7月2日(星期一) これが世界一の芒果布甸!

いきなりディープな朝御飯〜「徳發牛丸」

一昨日の夜(=出発前夜)、私は「明日は遠足♪」みたいな子供の心境でずっと浮き足立っていた。どうやら昨夜も浮き足立っていたらしい。わくわくしたまま眠りについて、目が覚めてみるとなんと朝の5時45分。1時間の時差がある日本時間にすると6時45分なので、おもいきり「いつもの朝」みたいな時間に起きたことになるらしい。でも、私の目の前にある時計の針はまだ6時前を指しているのだ。空もまだ暗いし、だんなも息子も爆睡中だ。しょうがないので一人起きてシャワーなど浴び、旅行記をぺたぺたと打ったりして数時間を過ごしていた。

ぼーっとバスローブ着たまま明けゆく海を眺めていると、突如巨大な客船が目の前に現れてずもももも、と右奥に向かって進んでいく。
「きゃー、船。ふねふねふね!」
とバタバタと一人構える私は、きっとアホな姿だったことだろう。「海を眺めながらアンニュイな朝……」なんて優雅な朝にはほど遠いようだった。

きゃー、船。ふねふねふね!

午前7時過ぎ、だんなと息子も起き出してきた。
「それでは、今日はディープな麺料理でも食べに行こう!」
とホテルを抜け出す。九龍公園(Kowloon Park)のそば、ガード下にあるという怪しい牛肉団子の麺屋さん「徳發牛丸(Tak Fat)」が目当ての地だった。なんでも牛肉団子一筋50年とかいうオヤジが作り続けている秘伝の団子であるらしい。それをビーフンやら麺やらに乗せて食べる。団子のみも可、らしい。

「ガード下」は2階建てほどの高さのある薄暗く怪しい空間だった。店と店の分け目もないようなところを色々な飲食店がひしめきあって営業している。祝日の今日、お客はおっちゃん2人組とか1人で食べてる若い兄ちゃんとか、ちらちらといるくらい。目当ての店は、大きな「徳發」の看板が出ていてすぐに見つかった。白いシャツが汗で背中に張り付いたようなおっちゃんが「こっちに座りなよ」みたいな手振りで丸いステンレスの使い古されたテーブルを指さした。シンプルなスツールが適当に置かれている。机のすぐ脇は金網になっていて、向こうは真っ暗な空間だ。その真っ暗な空間には怪しく光る銀色のものが見え、そこからは「……ぶーん…」という静かな音と共に時折風がふいてくる。良くみると、金網の向こうに巨大な古めかしい扇風機があって、こちらに風を送っているのであった。な、なんだか……すごい。

壁には「牛什」「牛[月南]」「牛丸」、それに「麺」「河粉」「米粉」の文字が並べて書かれ、「毎椀16元」と書いてある。前者1つと後者1つを組み合わせて注文するらしい。「油菜」は10元、これは青菜炒めのようだ。
日本語はもちろん、英語も通じにくいような空間で、壁のメニューを指さして「牛丸と麺の組み合わせを2皿と、油菜を1つ」と注文。
「このへんが厨房」みたいな切り分けもいまいちできてなくて、私たちが入ってきた通路には子供が入りそうなサイズの巨大な籠がどかっと置いてあった。その中には洗われて切られたばかりのような空心菜が上まで詰まっている。その空心菜を炒めるような音が奥から聞こえ、まもなくプラスチック容器に入った麺と楕円の皿に盛られた青菜がやってきた。

牛肉団子麺は葱入り。麺は縮れのある細くて固めの麺、スープはどこかインスタントスープの香りがしてくるようなチープな感じのもの。麺とスープはとりててて「これはすごい!」なんてものではないけれど、牛肉団子は確かに噂になるだけのことはあった。ハンバーグ生地の団子みたいなふわふわなものじゃなく、表面がツルンテラテラと光っている灰色っぽい色の団子は、中に少しも空気が入っていないようなねっちりとしたものだ。香味野菜の香りと共に、どこかレバーのようなケモノ臭さも感じられる団子はムチムチプリプリとしている。塩気も適度にある団子は存在感のある、食べ応え充分のものだった。

