9月17日(水) 乾物街に小龍包、そして士林夜市

人気饅頭屋さん?〜「謝謝[魚尤]魚[火庚]」

台湾2日目の朝。初の夜市に戦々恐々だったのだけど、胃袋は絶好調だ。ただし小龍包のせいで舌は火傷気味。
饅頭量産体勢

宿泊している「台北車站」駅近辺には予備校が密集しているということもあって小さな飲食店が密集している。昼は麺や丼を食べさせている店が、朝はカウンターでテイクアウト用のサンドイッチを販売していたり、大根餅や饅頭の類を販売していたり。面白そうだねぇ、とホテル近くをぷらぷらしてみることにした。お粥屋さんか豆乳屋さんがあったら嬉しいなぁと思っていたのだけど、歩いた範囲の中では残念ながら見つからず。ただ、お客さんが続々と寄っては買い求めていく饅頭屋さんが気になった。

看板を見ると、「生煎包 三個20元」の文字が。その下には「韮菜包 肉包 菜包」と書かれている。店頭でおっちゃんが次々と饅頭を包んでいき、おばちゃんが次々と大きな鉄板で焼いて行き、それらが次々売れていく。あ、美味しそうかも……と立ち止まったら、店の中からおばちゃんが一斉に「食べていきなよー、美味しいよー」てな具合にまくしたててきた。中でも食べられるよどうぞどうぞ、といくつかのテーブルと椅子が並ぶ奥に案内され、ここで食べていくことに。日本語も英語も全然通じないけど、ジェスチャーとテレパシーと気合いで乗り切る。

「肉まんがいいな。肉、肉、これ、これね。あと、豆乳ください。ソイミルクー」
ニラ饅頭、肉饅頭、野菜饅頭、それらを1個ずつ3個の組み合わせにしても良いらいしのだけど、肉まん3個にしてもらってみる。お供に甘く冷たい豆乳。だんなは焼きそばを炒めてもらっている。1人分ずつパックされた焼きそばが売られていて、希望すればその場で炒めてくれるのだ。上から揚げ炒めにした卵が1個乗せられて、ケチャップともソースともつかないタレがテラテラと怪しく光る。

饅頭3個に豆乳〜 素敵にジャンクな焼きそば

饅頭は、表面が油でキトキトになっていて、その油を吸った生地の表面はカリカリに焼かれている。ふわふわもちもちとした皮に包まれた中には、適度に味のついた肉あん(それこそ肉まんの中身みたいなやつ)が詰まっている。1個がみかんくらいのサイズで、なかなか食べ応えもある。甘く冷たい豆乳はごくごく普通のメーカーものの味で、「やっぱり甘い豆乳飲むなら豆腐食べてる方が美味しいわねぇ……」と思ってしまいながらごくごく飲む。豆乳の味は決して嫌いなものではないのだけど、液体で飲むなら牛乳の方が美味しいと思ってしまうし、大豆の味を味わうなら豆乳ではなく湯葉とか豆腐に加工したものの方が美味しいかなと私は思っている。この地では「塩味をつけた温かい豆乳」が朝御飯のメジャーなメニューの1つであるらしく、それなら美味しく食べられるかもしれない、と挑戦するのを密かに楽しみにしていた私だった。今朝はとりあえず甘く冷たい豆乳ということで。

だんなが頼んだ「甘くないアイスコーヒー」はしっかり甘いものだったり、息子用にと「牛乳」を頼んだらなぜか甘いアイスミルクティーだったりしたのだけど、らしいと言えばらしい、朝から楽しい食事だった。

台北車站エリア 「謝謝[魚尤]魚[火庚]」にて
肉包
焼きそば
豆乳
アイスコーヒー
ミルクティー
20元
35元
15元
15元
10元

饅頭屋の朝御飯は、
「おまんじゅうは、熱くて食べられないんだよー。おそばはね、いらないの」
と何も固形物を口にしなかった息子。ホテルの近くにはサンドイッチを売る店も大量にあったので、1つ買って息子に喰わせてやることにした。売られているサンドイッチのほとんどは、「パン4枚の間に3種類の具を挟んでいる」というクラブハウスサンドイッチ然としたもの。それがまた、良い感じに美味しそうだ。これだったら息子も喜ぶかな、とハムと卵とツナ(ツナにはコーンも混ざってる)のサンドイッチを買ってやった。1つたったの15元(50円くらい?)。外出してもまだ開いている店はほとんどないということで1時間ほどホテルの部屋でだらだーらする。

乾物天国!〜「迪化街」

本日最初の目的地は台北車站の北西に位置する「迪化街」というところ。ここは台北最大の乾物屋街なのだとか。地下鉄を1〜2駅乗れば「迪化街」の最寄り駅になるのだけど、その駅からも少々離れている微妙な場所。歩けない距離ではないけれど、後のことを考えると歩く距離は減らしておいた方が良いかもしれない(何しろ今日も夜市予定……)。ホテル前からタクシーに乗り、「この道路とこの道路の交差点のところに連れてってください」とお願いした。ホテルから迪化街の南側まで70元。250円で取得できる「ラク」だったら享受しておくに限る。
なんだか懐かしげな商店街風景

迪化街、南側は布地を扱う問屋街が並び、続いて小売りの乾物店、更に北上すればいかにもな大口相手の「乾物問屋」の光景になる。調理器具を扱う店もちょこちょことあるので、東京で言うところの「合羽橋」のような雰囲気が漂っていて、私的にはかなりツボな世界だった。わくわくしちゃって、もうどうしようもない。

布地問屋街もちょっとだけ興味があったので南側からじわじわと北上していくルートを取ったのだけど、10時になるかならないかといった時間帯だったので開店準備中のお店も多かった。歩いている30分ほどの間に多くの店がオープンしていく。乾物屋街に入ると、通りには干し椎茸や干し貝柱、干し海老などの香ばしい匂いと共に花茶にするハーブ類(ラベンダーとか菊の花、ジャスミンの花とか)の香り、更には漢方の材料になる香辛料の匂いなどがいっしょくたに混ざった独特の芳香が漂ってくる。通りに面して大きなタルやザルがどかどかと並べられ、そこに覆いもなしに様々な食材がずららららーと並べられているのだ。壮観だ。

