9月18日(木) 淡水の貝と産毛抜き

三明治の朝御飯

台湾3日目、2度目の朝。
私は貧乏性なのである。普段はそうでもないくせに、旅行に出ると貧乏性がいきなり発症してしまう。寝ているなんてもったいない、と普段なら絶対に陥らないほどの睡眠不足状態になってしまうのである。朝遅くまでなんて、寝てられない。昨日は日付が変わってからベッドに入ったはずなのに、やっぱり今日も6時頃に目覚めてしまうのだった。これ幸いと、昨夜はとても作業していられなかった日記の更新などしてみたり。

7時過ぎ、8時過ぎ、それでも我が家の男共は目覚めない。まぁ、昨日は限界を超えて活動しちゃったしね……と彼らを起こさないように私は着替え、朝食でも買ってこようかなと身支度を整え始めた。なにしろお腹がすいちゃって、もう。
さて出かけようかな、と思ったところで、だんなが目を覚ます気配を感じた。「おばよー……」と、布団の中からごにょごにょと呟いてくる。

「朝御飯、買ってくるよ。もう9時になるとこだし」
あぁ、もうそんな時間……?あらー?と目をしぱしぱさせているだんなに、何かリクエストはあるかい?と尋ねてみると、比較的しっかりとした声で
「昨日の……饅頭屋さんの饅頭がまた食べたいな。あれ、美味しかったし」
とのこと。近くの店だしいいよ、全然問題ないよ、と一人朝の町に出ていった。相変わらず英語も日本語も通じないお店で「これ、この饅頭ください」と指さし注文し、今日は3種の饅頭を1個ずつ。ホテル周辺にはサンドイッチの販売店(屋台もあるし、麺や丼ものを売る店が朝だけはサンドイッチ販売しているというところも)がいくつもあって、気になるところから3包み買ってきた。具が何なのか、謎なものもあったりして。
町中のあちこちで見かける「三明治」がサンドイッチだということを把握して「うおぉ!」と驚いてしまったのは昨日の朝のことだ。
具沢山で良い感じ♪

サンドイッチは何枚もの薄切り食パンの間にあれこれの具が挟まっている形。2組のサンドイッチが包まれているとかではなく、1つの包みで1セットだ。大口あけてかぶりつく。写真の中央は、パン5枚の間に4層同じ苺ジャムが挟まっている。だったら厚切りパン2枚の間にジャムを挟むだけでも同じようなものじゃないかと思わなくもないけれど、このスタイルが「三明治」のこだわりなのかもしれない。

写真左側のに挟まるものはポテトサラダ。にんじんもたっぷり入って、綺麗な水玉模様のような具になっている。残りの層は卵焼きとハム。写真右側のサンドイッチにも卵焼きとハムが挟まっている。こちらはハムと共にコーンも挟まれ、メインの具は茶褐色のツナのような、ツナではないような。後でわかったのだけど、「肉髭」とかいうもののようだ。肉の佃煮から水分をできるだけ取ってパサパサにしたものという感じ。おみやげ物屋で缶入りや箱入りのそれを見かけ、「おお!これか!」と後になって把握できた。パンより御飯に似合うような味だけど、サンドイッチにしてもなかなか悪くない。卵とハムとコーンと一緒に挟まってるというのがまたゴージャスでいかす。

部屋についている冷蔵庫をおおいに利用している。スターバックスで買ってきたアイスコーヒーをそのまま冷蔵庫で冷やしてあったので、牛乳で薄めてカフェオレにして飲む。息子には紙パック入りのパパイヤミルク。これがまたなかなか美味しい。台湾の人にも人気があるようで、500ml入りのパックにストローつっこんでぐびぐび飲みながら通勤途中のOLさんを見かけたりした。
ほのかに見知らぬ味のするサンドイッチは、しかし素朴で旨かった。軽く済ませる予定だった朝御飯だったのに、お腹いっぱいになっちゃったさー。

台北車站近く 「謝謝[魚尤]魚[火庚]」にてお買い物
生煎包(韮菜包・肉包・菜包)
20元

台北車站近くの屋台でお買い物
三明治(肉そぼろ・卵焼き・ハム&コーン)
三明治(ポテトサラダ・卵焼き・ハム)
三明治(ジャム)
 
 
全部で50元

淡水の孔雀色ムール貝〜「余家孔雀蛤大王」

今日はちょっとのんびりしてみようか、と、台北におけるデートスポット、ベイエリア「淡水」に行ってみることにした。夕日が美しいということで、日暮れ時にはカップルが川岸に等差数列的配列を形作るのだという。お台場のような感じ?と想像していたら、熱海のような感じだった。「台北車站」駅から地下鉄淡水線で18駅、40分。出発してものの数分で地下から地上に出、北上していけば途中「北投」という温泉街も通過する。……やっぱりお台場というより熱海的だ。息子はそれはそれは楽しそうに「世界の車窓から」を堪能中。

平日の午前中、淡水の人影はまばらだった。駅を降りてすぐのコンビニで水を1本買い、食べ物屋の看板が多く並ぶ通りをぽてぽてと歩いていく。10分ほど歩けば船乗り場があり、10数分おきに運行している渡し船で対岸に行くことができる。どうやらこの町、午後からが人の集まる時間帯らしい。午前中の町並は「今はもしかして早朝だったりしますか?」と思いたくなるほどに町は眠っている。土産物屋らしきものも飲食店も9割方閉まっていて、なんだか寂しげ。それでも時計の針はもう午前11時を回ったところで「そろそろお昼時ですよー」と胃袋も警戒音を発している。