牛丸麺〜♪
青菜炒め〜♪

そして、私たちの心を鷲掴みにしたのが青菜炒めだった。大量の油で「炒めた……ていうより揚げたんじゃない?」などと言いたくなるくらい、表面が油の膜でテラテラとしている空心菜は程良く熱の通った心地よいシャキシャキ加減。塩炒めにしただけのような青菜をもりつけたその横に、「うりゃ!」とばかりにオイスターソースがてろんとかけられている。オイスターソースをなすりつけつつ食べる青菜は、さっぱりとした麺に異様に良く釣り合った。青菜に絡まる灼熱の油の層で家族全員火傷しそうになりつつ、
「この青菜炒め、うま〜っ!」
「超超、うまうま〜っ!」
と大騒ぎ。「高級中華も、そりゃ美味しいけど、こういうのがたまらないんだよねぇ〜」なんて言いながら青菜炒めを賛美しまくっていた私たちだった。

尖沙咀 「徳發牛丸(Tak Fat)」にて
牛丸麺
油菜
HK$16
HK$10

甘味屋なのに粥、旨いじゃないか〜「糖朝」

ジャンクでチープでうまうまな麺を食べた後、息子が「コーラ、コーラ」と騒ぎ始めた。彼は最近コカコーラに御執心だ。そういえば、さっきの店で水も出なかったし、確かに喉も乾いているだろうしと「じゃ、喫茶店系のお店でも入ろうか」と「大排[木當]」や「許留山」などのチェーン店を探し歩く……が、休日の今日は開店が遅いらしかった。
「糖朝ならやってるよ、確か」
と昨夜12時間前ほどに入ったばかりの「糖朝(The Sweet Dynasty)」に今日も向かう。だんな、麺喰ったばかりなのに何故か粥を注文。
「よっく食べるわねぇ」
と言ってる私も名物のシロップかけ豆腐を注文。なんだかすっかり朝食二次会と化しているのであった。こらこらこら、昼にはホテルの高級店行く予約してんじゃなかったか。

具沢山の「糖朝」のお粥 やってきたのは吉士馬拉[米羔](中華蒸しパン)、窩蛋免治牛肉粥(落とし卵とひき肉入りのお粥)、山水豆腐花(シロップがけ冷たい豆腐)、樽装可口可楽(コカコーラ)、特式鴛鴦(凍)(冷たい鴛鴦茶)。
熱い熱いお粥は大きなどんぶりにたっぷりと、葱や油条、塩和えピーナッツなどがたっぷりと乗っている。半熟の卵が落とされていて、底からはひき肉もざくざく出てくる。思わずだんなから奪いつつ私もがつがつ食べてしまった。貝柱の旨味が濃厚に感じられるサラサラのお粥はしみじみするほど美味しい。「これもまた香港の朝!」という感じだ。

シロップがけ豆腐は、本当に本当のあの「豆腐」、昨日食べたあの豆腐に甘いサラリとしたシロップがかかっているもの。「やっぱり醤油かけて喰ったほうが美味しいかも」と思いつつ、ニヤニヤしながら食べてしまう。美味しいか不味いかで言えば美味しいんだけど……ニヤニヤニヤ。

そして、「鴛鴦茶」はコーヒーと紅茶を混ぜ合わせた香港独特のソフトドリンク。ここのは甘いアイスコーヒーとミルクティーを混ぜ合わせたような、綺麗に2層になったものだった。かき混ぜて飲むと、ほの甘い牛乳の味の中にコーヒーと紅茶の味が確かにする。
「わはははは、コーヒーで紅茶だよ、確かに」
「ふはははは、美味しいような不味いような、いや、やっぱり美味しい……のかなぁ。」
とまたもやニヤニヤしながら飲む。
午前9時、すっかり充実した胃袋で一度ホテルに戻ったのだった。

尖沙咀「糖朝(The Sweet Dynasty)」にて
吉士馬拉[米羔]
窩蛋免治牛肉粥
山水豆腐花
樽装可口可楽
特式鴛鴦(凍)
HK$13.00
HK$32.00
HK$15.00
HK$15.00
HK$12.00

これが世界一の芒果布甸!?〜「欣圖軒」

部屋に帰ると「あと2時間で昼御飯」という感じだった。
「うぉー、腹一杯だー」
とでかいベッドでごろごろごろ。Tシャツにジーンズというどうでも良い格好から、一応小ましな服に着替えて、今日のお昼はこのホテル内にある「欣圖軒(Yan Toh Heen)」でお食事だ。