なんとなく「漢方薬系が得意」とか「ドライフルーツ系が得意」といったそれぞれのお店の傾向はあるのだけど、干し貝柱なぞは7割ほどのお店に置いてあったりして、「いったいどこで買えばよいやら」状態。
「やっぱり色々見て、安くて良いものを買わなきゃね」
なんて言いながら、眺めつつ何も買わずに北側まで歩いていく。

もうそろそろ一般客は相手にしない問屋が並び始めたところで、そこそこ小綺麗な一軒の乾物屋にたどり着いた。あ、ここ、干し貝柱、あるね……けっこう大粒だし、値段も安そうじゃない?と店内をちらりと覗き込んだところ、奥から年の頃11〜2歳の少年が出てきた。
「うわー、おとーさんに店の留守番頼まれてたらお客さん来ちゃったよー。うわー、言葉通じなさそうだよー」てな風の困惑する心情がありありと顔に出ていた少年は、しかしびっくりするほどの美少年。竹宮恵子チックな「薔薇加えてます、フリルぴらぴら似合います」的な少年ではなく、吉田秋生(『BANANA FISH』の人ね)が描く"目元涼やかアジアな少年"という感じ。最初、女の子なのかと思ったほど可愛い顔をした少年は、このクソ暑い中涼しげな顔をしちゃって、白い肌はすべすべだし髪はさらさらだし儚げな表情がこれまたたまらんし、
「うっわ、かわいい……」
「あの子、かわいい……」
「めっちゃかわいい……」
とだんなと2人で肘をつんつんつつきあう。

で、商品も悪くなかったのだ。ごろりと大粒の干し貝柱は1斤(600g)1400元。同じようなサイズの干し貝柱が他店で1900元前後していた事を思うと、なかなかお得な買い物だ。だんなが貝柱の種類(大中小、といった具合にサイズがいろいろあった)を選んでいる間、私は冷蔵ケース内のカラスミを眺める。さほど大きなサイズではなかったけれど、1パックが300元ほどのカラスミは、それまたなかなかのお値打ち品と思われた。干し貝柱、ちょうだいね。カラスミも2パックちょうだいね、と交渉し始めたところで、少年のお父さんがやっとお店に帰ってきた。あからさまにホッとした顔をする少年。うちの息子が興味深そうに少年を見上げているに気がつくと、無言で頭をなでなでしている。ああ、絵になる。サイコー。たまりません(ショタコン魂、ン年ぶりに爆発中)。

購入した品を包みつつ、お父さんは早口に少年に2言3言告げる。カラスミの冷蔵ケースの脇にあった小さな冷蔵ドリンクケースから少年はポカリスエットを3缶取り出してきて、
「サービス、シェイシェ」
と私とだんなと息子に1つずつ手渡してくれた。あーもー、可愛い。ポカリスエット持ってるだけで可愛い。
「カラスミと一緒にその少年も真空パックにしちゃってください。日本にお持ち帰りします」
と本気で言い出したくなりながら、その店を後にした。そして、ポカリスエットも本当にありがたかったのだ。今日も朝から蒸し暑く、数百メートルの通りを歩いてきただけでよれよれに汗みどろになっていた私たちは「どっかでコンビニかジュース屋があったら何か買おう」とちょうど言い合っていたところだった。

迪化街 「李日勝公司」にてお買い物
干し貝柱 1斤
カラスミ 2パック
 
合わせて2000元

少年屋(ちがいます)のところから折り返し、元来た道を「あそこにあった店、けっこう良い感じだったよ」とか言いながら戻っていく。おおむね相場も把握できたし、欲しいなと思っていた蒸籠(日本で使っていたものが崩壊寸前だった)を扱う店もいくつか見つけ、お買い物していく。私の目的はドライフルーツと杏仁だ。

「アーモンドゼリー」などと言われることもある杏仁豆腐だけど、本当の材料はアーモンドでもアーモンドエッセンスでもなく、"杏仁"である。杏仁とは、その名のとおり「杏の核」。杏の種の、更に内側にある白い核を使って作るのが本来の杏仁豆腐だ。中華街などで「杏仁霜」という粉状に加工したものは手軽に購入できるけれど、私が探しているのは「北杏」と「南杏」。中国北方で採れる「北杏」は苦みがあり、南方で採れる「南杏」は甘みが強いのだとか。高級中華料理店などの凝った風合いの杏仁豆腐は、その2種類を組み合わせて丹念に作られるらしい。隨分長い間、欲しいなぁどんなものなんだろうなぁと思っていた魅惑の食材だった。料理の中に使われているのも食べたことがある。杏仁豆腐に限らず、「杏仁汁粉」とか白きくらげとのシロップ煮など、幅広く使われる食材だ。

通りかかったお店で「南杏」の文字を見つけ、「北杏はないの?」と筆談でお店のおねぇさんに聞いてみる。中国語でぺららららとまくし立てられ、「???」とハニワ顔になっている私たちを、おねぇさんは隣接した漢方薬メインの店に連れて行ってくれた。北杏はここにあるらしい。1斤たったの350円程度。じゃあ北杏1斤ください。南杏も1斤ください、と両方無事にいただけた。
更にドライマンゴーを買い、ドライいちじくを買い、白きくらげも買っちゃったりして(どれもうっとりするほどお安いのー)、料理するぞ感が最高潮に高まってくる。幸せな街だ迪化街。クセになっちゃいそう。

迪化街 あちこちの店でお買い物
蒸籠
北杏1斤
南杏1斤
ドライマンゴー 1/2斤
ドライいちじく 1/2斤
白きくらげ 1袋
3×100元
110元
100元
60元
40元
30元

鶏スープに、ハマりそう〜「上鼎豐」

午前中数時間の散策にすっかり疲れてタクシーでホテルに帰還。荷物を置いて一息ついてから昼食摂りがてら外出することにした。まだちょっと空腹には遠かったので、地下鉄に乗りお茶器屋さんを巡ってみることに。

