6/25(水)〜 後日談

翌日。 Kさんは朝から会社。私は今日一日年休。
朝からお腹が痛いのでKさんを送りだした後、もう一寝入りする。目が覚めると10時前で、もそもそと起きて定番の「どーなってるの!?」を見る。嗚呼、なんか主婦みたいだ。
暑いな暑いなと思いながら、洗濯をして、荷物の片づけを始める。旅行荷物にもてこずったが、案外に帝国ホテルから届いたものが厄介だった。10個程度残ったクラッカーなんて、一体どうすれば良いのだろうか。とりあえず棚の上にあげておく。Kさんの誕生日かなんかに、一人で鳴らしたりなんかしてな。でも案外、こういうのって2〜3年忘れ去られた挙げ句に湿気って捨てられる運命にあるんだよな。などということをつらつらと考えながら片づける。
ウェディングドレスもとりあえず綺麗に袋に入れて一安心。夕方になって、とりあえず食材を仕入れにぺたぺたと外出する。卵やら野菜やらを買って帰る。日本の味的料理を作るのだと意気込んで、道場六三郎流肉じゃがが今夜の献立。このくそ暑いのに肉じゃがかい、と思わなくもなかったが食べたかったんだから仕方がない。
coopでマンゴを安売りしていて、思わずこれに引き付けられた。
「マンゴー……バリでいやっつーほど出てきたような……でも安いし、あの味は忘れられない……私の心はトロピカル」
などとわけのわからない事をつぶやきながら1つ購入。157円なり。何かデザートをこれで作ろう。

18:50
Kさん帰宅。絶対遅いと諦め半分だったから、かなり嬉しい。相変わらず人の料理を旨い旨いと言って豪快に食ってくれる。愛いやつ。
のんびりお風呂に入って、マンゴの創作デザートを食う。ただ単に刻んだマンゴに生クリームと牛乳と砂糖を合わせてミキサーでぐりんぐりんにしてゼラチンで固めただけのものだったが、なかなか美味。ただ、手抜きしてちゃんと溶かさずに入れたゼラチンがざらざらしていてかなり残念。Kさんに10点中の8点を貰う。すぐ寝る。

6/26
由紀、休暇後初めての出勤。ビルの入り口で同期のM君に会い、「おはよー」と声をかけるも、彼は3秒ほど私の事がわからなかったらしい。
「……わからなかった……」
と真剣に言われる。それは髪型の所為か、肌の色の所為なのか、あるいは休暇中に増えた体重の所為なのか、そこのところはわからない。
会う人会う人に「黒いね〜」と言われる。今更ながらに自分が土人化していることに気が付かされる。

昼休み、お土産に買ってきたチョコレートを皆で食う。土産物のくせに結構美味しく、若い衆でがつがつと食べる。M君にリクエスト通り買ってきたミニガムランをあげる。
「え、うそ、まじまじ?本当に買ってきてくれたんだー」
と心底嬉しそうにキンコンキンコン叩きはじめた。一瞬にして某社東京中央支店法人営業部のオフィスに熱帯の空気が漂いはじめる。何ともバリチックな音色はただ音階を叩いただけでも絶大な効果があるらしい。
「おお、これは良い感じだ。イメージが、わく、わく」
と今度は妙なリズムをつけて叩きはじめた。やめてくれ、ここは日本だ、法人営業部のオフィスなんだ、またバリに心が飛んでいってしまうじゃないか……と心中悶えていると、M君は
「続きは、家で。」
となごりおしそうに包まれていたバリの新聞紙に楽器をしまうと
「これを使って作った曲、テープに取ってきてやるな」
と私に言った。……M君って、ミュージシャンだったのか。長く同じ課にいて初めて知った事実である。

就業後、課の皆で築地の焼き肉屋に繰り出した。私の結婚祝の宴を開いてくれるらしい。コの字型に座って焼き肉を食い食い、アルコールで饒舌になった課長や部長の話を聞く。曰く、「家庭は妻の度量の広さで決まる」だとか、「余裕が大切」だとか。心中「うるさいな〜」と思わなくも無かったが、とりあえずにこやかに聞き流す。
話は「名字が変わったこいつを、これから何と呼ぼうか」ということになり、新姓は慣れないし呼びにくいしで別の名前をつけようということになる。課長命令で一人一候補を挙げることになった。
「モンチッチだから、もんちゃん」(M氏・談)
「先輩は先輩だから、先輩」(K氏・談)
「……唯一の女性だから、マドンナ」(T氏・談)
「やっぱ、アレだな、ゆきちゃん」(多少酔っている課長・談)
等と酒席ならではの盛り上がりが見られたが、
「で、お前は何と呼ばれたいんだ、ん?」
との課長の声に
「……まどんな」
と正直に答えたのは私である。
かくして一夜は新婚旅行先のホテルにあった、プライベートプールに関して異様な盛り上がりをみせつつ、私は「まどんな」と呼ばれ続けたのであった。

6/27、金曜日。 出社2日目。身体が日常に復帰していくのを感じる。2週間でたまってしまった仕事も何となく見通しがたって、友人にメールを書く余裕も出てきた。
昼休み、昨日持ってきそこねたドリアンガムを皆で試食する。こわごわと皆で持て余して一向に先陣を切る者がいない状況の中、Tさんが食事から戻ってきた。
「あのっ、バリのお土産のガムなんですけどっ、おひとつどうぞ」
と皆でにったらにったらしながらガムを差し出すと
「変な匂いがする……」
とか言いながら全部食べてしまった。どうやらガムではなく、ソフトキャンディのようなもののようだ。しかし、割合と平静に食べている氏の周りには言い様の無い匂いがたちこめつつある。この匂いがするうちにどうせなら、と次に私が口に放りこんだ。
一噛みで言い様の無い匂い。二噛みで舌に広がる甘さと突き抜ける更に強烈な匂い。……ちょっと待て、これはたまらん、正直言って、私は食べられない。と、私は3噛みでリタイアした。だが、T氏が全部食べてしまった為に周囲の反応は今一つである。つまらん。
仕方ないので、パソコンについて聞きに来ていた、企画のSちゃんに一つ食わせる。
「無理しないで、不味かったらすぐ吐き出して良いから」
と食べさせると一噛み目で泣きそうな顔になってしまった。ティッシュを渡して謝る。やっぱり女の子に食わせちゃいかんよなぁ。
続いて食べた後輩のK君はこれも平静に
「……確かに美味しくはないけど、でも大丈夫ですよ……」
とか良いながら結構噛んでいた。やっぱり甘いと吐き出していたが、かなり大丈夫そうである。ますますつまらん。 その後、「ガムはいらんか〜」とフロア内を闊歩する私の姿が見られたのは言うまでもない。
……しかし、ガムの後遺症やたいしたもので、吐き出した後も口の中が例の匂いで一杯になってしまったのである。困ったものだ。

色々な余韻を残して2週間のイベントは終了した。旅行もセレモニーも楽しいことばかりだったが、やっぱり大変でもあった。ことに結婚式なんてもんはめんどくさくてもう二度と致したくないという心境だ。……まぁ……多分することはないとは思うけど(笑)