「欣圖軒」。香港有数の高級料理店の1つだが、聞き慣れない名前だ。1ヶ月以上前に予約を入れていた私たちですら、この名前は聞き慣れない。何しろ、今年の5月31日までは、この店は「欣圖軒」ではなくて「麗晶軒(Lai Chin Hing)」だったのだから。
「麗晶酒店(The Regent Hong Kong)」の中にあるから「麗晶軒(Lai Chin Hing)」。ホテルの名前が「香港洲際酒店(Hotel Inter-Continental Hong Kong)」となったからには店の名前も変わって当然ではある。あるんだけど……何だかちょっと寂しい気分。店の内装や調度品、スタッフもそのままだと聞いてはいるけれど、何しろ「麗晶軒」のネームバリューはものすごいものがあったので。

12時丁度、ホテルのロビーフロアからちょっと奥に向かって歩き、専用の階段を海に向かって降りていった先にその料理店はあった。思っていたよりはカジュアルな印象。大きな窓からの開放感が大きい所為かもしれない。窓際の席に案内してもらい、海風が強そうな屋外を眺めつつメニューの検討。日本語入りメニューの他、「お勧めメニュー」は広東語と英語。一生懸命見比べつつ、食べたいものをひととおり決めてみた。普通の中華料理メニューも捨てがたいけど、点心類もまたとても美味しそうだ。スープや野菜料理の他は全て飲茶メニューから注文することにした。海老餃子や焼売、鶏と野菜の湯葉巻き蒸しやチャーシューまん。

プーアル茶を頼むと、ポットではなく茶葉入りの蓋椀(蓋つきの茶碗)でやってくる。お湯をたっぷり入れた茶葉入り蓋椀の蓋をちょっとだけずらし、別の小ぶりの茶碗に茶を注ぐ。蓋椀はポットほどお湯は入らず、茶碗2杯ほど飲んだだけですぐに空になってしまう。で、スタッフさんが数分置きに湯を注ぎ、茶を注ぎに来てくれるのだ。めちゃめちゃめんどくさそうだ。茶碗を傾けて飲む動作をすると、もうものの数十秒でスタッフがすっとんできてくれる。

XO醤排骨〜〜〜〜♪♪♪♪プーアル茶をちびちび飲みながら待つこと十数分、アツアツの蒸籠がずらりと目の前に並べられた。海老餃子は皮も具もどこもかしこもプリプリだし、とろんと赤く煮込まれたチャーシューの入ったチャーシューまんのこってりさ加減といったら感涙ものだった。
何だか魚介の味が強い具沢山の蘿蔔餅は好みが別れるかもしれないけれども個性的で面白かったし、絹笠茸が一緒に巻かれた鶏紮(カイザー)の透き通ったスープの旨味も絶品だった。自然光がたっぷりはいる空間は休日ということもあってかカジュアルな雰囲気が漂い、周囲も家族連れやら比較的普段着な装いの若い人のグループなども多かったけれど、味は確かに超一流だ。どの点心も気合いが入りまくって、ピカピカと輝いている。

そして何より、今日一番感動したのが「XO醤排骨」。骨つき豚肉が、自家製のXO醤をたっぷりまぶされて蒸されたもので、XO醤の辛みとか旨味とかほんの少しの甘味だとかの調和がたまらなく美味しい。豚肉そのものに味がしっかり絡んでいるというよりは、豚肉の表面にXO醤のコーティングができている、という感じ。海老や帆立の具の塊が入ったXO醤が肉の上にたっぷり乗っていて、それを絡めつつ骨付き肉を囓る。それだけで御飯3膳は食べられそうなほど美味しかった。骨付きのプリプリ豚肉をこれほど美味しく食べられる調味料があったなんて。

あまりにもあまりにもXO醤が美味しかったので、
「XO醤、買えますか?」
と聞いてしまう。ディッシュ(皿)とボトル(瓶)があります、とのこと。ボトル入りXO醤はHK$260(えーと、大体4000円前後というところでしょうか)。すっごくお高い。お高いけど、
「おっけーです。是非ください。」
と瓶1本を袋に詰めていただいた。店名の入ったシール付き。これで我が家でもXO醤排骨が……(じゅるじゅるじゅる)。