「喜來登大飯店」内にある「茗泉茶荘」という店に向かってみると、地下ショッピングモールは改装中ということでお店はお休み。しょうがないねぇと今度は「福華大飯店」内の「奇古堂」というお店に向かってみたのだけど、こちらは今ひとつピンとこない品揃え。数多のガイドブックに掲載されているような"有名店"でも、自分の好みに合うかどうかはやっぱり全然別ものなのだなぁと実感する。ぐぐっと来るかどうかというのは、やっぱり行ってみなければわからないものだ。

そこからはタクシーに乗り、昼食にと予定していた店の近くに連れていってもらう。まず向かった店は「上鼎豐」。「鼎泰豐」で長年修行した料理人が独立して作った店らしい。「鼎泰豐」よりも上の味!ということで、つけた名前が「上鼎豐」。勇気ある店名だ。
美味しい。美味しいんだけど……

ちょうどランチタイムという、平日の12時半過ぎ。だが、店の中はガラガラだった。周囲にも小吃の店がいっぱいあり、牛肉麺の店なども含めざわざわと人が集まっている。でも、不気味なほど「上鼎豐」は静かだった。店主が1人、自ら調理も接客もこなす。天井低めの小さな店内、窓のないそっけない風情の壁には日本のガイドブックで紹介された記事が何枚もコピーされて貼られて、それがまた一層寂しげだ。中国語の雑誌の切り抜きなどではなく、日本語でというのが……なんとも。

激しく「ハズレな店?」な香りが漂ってきていたのだけど、でもせっかく来たんだしね、と小龍包を2蒸籠注文。塩気のあるものも欲しいねぇと青菜炒めも1つ。ご主人に「コレ、コレね、美味しい。おすすめ」と勧められ、鶏の蒸しスープも1つ。「あついぎょうざはね、にがてだよ……」という息子に、今日もチャーハンを1つ。

やってきた小龍包は、不安をひっくりかえす美味しさだった。スープは少々少なめ、皮は心もち厚め、肉は比較的大雑把に、ぶりっとした食感のもの(全部「鼎泰豐」比)。具の味はやや濃厚、スープはしっかりとたぷたぷ入っている。布に油紙を重ねたようなものが蒸籠の底に敷かれ、小龍包はくっつかずにぺろりと剥がれる。でも、ちょっとばかり皮の底部が頼りなくグジュグジュになっているところもあり、箸でつまむと皮が破けそうになるものも数個あった。肉やスープの味の好みもあるので人それぞれだと思うけど、私としては「鼎泰豐より上」というのはビミョーかなぁ……という感じ。

「小白菜」を炒めたのだという青菜炒めはにんにくたっぷりのシャキシャキ塩味。これもなかなか美味しかったけれど、この店で一番好みなものだったのは「元[中皿]鶏湯」([中皿]は、中と皿が縦に重なった文字)というスープ。骨つき鶏肉を葱、生姜と共に蒸しスープに仕立てたもので、好みな具合にケダモノ臭がほんわかと漂ってくる。適度な塩加減に生姜の風味。こういうスープは大好きだ。もしかしたら、このケダモノ臭を極力消しちゃうのが本来のこのスープのあり方なのかもしれないのだけど(実際、後に別の店で飲んだスープはずっとずっと上品だったし)、このちょっとばかり粗野な味が好みなんだなぁ。

……でも、お客さんは相変わらずいない。次に台湾に来たときも、この店、あるかしら……(大いに不安)。

東北エリア 「上鼎豐」にて
小龍湯包
炒青菜
元[中皿]鶏湯
蛋炒飯
2×95元
65元
100元
?元

貝柱風味の小龍包♪〜「小上海」

小龍包、食べ飽きぬ。
数ある点心の中でも私的には3指に入るほどの好物なのが小龍包だったのだけど、食べても食べても食べ飽きぬ。入る店入る店、他のメニューもけっこうあるのだけど、どうしても小龍包ばかりに目がいってしまうのだった。ひたすら小龍包を食する悦びを味わっている。
ホントに台湾は小龍包天国ね

で、「上鼎豐」から600mほど北上すると、これまた小龍包が美味とされているお店があるのである。店の名は「小上海」。細い路地をうろうろし、コンビニでペットボトルのお茶を購入してぐいぐい飲みながらお店を目指す。大通りに出て左右を見渡すと、路上に湯気がもうもうと出てきている店があったのですぐにわかった。店頭で次々と蒸籠が重ねられ、それが店の奥に消えていく。
「さっきは2蒸籠だったしねー」
「まだまだいけるよね」
と、この店の小龍包「干貝湯包」を2蒸籠注文した。奥まったテーブルにつくと、すぐ横のテーブルではおばちゃん2人とおっちゃん1人が黙々と皮と具を前に作業中。おっそろしく手早い作業だ。

ほどなくしてやってきた小龍包は、その名のとおり干し貝柱がたっぷりと。細かい穴があけられたサラリとしたビニールシート状のものが蒸籠に敷かれた上に並べられている小龍包は、良い感じのたぷたぷ感が伝わってくる。やはり小龍包の外見は、この下側のたぷたぷ感がキモだと思う。ほわほわと湯気がたってきて、いかにも美味しそう。

セルフサービスの温かいお茶もあるものの、持参したペットボトル入りのお茶を飲みつつ食べているお客もいる。ああ、いいのねそれで……と、堂々とペットボトルのお茶をテーブルに置き、口を冷ましながらはふはふと食べていく。皮の中からはふんわりと干し貝柱の上品な香りが漂ってきて、肉の中にしっかりとした存在感のそれが混ぜられている。やや皮が厚め(「鼎泰豐」比)なその生地の中には、スープをじゅくじゅくに含んだ肉が。隅からスープを啜っておいても、皮ごと肉をがぶりと囓ると中からスープがじゅわーっと滝のように垂れてくる。下味も、濃すぎない程度に強くついていて、味のある小龍包だった。かなり好みな味だ。しかも安い。もうどこで食べても甲乙つけるのが難しいほどに美味しかったりするものだから、困っちゃうわぁと言いながら顔がニヤけてしまう。