のどかーのどかーのどかー

やることもないので、船に乗っちゃうことにした。
船着き場に見えてきたのは……漁船??「渡し船」というよりは、なにやら漁船のような小さな船が桟橋についている。片道、大人は18元。桟橋近くにはワカサギほどのサイズの小魚が大量に集まってきていて、対岸には小さな家屋がぽつぽつと見えて……なんだか果てしなくのどかな光景だ。息子は「ふねー、ふねー、おふねー!」と、早く乗ろうすぐ乗ろうとっとと乗ろう、と私やだんなの手をぐいぐいと引っ張ってくる。船に乗り込み、片道10分ほどかけて対岸へ渡っていった。水の透明度はそれほど高くなく、でも心地よい磯の香りが漂ってくる。あーもー、果てしなくのどか。

淡水の渡し船
大人
子供
2×18元(片道)
10元(片道)

対岸には、川岸に沿ってちょこちょこと食べ物屋さんが。目立つのは「孔雀蛤」という文字だ。川岸から内陸に向けて少し歩いたけれど、川岸以外の店以外にはほとんどなんにもない、そんなところだった。
「孔雀貝」とは、その雅な名前のとおりに色鮮やかな貝。それを食べさせる店があちらこちらに看板は出ているのだけど……残念ながら営業はしていない。やはり夕方とか休日がこの町の本来の姿なのかもしれない。

内陸に向かう道路の途中に「皮蛋」の文字を見つけて店を覗くと、籠に山盛りの皮蛋が。「一般皮蛋」「糖心皮蛋」の2種類があり、価格が違う。安い方(一般)は22個で100元、高い方(糖心)は16個で100元だ。……どう違うんだろう。……甘いの?

ともあれ、22個で100元でも16個で100元でも安いことに変わりないので(日本で買うと1個100円くらいはするから)、お店の人に声をかける。
「この2つ、どう違うの?」
と日本語英語駆使して聞いてみたのだけど、今ひとつ要領を得ない。では、と2種の皮蛋を指さしながら
「好吃?」(ハオチー=美味しい)
と聞いてみる。店員のおねぇちゃんと、奥から出てきたおっちゃんは声をそろえて「こっちこっち」という風に「糖心皮蛋」を指さした。ああ、やっぱり高い方が美味しいのか(普通そうよねぇ……)。
ではそれを、と皮蛋をいただいて(くしゅくしゅのビニール袋にざらざらっと16個の皮蛋が……)、昼飯を食べられそうなところを探す。

八里 「宗記皮蛋」にて
糖心皮蛋
100元/16個

昼御飯に入ったところは、数少ない営業中の店から一番大きな店だった「余家孔雀蛤大王」。もううんざりするほど暑くて暑くて、冷房の効いた部屋に入りたかった。ああ、ここなら涼しそう……と、そんな理由で選んでしまった。
名物貝を1皿と、口直しに空心菜の炒めも1つ。息子のリクエスにより炒飯(息子、好物の炒飯がどこででも食べられるもんだから、ここぞとばかりそればっかり……)1つ。飲み物は水のペットボトルも含めて、自分で冷蔵庫から取り出し、店員さんに伝票チェックしてもらうシステムだ。
美的なムール貝。なんでこんな色なんだろ?

孔雀の名を冠する貝は、写真で以前見たものよりもずっとずっと美しかった。形状や中身はムール貝にそっくり。ただ、殻の色だけが綺麗に青緑。縁に強めの緑が入り、ふわっとグラデーションを描いて褐色から黒へと殻の色が変化している。中にはオレンジ色の強い身がぷりぷりと収められている。
たっぷりのにんにくと唐辛子で炒められ、緑の野菜も共に絡んでいるのだけど、これはバジル。
「うおっバジルだよこれ」
「バジルとにんにく唐辛子なんて、イタリア料理みたいね」
貝の皿の脇に置かれた洗面器のような殻入れを使いつつ、黙々と手を伸ばす。

卓上の手拭き用ティッシュを手元に置いて、貝をバリバリと食べていく。かなり辛い。貝から染み出たスープに甘辛味のタレが加わり皿の底に溜まっている。殻でそれをすくいつつぱくっといくと、ビールにすこぶる良く似合う。しかし、辛い。元々辛いものがそれほど得手ではない私たちだったので(でも、唇がびりっびりくるほどの辛さだったので、けっこうな辛さかと……)、まもなく「水っ水が欲しい……」「白い御飯も欲しいよー」と騒ぎ出すことになった。白い御飯、2つ追加。

アルミの皿に盛られた貝は、たっぷり40個くらいもあっただろうか。大きなごろりとしたものもあれば、「こんなサイズのも食べちゃっていいの?」というような親指の先サイズのものもある。どの貝も口ががばっと開いているわけではないので、開いた口に指や箸をつっこんでばりばりと開けてかぶりつく。最初は上品に箸で食べようとしていたのだけど、そのうち両手を皿に突っ込むようになってしまった。窓辺からは河口の風景。対岸には多くの建物が並び、高級そうな高層マンションが並ぶ様は、どこか香港の風景にも似ている。