こちらは青菜の炒め物。海老がすごい……。点心を堪能した後は、冬瓜のスープ。暑い夏には身体を冷やす働きが冬瓜にはあるらしい。角切りにされた冬瓜がたっぷり入り、魚介やきのこなども惜しみなく入ったスープは、飲んだところから身体が透き通ってしまいそうなほど澄んだ上質の上湯の味。冬瓜そのものは「瓜です、どのように食べても瓜は瓜です」という水っぽい淡泊な味の瓜そのものだ。ほんの少し青臭く、柔らかで、夏の味。それでも熱いスープを飲んで出た汗はスーッと引いていく。心地よいスープだ。

通常の干し海老の3倍強の大きさがある巨大干し海老と、1片をまるまる揚げたにんにくがざかざかと入る青菜の炒め物も最後に食べて、もうすっかり昼下がりに満腹な私たちだった。ほどよくにんにくの香りが絡んだ青菜も旨かったけど、栗のようにホクホクに上がったにんにくときたら、これまた御飯3膳はいけそうだ。

息子のためには、「彼のためにボウル1杯のイーフー麺をくれないか」とオーダーしてあった。麺が来るまで、彼は楽しそうに「おもち!」と言いながら魚介たっぷりの蘿蔔餅を囓り、「ぎょーざ!」と言いながら蝦餃を囓ったりしていたのだけど、どうも目線がふわふわとしていて何だか怪しい。
待望のイーフー麺が来るころには、「ぼくの!ぼくの……」と言いながら椀とフォークを抱え込んだまま爆睡体制に入ってしまった。朝から歩いていたので疲れていたらしい。寝ているのにフォークを離さない。さすが息子なのだった。
そろそろと椀とフォークを除けて、子供椅子に眠らせたまま私たちは食事を続行。イーフー麺は1皿の蛋撻と一緒に持ち帰り用に包んで貰った。彼が起きたら食べさせてやろう。

バリ島に旅行した時にも思ったけれど、アジア圏の人々はおしなべて子供をかわいがってくれる。通りすがりに息子の頬をなでなでしたりして、「それはサービスじゃないだろう!」と言いたくなることしばしばだ。「お仕事だから」以上に「構いたくて構っている」という感じがするのは気のせいだろうか。
今も、「あららー、寝ちゃったねー」という感じに数人のスタッフが息子の顔を覗き込んで笑いながら去っていき、そのうちにどこから持ってきたのか大判のストールを抱えて戻ってきた。冷房の効いた部屋で、息子の肩にふわっとストールをかけて、「これでオッケ〜♪」てな感じに去っていくのだった。
今回の旅行、「高級店なのに子供連れですんません」と極力予約はランチタイムにして、それも時間をできるだけ混まなさそうな開店直後にしたりして、と気を遣いつつ行ったのだけど、どこもおしなべて「いいよ、ウェルカムだよ」という感じだった。高級店でも、子供椅子はちゃんとある。ありがたいことだ。

さて、眠った息子を後目に、私は待望のマンゴプリンを前にした。
だんなは
「どうせ食べるなら美味しそうなところで食べたいし」
と亀ゼリー(←苦くて香草臭い、どこで食っても美味しいとは言えないもの)を注文。そして蛋撻(エッグタルト)も持ってきてもらった。

翡翠の皿に翡翠の器、翡翠のレンゲのセットでやってきたマンゴプリンは鮮やかなオレンジ色。小さな果肉が上に3切れと、ラズベリーが飾られていた。レンゲがすっと入る柔らかなプリンは、生地の隙間に果肉があるというよりも果肉の隙間に生地があるという感じの、ものすごく生マンゴー果肉含有率が高いもの。口に入れるとふわんと溶けて、食べる前も飲み込んだ後も鼻の奥がふわふわとマンゴーの香りで一杯になるような最高のものだった。劣悪なマンゴーを食べると生臭かったり青臭かったりするのに、このプリンは全くみじんもそんなことがない。ひたすらとろけんばかりのマンゴーがミルク感たっぷりの生地と絡まって、こりゃもう本当に、5杯でも6杯でもいけそうな勢いだった。

私の友人の中に、この店で立て続けに3個のマンゴプリンを食した剛の者がいる。「3個も食べるなんて〜」と当初笑っていた私だったけれど、
「Would you give me one more Mango Pudding ?」
と店員さんに伝える時には、私はもう彼女を笑えなくなっていた。シアワセ気分で2個目も一気に制覇。もう1個食べたかったけれど、サクサクのパイ皮に包まれた蛋撻の美味しさにも魅了された私の胃袋は、そろそろ限界を訴えていたのであった。