唯一残念だったのは、この店、針生姜がすごく太めだったこと。辛さばかりがとんがって感じられてしまい、もっと細く、繊細に切られた生姜だったらもっともっと小龍包の美味しさを引き立ててくれるのになぁ……と思ってしまったのだった。でも家族で2蒸籠、たっぷり食べて700円程度。満喫して再び歩く。

東北エリア 「小上海」にて
干貝湯包
2×100元

欲しいものだらけ〜「吉軒茶語」

「小上海」から再び南に。南西に向かって600m、「上鼎豐」から「小上海」、そのルートから正三角形を作るように歩いていくと、気になっていたお茶器と中国茶のお店がある。「吉軒茶語」というお店だ。台湾に来てから、
「確かに素敵な茶器なんだけど、自分で持ちたいって感じじゃないのよねぇ……」
と思うものばかりを見てきたので、今度はどうかなぁと期待半分不安半分でてくてく歩く。息子はさすがに少々お疲れ気味。
「次のお店をちょっと見たら、ホテルに帰ろうね。モノレールに乗って帰ろうよ」
と、モノレールをだしにして叱咤激励。ごめんね息子。お茶屋さん巡りはつまらないよねぇ……。

「吉軒茶語」は、とてもとても素敵な店った。かなり今風で洒落ている。ディスプレイも見やすく綺麗。広々している店内に、色鮮やかな茶器や細工を凝らした茶壺が並べられていた。入るなり、欲しい欲しいと思っていた竹製の茶盤や素敵な色合いの茶器セットと目が合い、動けなくなってしまった。オリジナルのお茶うけも他種類販売されていて、お土産にも良さそうな感じ。ただ、値段は全体的に少々高めかな、という印象だ。

帰国してから撮影しました。ああ、可愛い……♪

写真ではいまいちその美しい色が出てくれなかったのだけど、薄青緑色の茶器がなんともツボ。表面には微細なヒビの模様が入っている。「粉青釉」という焼き物なのだそうで、とろりとした優しい色もフォルムもかなり好み。私は普通の形状の茶壺と茶杯、竹を編んだような茶托に惹かれていたのだけど、だんなは全く同じ素材で作られていた独特なフォルムの茶壺と茶海に釘付けだ。持ち手部分が鳥の羽のようなカーブを描いていて、全体もころりと丸く優雅なカーブで構成されている。私も最初、「おおっステキ♪」と思ったお茶セットだった。でも、独特すぎてどうかなあ……だんなはこういうの、嫌いかもしれないし……と私はあっさり諦めてしまったそれが、だんなの心を鷲掴みにしてしまったようだ。夫婦2人して
「ステキよねぇ……」
「高いけどねぇ……」
「でも日本で買ったらもっと高いよ。ていうか買えないかもしれないし」
煩悶する。茶盤も決して安くはない。でも細工も丁寧で、サイズも手頃。物欲爆発寸前だ。

結局、予定外に30分以上もこの店で悩み眺めたあげく、盛大にお茶器買いをしてしまった。これは私の支払いね、あっちはだんなね、と2人で会計を分け合っちゃったりして。
紙箱にみっちり綺麗にラッピングしてもらったそれを、大切に大切に抱えてホテルに帰る。ああ、幸せな買い物だったぁ〜。

東北エリア 「吉軒茶語」にてお買い物
茶壺&茶杯2組&茶托2個
茶壺・茶海セット
竹製茶盤
密汁芒果
2240元
1680元
1800元
200元

ホテルに戻る間際、近くの気になっていた飲み物屋さんでミルクティーを1杯買って帰る。店名ロゴが非常に読みにくい毛筆のよれよれっとした文字なので確証はないのだけど「飲脚亭」なんて風に読める。台北市内に6店舗ばかり展開しているチェーン店らしい。赤と黒が基調の、ちょっとばかり洒落たカウンター販売のテイクアウトが主体の店で、若い子たちが続々と寄っていく。値段も手頃だし、メニューは豊富だし、通りかかる度に気になっていたのだ。

メニューは「[女乃]茶」(ミルクティー)が主。珍珠(タピオカだね)、胚芽、杏仁、蜂蜜、伯爵(アールグレイなのだそうだ)、仙草など、その種類は20種類ほど。更に檸檬紅茶、蜂蜜紅茶といった紅茶が5種類、百香緑茶、柳橙緑茶といった緑茶も5種類、烏梅雪泡、薄荷雪泡といった雪泡(シェイク)類も10種類ほど、更には有機蕃茄汁(トマトジュース)に特調蛋密汁(ミルクセーキ……かな?)に檸檬水、蜂蜜水、可可亞(ココアだ!)、石榴紅茶、特調珈琲……あるわあるわの豊富な品揃えだ。「これはナニ?」というものもあるけれど、だいたいは漢字でわかる。値段は高くて50元。ほとんどは30元前後だ。

「わー、わー、何にしようかなー」
ほげーっと壁に掲げられたメニューを眺め、「椰香[女乃]茶」(ココナッツミルクティー)の冷たいやつを。店員さんに中国語でまくしたてられ、必死にテレパシーその他を駆使して理解したところによると「甘くしていいの?」ということだったらしい。うんうん、お願いします、と頷いて、でっかい容器に入ったそれを手渡してもらった。マクドナルドで買うLサイズドリンク並の大きさがある。飲みごたえたっぷりで100円しない。しかも旨い!ココナッツ風味ぷんぷんのミルクティーで疲れがちょっと癒された。

台北車站近く 「飲脚亭」(店名確証なし)にて
椰香[女乃]茶
25元

デパートぷらぷら〜「新光三越」

昼食時、不幸な事故でタンクトップに染みができちゃったのである(「小上海」で、かぷっと小龍包囓ったら、ぴゅーっとスープが我が胸元に……)。洗濯しなきゃねぇ、この気候じゃ午前と午後で着替えたりしたいとこだしね、と皆でシャワーを浴びる。昨日の分の洗濯物と、今日来ていた衣類を抱えてホテル内のコインランドリーに。洗濯機が回っている間は部屋で一休みし、乾燥機をかけ始めたところでふらっと隣のブロックにあるデパート、「新光三越」を軽くぷらぷらしてきた。