1時間ほどの昼食を堪能した後は、再び船に乗って対岸へ。午後になると店もぽつぽつ開き始め、お客もぐっと増えて賑やかになってきた。

淡水 「余家孔雀蛤大王」にて
招牌孔雀蛤
空心菜
蛋炒飯
白飯
台湾ビール
コーラ

200元
80元
60元
2×15元
70元
25元
15元

淡水、小吃あれこれ

戻り道の渡り船。浜にはかさかさと大量の小さな物体が動いていて、「なんじゃいなー」と覗き込んだら小指の先ほどの大きさの"シオマネキ"がざわざわと動いていた。浜の目に入るところすべてにその白く赤い蟹がいて、片方だけ大きなハサミをゆらゆらと動かしている。漁船が並び……はぁーやぱりのどかー、と、暑い日差しの中、ぼけーっとしてしまう。

香港みたいだけど、やっぱりのどかー

対岸(淡水側)は香港みたいだね、と言いつつ再び船に。さらりとした昼食だったので(え?)、
「よーし、ここから淡水名物食べるぞー」
と、もうオープンしまくっている店を覗き歩く。
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淡水名物その1は「阿給」。「アーゲ」と発音するその食べ物は、日本語の「油揚げ」からきているらしい。厚揚げ(というにはちと薄く、油揚げと厚揚げの中間のようなもの)の中に春雨や肉そぼろを詰めたもの、らしい。阿給専門店も通り沿いには多く、その看板には「麻辣阿給」とか「牡蠣阿給」とか「素食阿給」とか、様々なメニューが紹介されていたりする。ここ、なんだか美味しそうだよ、お客も多いし……と入ったのは、船乗り場近くにある「正宗 阿給老店」。タイル張りの床にタイル張りの壁。中では巨大扇風機がぶんぶんまわり、店のおばちゃんたちは道を通る人に威勢良く「入っていきなよー」的に声をかけている。阿給の種類は1種類だけだ。

阿給を1つ、あと、同じく名物だという「魚丸湯」も1つ。「魚丸」は魚の団子。はんぺんから空気を抜いてぎゅっと圧縮したような歯触りと味の団子の中には豚肉と思われる塩気強めの具が詰められている。澄んだスープには刻みセロリと刻み葱が添えられ、その中にぷかりぷかりと魚団子が浮かんでいる。周囲の人々は、阿給と魚丸湯を共に前に並べ、2皿を組で食べている。魚丸湯は、「あー、どっかで食べたことあるよ、この味。懐かしい感じ」という風情。セロリの香りがスープと魚団子に妙に似合う。

そして阿給。みっちりと春雨を詰めた中身が溢れないように、口には魚丸の生地で蓋をされている。赤茶色のタレに浸っていて、それは甘辛の味噌味。八丁味噌に似た渋さを含んだ甘さのあるタレは、厚揚げに程良く染みている。中華料理というより日本料理に近いようにも思える料理で、温かくて素朴な味。じんわりとこれまた懐かしげな味がする。

淡水 「正宗 阿給老店」にて
阿給
魚丸湯
25元
25元

では駅に向かって歩き出そう、としたところで次なる名物が目に入った。「酸梅湯」。
台北市内のドリンクバーでもその名は見かけるし、コンビニのペットボトルジュースにもその名はあったりする。淡水を歩くと酸梅湯専門店があったりして、これまた1つの名物となっているらしい。
この店、なんだか綺麗だな。酸梅湯専門店って感じだし、と「洪媽」というその店の酸梅湯を試してみることに。名前から察するに「酸っぱい梅のジュース」なわけだけど、スパイスもかなり効いているようだ。何事もチャレンジ!と1杯買ってみた。私、梅干しはちょっと苦手(柔らかいふくふくの梅干しは好きだけど、カリカリ梅系はダメ)なのだけど、梅酒は大好きだし梅味ゼリーなんかも嫌いではないし。

カップには「これは体にいいのよー。すっごくいいのよー」という内容と思われる文章がうりゃうりゃと掛け軸に書かれる文字のような字体で書かれている。口にする寸前に鼻と口に押し寄せてくるスパイスの甘い芳香。梅独特の甘みと酸味の中に、独特な漢方薬臭さが漂う。インパクトのある飲み物で、苦手な人は苦手かも……と思いつつ、その臭さや甘酸っぱさはクセにもなりそう。変に甘ったるいものを暑いときに飲んでしまうと後でよけいに喉が乾いたりしてしまうけれど、酸梅湯にはそれがない。梅全般が苦手なだんなは一口も飲まず、息子と一緒に「おいしいねー」とぐびぐび飲む。息子、平気か。けっこうクセがあるのに、酸梅湯が平気なのか……(たくましいなぁ……)。

