7月13日(木) "薄口醤油と粉の国"で

朝5時起床。
朝6時にやってくる予定のワゴンタクシーに乗り、朝7時半羽田発の飛行機にて一路大阪へ……という予定の本日。

なんとか予定通りに起きて家を出てきたものの、まだ頭の半分が眠ったような状態でタクシーを降り羽田空港をフラフラする。搭乗まであと1時間。お腹が空いた。
6時半に開いているレストランもそうそうある筈はなく、立ち食いのコーヒーショップを除けば2軒ほどしかない。お腹の空き具合と割高な空港価格のそのメニューを眺めて、結局食欲を優先させることに。

"ル・シエール"なる洋食屋さん、中はみっちりおっちゃんやおばちゃんで詰まっている。平均年齢52歳、といった感じの空間に、私たちは間違いなく最年少クラスである。まぁ、サラリーマン夫妻が旅行に出るにはちと早い季節かもしれない。
モーニングセット1170円なりを注文。だんなはサンドイッチセットを、息子にはアップルジュースを。

オレンジジュースにミルクティ、小皿に乗るのはクロワッサンにブリオッシュにルビーオレンジとオレンジの盛り合わせ。大皿にはスクランブルエッグのトマトソースがけ、ハムにウィンナーにポテトサラダにコーンとグリーンピースの炒めが乗っている。それなりに盛り沢山で、しかもパンはほわほわと温かかったりして想像以上には美味しかった。分けてやったブリオッシュに息子も齧りついている。

羽田空港"ル・シエール"にて朝御飯
モーニングセット \ 1,170

午前9時15分。
予定よりやや遅れて関西空港に到着した私たちは大きな2個のスーツケースを明日宿泊予定のホテル日航関西空港に預け、1泊分の荷物を詰めたドラムバッグ1つで大阪中心部に向かう。

空港降りてすぐのところには"阪神タイガース情報"なるガラス張りボードが。
新庄がバットをふるシーンがでっかくカラー写真で飾られている。キャー。(←実はファンなわたくし)
「阪神タイガースの国にきてしまったのね……」
と私が思う一方、だんなは
「息子よ、ここが薄口醤油と粉の国だよ。」
と教えを説いている。
どちらもそれほど間違っていないと思うけどどうだろう。

さて、南海ラピートα号に乗った私たちは一路難波へ。
商店街にはパチンコ屋食べ物屋ゲームセンター、デパートなどなどがみっしり並ぶ。そろそろ町が動き出す時間帯だ。
この雑多な空間。大阪だー。難波だー。大阪は5年以上ぶりの私。わくわくと早速食べ歩きを始めてしまう。

まずは、だんながお好きだということで"大たこ"のたこ焼き。かに道楽のすぐ脇の、小さな屋台然とした店だ。
客は並ぶほどにはいなかったが、次々と買っては去っていく。
「『恨ミシュラン』でけちょんけちょんに言われているけど、俺は結構好きよ。」
とのだんなのお言葉に相伴して10個入りのやつを家族全員でつつきまわす。薄紙のような鰹節が風でヒラヒラ飛んでいきそうになるのを阻止しながら、気温30度直下でのアツアツのたこ焼き。

ふくふくとした、柔らかなたこ焼きだ。全体的に歯ごたえはなく、けれど大きなコリコリとしたタコがごろりと入っている。ここのところ"たこ焼き"というと表面がカリカリになった油たっぷりの"銀だこ"製しか口にしたことがなかったので、こういう普通のたこ焼きは久しぶりだ。うん、悪くないです美味しいです。
「ものすごく、ここがこのように世界一すばらしいの!」
という程の個性はないけれど、なんとなく安心してしまう味のたこ焼き。