上階には日本の書籍も山のように売られている本屋があり、そこで中国語のレシピ本を眺め倒す。目的はマンゴープリンレシピが載っている本。台湾ならではのデザートの作り方が載っている本に目当てのマンゴープリンレシピをみつけたりし、ついでに中国結びの指南本なども購入。漢字で記載されているから漠然と意味も把握できるのがありがたい。旅行先で本屋を覗くのは、スーパーを覗くことの次くらいに魅力的だ。

台北車站近く 「新光三越」内本屋にてお買い物
『實用中國結 初學篇』
『冰涼巧甜品』
『水果[口巴]台』
『甜品』
200元
200元
260元
250元

デパート内、次なる目的地は生活用品売り場(主に食器売り場)。今はセール時期なのか、あちらこちらに値引きを示す赤い札が目立っている。小さな一角だけれど中国茶器を扱うコーナーもあって、中国茶用の電気ポットが多少安価になっていたりした。更に地階に行けば、地下1階はフードコート。見慣れたファーストフード店の他、いかにも台湾的な麺や御飯もの、炒め物を扱う店も数多い。小さな屋台街のような感じになっていて、ふらりとジュースでも飲みたくなってしまうところをぐっと我慢。地下2階は、いわゆる「デパ地下」。ケーキ屋さんがいくつか並び、日本食材も多く扱うスーパーも入っている。中国黒酢とか魯肉飯の缶詰を購入し、そして乾燥機が回り終わる頃ホテルに再び戻ってきた。

コーンが、コーンがどっぷりと……〜「揚記花生玉米冰」

そろそろ魅惑の夕食ターイム。今日もやっぱり夜市行く気満々の私たちだ。夜市が盛り上がる時間帯まではまだまだ余裕があり、ホテルにそれまで籠もっているのも何だしねぇと、どこかに寄ってから行こうということに。レストランで下手に食事してしまうと夜市で存分に楽しめないし……と、向かったのは台北における渋谷か新宿かというエリア、「西門町」。若者で賑わう町なのだそうだけど、人気の「麺線屋さん」があるらしい。

まず目指したのは老舗のかき氷屋さん。ちょっと半端な場所だったので、タクシーに乗って向かってしまった。店名のとおり「花生玉米冰」が名物のお店だ。「花生」はピーナッツ、「玉米」はとうもろこし。ピーナッツととうもろこしを乗せたかき氷、なのだそうだ。想像がつくようなつかないような、未知の味。美味しそうだなぁ〜と、気になっていたのだった。
コーンよ、まんま、コーンなのよ……

古めかしいタイル張りのお店は壁のない吹き抜けスタイル。簡素なテーブルと椅子が並び、かき氷を食べているお客が数組席についていた。壁に書かれたメニューによると、その具はイチゴやマンゴーを除くと「緑豆」「紅豆」といったナッツ類、豆類が主体。何しろ「とうもろこし氷」が気になっていたので、練乳などのトッピングも無しにして、「玉米冰」をいただいてみた。3人で1つの皿を今回もつつきまわす。

出てきた品は、もう笑うしかない、というほどにコーンまみれだった。本当にコーンだ。そのまんまコーンだ。クリーム状と粒状のコーンを混ぜたような、とろんざっくりとしたとうもろこしが滴るほど(いや、本当に滴ってるし)氷にどっぷりとかけられている。すっごーい、コーンだー、なんだこりゃー、とそういう注文をしたくせに、大笑いしたくなってくる。

味も、まんまコーンだ。ただただコーン。なんでかき氷にする必要があるんだろう?とか思ってしまうのだけど、なかなかどうして悪くない。
「……コーンそのままだね……美味しいけど、不味くはないんだけど……」
とだんなは複雑な表情。抵抗がないのは息子だった。
「わー、コーンだねー。美味しいねー!コーンだぁー」
微塵も違和感を感じないらしい。
コーンのほの甘い黄色い汁を吸ったかき氷は、奇妙で素敵な味だった。

西門町 「揚記花生玉米冰」にて
玉米冰
60元

麺線ってこんなに美味しかったんだ〜「阿宗麺線」

台湾甘味系に興味津々の私と、屋台的料理に興味津々のだんな。行きたいね、というお店を巡ろうとすると、甘いものと甘くないものが交互に続くことになり……いくらでも食べられそうな気がしてくるのである。危険なのである。
「甘いもの食べたから、次はしょっぱいもの!」
相変わらず胃袋絶好調な私たちだった。
見かけはけっこうすごいけど……

賑やかきわまりない西門町の繁華街。たしかあのへん?いや、このへん?と小さくちょんぎって持ち歩いているマップを確認して歩くうち、通りに立つ人立つ人がどんぶりを持ってずるずるなにやら啜っている一角にたどり着いた。おお、ここが「阿宗麺線」。おにーちゃんもおねぇちゃんも、おっちゃんも、カウンターのみのその店に吸い込まれては緑色もしくは白色のどんぶりを抱えて店の前に出てくるなりずるずるはふはふとやっている。

「麺線」とは、素麺によく似た細く白い麺をとろみのある茶色のスープで煮込んだもの。とろんとろんの、いかにも粘度が高そうなスープには豚の臓物肉がざくざくと入っているらしい。箸ではなく、レンゲ1本で食べるのがお作法。屋台でも町中でも「麺線」の文字は比較的頻繁に見受けられ、「美味しいよー」という話は聞いていたのだけど、行く店行く店、すごい匂いを発しているのでなかなかチャレンジできずにいたのだった。屋台では同じその屋台で「臭豆腐」も一緒に売っていたりして、その臓物系のすっさまじい匂いたるや「食べ物」というよりこれは「エサ」ではないのか、とつっこみたくなるような激しいものだったりして……挑戦するには心身共に万全にしておかなければ、と思ってしまうほど。

で、この店。「阿宗麺線」はすっごく人気の麺線屋さんなのだそうだ。旨いと評判でもあるらしい。そこならば、麺線初級者にもチャレンジ可能な余裕の持てる店なのではないか、と行ってみることにしたのだった。
メニューはただただ麺線のみ。「大」は50元、「小」は35元。大は白いどんぶりで、小はプラスチック製の緑色のどんぶり。大小のメニューしかなく大小でどんぶりの色が違うなんて、まるで香川のうどん屋さんみたいだー、となぜか嬉しくなってみたり。