淡水 「洪媽」にて
酸梅湯
25元

あ、この店面白そう、あの店も見てっていい?とぷらぷらしているものだから、一向に駅まで戻れない。屋台で「蝦捲」という、これまた名物を見つけてしまって買ったりしてる。「蝦捲」1本買う脇で息子が
「ぼくはねー、あれ!あれがたべたい!」
とアメリカンドッグを指さすものだからそれも買って路上の隅の植え込みの段差に座って一休み。アメリカンドッグは「熱狗」と書くらしい。ホットドッグも「熱狗」だ。アメリカンドッグもホットドッグも中国語では一緒、ということだろうか。ケチャップたっぷりかけたアメリカンドッグをはぐはぐと食べる息子の横で、私とだんなは1本の蝦捲をつつきあう。春巻き皮のようなもので、蝦のすり身をくるっと巻いて揚げたものが蝦捲。3個の揚げロールが串に刺さっていて、甘酢のとろみソースをかけて渡される。サクサクッと香ばしくてとても"おやつ"的。値段も値段だし(35円!)、駄菓子みたいだ。

淡水の屋台で
蝦捲
熱狗
10元
15元

初体験!産毛抜き!

淡水の通り沿いには、なぜかマッサージ屋さんが多かった。
「台湾に行ったら、足の裏マッサージをしてもらいたいなぁ……」
と言っていただんな。ちょうどいいじゃん、どっかでやってもらったら?と看板を見た私の目に「挽面修眉」の文字が。ああ、これは……産毛抜き。こちらは私がやってみたいと思っていたものだ。マッサージ屋さんでマッサージも産毛抜きもやってくれちゃうらしい。待たせることになる息子には悪いけど、ごめん、とーちゃんとかーちゃんはこれをやってみたいんだよ、と説明して待ってもらうことになった。
あー、痛そう痛そう気持ち良さそう

マッサージは普通の肩揉み背中揉みに加えて足裏マッサージもメニューにある。「下半身のみ」みたいなコースもいろいろ。だんなの足裏マッサージは300元、私の「挽面修眉」は200元。
店内には青緑色の椅子がずらっと並び、マッサージ師さんが所在なげにその椅子にでれーんと座っている。お客は少なめ。ガタイの良い兄ちゃんたちが2〜3人やってきて奥のマッサージ台に消えた他にはお客はいない。

私の産毛抜き担当の人は、現在他のお店に行っちゃってるとのこと。ちょっと待ってね、と身振り手振りで伝えられ、私と息子はだんなの足裏マッサージ施術を横からじっくり観察することに。バスクリンみたいな色の湯に足を浸して洗い、椅子にねそべるとクリームをたっぷり塗られ、もみもみもみもみ……というか、ぐいぐいぐいぐい。
「〜〜〜!!」
だんなは無言で、手を握りしめたり肘掛けをぽんぽん叩いてみたり。相当、痛いらしい。時折小さく「ぐおっ」などと呻いている。やっぱり痛いらしい。そして私の産毛抜きおばちゃんは、まだやってこない。
結局、20分ほどの足揉みが終わっても私の産毛抜きおばちゃんはやってこなかった。最後にアツアツの蒸しタオルで足をくるまれ、ふくらはぎも軽くマッサージしてもらっただんなは、ぐにゃぐにゃになっている。いいなぁ……気持ちよさそう。でも私は「揉み返し」が来て後でよけいにつらくなってしまうと自覚しているのでマッサージはパス。

まだ私の挽面おばちゃんは来ないの?とお店の人に相談すると、なにやら電話をかけた後、おいでおいでこっちの店においで、と同じチェーンらしい別のお店に連れて行かれた。そこでは、お客のおばちゃんの顔をピンピンやっているおねぇさんが。この人、次にお願いね、わかったわ、なんて会話が交わされて、私はそこに残された。まだ時間がかかりそうなので、だんなと息子は2人で隣のゲームセンターに遊びに行っていただいた。

そして1人残された私。「ちょっと痛い」とは聞いていた。でもお肌がつるんつるんになるとも聞いていた。 ほんの700円程度、10数分でやってもらえるという手軽さも気になって、で、私は大した気構えもしていなかった。「はい、次のあなた」と誘われた私はおねぇちゃんの前の丸椅子に腰掛ける。

前髪を太いバンダナでまとめあげ、ヘチマ水をぴたぴたと顔に塗りつけた後、チョークのようなものを顔にこしこしとなすりつけていく。きっと私の顔はどこもかしこも見事な「白面」。そして、いざいざ、とおねぇちゃんは指に白い糸(なんてことない普通の木綿の手芸糸……という感じ)をきゅいきゅいと巻き付けていく。口で糸を噛んで、そこを支点に右手を使って施術する人も多いらしいけれど、このおねぇさんは左手と右手を使って両手をハサミのように動かすやり方をとっているようだ。はい、目をつぶってね……とジェスチャーで指示され、目を閉じた私の耳に「ピピピピピッ」と、イヤ〜な音が響いてきた。同時に頬の横を激しく細かく引っ張られる痛み。……い、痛い……。うわぁ!痛いよ!めちゃめちゃ痛いよ!!

