼きそば。もやしシャキシャキ、レタスモシャキシャキ、塩味とも醤油味ともオイスターソース味ともつかない(でも何だかタレの味がする)、妙に美味しい焼きそばだ。だんなは、しばし無言になって「うめっうめっうめ〜」とハフハフ必死に喰っている。

そして、おかずにと頼んだ「蒜子[見](←草冠つき)菜」。2日目の昼に「欣圖軒(Yan Toh Heen)」でも似たようなものを食べているが、こちらは干し海老は乗ってないし、いかにもざっくばらんな一皿だ。値段からして3倍違う。こちらでは今が旬らしい「[見](←草冠つき)菜」という野菜がスープと共に炒められており、そこにはにんにくの素揚げがこれでもかこれでもかとごろんごろん入っている。栗のようにホコホコのにんにくは、疲れた身体に染み渡るように旨かった。「これで全員、明日は臭くなるわね」とニヤニヤしながらにんにくを囓りまくった。

全体的に、どこかチープでジャンクな味わいの店で、「そうそうこれこれ〜っ!」と拳を握りしめたくなるようなしみじみしちゃう美味しさがあった。近所にあったらきっと週に1度は通っちゃうだろうな、という感じの。
最後の最後にちょっとディープな香港の深淵に触れられたようで、すっかり御機嫌な私たちだった。

銅鑼灣「美味厨(Delicious Kitchen)」にて
排骨菜飯
三鮮炒麺
蒜子[見](←草冠つき)菜
サンミゲール
HK$28.00
HK$37.00
HK$50.00
HK$16.00

そして深夜のお茶会

夕食の店に入ったのが午後8時過ぎ、帰るとすっかり10時を回っているのであった。
「でもでも、買ってきた蛋撻とかあるし」
と深夜のお茶会。
湯を沸かしてウーロン茶を入れ、
「そういえば、このホテルにもマンゴープリンはあるのじゃないか?」
とルームサービスメニューを捲ってみる。残念ながらメニューには掲載されていなかったけれど、「本日のデザート」なんて項目もあったりするので、「マンゴープリン、持ってきて貰える?」と電話して聞いてみた。幸運なことに、あるらしい。1個HK$45となかなか高価ではあったけれど、持ってきてもらうことにした。

程なく、白いリネンがかけられたワゴンがしずしずとやってくる。平皿の上にはマンゴープリンが鎮座ましましていて、それとは別に椀とレンゲもついてきた。ワゴンの上には一輪の花が飾られた花瓶まで。で、ワゴンの上に昼間買ってきた蛋撻やらロールケーキやら並べ、自分の部屋で入れたお茶も並べ、わいわいと食べ始める。

プリンはいまひとつ果実味の薄い、ごくごく普通のものだった。口溶けも良くもなく悪すぎることもなく、普通。それでもホテルの部屋で普通に食べられるマンゴープリンの存在を幸せに思いつつ、最後の晩もまたマンゴープリンと共に更けていくのであった。

明日は帰国。でも、台風が接近中ということだ。どうなることやら……。