だんなが1碗買ってきてくれて、それを一緒につつかせてもらった。
とろみが強めなのでなかなか冷めない。麺とスープが渾然一体となった碗にはひとつまみの刻み香菜が盛られていて、それが適度に臭み消しになっている。モツもたっぷり入っているけど、日本で食べるモツ煮込みの匂いとさほど違わない程度のケダモノ臭さ。少しも気にならない。

驚くことに、てっきりケダモノ系スープの味かと思っていたら、鰹だしの味なのである。鰹の香りがぷんぷんとするスープは「ほんだし」の存在感も多分に感じられるものではなったけど、でも鰹節そのものもヒラリヒラリとスープにたっぷり入っている。鰹風味のスープなのに、モツがたっぷり。煮込んだ素麺はとろんとろん。スープのとろみが怪しく街灯を反射する。……うまーい。
「うまいよ、うまいよ、美味しいよ」
「めっちゃめちゃ美味しいじゃん!」
「1人1杯にすべきだったかなぁ」
「ていうか、大サイズでも良かったかも」
なんてこった、こんなに美味しいなんて!と私とだんなは2人で騒然とする。こんな、わやくちゃな見かけの食べ物なのに、なんて美味しいんだろう。知ってる味の組み合わせなのに、不思議に心が鷲掴みにされる。このクソ暑い中、暑苦しい食べ物だなぁとも思うのに、食べると一瞬汗がひく。いやーん、麺線美味しい。麺線、ブラボー。

西門町 「阿宗麺線」にて
小碗
35元

牛柄グッズもあるでよー〜「台北牛乳大王」

「麺線食べたら、喉が乾きました〜」
「ぼくも、かわきました〜」
女子供は牛乳系ドリンクが大好き。牛乳のジュース飲みに行こう、いぇーいいぇーいと私と息子が先頭に立ってパパイヤミルクを飲みに行く。目指した店は「台北牛乳大王」。大王である。強そうである。旨そうでもある。大王ってんだから美味しいのよきっと、とか言いながら、チェーン店だというその店に向かった。この地では、もう何年も前から「パパイヤミルク」なる飲み物が大人気であるらしい。私はそれが目当てだった。
このカップの柄がキュート

冷房がガンガン効いた涼しい店内。ファーストフード然とした、洒落た雰囲気の明るい店だった。ドリンクを入れてくれるカップはパステルカラーで牛の図案。めっちゃめちゃキュートだ。こういうデザインにいちいちぐぐっと反応してしまい、良いわ良いわステキよステキ♪と幸せになってしまう。店頭では牛の白黒模様の皿やマグも売られていて、それにもまたちょっとばかり心揺れてしまった。

私は予定どおり、木瓜牛乳(パパイヤミルク)。他にもスイカミルクだのパッションフルーツミルクだのバナナミルクだの、美味しそうなものとかすごいものが数多くメニューに並んでいる。そして更に各種フルーツに「優酪乳」の名がついているドリンクも。英語の説明を読んだところ、そちらはヨーグルトドリンクなのだそうだ。だんなは息子と一緒に飲むよ、と芒果優酪乳(マンゴーヨーグルト)を注文。

適当に皆で交換しあいながらずるずると飲んだ。パパイヤミルクはすごく濃厚。果実の甘みだけで作ったような優しい甘さなのだけど、シェイクを飲んでいるかのような充実感が満載だ。果肉みっちり溶けてます、という感じ。適度に冷たく、心地よい。ヨーグルトドリンクは、ちょっと残念なことにあまり冷たくなくて"ちょっとぬるい"ものだったのだけど、味は最高。使われているマンゴーも香り豊かな甘いもので、ヨーグルトの適度な酸味も心地よく、とてもバランスの良い飲み物だった。何食べても飲んでも美味しいもんだから、笑いが止まらない。食べ物が美味しい旅行はやっぱり幸せだ。

西門町 「台北牛乳大王」にて
木瓜牛乳
芒果優酪乳
60元
70元

ビロウな話で恐縮ですが……トイレの話

いよいよ西門町を後にして、夜市タイム。時間もちょうど8時過ぎ。電車に乗って移動して、きっと到着は頃合いの夜市活性時間帯と思われた。西門町からそのまま台北市内最大の夜市である「士林夜市」目指して地下鉄に乗る。氷食べたし汁麺食べたし牛乳も飲んだし、夜市前にはトイレに寄っておかなきゃね、と駅のトイレに立ち寄った。それが、いけなかった。トイレに寄るならデパートかホテルのトイレを借りるべきだったのだ。

事前に本で知識としてだけ知っていた。曰く、
「台湾女性は洋式の便器にお尻をつけないで用を足す」
「下水事情が悪いのでトイレットぺーパーは水に流してはいけない」
というものだ。頭ではわかっていたのだけど、実際目にしてみると、異国のトイレ文化の違いには困ってしまったり笑ってしまったりしてしまう。

一番の驚きは、「どこの女性用トイレに入っても、便座が上にあげられている」ということ。私たち日本人でも自宅のトイレなどにおいては、父親や夫や息子が用を足した後に入ると便座が持ち上がっているのはごく普通の光景だ。女としては「便座を持ち上げたら元に戻しておいてくれるといいのに」なんて思ったりする。が、外出して女性用トイレに入った時、便座が持ち上げられているのを見ることは希なことだと思う。

台湾の女性用トイレに入ると、9割以上、いや、ほぼ10割と言って良いほど便座は上に持ち上げられている。そしてその便器はいかにも「その縁を踏みました」的に黒々と汚れているのだ。便座をおろしてそこに腰掛けようにも、便器がすっかり汚くなってしまっているので腰を下ろす勇気はなかなか沸かない。ロングスカートなぞ履いていたら、間違いなく汚してしまいそう。