私の前にやってもらっていたおばちゃんが平然とした顔をしていたこともあり、油断していた。でも、「産毛抜き」は「産毛抜き」。抜くのである。糸で毛を挟んで、引っこ抜くのである。よく考えたら痛くないわけがない。うわぁ〜ん、痛い痛い痛い、と口には出さずに頭の中で叫ぶ。その間も、私の顔面はピリピリとイヤな痛みが細かく走っていく。女性なら、眉を整えようと毛抜きで引っこ抜く経験があったりすると思う。眉間とか眉の上側はともかく、眉の外側の下部、瞼のちょっと上あたりを抜こうとすると、涙と鼻水が同時に出てくるほど痛かったりする。その手の痛みが顔中を走る……と思っていただければ良いかもしれない。顔に細い細いガムテープをみっちり張りつけ(しかも粘着力がかなり強めのやつ)、それを一本一本素早く剥がしていく……という表現でも良いかもしれない。
「……聞いてないよぉ〜……」
私は涙目になっていた。冷房ですっかり引いていた汗なのに、それとは別のイヤ〜な汗が背中と手のひらを濡らしていく。

それでも、ただ目をつぶって耐えるだけではないのである。おねぇちゃんは次々とジェスチャーで、抜きやすいような体勢を自分で作るようにと指示してくる。鼻を右手で押さえて横に倒せ、今度は左手で逆に倒せ、頬を下に引っ張れ、舌を上唇の下に入れて鼻の下の皮膚を持ち上げろ……などなど。おねぇさんと私、二人でゴリラみたいな表情を「こう?」という風に作っていく。前髪は持ち上げられ、しかも顔は真っ白。しかも顔はゴリラ。しかも痛い。わ、私、お金払って自ら変な顔をして、なに痛い思いしているんだろ……と笑いたくなってきた。その間も、鼻の下を鋭い痛みが走っていく。……いったーい……。

最後には眉毛の周囲も美しく整えられ(別に眉に変なカーブをつけられたりとかはしなかった。自然な感じで悪くない)、髪の毛の生え際まで軽く何本か毛を引っこ抜いて整えられ、いいかげん呆然とした気分になっていたところにアロエのジェルをぴたぴたと塗られた。はい、これでおしまい。

確かにすっべすべになった。それからしばらく「これが私の肌?」ってくらいに頬も額も顎もつるつるしちゃって、いーい感じだった。でも、終了後は数十分顔に赤みが走っていたし、比較的太めの毛が生えていたと思われる耳の下あたりは数時間毛穴がぷつぷつ盛り上がっていたりした(すぐに治ったけど)。これ、肌の弱い人だとけっこうマズイことになるんじゃなかろうか……と思ってしまう。最後はスッピンで帰還。エステティックみたいな至れり尽くせりなサービスはなんにもない。持ち上がった前髪も自分で整える。でも700円。
ファンデーションなどの刺激物はしばらく使わない方が良さそうね(でも化粧水と乳液はたっぷりつけとこう……)。

なかなか刺激的な体験になってしまったけれど、後悔はしない。これ、2度3度と続けていくとさほど痛くはなくなっていくのだそうだ。中国2000年の歴史を持つ伝統エステ「挽面」。痛い痛いと思いつつ、次回もやってしまいそうだ。

淡水 マッサージ屋さんにて
足裏マッサージ(20分)
挽面修眉
300元
200元

煙もくもく中華ヨーグルト〜「京兆尹」

だんなは足を揉まれてぐにゃぐにゃ、私は顔をぞりぞりやられてやっぱり別な意味でぐにゃぐにゃ。息子も疲れた様子で、一度ホテルによれよれと戻ってきた。もう3時を回っている。
このままホテルに夕食時まで籠もってるのももったいないね、お茶飲みがてらちょっと出かける?と地下鉄に乗り「忠孝敦化」駅へ。300mほど南下すると、宮廷精進料理専門店の「京兆尹」。ここのヨーグルトがすんごく美味しい!という話を聞いていた。毎日午後4時半までは200元ほどのティーセットもあるらしいよ、とその名物ヨーグルトを目当てに向かってみた。

お客は全然いない。お客ではなく、何かの打ち合わせに来ていたらしい2人組がテーブルについていた他に客の姿はなく、「あれ?営業……してるよね?」と不安な心持ちで席につく。伝統菓子で有名なお店だけれど、ここは喫茶店ではなく料理店。黒と赤が基調の中華キラキラな内装だ。件のアフタヌーンティーセットは「吉祥午茶膳」というもので、お茶1種類(欽賜紫陽茶)と「御前名點」なる菓子類6種から1つ、「冰碗」という汁もの系3種から1つを選ぶようになっている。お菓子は写真入りで紹介されていて英語の説明もついているけれど、見慣れぬものが多い。多くは豆のペーストを使った餅菓子のようなもので、西太后が愛したという「豌豆黄兒」というものとか、「蓮蓉捲[米羔]」とか「山橙[米羔]」とか。
お皿も華やかでいいね〜

私は「驢打滾兒」というお菓子に噂の中華ヨーグルト「果仁[女乃]烙」という組み合わせにしてもらい、だんなは「桂花涼[米羔]」というお菓子に同じく中華ヨーグルト。息子は
「マンゴーのね、ジュースが飲みたいなぁ……」
と言っていたのだけど、この店にはお茶の他は酸梅湯などのちょっと独特な飲み物しかないらしい。あとでジュースを飲ませてあげるから、ね、とマンゴーをトッピングしたヨーグルト「芒果鮮[女乃]烙」を取ってやった。

ほどなく、私とだんなの前に蓋碗がやってきた。中には細かい花びらが入った花茶が。花茶よりは烏龍茶とかプーアル茶みたいな「お茶」の味が楽しめるものが好きなんだけどなぁ……と思いつつ啜ってみると、これも案外悪くない。ふわふわと軽い香りが漂って、疲れた身体が少しずつ軽くなっていく感じ。
プラカップというのがちょっと……だけど演出はすてき?