いきなりたこ焼きを食ってしまって、
「ああ、大阪だ、大阪だぞー」
とわけもなく感動してみたりして。

千日前 "大たこ"にて
10個入りたこ焼き \ 500

たこ焼きを食した後は駅方面に戻ってだんなのリゾート用サンダルなどを購入しつつ、昼食メイン会場の自由軒へ向かう。
ここの名物カレー、学生時代(もう8年くらい前のことだ)にSちゃんと神戸旅行に行った帰りに1度だけ食しにきたことがある。カレールーとご飯がぐちゃぐちゃに混ぜられて中央に生卵が1個ポンと割られた名物カレーをもう一度食したかった。

なんとも古びた感じの店内を給仕のおばちゃんらがきびきびと動き回る。息子用には速攻小さな椀とスプーンを持ってきてくれる。
だんなはハイシライスを、私は名物カレーを注文。ついでに猛暑に疲れてビールも1本、やってくる早々に飲み干した。

ハイシライスもまた、具とルーがぐちゃぐちゃに混ぜられて生卵が落とされたスタイルだ。先にやってきただんなの皿から一口貰う。……うーーーーーーん、ケチャップと、何と言うか缶詰のドミグラスソースのような、ちょっと甘味や香りが合成臭いようなソースだ。不味くはないけど、とりたててすごく美味しいものでもない。

ハイシライスにわずかばかり失望しつつ、私は私の皿、名物カレーに臨む(写真がその名物カレー)。
名物カレー、そのまま食べるとすこぶる苦い。市販のカレー粉をたっぷり使ってドライカレーなど作ってしまうとターメリックの苦さで想像以上に苦くなってしまうけれども、それと同じような苦味がある。はっきり言って、そのまま食べる自由軒のカレーはそれほど美味しくない。美味しくなるのはこれから、なのだ。

乗った卵をぐちゃぐちゃと、ただでさえぐちゃぐちゃになっているカレールーとご飯が渾然一体となっているところへかき混ぜる。黄身も白身もほどよく混ざったところで、ぱくり。苦味が卵で緩和されてマイルドになり、卵1個でかなり奥行きのある味になる。そうそう、これだこれだよ私が8年前に食べたカレーは。

そして、今回の私は有力情報をつかんでいた。
「自由軒の混ぜカレーをおいしく食べるには、絶対にウスターソースをかけなければならない」
……らしい。
試しにやってみることにする。
横のソース容器から、ちろりとソースを垂らして上部のカレーのみちゃっちゃと混ぜて食ってみる。
う、うーまーひー。

卵でマイルドになったカレーにソースの甘辛さが入ると、なんとも奥行きのある味になる。ああ、この情報を見つけてよかった。だんなも、一口目の苦いカレーを食べたときは怪訝そうな顔をしていたくせに、ソースを入れた途端
「旨いよこれは!」
と妙に感動しつつ私の皿からカレーをすくっている。
調子に乗って、先ほどの量の3倍ほどのソースを威勢良くかけて全体をかき混ぜる私。

相当に辛いカレーだ。一口目はそれほど辛く感じないのに、じわじわと口中が熱くなってくる。コップに冷水を満たして飲みつつ、20分ほどの食事終了。

難波 "自由軒本店"にて
名物カレー \ 600
ハイシライス \ 600
ビール(小瓶)

たこ焼き食って、カレー食って、なおかつ
「551のぶたまん食べようか〜」
とか言っている私たちなのである。
ほんの数十メートルしか離れていない、自由軒と蓬莱のロケーションが悪いと言えよう。

「2個入りください♪」
とだんな、ふかしたてのそれを280円にて購入。店頭で箱を空けてわしわしとその場で食べちゃう。横では近所のOLさんらしい、制服姿の2人組みの女性がやっぱりわしわしとぶたまんを食べている。そういう客用にか、店頭の脇には小さなテーブルセットとベンチが置かれている。

ううう、やっぱり美味しい。どんな高級な中華料理店で食べる肉まんよりも、ここのぶたまんがやっぱり美味しい。うっすらと味のある皮の甘味や、なんだかラードがたっぷり入っていそうな白っぽい肉あん。ねぎたっぷりの匂い。チェーン店であっても、駅の売店で買えちゃったりしても、やっぱりここのぶたまんは日本一美味しい。