台湾女性は「洋式トイレに座ってしまうことはとんでもなく汚いこと」という理解が浸透してしまっているようなのだ。しかし町中のトイレは、多くの場合洋式。ならばどうするのかというと、
・ 洋式トイレに腰掛けるポーズを取るが腰は下ろさない「空気椅子」状態で
・ 便座を持ち上げ、便器の縁に足を乗せて逆向きにしゃがみこんで
のどちらか、ということになる。そして後者のスタイルを取る女性がとても多い……ということらしい。本来の洋式便器を使用する向きとは逆に使うことになるので、どうしても周囲が汚れる。しかもゴミ箱には汚れたペーパーが山盛りだ。

そう、台湾トイレの困ったポイントその2はその「ペーパーが流せない」ということだった。下水事情が悪いのか、更には水に溶けるトイレットペーパーの品質も整っていないからなのか、台湾のトイレでは体から排出されたもの以外の物質を流してはいけないということになっている。宿泊したホテルについていたトイレにも巨大なゴミ箱が真横に置かれていた。サニタリーボックスとかいう可愛らしいものではなく、生ゴミを入れるかのような巨大ないかついゴミ箱だ。そしてくるくる巻かれたトイレットペーパーではなく、あまり品質はよろしくないティッシュ状の紙束が壁に備え付けられていた。ロール状のペーパーがついているところもある。が、紙のないトイレも非常に多い。デパートとホテル、一部のレストラン以外ではなかなか絶望的な状態だった。

かくして、きったないトイレに入り込みどうやって用を足すか心底悩みつつ、トイレットペーパーがゴミ箱に山盛りになった状態を横目にしながら用事を済ませることになる。バリ島のトイレもタイのトイレもなかなか鮮烈なものがあったけれど、香港トイレは悪くない状態だったので油断していた。台湾トイレ事情もすごいインパクトだ。中でも、士林夜市最寄り駅である劍潭駅構内のトイレのすごさはピカイチだった。何もそんなものピカイチでなくてもよろしいんじゃないかと思うのだけど、文句なしにナンバー1(の汚さ)のトイレだった。

あーもー、どうしよう、でも、出すもの出しておかないと後でもっと悲惨な展開になるかもしれないし……、とたっぷり10秒くらい便器の前で思い悩んだ後、乗りましたよ。便器に。便座持ち上げて。「私は台湾女性、今だけ台湾女性」とか念仏のように唱えて必死にバランス取りながら。トイレットぺーパーがないことに気づいたのはようやっと便器の上でバランスを取った後だったりして、手持ちのティッシュは背後に位置するドアのフックにひっかけたバッグの中。頭と体はそのまま前方(便器のタンク側)に向けたまま、手だけでバッグをさぐったりして、もうこれ以上なくハイレベルなアクロバット状態。なんとかやっとの思いで、片足を便器につっこむ悲劇などもおこさぬままトイレを脱出することができた。バランスを取っている間、着ていたジーパンの股間あたりから「ぶちっ」と何かがブチ切れる音らしきものが聞こえたのだけど、気にしないことにする。

ほんと、台湾大好きになったのだけど、トイレ事情だけはなんとかしてもらいたい。これなら日本の駅の汚い和式便器の方がまだまし、ってものだ。

子供からお年寄りから犬猫兎まで〜「士林夜市」

これはメインストリートではなく、屋台が並ぶ裏通り

トイレショックも落ち着き、いいよいよ士林夜市!
あらゆる店と屋台が集まる、それはそれは大規模な夜市だ。「このあたりは食べ物屋台が多い」「このあたりは衣料店の集中エリア」といった漠然としたエリア分けがなされている。以前の屋台街は現在工事中ということで、駅前の巨大な屋根つき建物内に収容中だ。それ以外にも食べ物屋さん、屋台はエリア中に散らばっている。

まずはその屋根つき建物内の屋台群を眺め歩いたのだけど、何しろ暑い。天井があるものだから熱気が逃げてくれず、あちらこちらで巨大扇風機が回っているものの熱気で息苦しくなってくる。これ!という食べたいものも特に見つからなかったので、そのまま通りを進むことにした。道の左右には営業中の一般店舗(衣料品店が多い)が並び、更に通りの中央に小型の屋台が並んでいたりする。平日の夜だというのに、夜9時過ぎて"休日のアメ横"状態。これが週末ともなると、"年末のアメ横"な騒ぎになってしまうらしい。人の波の中を、息子の手を離さないように歩くだけでも疲れてくる。学生さんらしき人々が多いけれど、若い人ばかりという程でもない。おっちゃんおばちゃんも多いし、子供連れだって少なくない。元気だなぁ……と思う。

息子を魅了したのは、小動物の屋台(屋台?)。上が開いているプラスチックの透明な箱に、子兎や子猫、子犬などが入れられて売られているのだ。猫箱には猫だけ、犬箱には犬だけが、ただしゴールデンレトリバー調の犬もシベリアンハスキー調の犬もブルドッグ調の犬もいっしょくたにされて入っている。箱の深さは人の手が余裕で届くくらいなので、道行く人が「かわいー」となでていく。息子も一緒になって
「うさぎさんだー!」
とペット屋を見つける度に大ダッシュ。まだ生後1ヶ月もしてないんじゃないかという頼りない大きさの子猫なんかも多かった。可愛いんだけど、可哀想でもある。過酷な環境の夜市に連れてこられてなで回されるのは、寿命を縮めてしまうだけのような気が……。
シンプルな外見なのに、旨いんだなぁ

「これ……旨そうだなぁ」
V字に広がる大通り、それを繋ぐ位置にある屋台が並ぶ細い通りを歩いていたとき、だんなが「食べてもいーい?」と立ち止まった。「好朋友」と屋台に屋号がついている。だんなが指さす先には「涼麺」の文字があった。……冷やし中華?