綺麗にビニールで包まれたXO醤と、ダーパオ箱、眠り続けている息子を持って、部屋に帰還。
満腹でしばらく部屋で動けなくなってしまったけれど、それもまた本望なのだ。

尖沙咀「香港洲際酒店(Hotel Inter-Continental Hong Kong)」内「欣圖軒(Yan Toh Heen)」にて
Hau Gau(蝦餃)
Siu Mei(焼賣)
Chicken Roll(鶏紮)
BBQ Pork Bun(叉焼飽)
S Spare Rib(XO醤排骨)
Wh Turnip Cake(蘿蔔餅)
W Melon Soup(冬瓜のスープ)
Spinach Garlic(干し海老とにんにくの青菜炒め)
Mango Pudding(香芒凍布甸)×2
Ch Herbs Pudding(亀ゼリー)
Egg Tartelettes(蛋撻)×2
Chinese Tea(プーアル茶)×2
Bot XO Sauce(瓶入りXO醤)
HK$40.00
HK$36.00
HK$36.00
HK$33.00
HK$33.00
HK$30.00
HK$85.00
HK$150.00
HK$35.00
HK$35.00
HK$33.00
HK$30.00
HK$260.00

地下鉄に乗って上環へ

昼食時に眠ってしまった息子は部屋のベッドでなおも昼寝を続行し、午後2時を過ぎたあたりでぱちりと目を覚ました。充電が完了した模様だ。
「イーフー麺、食べる?」
とダーパオしてきたランチの麺を箱から出すと、「たべゆー」とフォーク抱えて食べ始めた。
「タンタも食べる?」
と同じく箱から3個のさくさく蛋撻を取り出すと、「たべゆー」と両手に持って食い始めた。あああ、私も1つ欲しかったのに……。

すっかり息子も目が覚めたようで、「じゃあお出かけしよう!」と地下鉄に乗って香港島に行くことにした。上環あたりに行ってみよう。

上環には、キャットストリートがある。乾物屋街があり、あとは……ハンコ屋さんのストリートとか。
「乾物屋さんで干し貝柱を買いたいなー」
とだんなが言うので、数店舗覗き歩く。……が、なかなかお高い。1袋買ったら3〜4千円はしてしまいそうだった。お高いので、ちょっと断念。

歩いていく途中、ちょっと良い感じのパン屋さんがあった。店内の冷蔵ケースをちらりと見ると、オレンジ色の物体が。マンゴプリンだ!
「見つけたら、買うべし」の自分内の掟に従い、これを購入。通常HK$9のところ、ただいま感謝価格のHK$6でとても嬉しい。更に横には焼きたてらしき蛋撻まで売っていた。アルミの型にまだ入ったままのアツアツそうな蛋撻、「これ、3つ下さい」と伝えると、店のおばちゃんは左手に型入り蛋撻を、右手に薄切り食パンを1枚手にとった。蛋撻を食パンの上にぱふっとかぶせ、そうして型を取ってから紙のケースをかぽっとかぶせる。食パンの上にぱふっとかぶせて紙ケースつけて、を3回繰り返して、まだ温かい蛋撻を袋に入れて渡してくれた。うふー、美味しそう。

上環「荷里活餅屋(Holly Wood Bakery)」にてお買い物
芒果布甸
蛋撻
HK$6.00
HK$5.00

そのまま紙袋ぷらぷらさせてキャットストリートを歩く。今日も湿気がものすごい。なんだか台風が来ているらしい。風が強く、雨もふってきそうだ。「このままじゃマンゴプリン、溶けちゃうよ」とキャットストリートの手前の路地でおもむろにマンゴプリンを食べてしまう。生の果肉がざっくり入った、柔らかなプルプルのプリン。日本の中華料理店でもあまりお目にかかれないかもしれないくらい美味なプリンだった。パン屋さんのものなのに、おそるべし。