「東京でな」
横のおねえちゃんたちが話している。
「"ぶたまんください"いうても通じへんねん。」
「そうそう。ぶたまんは、"肉まん"いわなあかんねんな。」
「納得いかんわー、あれ。」
うんうんわかるぞそれ、と隣の大阪在住歴2年半の経歴を過去に持つだんなはそれを聞いて頷いていた。

そう、大阪では「肉」と言えば牛肉なのだそうだ。豚肉は「ぶた」と言う。だから「肉まん」は「肉まん」ではなく「ぶたまん」なのだ、と。
対して東京での「肉」はもうそのまま総称である。牛肉ならば「牛」とつける。この文化の違いは何なのだろう。

難波 "551蓬莱"にて
ぶたまん \ 280 /2個

いきなり旅行初日から食いすぎているような我々である。しかもまだ昼過ぎなのである。
スーツケースは関西空港に預けてきたとは言え、1泊分の荷物(プラス、ノートパソコンやディナー用の靴等々)の入ったドラムバックを持っているだんなは重くてつらそうだし、息子も午睡の時間帯でこちらも不機嫌だ。
早々に本日の宿泊先、大阪帝国ホテルへチェックイン。時間はまだ午後1時すぎ。本当ならまだチェックインはできない時間帯だったけれど、快く部屋に案内してくれた。12階の、真下の川が良く見える部屋だ。

淡い緑と白のストライプの壁紙、それに朱色を加えたような感じのストライプのカーテン、ベッドカバーはカーテンの色味を薄くしたような感じのやっぱりストライプ。全体的にストライプストライプした部屋なのであった。舌噛みそうだ。
なんだか……日比谷の帝国ホテルとはかなり違うような。
土地柄を意識したものなのかどうなのか、部屋の内装に限らず、えらく東京と違う雰囲気の大阪帝国ホテルなのである。ベルボーイもなんだかいにしえのディスコの店員を模したような、モダンなチャイナ風を意識して結局失敗したような怪しげな衣装だし、ロビーやエレベーターなどのしつらいも何だか金ピカしていて落ち着かない。全体的になんとなくちぐはぐな印象を受けるホテルだ。スタッフの応対も何というか、一言で言って"慇懃無礼"。フレンドリーなのか丁寧なのかどっちともつかずな印象だ。

それはそれとして、初めての大阪ホテルを満喫しなければ!と到着早々シャワーを浴びる。
バスタブとシャワーブース全体がガラスで仕切られた、和風に使えるバスルームだ。子供連れにこの設備はとてもありがたい。親子でぬるめのシャワーを浴びて、だんなもシャワーを浴びて、そして冷房の効いた部屋でベッドに横たわった途端、だんなも息子も眠ってしまった。……お疲れだったのね。
とても今日これから観光に行こう、という感じでもなくなってしまった。

1時間ほどで目を覚ましただんなに、息子を見てくれているように頼んで私は一人周辺の探索にでかける。ホテルのショップをひやかして、隣接するビジネスビル地下のコンビニなども寄り、部屋で飲む用の各種ペットボトルを購入。お茶に牛乳、コーヒーなどを部屋に持ち込み冷蔵庫に入れる。入りきらない分は、元から入っていたホテルの飲み物を外に出してまで買ってきたものを入れてしまう。すまん帝国ホテル。でもホテルの飲み物は高くて買う気にならないのよ。"通称ぼったくり箱"とけらえいこの漫画に出ていたっけ。そうそうその通り!という感じ。

そうこうしているうちに夕方になってしまった。
本日のディナーは、先月より予約していた帝国ホテルの中華料理店、ジャスミンガーデン。
なんでも7/11〜20の10日間、香港のリージェントホテルのダイニング、麗晶軒(ライチンヒン)の料理長や支配人がやってきて、本場の料理を供してくれるらしいのだ。当然本場のマンゴープリンも期待できるということで、手ぐすねひいて待っていた今日のディナー。