並べられた2種類のお菓子は、よく似た外見の黄色いお菓子と白いお菓子。黄色い方が「驢打滾兒」。小豆とナツメで作った餡を餅米で覆ってきな粉と金木犀のソースをかけたもの、だそうだ。ロバが黄砂の上で寝ころぶ姿に似ているということでこの名がついたのであるらしい。白い方が「桂花涼[米羔]」。どちらも甘さはそれほど強くなく、豆や粉の優しい味がする。特に「桂花涼[米羔]」は甘さの中にも塩味が感じられ、甘じょっぱい不思議な味。

そしてそして、中華ヨーグルト「果仁[女乃]烙」。牛乳に米麹と砂糖を加えて発酵させ、炭火にかけ冷やしたもの、なのだとか。ヨーグルトというよりはミルクプリンに近い。酸味はほとんど感じられなく、ツルンプリンと心地よい食感。表面に薄切りアーモンドが散らされ、中にもそのアーモンドがちらちらと入っている。頼りない食感と優しい味の、期待以上に美味しいものだった。牛乳の風味だけではない独特の芳香(これが米麹の香りかな?)がある。息子の前にやってきたデザートは、このヨーグルトの上にマンゴーの果肉をたっぷりと乗せたものだ。私たちの前にやってきたものも、息子の前にやってきたものも、なんだか外見がすごい。

私たちの器は、陶器製の美しい花模様入りの器にヨーグルトの入ったカップが収められている。陶器の中にドライアイスが仕込まれているようで、隙間からふわふわと白煙が盛り上がっては滑り落ちていく。息子の器はもっと派手で、足つきグラスの中にヨーグルトのカップが収められ、更に大量のドライアイスの煙がもわもわもくもくしゅうしゅうと演歌歌手出場シーンか何かのように大変なことになっている。息子はもう大喜びだ。だが、その割にショボさも漂う。

私たちの陶器の器に収められた「本体」は、プラスチックカップに入れられパックされた、その形状は「コンビニで買うヨーグルト」とさほど違わないもの。これがガラスの器に固められたりしていたら、まぁなんて上品な、と思うかもしれないけど、「外見は……コンビニプリンと変わらないの?」という思いが沸いてきてしまう。マンゴーヨーグルトも同様で、煙もうもうのグラスの中、二重にされて収められた器は軽くチープなプラスチックカップ。だったら煙もくもくはいらないからちゃんとガラスの器にヨーグルトとマンゴーを盛ってくれよ、と思わなくもない。

ともあれ、ヨーグルトは確かにすごく美味しかった。自然な甘さに品の良い風味、かなり好みな味だった。デパ地下などで売られていたら大量購入して持って帰りたいところだったのだけど、残念ながら私が歩いた範囲では見つけることができず……。

東區 「京兆尹」にて
吉祥午茶膳
芒果鮮[女乃]烙
2×198元
100元

食後、すぐ隣のブロックにある店に買い物に行きたいんだけどー、と少し寄り道。お店の名は「波克」。中国結の専門店だ。ビーズ類の品揃えも豊富、アクセサリーも扱っている。

中国結の世界を知ったのは、ほんの1ヶ月ほど前。
中国茶の急須(茶壺)を眺めていると、ときおり蓋と急須の間に赤い編み紐がついていることがある。お店によっては茶壺を購入したときに編んでくれたりするらしい。その編み紐を「紅線」と言うのだけど、その編み方は数多存在する中国結の中の初歩中の初歩の技術が使われている。紅線は蓋と急須が離れないように、という存在意義の他に、「お茶を注ぐときに紅線を押さえると、蓋に直接触れるより熱くない」という大事な役割もある。私は猫舌であるうえに"猫手"も患っていて(患うものじゃないかそれは)、熱いものを持つのがめちゃめちゃ苦手だ。友人の家で紅線つきの茶器をさわらせてもらってから、便利だなーつけたいなー、この編み紐って売られてるのかなー、と色々調べていたのだった。調べてみると、なんてことない、けっこう簡単に自分で編めるものなのである。

で、「自分で紅線を編んじゃうもんね作戦」がここ数週間決行されていた。最近は中国結全体がブームとなりつつあるようで、材料も指南本も日本で買うことができる(数年前まではブームも訪れておらず、材料購入は難しかったらしい)。中国茶器に編み編みするだけでなく、ストラップを作ったりアクセサリーを作ったりとその世界は深く色々楽しめそうだ。それでも日本で購入すると値段は高め。材料を買うなら本場台湾でそろえた方が圧倒的にお安く済みそうだった。