キャットストリートには、今日も怪しい露店が並んでいた。怪しい毛沢東グッズとか怪しい宝石の原石みたいなのとか、翡翠の雑貨とか。翡翠のグッズを売る店の店頭では、小さな翡翠のカバが売られていた。密かにカバグッズを集めている私たち。翡翠のカバなんて、ちょっとステキだ。
「何ドル?」
「90ドル。」
「んーんーんー、高いよ。40ドルとか。」
「アイヤー。70ドル。」
「んーにゃ、42ドル。」
などという会話を広東語とも英語とも日本語ともつかない怪しい言語で交渉し、結局HK$65で売ってもらった。後でデパートで見たらHK$90で売られていたので、まぁまぁ良い買い物だったのかもしれない。あるいはキズものだったのをぼったくられたのかもしれないけれど。

上環 キャットストリート内翡翠の露店にてお買い物
翡翠のカバ
HK$65.00

カバ購入直後、パラパラとついに雨が降り出した。傘、今は持ってきてない。急いで横道を駆け下りるようにして駅の方向に向かって戻り出す。一気にバケツをひっくり返したようなゴージャスな雨模様になってきてしまい、乾物屋の軒先で雨宿りさせてもらいつつ、軒先から軒先に駆け込むようにしつつじわじわと大通りに向かって戻っていった。「こりゃ、散策はもう止めたほうが良いかもね」とトラムに飛び乗り、フェリー乗り場のある中環に向かってみた。あそこなら渡り廊下でつながれたショッピングビルがたくさんあるし、適当に雨宿りもできそうだった。

中環のホテルでトイレなど拝借し、ちょろちょろとウィンドウショッピングなど楽しんでいる間に雨も上がったようだ。息子もきっと楽しかろう、と帰りはスターフェリーに乗ることにした。
風雨の影響か、ちょっと波の高い湾を平べったいフェリーは九龍へ戻っていく。ホテルに戻る頃には、雨はすっかり上がっていた。

部屋に戻り、「お茶でも飲んで、蛋撻を食べよう」とルームサービスで熱いお茶を持ってきてもらう。このホテル、部屋にお茶セットが置かれていない。
「無料のお茶、あるの?」
とぬけぬけと昨夜聞いてみたところ、ポット入りの白茶(多分パイミュータン)をちゃんと持ってきてくれた。今日も無料お茶を持ってきてもらってしまった。「お代わり用のお湯もちょーだい」と伝えたら、美しいフォルムの魔法瓶にたっぷりのお湯も持ってきてくれた。すばらしい。
良い香りの熱いお茶を飲みながら、上環で買ってきた蛋撻を堪能。

どこかクッキー生地のようでもあるホロホロサクサクの皮に包まれた、ぷるんと柔らかな卵の味のプリンが詰まる蛋撻はこの店のものも絶品だった。マンゴプリンが美味しくて、蛋撻も美味しい。きっとパンも美味しいことだろう。あんなパン屋さんが我が家の近所もあったら最高にシアワセだなぁ。

マキシムなのに……「映月樓」

東京は新橋にある、私たちの大好きな飲茶のお店「翠園酒家」はマキシムグループが運営している(←マキシム・ド・パリとは関係なし)。「翠園酒家」は東京も香港も、どちらもしみじみ美味しかった。だから、同じくマキシム運営の「映月樓(Serenade)」も美味しいだろうな、と期待があった。

「窓から眺める海の眺めが最高」「スタンダードなタイプの飲茶」「ローカルにも旅行客にも大人気」、聞こえてくる噂はそんな感じだった。どうやら飲茶が楽しめるのはランチタイムだけのようだったけれど、「別に飲茶じゃなくても良いしね」と電話で予約を入れた後にその店に行ってみることにしたのだった。

午後7時に予約。時間通りに到着して、上階中央あたりの席に案内してもらった。アラカルトメニューを眺めて好きなものをあれこれ取ってみることに。キャセイパシフィックで貰った冊子についていたカードを見せると海老の炒めが無料でついてくるらしい。

これは(これだけは)美味しかったんだよなぁ……最初に来た、殻つきの海老を揚げて醤油と塩で和えたようなやつは、ビールとたまらなく良く合った。殻も食べられそうなほどパリパリに揚がっていて、そのこっくり染みた塩加減も気持ちが良い。「これは他の料理もきっと美味しいねー」と気分は割と盛り上がっていた。

だがだが、しかし。
チャーシューは悪くはないけど他の店に比して何ら秀でている印象はなく、大好物の雲白肉は火を通しすぎてひからびたような豚肉がやたらと味の濃いタレにまぶされていた。白身魚のレモンソースは、蛍光色の黄色のソースがえぐいほど甘く、ぺちょっと水っぽい衣がソースで濡れてくたくたとしている。はっきり言って、全然美味しくない。前向きに「不味い」と言えるほど、はっきりと不味かった。