予約は6時。先日買ったばかりの赤いワンピースを着て、黒いジャケットを羽織ってディナーに臨む。いつぞや買った、KENZOのじゃらじゃらした花のネックレスとイヤリングもつけて。23階のレストランでは、眺めの良い席を用意していてくれた。
食前酒にミモザをいただきつつ、メニューの検討。悩む悩む。
アラカルトメニューも充実していたが、ディナーコースの内容もなかなかすごい。

\15,000のコース、
 活才巻海老のボイル 特製ソース (白灼生蝦)
 鶏肉の辛し胡麻ソース (四川棒棒鶏)
 衣笠茸とふかひれの姿入り 特上蒸しスープ (竹笙燉鮑翅)
 伊勢海老のXO醤炒め (XO醤炒龍蝦球)
 あわびと楡茸のオイスターソース煮込み ([虫毛]皇鮑片[手八]楡茸)
 貝柱とアスパラガスの煮込み 蟹の卵ソース (蟹皇[手八]帯子露笋)
 干し貝柱と中国藻の煮込み (發財蒜子瑤柱脯)
 シーフード入りチャーハン (海鮮皇炒飯)
 マンゴ入りプリン (凍香芒布甸) 又は 白木耳入りお汁粉 (雪耳燉紅蓮)

に限りなく心惹かれつつ、されどもアラカルトに載る
 リージェント名物ローストチキン (當紅炸子鶏)
が食べたくて食べたくて仕方ない。
ローストチキンは大好物だ。しかも「名物」ときた。チキンに限らずローストされた肉は大概好物だったりするのだけれども。

ウェイター氏と相談した結果、コースの2品目の鶏肉とローストチキンを取り替えてもらえることに。
そして息子用に
 干し貝柱入り煮込みそば (瑤柱干焼伊麺)
をハーフポーションで頂けるかどうかお願いしてみる。快くOKをいただいた。
さぁ〜、宴の始まりだ。

早々に息子用の麺料理。イーフー麺、というやつらしい。きしめんのように平べったい麺が茶色く煮こまれており、しかしスープは入っていない。椎茸が麺にたっぷり絡んでいるのが見てとれる。
これが旨みたっぷりでやたらと旨かった。息子用とは言いながら横から奪って食べている両親である。くたっとした麺には味がしっかり染みていて、干し貝柱だろうか、複雑な旨みが絡んでいる。
あ、あまり食べたら君の分が無くなってしまうのだった。すまんすまん息子よ。

そして私たちのディナー。
まずは殻付きの大きな海老が3匹、白皿に盛られてやってきた。生姜入りの醤油だれが別添で添えられる。
箸で殻を取るのもめんどうと、いきなり両手で海老剥いてかぶりつく私たち。プリプリのムチムチの海老が美味いのなんの。海老そのものには技巧は凝らされていないシンプルな料理だ。茹でただけの海老。だけど湯気のたつ海老は旨くてビールがとても恋しくなる。

続き、まもなく来たのは蓋付きの陶器の容器。中には茶色く透明なスープが満たされている。
ぷかぷかと浮いているのはちくわのように中央に空洞のある網目の衣笠茸。底にはヒレのままの形のフカヒレが沈んでいる。透明で旨みの詰まったスープをすすり、ややシャクシャクした歯ざわりの衣笠茸に臨む。フカヒレは根元のゼラチン部分に齧りつき口の中をフカヒレで一杯にして満喫した後で、スープの中にもほぐしてフカヒレだらけのスープにして食す。
この透明なスープは、銀座の福臨門にて義父の還暦祝いの席でフカヒレの姿煮を食べて以来のものだ。あの時ほどのインパクトは残念ながら無かったけれど、洗練された良い香りのスープだった。フカヒレたっぷりのスープを飲むと、フカヒレが歯に絡まってくる。ああ、歯に絡まるほどのフカヒレ!くねくねしてしまう。