1つでいいのよ、とだんなが身振り手振りで伝え、店の背後にあったテーブルについて一休み。皿を洗う手間とか衛生状態保全のために、皿にはビニール袋がかぶせられ、その上に料理が盛られる。冷たい麺の上に刻み豚肉とザーサイを合わせたものが乗り、刻みキュウリも添えられる。たれはピリ辛の胡麻味。ざっとかき混ぜてからさらさらっと食べる。ほんの小碗に一杯だけの食べやすいサイズだ。
美味しい美味しい。ジャンクな味なんか、全然しない。私も一杯別にもらえばよかった。そのくらい、美味しかった。

士林夜市 「好朋友」にて
涼麺(小)
35元

これがルーローハンなるものか……

「そうそう、ルーローハン、食べたかったんだよー。どっかにないかな」
だんなはずっと、ルーローハンを探していた。「魯肉飯」と書く。文字からはなにやら魚肉の御飯であるような雰囲気が漂ってくるけれど、実際は豚肉そぼろの御飯。豚肉(店によってそれはヒレ肉だったりバラ肉だったりするらしい)をこっくりと醤油系の甘辛味に煮込み、それを汁ごと御飯にかける。小碗に盛られたそれを片手に、野菜炒めなどを別にとって食事にする人が多いらしい。すごく一般的な料理なもんだから(ラーメン屋にチャーハンがあるのがごく普通であるような感じ?)、魯肉飯が店の目玉とかいうのでなければ、わざわざ「魯肉飯アリマス」なんて看板には書かなかったりするようだ。ぷらぷら歩いていたら、通りかかった店に「魯肉飯」の文字を見つけた。食べてみようとりあえずどんなものか試してみよう、と、その店に入ってみた。「温州大饂飩」というその店は、後で知ったところによるとあちらこちらにあるチェーン店であるようだ。大衆食堂、という感じ。丼ものや麺ものが中心の店だ。

ラーメン屋に入って「ミニチャーハンください」とかいう感じなのかなぁ……と思いつつ、魯肉飯を2つ、いただいてみた。小碗にこんもりと白い御飯。そこに茶褐色のタレと共にざっくり粗めの豚ひき肉の煮込みがごそっとかかっている。牛丼と同じ方面の味なのだけど、よりこっくりと濃いめの味。この丼を傍らに食べれば、野菜炒めも冷や奴も美味しく食べられるなぁという便利そうな味つけだ。そっけない外見と裏腹に、これがまた旨かった。
「魯肉飯、うまー!」
「これはくせになるかもしれない!」
「単純なだけに、店によって味もバラバラだろうしね」
と、初めての魯肉飯にこれまたハマる。台湾滞在中に3度食する魯肉飯の、これが最初の1杯だった。


士林夜市 「温州大饂飩」にて
魯肉飯
2×20元

そしてまたもや歩く歩く。ペット屋があるとそこで数分立ち止まる。衣料品、アクセサリー類なども面白いものが多い。
「WWE(アメリカンプロレス)のパチもんTシャツ、ないかなぁ……」
とそれっぽい店を通るたびに覗き込んでいただんなだったけれど、結局2枚だけ発見してうきうきと買い求めていた。EDGE(エッジ)のシャツと、HHH(トリプルエイチ)のシャツ。いったいどこで着るんだそんなもの、という派手なプリントTシャツだった。……どうせだったらストンコの「DRINK BEER」シャツとかあれば良かったのにねぇ。

最後に立ち寄ったのは、「おいしいおいしい、とにかくおいしい」と各所で絶賛されていたかき氷屋さん。「辛發亭冰館」というお店で、名物は「削りミルクアイス」といった風の「雪片」。かき氷とは全然違うものだということだ。
すでに時間は10時過ぎ。混雑する店内、空いていた4人がけの席について、だんなは「珈琲雪片」を。私は「鶏蛋雪片」というメニューを見て、
「これって……つまりミルクセーキとかカスタードみたいなものなのかなぁ?おいしそう」
とそれを注文してみたのだった。「鶏蛋」は卵のことだけど、でもまさか目玉焼き乗せなんてことはないだろう、と。

生卵が…… 乙女のスカートのようねー

やってきたのは、生卵だった。生卵が1個、その「削りミルクアイス」の上にぼてっと落とされている。うわぁ、生卵だぁ……と唖然とする私。上にぱらぱらっとレーズンが散らされたそれは、でもまぁ、思ったよりも美味しかった。ていうかその削りミルクアイスそのものがなんとも旨い。卵は……いらないかなー、みたいな……。小山のようなたっぷりサイズで1杯180円くらい。だんなの前にやってきたのも、なんともファンシーな外見のものだった。

確かにそれは、「かき氷」ではなく「削りアイス」。薄い薄いアイスのひだが、ミルフィーユの折り重なるパイ生地のように、ドレスにつけられたフリルのように、ピラピラヒラヒラと薄く薄く積み重なっている。スプーンを刺すと、くしゅくしゅっと小さくまとまっていってしまいそうな、薄氷と空気で構成されたようなデザートだった。だんなのそれにはミルク味の氷が中央に収まり、それを覆うように珈琲味のピラピラが盛られている。上からコンデンスミルクとチョコチップがかけられて、なんというか……「すごい」。

甘さはそれほど強くなく、かき氷ほど脳天にキーンとこない。口に入れるとひらひらふわふわと溶けていってしまう、知っているようで知らない味と食感だった。……しかしやっぱり卵は別にいらないかな、と。
他にもイチゴ雪片とかマンゴー雪片なんかもあったりして、男も女も、この店に来ていた人はもれなくこのヒラヒラピラピラ氷を楽しそうに食べていた。うん、かき氷よりこちらの方が好きかもしれない。この軽いミルク感がなんとも好み。

士林夜市 「辛發亭冰館」にて
鶏蛋雪片
珈琲雪片
50元
50元

そうこうしているうちに、もう11時を回ろうかという時間になってしまった。喜んで一緒に歩いてくれていた息子もさすがにつらそうで、急ぎホテルに帰還。これ以上なくパワフルに動き回った1日で、じっくり時間をかけて湯船に湯を溜めて足を休ませる。けど足パンパン。横になっても変に気分が高まっちゃって、足がぼわんぼわんと膨張していくような感覚ばかりが感じられてなかなか眠れない。

「……おゆきさん、足を揉みあいっこしませんか?」
「……やっぱり?やっぱりだんなもそう思う?なんか、足がぽわぽわして眠れないよね」
と、風呂から上がるなり速攻眠りに落ちた息子を羨ましく思いつつ、だんなと交代で足の裏を揉みっこしてから就寝。
……つ、つかれた……。