1月16日(水) ああ、さらばパイナップルチャーハン

最後の朝飯、ビュッフェ満喫

プーケット最後の朝。私一人、気合いが妙に入ってしまって7時前から目覚めてしまった。
「早く起きてくれよぉー遊びに行こうよぉー」
とだんなと息子の目覚めを待つも、彼らはまだまだ熟睡中。一人窓の外をんぼーっと眺めつつ「早く起きれ〜」と心中じたばたと、ひたすら待つ。

8時過ぎて、皆が起床。「最後だしのんびりゆったりしようじゃないか」と、最初の朝に行ったビュッフェ朝食に再び赴いた。初日には、中国人の団体旅行客などですごく賑わっていたビュッフェは、どことなく閑散としている。客も閑散としていたけれど、どことなく料理までもが閑散と。何だか寂しげな品揃えでちょっと悲しい。

アップルジュースを一杯。大皿にハッシュドポテトとカリカリベーコンを盛りつけた後、コックさんの立つ卵コーナーに行って
「オムレツください。コーンとね、チーズとね、あとオニオン入れてね」
と不器用な英語を駆使して注文。卵3個分は入っているだろう、なかなか巨大なオムレツだ。

卵コーナーの脇では、ホットプレートにバターを落として焼かれている円盤状のミニケーキのようなものが。
ホットプレートの前の札には「SCONE」と書いてある。スコーンと言ったらクロテッドクリームとジャムをこてこてつけて食べるもののはずだ。目の前のそれは、厚さは多少あるものの薄っぺらい円盤状だし、紅茶と一緒に食べようという雰囲気の食べ物じゃない。それでも、漂うバターの香りはとてもとても美味しそうだった。
「2つくださーい」
とお皿を出してオムレツの脇に添えてもらい、ハチミツかけてホイップクリーム添えてテーブルに持ってきた。

このスコーンが妙に美味しい。サクサクでホロホロで、表面こそバターでこんがりと焼かれてはいるけれど食感は正統なスコーンと遠くは違っていないものだった。香ばしく焼けているところに山盛りのホイップクリームをなすりつけて食べると、しみじみ美味しい。2個と言わず、5個6個と食べたくなる味がした。コップになみなみと冷たい牛乳を持ってきて、飲み干しながらスコーンを楽しむ。

ひととおり洋風チックな朝食をたいらげたあと、「やっぱりタイ粥食べなきゃね」と器にたっぷりの鶏肉粥。薬味は葱とガーリックオイルをこれでもかとぶっかける。ついでに刻み唐辛子も少しばかり。タイに来てみてわかったけれど、タイ料理は案外とにんにくを多用している。毎日のようににんにくものを食べ続け、
「だんな、にんにくくさーい」
「おゆきさんも、くさーい」
とここ数日はすっかり「怪奇にんにく男」と「怪奇にんにく女」に変貌しつつある。日本に帰ったら大迷惑かも。

最後は当然トロピカルフルーツでシメ。定番のパインにスイカにパパイヤ、ついでに今日は見慣れない2種類の果物も食べてみた。茶色く固い殻に包まれた親指の先ほどの小さな実は「ロンガン」であるらしい。外見もちょっとライチに似ているけど、味もライチっぽい。半透明の白い果肉が茶色の固い種の周りにプルプルとついている。花のような良い香りのする果物だ。その脇、剥き身にして置いてあったのは「Langsat」なる果物らしい。こちらも味もライチに似ていた。冷たくプルプルとした実はいかにもな南国の味だ。

Laguna Beach Resort 「Similan Restaurant」にて
Breakfast
2 × 510.00 B

象とプールとアクアビクス

象だ象だ象だ 朝食を終えてレストランの外に出ると、そこには子象が。子象はいつもこのレストランの前を通ってプールの周囲をゆったりと歩いている。レストランの入り口には籠に入れられた小さなバナナがいっぱい詰まっていて、どうやらこれは自由に象にあげても良いらしい。手の指の長さほどしかない小さなバナナを差し出すと、器用に鼻でくるんとつかんで食べてしまった。かわいいなぁ。