食前酒がそろそろ無くなる。
だが、今日は料理を満喫すべくこれ以上の酒は諦めて温かいお茶をいただいた。温かいお茶を、と言うと大きなポットにジャスミンティが満たされてやってきた。あぅ、本当はウーロンかプーアルが嬉しかったんだけれども仕方がない。何故日本の中華料理店で"お茶"というとジャスミンティなのだろう。料理にはいまいち合うとは思えないんだけれども。
クピクピと茶碗を傾けつつ、料理は滞り無く進んでいく。

次は伊勢海老の炒め。
小さな一口大の海老がえんどうと共に黒々としたXO醤で炒められている。ピリリと辛いXO醤の匂いと味がご飯を恋しくさせてくれる。海老、プリプリでやっぱり美味。シャクシャクとした、生でないけれども火の通りすぎていないえんどうがこれまた良い感じだ。濃いけれども喉の乾かない程度の塩加減が心地よい。

皿は良いタイミングで次々とやってくる。続いてあわびの煮込み、だんなの大好物。
赤ちゃんの耳たぶのようにふくよかなあわびが、茶褐色のトロリとした透明のあんに包まれている。やはりこちらもシャキシャキとした歯ごたえのの青梗菜が添えられる。
噛むとじわんとあわびの味とスープの旨みが口の中に広がってくる。旨みのある皿ばかりが続いて、胃の中が良い香りでいっぱいになってくる。しあわせ……。

息子がちょっとぐずりだしたのを気にしつつ、次の品は美しいオレンジ色の一皿。
蟹の卵はウニにも似ていて、そのオレンジ色の粒々が蟹の身と一緒に透明なあんになり帆立とアスパラの上にかかっている。ホロリと崩れる貝柱に青々とした一口大アスパラガスの食感が楽しい。蟹の香りで口の中がいっぱいになるあんも、また上品な後味で箸でかき集めて必死に食べてしまうのであった。量はきちんと2人前量で程良くやってきて、これもまた嬉しい。

続いて、今日のメインディッシュ、ローストチキン!
皮目はどこまでもパリパリと香ばしく、中の肉はふくふくで温かな鶏半羽がやってきた。添え物にはレモン汁と塩。
骨のある肉は食べにくくはあるけれど、そこのところがまた美味しい。いとわず両手で持ってかぶりつく。染み出る肉汁、パリッパリの皮。うーまーひー!
さすが「名物」と言わしめるだけのことはある美味しさがここにあった。

んが、ここで息子の不機嫌は最高潮に。
「僕はもうお腹がいっぱいだからお部屋に帰るの!」
と言いたげに子供椅子から降りて出口の方に歩いていこうとする息子をなだめすかすために一旦中座。だんな一人席に残っててもらう。
んーもー、この美味しさ最高潮の時にこの息子はぁ〜、と私はちょっとイライラ。
数分部屋に戻り、なだめすかして再び席へ。ローストチキンの残るテーブルに戻ってくるとそれでも思わずニヘラニヘラしてしまう。

以前、同じような品を香港の福臨門で頼み、まだ食べられそうな足が残っているのに皿を下げられてしまった屈辱の記憶を持つ私。
「足は私のだかんね!私の私の私の!」
と宣言し、足の部分をいただいた。太い足の骨にまとわりつくパリパリの皮、薄い肉。旨みぎっしり。ふはははは、足だ!足を食ったぞ、見たか福臨門!(←……おいおい)