狭めのコンビニくらいの広さしかないお店「波克」。でも、中にはみっちみちに魅惑の世界が詰まっていた。中国結で使う紐が、これでもかこれでもかと何十色も太さを変えてそろえられている。ものによっては好きな長さで売ってくれるし、一巻きいくら、というものも多い。日本ではほんの2〜3m買うだけで200円くらいしてしまう紐が、同じものが20mくらい巻かれた一巻きで230円くらい。1本の紐を編んだだけでアクセサリーになってしまいそうな太く金糸の入った紐もあれば、極細のものもある。調子に乗って、
「赤はちょっと太いのと細いのの2色買ってー、青いのも買ってー、この薄い黄色も1つ買ってー」
と、「お前は紅線屋でも開くつもりか」という勢いでざくざく購入。何しろ安い。中国ビーズも安くて手頃、「ユザワヤ」などでは見たこともないようなものがたっぷりと置かれている。1粒20円などという値段のそれもわしっと購入。結局、糸を12種類にビーズ30個をお買いあげ……(どーするの、こんなに……)。

東區 「波克」にてお買い物
糸12巻
中国ビーズ30個
 
計1242元

小龍湯包がうみゃー〜「京鼎樓」

ホテルに帰って一休み。今日1日でこれでもかと汗をかいてしまったので、一度皆でひとっ風呂。昨日も相当歩いたけど、今日も相当歩いている。足揉まれたり顔の毛抜かれたり、妙なダメージも溜まっている。2時間ほど部屋でごろごろと休憩した。昔は色々なホテルに滞在することが嬉しくてちょこちょこホテルを変えた旅もしていたけれど、1ホテルに滞在し続けるのがやっぱりらくちん。真っ昼間に疲れて帰ってきてもごろごろすることができる。しかもこのホテル、現在お客が少なめなのかえらく早い時間に部屋掃除が終わっている。ちょろっと朝食食べに出ている程度で部屋はすっかり綺麗になっているのだった。ありがたいありがたい。

なんだか毎日小龍包喰ってる気がするのだけど、飽かずに本日の夕飯にと向かったのは「京鼎樓」。これまた店名から伺い知ることができるように「鼎泰豐」で修行した人が独立して作ったお店なのらしい。台湾にはどうもこの手の「鼎泰豐ゆかりの人」のお店が多く、それだけ「鼎泰豐」は名店なのかしらん、などと思う。
「つまりさぬきうどんで言うところの"宮武ファミリー"と同じだな」
「……全然わからんがなー」

で、「京鼎樓」。半端な場所だったのでホテル近くでタクシー拾って連れてってもらった。
ちょうど夕飯時の時間帯だったこともあり、一見狭そうな店内はお客でいっぱいだった。が、地階もあるらしい。こっちこっち、と案内されて階段を下りると、ばばーんと広いフロアの奥に団体さんが2組、大宴会中だった。日本人のサラリーマンたちだ。
「ってことは、この部屋、今入ってるのは日本人だけ?」
「ここは日本人隔離部屋?」
そうではないと思うけれど(思いたいけれど)、日本語ばかりが飛び交う小龍包屋の一角というのもちょっと不気味。
こっちが小龍包

注文は「小龍包」1蒸籠に「小龍湯包」1蒸籠。昨日の昼に「上鼎豐」で飲んで気に入った鶏スープ「元[中皿]土鶏湯」も1つ。それと、ビール。
このお店の名物は、本家「鼎泰豐」では週末の午前中わずかな時間しか注文できないという「小龍湯包」。この店では一日中食べられる。小龍包の小さなサイズのものを、別添のスープにつけつつ食べるものなのだとか。小龍包は小龍包として1つの食べ物として仕上がっているものを、なにもスープにつけて食べんでもいいじゃないか……なんて食べる前は思っていた。いやぁ、もう、旨いのなんのって(でもやっぱり普通の小龍包の方が好きではある)。

蒸されているコーナーから地階の一角までは距離が少々あるからなのか、猫舌さんには適度な温度(要するにちょっとぬるめ)の小龍包がやってきた。本当にアツアツのやつは皮を囓ってスープに唇がついただけで「あちぃー!」となってしまうのだけど、この店で食べたそれは、そこまでの熱さではなく、すぐに一口ではふはふと食べられる程度の温度になる。私としてはそれはそれである意味ありがたいのだけど、小龍包の醍醐味がちょっと減っちゃってるのでは、という気も。
こっちが小龍湯包

小龍包は、「鼎泰豐」のそれよりも若干大きめな感があった。あの店ほどのスープのたぷたぷ感はないものの、でも充分に満足できる量のスープが詰まっている。淡泊な印象が強かった「鼎泰豐」より、やや濃厚な気もする。皮の厚さや肉やスープの味のバランスなどがすごく良く、私は「本家と甲乙つけがたいなぁ……ちょっとだけこっちが好み、かもしれない」と思っている横で、だんなは「小龍湯包」をはふはふやりながら
「僕はこっちが好き。なにしろこれがあるし。小龍包も旨いし」
と断言している。