「ぞう、こわいよ、こわいよー」
とここ数日遠巻きに見ていた息子も、ちょっと慣れてきたらしい。
「乗せてもらう?」
と聞いたところ
「うん、のるよー」
と果敢な返事が返ってきた。で、乗せてもらって往復200mほどの距離をひとまわり。皮もごわごわしているだろうし、高さもあるし、なかなかスリリングな体験だったと思う。それでも息子は楽しそうだった。最後に良い体験ができて良かったねぇ。母もちょっと乗りたかったぞ。その子象に大人が乗るのはあまりにも可哀相だけど。

午前中は最後の水遊びを大満喫。今日もとても良い天気だ。SPF値の高い日焼け止めに切り替えたのに、肩や背中はじりじりと焦げていく。仰向けにねっころがってみたり俯伏せになってみたりでウォータースライダーを超満喫し、あちらこちらでばしゃばしゃと遊びまくる。

これが最後の水遊びここのプール、毎日午前11時からアクアビクスが開催されている。全然参加者がいなかったり、10人以上が踊っていたり、端から見ていたそれはキツそうだったけど楽しそうでもあった。みなさん苦笑しながらも楽しそうに身体を動かしている。
「おもしろそうだね」
「最後だしね」
「参加してみる?」
と、浮き輪につかまった息子はプールの隅に浮かんでいてもらい、アクアビクスに参加してみることにした。

今日の参加者は、私とだんなと、あとは2人の白人女性。一見「アクアビクス、得意ですわよ」という雰囲気に見えたのだったが、この2人も超初心者だった。特にそのうちの1人は運動が得意でないうえにリズム感も今ひとつ備わっていなかったらしい。バシャリバシャリと盛大に水しぶきをテンポ外れにあげながらもニコニコと楽しそうだ。人数も少ない上に初心者集団なので、とても楽しいアクアビクスだった。しっかりストレッチした上で、手をわきわきと筋肉駆使して動かしつつ、足もばたばたとジョギング状態。水を蹴ったりプールサイドに上がって足上げの運動をしたり、地味だけどなかなかハードな30分ほどの運動だった。げれげれに疲労、でもとても気持ちよかった。

なんて美味しいのパイナップルチャーハン〜RIM ANDAMAN

「タイの飲茶というものに挑戦してみようか」
と言いつつも、
「でもやっぱ、タイ料理を食べて終わらせたいよね」
と、昼御飯はビーチ沿いにある、ホテルとは関係のない小さなレストランに入ってみた。ホテルの敷地に隣接はしているものの、値段を見ると笑ってしまうほど安い。ドリンク類の価格はホテルの半分か1/3ほど。シンハービールの大瓶を飲んでも250円ほどだ。焼きそばは180円、チャーハンも300円以下ときた。ステキだ。

「お客さん、少ないね」
「ハズレかなぁ」
「まぁ、そのときはそのときで」
と、期待半分不安半分で注文をし、日傘の下の籐の椅子でだらだら座って待つことしばし。焼きそばやフライドポテト、チャーハンがどかどかとやってきた。私の頼んだ「KHAO OB SOPPAROD」なる名前のパイナップルチャーハンは、器そのものがパイナップルだ。生のパイナップルの中身をくりぬいた中に、薄く黄色いチャーハンがこんもりと、上には細切りハムが並べられていた。「うわ、すっごい」と思ったこのチャーハンが、「タイで一番旨かったの、これかもしんない」というほどに美味しかったのだ。

これがパイナップルチャーハン 中身はこんな感じ
これがパイナップルチャーハン 中身はこんな感じ

黄色く染まったタイ米は、うっすらとカレーの味。たっぷりと混ぜられた魚介と玉ねぎ、パイナップル、それにカシューナッツ。カレーの味のほの辛さとかパイナップルの甘酸っぱさだとかカシューナッツの香ばしさとか、ふわりと漂うほのかな味の調和は最高に美味しく思えた。タイ飯にこれまでこわごわと接していて、結局あまり食べられなかった息子までもが横からがつがつと食べていく。
「料理にフルーツが入るなんて、邪道だ」
と酢豚やパイナップル入りピザをあまり好まないだんなでさえ、「これ!うまい!うまいよこれ!」と御執心だ。挙げ句に
「ねぇ、これもひとつ作って貰って、部屋に持ち帰って食べようか?」
とまで言い出す始末だ。そ、そんなに気に入ったのか、君。