「……な、なんか、違うね。」
「期待と隨分、開きがあるね。」

低迷は、まだ続く。ジュースを飲み干した息子のために冷たいお茶をと英語で所望したところ、しばらく首をかしげて聞いていた男前の店員さんは「OK!まかせろ!」みたいな感じで去っていったかと思うと、花の香りのする温かいお茶を1ポット持ってきたりもした。今回香港に来てから、だんなの英語が通じなかったことはなく、多分この事件はだんなの語学力だけが問題なのではなかったと思いたい。やけにスーハーする香水のような香りのお茶は……悲しいほどイマイチだった。少なくとも料理食べながら飲むお茶じゃあ、ない。椀一杯飲んだら、もう二杯目は飲みたくなくなるような、それはそれは香り豊かなお茶だった。

お茶の件については「違うよ、全然違うよ」と伝えるべきだったかもしれないけれど、その頃には私たちはちょっと疲れてきていた。「もぅどーにでもしてぇ〜♪」と頭の中でエアコンのCMに出てくる「ピチョンくん」が飛び跳ねていた。
福建炒飯は、それでもまぁまぁだったかもしれない。それでも「ぎりぎり許せる」くらいの味だったと思う。

私たちは「頼んだものは残さず食べる」がポリシーだ。よほどの事がない限り、食卓に出たものは根性入れてすっかり食べるのがいつものことだった。だが、目の前に並ぶ残った揚げ魚だとかチャーシューだとかは、とてももう食べられそうにない。胃袋の容量が、というよりもう舌が「それ食べるの、もうイヤーン」と全面的に拒否してしまうのだ。ダーパオしてホテルに戻って食べるのもイヤだし、そうまでして店に気を使うのも何だかイヤだ。
結局「I finished.」と給仕の人に伝えて皿を下げてもらったのだった。ううう、ごめんよ料理。ごめんよ食材。店には謝らないけど、食べ物には謝りたくなる。

最後の最後、「これまた不味かったら最悪だから1個だけ注文しよう」と頼んでみたマンゴープリンもまた、マンゴーの果肉はたっぷりだけど繊維もたっぷり、というシロモノ。濃密すぎて舌の表面がネカネカしそうなほど強い甘さもまた、ちょっといただけるものではなかった。香港滞在中、最も不味いマンゴプリンだったといっても過言ではない。

でもこのお店、めっちゃ混んでいるのである。観光客ならともかく、いかにも地元の人という家族連れも大挙してやってきているのだ。確かにちょっと安めかもしれないけど、この味には全くもって納得いかない。
「も、もしかして料理長以下料理人が全て慰安旅行に行っているとか……」
「いや、キャセイのカードで無料海老食う人には、わざと不味いもの出しているとか……」
不穏な考えになってしまう私たち。やはり昼の飲茶タイムに来るのが正解なのかもしれなかった。不味かったよー……しくしくしく。

尖沙咀「映月樓(Serenade)」にて
FR. PRAUNN(海老の塩味炒め)
BBQ PORK(チャーシュー)
BAKED F.FISH w/LEMO(揚げ魚のレモンソース)
S.PORK w/GARLIC SAU(雲白肉)
FR.FICE w/SEAFOOD(福建炒飯)
DESSERT(マンゴープリン)
S.M.BEER(サンミゲール)
-
HK$65.00
HK$98.00
HK$60.00
HK$50.00
HK$18.00
HK$22.00

夜の女人街と「許留山」

「あああ神様、お金を払いますから私の空腹を返してください……」
「まったくだ……返してください……」
不味い夕飯を食して、目の座った私たちは電車に乗り込み夜の「女人街」へと向かうのだった。旺角(Mong Kok)駅まで地下鉄で向かいそこから通菜街(Tung Choi St.)に入ればそこが通称「女人街」だ。2階建て分ほどの高さに屋根を張られた、巨大な屋台が数百メートル、えんえんと通りを埋め尽くしている。怪しい下着やパジャマ類、タオルやチャイナ服やアクセサリーやTシャツなどなど。これでもかとジャンクでチープな品々が売られている。観光客も地元民らしき人もごった煮の状態で屋台の下をぞろぞろと人が波になっていた。

これでもかと降ってきそうな怪しい品々をくぐり抜け進む間に、だんなはブルース・リーのシルエットが描かれた怪しいネクタイを購入していた。いつ、つけるんだ、だんな……(まさか職場に!?)