もうすぐ料理も終わる。ここで本日最高のニンニクを食することのできた一品が登場。
潮の旨みの詰まった干し貝柱の茶褐色の煮込み料理。貝柱と一緒にホロホロに崩れそうな大きなニンニクが入っている。これがんもう、口の中に入れたとたんに揮発してしまいそうな危うい柔らかさのものなのである。正直言って、干し貝柱よりも美味しい!とか思ってしまう不謹慎な私たち。ホロホロのにんにくは1人あたり2〜3粒。大事に大事にニンニクを食べる。
この煮込み料理には"中国藻"なる聞きなれない名前のもやもやした黒い物体も添えられていた。生海苔のようなミクロサイズのひじきのような、ちょっと風変わりな歯ざわりのあるものだ。磯の香りがぷんと漂う。
「この中国藻は香港から持ってきたものなんですよ。」
と給仕の方がおっしゃっていた。

最後に御飯。海老やホタテの入った海鮮炒飯だ。
若干紹興酒の匂いの強いパラパラの炒飯、葱もたっぷり入っている。この炒飯もそうだけど、全体的に上品かつ洗練された味の傾向だ。強いアクや匂いのような強烈に訴えてくる個性はないが、身体にすんなり染み込んでいく柔らかさがどの料理にも漂っている。パラパラ炒飯もぺろりと数分で平らげる。

そして真打、マンゴープリン♪
コースについてくる2つのマンゴープリンのほか、息子用に
 アーモンドクリーム温製 (生麿杏仁茶)
をいただいた。こちらは白くてちょっとだけ濃度のある温かなスープだ。スープというよりお汁粉、という感じ。杏仁の香り濃厚で、甘味はほんの少しうっすらとしたもの。杏仁好きな私には嬉しくて、息子用といいつつもほとんど私が飲んでしまったり。

そしてマンゴープリンは足付きの背の高いグラスに入ってきた。量は……あんまり多くない。他のテーブルにもっと大きなものが行ったのを見たところによると、コースの中のマンゴープリンはちょっと小ぶりなものだったようだ。苺とミントの葉と共にマンゴーの果肉も盛られている。熟したアップルマンゴーだ。

中にもまんべんなく、ざっくざっくとマンゴーの果肉が入っている。プリン生地からも濃厚なマンゴー臭が漂ってくる。……けれども、ちょっと固めだ。口の中ですっと溶ける、という絶妙の固まり具合にはやや遠く、若干ポクポクとした歯ざわりがある。果肉はとても熟していて良いものなのに、それをどうやらレモン汁で一回和えているようで、その酸味がちょっと邪魔に思えたりも。
……と厳しいことを考えたりしてしまうマンゴプリンマニアな自分だけれども、それでもとてもハイレベルなマンゴープリンではある。大体、こんなにたくさんアップルマンゴーの果肉を使ってプリン作れるお店はそうそうない。願わくば、この5倍量くらい食べてしまいたいところだ。

うぃー、食った食った。時間も入店から2時間強が過ぎている。
最後にお店のメニュー(お店で出しているそのもののやつ)を貰ってしまい、麗晶軒の支配人、パトリックさんとも名刺交換をしてしまった。帰り際、だんなが英語で
「マンゴープリンはとっても美味しかったけど、本店のはもっと美味しいんでしょうね。」
と伝えたらば、満面の笑みで
「そのとおりです!どうぞ香港の本店にいらしてくださいね。」
と英語で返してくれた(耳ではわかっても話すことの苦手な私はただニコニコ……)。

あうううう、行きたいなぁ香港。食べたいなぁ麗晶軒。今度の冬のボーナスで……(←多分ムリ)。

帝国ホテル "ジャスミンガーデン"にて
ザ・リージェント香港 楊啓文料理長の
おすすめディナーコース
\ 15,000

部屋に帰り、私はこの旅行記書き。
だんなは「どっちの料理ショー」を見て、「うおぉぉぉ、美味そう〜」とか叫んでいる。あれだけ食べて、まだ食べ物のことを考える余裕があるなんて、我が夫ながらあっぱれだ。

のんびりとお風呂につかり、夜10時過ぎ就寝。
旅行初日から食べまくりな1日なのであった。ま、いいか。"食い倒れの街"大阪なのだから。