生のパイナップルの容器に入ったチャーハンなので、だんだん果汁をしっとりと含み始める。最後の2口3口はなんとも甘酸っぱい果物の味がするのだった。これがまた妙に美味しい。
「たのもうたのもう、テイクアウトできるか頼んでみよう」
と、結局もひとつ作ってもらって「部屋に持ち帰りたいんだけど」と包んでもらった。見ると、これまたパイナップル容器に詰められている。うわぁ。

プールサイドのホテルのレストランでお箸を分けてもらい、ぽてぽてと部屋に帰る。これからは怒濤の荷造りだ。

Phuket 「RIM ANDAMAN RESTAURANT」にて
KHAO OB SOPPAROD(パイナップルライス)
FRIED EGG NOODLE
フライドポテト
シンハービール
ダイエットコーク
90.00 B
60.00 B
60.00 B
90.00 B
40.00 B

時刻は午後1時過ぎ。チェックアウトは午後4時だ。
「夜のフライトなんだけど、レイトチェックアウトはできますか?」
とチェックイン時に尋ねてみたところ、無料で4時まで延長させてもらえることになったのだった。とてもとても有り難い。チェックアウトが遅くなったおかげで午前中も存分に遊んだ挙げ句、シャワーもしっかり浴びることができた。

せっせと荷造り。シンハービールも数缶お持ち帰り、ココナッツの雑貨も壊れないように片づける。濡れた水着はきっちり絞って2重3重にビニールでくるみ、息子の浮き輪の空気抜きもしっかりと。なんともいえないメランコリックな気分に浸りつつもちゃっちゃと片づけた。

片づけの合間には、お持ち帰りのパイナップルチャーハン。タイ米のチャーハンは冷めてもべたつかなくてとても美味しい。
「うん、やっぱり美味しいよこのチャーハン」
「冷蔵庫内に残っていた牛乳も飲んじゃわなきゃ」
「ぼくも、たべるよー」
と期せずしてお部屋で宴会状態に。さあもう3時だチェックアウトしなければ。

夕日を浴びてココナツジュース

チェックインを終え、出発まではあと2時間。荷物をフロントに預けて
「じゃ、ビリヤードでもしてようか」
とプレイルームでしばし過ごした。だんなと一緒にナインボールを2回にエイトボール1回、そしてナインボール1回。勝敗は2勝2敗の引き分けだった。ナインボールはともかく、エイトボールは自分の実力の無さが如実に出るのでちょっと苦手だ。

あと40分ほど。
「最後にお茶でもしよう」
「そういえば、プールサイドのビストロがハッピーアワーをやってたよ」
と、まだ熱気のこもる外にぺたしぺたしと歩いていく。夕日が差し込むプールサイドで最後のドリンク。

アルコールもノンアルコールも専用メニューに載るものが全て半額。しかもおつまみまでついてくる。
これからパスポート持って大移動するのにアルコールはヤバいでしょ、と全員ノンアルコールで一休み。ノンアルコールカクテルの欄から名前だけで「COCO FROTH」なるものを選んでみた。きっとココナッツでありフロスティである飲み物であるはずだ、と期待して。だんなは「SWEET ORANGE」なるものを。

最後のトロピカルド〜リンク♪

氷と一緒にシェイクされた、冷たい冷たいココナッツとパインの味がするドリンクだった。それに何だかライムかオレンジのような柑橘系の風味も少々。純白の甘酸っぱい飲み物は汗をひかせてくれる。傾きつつある西日を浴びながらの短い休憩。

蝶型にくりぬかれたパインに蘭の花が添えられたドリンクに、一皿のおつまみ。皿の上には鶏肉のフライとスモークサーモンのカナッペ、そしてローストビーフのカナッペ。

Laguna Beach Resort 「ANDAMAN POOL BISTRO」にてハッピーアワー♪
COCO FROTH
SWEET ORANGE
COKE
82.50 B
82.50 B
45.00 B

ちょっとばかり波乱の帰国

午後6時、ついにホテルの送迎車に乗り、いよいよ宿を後にする。家に到着するまでの15時間、なかなかに波乱含みの帰路だった。

午後6時20分、ちょっと遅めにホテルを出た車は出発直後にいきなり止まった。ギアが動かなくなったらしい。替えの車がやってきて、「なんだ、クラッチを深く踏み込まなかったからだよ」とスタッフのやりとりで判明するまでしばしの足止め。