欲しいものがないではないけど、人も凄いし、更に雨も降ってきて、ちょっと買い物という感じではなくなってきてしまった。
「どこかで一休みしましょう〜」
とたまたま目に入った甘味チェーン店「許留山(Hui Lau Shan)」に飛び込んだ。赤や緑や黄色の華やかなデザートのポスターが貼りまくられている、なんとも派手な店だ。入ってすぐの席に案内されたというのに、クーラーの風直撃のここは気温一桁ではないかというほどの寒冷な席だった。「冷房がご馳走」とは香港を表すよく聞く言葉だけれど、何もこんなに寒くしなくても、と思う。目の前には地元民らしきカップルがいちゃいちゃとべったりくっついて座っていた。そうか、いちゃいちゃカップルが来るからこの店は寒くしてるんだな!(←違うと思う……)

頼んだものは当然の如くに「芒果布甸」(マンゴプリン)
テーブルの上には文字ばかりの普通のメニューの他、「星期一」「星期二」などの文字と共に「特價HK$15」「原價HK$20」などと2種類の価格つき写真が載っているものもある。「星期一」とは「月曜日」のこと。どうやら毎日なにがしかのメニューが曜日替わりで特売されている模様だ。今日は幸い、マンゴプリンが安売りらしい。1個240円というところ。安くて嬉しい。

やってきたのは、大きな平皿に盛られたマンゴプリン……の筈だけど、当の物体が見えない。マンゴーソースがたっぷりと張られた皿には大きな果肉がどん!どん!と4切れ乗せられ、中央にこんもり乗っているのはココナッツノシャーベットだ。あらゆるものに隠されるようにして、中央下の方に丸いプリンがたぷんと沈んでいるのであった。何だかとても豪華なマンゴプリンだ。若い子好み、というか。

そうして私は本日7個目になるマンゴプリンを味わうのであった。
何故7個なのか。どうしてそんなになっちゃったのか。本日一番のミラクルである。

シャリシャリと氷の粒も冷たいココナッツソルベつきマンゴプリンは、フルーティーなソースたっぷり果肉もたっぷりの、とてもゴージャスなものだった。プリン本体はどこかジャンクな風味が漂いつつも、こんなパフェみたいなマンゴプリンはちょっと嬉しい。
しかし、店は相変わらずこれでもかと冷房が効いている。だんなの注文した「五花茶」は香草臭くて甘い、冷たいお茶。
「さささささ、寒いね……」
と唇を紫にして、食すなり早々に店を後にしたのだった。

旺角「許留山(Hui Lau Shan)」にて
芒果布甸
五花茶
HK$15.00
HK$7.00

そして深夜のマンゴプリン

雨は止みそうではあったけど、まだバラバラとふってくる。雨の中を小走りに、先に降りた駅から1駅尖沙咀寄りの駅まで、通りに沿って歩いて行く。ものの100mちょっとで無事に「油麻地(Yau Ma Tei)」("麻"の字は本当は草冠つき)の駅に着くことができた。地下鉄に乗り込み、夜10時過ぎ、宿に戻る。窓からの夜景はますますもって美しくなっていた。

夕食にイマイチなものを食べてしまい、先ほど食べた夜のおやつも若干ジャンクなものだったので、
「このまま胃袋がイマイチなまま寝るには忍びない……」
と夜の最後にマンゴプリン。しかもお昼に食べた、あの美味なる美味なる店からのルームサービスのマンゴプリンだ。部屋に中国茶も届けて貰って、深夜11時の怪しいお茶会。

プルプルのほわほわの果肉たっぷりのマンゴプリンは、ほんとうにしみじみするほど美味しい。若干果肉が少ないかな?固いかな?という気がしないでもないけれど、ホテルの部屋でだらだらだらだらしながらこんな美味しいもの食べられるのだから最高だ。
ああ、今日食べたあんな美味しいものやこんな不味いものは、きっとくまなく脇腹あたりについていくのよ……そう思いつつ2日目の夜は更けていく。

「香港洲際酒店(Hotel Inter-Continental Hong Kong)」ルームサービスにて
凍香芒布甸
中国茶
HK$40.00