普通の小龍包は上側に具を皮で包んでキュッとひねった絞り口がついている。「小龍湯包」のそれは、一般の小龍包の形状と上下が逆転していた。下側の方に絞り口がついていて、ゆえに上から見るとぽこぽこもこもことした面白い形状。大きさも全く別で、小龍包が10個入っている蒸籠に小龍湯包は20個盛られてやってくる。スープもちゃんと詰まっている。
このちっこい小龍包を、スープに浸して食べるのだ。スープは小龍包の中に入っているスープよりも薄味。さらりと透明の軽い味わいのスープの中に、細切りにした薄焼き卵がひらひらと沈んでいる。小龍湯包をぽとりとそのスープに沈めながら、スープと共につるりと食べる。「小龍包をスープと一緒に口に入れるだけでしょー?」という印象が最初はあったのだけど、小龍包とは全然違った美味しさが。スープと共に口にした小龍包のその中から別のスープが出てきて混ざり合う食感や風味、口の中が液体と挽き肉と皮でうじゅうじゅになっていく味の変化がすごく楽しいし、美味しい。
「……う……うみゃい」
「うん、旨い」
「旨いよね……高いけど」
「止まらないようになるね」
2つの蒸籠はあっという間に空になった。旨い。

で、半ば忘れ去られてた鶏スープ、「元[中皿]土鶏湯」も上品な味に仕上がっていてなかなかのもの。多分こちらの方が「料理の出来具合」としては上なのだと思うのだけど、私とだんなは野性味溢れる味がする昨日の「上鼎豐」のそれの方が美味しく思えた。鶏肉ごろごろ、生姜と葱が入ったシンプルな味のスープ。自分の家でもこれは作れるような気がしないでもない。

3日小龍包を食べ続けだけど、でもやっぱり食べ飽きぬ……。

東北エリア 「京鼎樓」にて
小龍湯包
小龍包
元[中皿]土鶏湯
ビール
240元
130元
150元

麺もいいけど、魯肉飯が……〜「台南大胖担仔麺」

夕食に、我が家の家族3人で小龍包2蒸籠というのは、いかにも少ない。全然少ない。余裕で少ない。私たちは、ハシゴする気満々だった。というか、最初からハシゴ予定なのである。
「更なる店はー!」
「担仔麺!」
「やっぱり台湾来たなら担仔麺は食べなきゃね」
「どうせだったら美味しいとこのを食べたいよね」
と、「京鼎樓」から2ブロックほど南下したところにある「台南大胖担仔麺」という店に行ってみる。どこかでこの店の担仔麺の写真を見たのだけど、「そうそうこういうのが食べたいのよー」てな具合にすごく美味しそうに見えたのだ。

担仔麺作ってます、作ってます

裏通りに面した小さな店。20人も入ればみっちみちという空間、入って右手には屋台のような調理台がある。
簡素な椅子について、担仔麺2つね、卵入れてね、あと魯肉飯も1つね、と注文。担仔麺や魯肉飯を傍らに、おかずを取って夕飯としている人が多い。担仔麺だけ、という注文は、なんとなく恥ずかしい(でもそのくらいしか食べられない……)。
この炒め肉と香菜の取り合わせが……♪

小さな碗にうっすら茶色の澄んだスープ。黄色く縮れのない麺の上には甘辛味のひき肉炒め。茶色く染まった卵の脇にはトッピングの香菜。じんわり辛く、こってりした肉の味は、でも後味軽くいくらでもツルツルと食べられそう。日本の台湾料理店でしか食べたことがなかった担仔麺だけど、そうそうこんな感じ、でもすっごく美味しいねぇ〜、とつるつるずるずる。この小碗に入っているところが、またなんとも。 これが今回の旅の中で一番美味しかった魯肉飯!

そしてそして、担仔麺以上に私たちの心を鷲掴みにしたのが魯肉飯。夜市の中にあった店で食べたものよりも、人気のある老舗魯肉飯屋で食べたものよりも、明らかにこの店の魯肉飯は違っていた。その違いが、私たちには、すんごくすんごく美味しかった。

使われているのは豚バラ肉。脂が溶け切りそうなほどにぐじゅぐじゅに柔らかくほろほろに煮込まれ、甘辛いそれが汁ごと御飯にぶっかけられている。他の店では見かけない、怪しく脂がキラキラ光る魯肉飯だ。これがもう、
「そうそうそうそう、この豚の脂が!」
「こういうのが食べたかったのよね」
と拳握りしめて天高く突き上げたくなるような、私たち的には急所どんぴしゃりのツボの味。知っている調味料で作られた知っている味のもの、という感じなのだけど、肉のほろんとろん感や汁のしみこんだ御飯の味がたまらない。
「ううう、もう一杯もらおうかしら」
「でもけっこうお腹いっぱいなのよね」
「この茶碗一杯の美味を噛みしめよう……」
と、奪い合うように1杯の飯をかっこんだ。

東北エリア 「台南大胖担仔麺」にて
担仔麺
滷蛋
魯肉飯
2×40元
2×10元
30元

このあと、「あと1ブロックくらい歩いたら地下鉄駅だよー」と、途中にみつけた本屋など寄りつつ駅に向かい、今日は割と優等生な時間に帰れたね、とゆっくりお風呂に浸かってからベッドに入った。

今日もずいぶん歩いたし、いろいろ食べた。気がつくと、
「まだ一度も布製のテーブルクロスと布製のナプキンが出てくるような店に行ってないよ……」
ということになってしまっている。高級店の料理も気になるけれど、安くて旨い飯にすっかり魅了されてしまっている私たちは「それどころではない」という心境。あー、これなんかたったの100円だわ、なんて思いながら飲み食いするのがすごく楽しい。
帰国は明後日。実質動けるのは明日1日となってしまった。明日はやっぱり……最後の夜市?