Laguna Beach Resort 空港への送迎
ミニバス
2 × 200.00 B

午後6時40分、空港についてみるとチェックインカウンターはものすごい大行列だ。あと20分ほどで出発予定の便のカウンターですら、行列が片づいていないほど。1組1組のお客の処理も時間がかかり、じりじりと時間ばかりが過ぎていった。30分以上かかってようやくチェックイン終了。

免税店で職場へのお土産を少量購入し、ファーストフード店でコーヒーとバーガーなどをつまみつつ、出発時間は着々と迫ってくる。午後8時40分、無事に飛行機はプーケットを飛び立った。んが、離陸直後から私を襲ったのは原因不明の腹痛だ。ついさっきまで下痢の気配すらなかったのに、いきなり強烈に下腹部が痛みだす。「ま、まさか盲腸!?そんな馬鹿な」と歯と目をくいしばってひたすら耐えた1時間のフライト。途中供されたジュースも何も飲む余裕すらなかった。何だか事態は大変なことに。

帰路の便は、プーケット発バンコク経由フランクフルト行きの便をバンコクで降り、成田行きの便に乗り換えることにしていた。バンコクでの乗り換えの余裕は1時間ほど。はっきり言って歩くのがやっとの状態だった。トイレに入ってみると見事に「水」だ。
「み、水なんだけど……」
「何か悪いもの、喰った?」
「いや、全然記憶にない」
うろたえつつ、だんは一生懸命薬局を探してくれたり空港スタッフに問い合わせてくれたりした。でもダメ、薬屋さんはどこにもない。空港スタッフでさえそういった救急薬は持ち合わせてないとのことだった。最後の頼みは機上のスタッフだ。心底「薬、もらえますように」と願いつつ成田行きの便によろよろと搭乗した。

機内のシートにおさまって、しばし。タイ人らしき女性スタッフが黒い錠剤を2つ持ってやってきてくれた。腹痛に効く薬であるらしい。ぺこりぺこりと盛大に感謝しつつ、ありがたく薬をいただいた。現地時間午後11時過ぎ、まだまだ腹痛は収まらない。窓際の席で丸くなるようにして足を抱えてうつらうつらと寝ていたところ、飛行機が台湾を過ぎる頃になって、やっと痛みが収まった。あー、本当、かなりヤバいと思った。それほど痛かった。

その後、若干の腹痛と下痢の症状を残しつつも、体調は特に激変しなかった。
「それはさ、あれだよ、子供にあるような"帰りたくない病"ってやつだよ」
と後になってだんなは笑う。確かにそうなのかもしれなかった。本当に楽しかった旅行だったのだ。

そして、無事に成田に到着し、自宅の最寄り駅まで辿り着いた。いきなり冬用の服に戻された息子はとても不思議そう。飛行機の中、ずっと寝ていたので事態が良く理解できていなかったようだ。
「もうすぐおうちだよー、帰ろうね」
と道中話しかけたところ、
「おうち!?おうち、イヤよー、おへやにかえるのよー」
と突然大騒ぎ。自宅まで徒歩5分という段になってから初めて事の成り行きが理解できたようだった。

もう自宅まで300mほど、それなのに
「おうち、イヤ!、おへや、おへやにいくのよー」
「プール、プールはいるの!おうちはちがう、ちがうのー!」
とかつてないほどの大声で泣きわめく。「こっち、こっちよー」と駅に向かって走り出そうという勢いだ。こらこら、JRに乗ってもプーケットにはつけないぞ。

息子にとって、この数日間は本当の本当に楽しかったものらしかった。まさか日本に帰ってきてから「あの(ホテルの)部屋に帰ろう」と言われるとは思わなかった。
数日後、何度か聞いた。答えはいつも同じだ。
「おうちと、お部屋と、どっちが好きなの?」
「おへや!おへやがいーの!」
「じゃあさ、おうちの御飯とお部屋の御飯、どっちがいいの?」
「んとねー、おうちー」
……タイ料理は苦手でしたか、そうですか。