12月5日(火) 屋台の流れを汲むラーメン

福岡市美術館へ行こう

福岡2日目の朝。
だんなは今日一日お仕事。だんなの出勤時間に合わせて早起きし、家族皆でホテル内カフェテラスにて朝食にすることにした。可もなく不可もない品揃えのブッフェ料理が並んでいる。物足りないというほど物足りなくはなく、かと言って豪勢とは言えない料理の種類である。薄切りレーズンパンを1枚と砂糖をまぶしたデニッシュを1個、それに大皿にサラダやじゃがいもなどを盛り合わせて席につく。ジュースと牛乳もぬかりなくテーブルへ。プルーンや干しいちじくと一緒にたっぷりのフルーツも食べてからだんなを見送った。

さて、私と息子は2人、福岡探索へ乗り出そう。バスマップを持ち、ついでに恥ずかしながら『るるぶ福岡'01』も鞄に入れた。今日は福岡市美術館へサルバドール・ダリの絵を見に行くのだ。

博多駅前からバスに乗り、「天神」を過ぎて「舞鶴公園」方面に行く。緑の多いこのエリア、平和台競技場や市営球技場なんてのもあるらしい。乗るバスをちょっと間違えてしまったらしく道を1本横に逸れた「護国神社前」なんてところでバスを降りた私たちは神社の境内をざくざく歩いて横断し、前方1ブロック先の美術館を目指す。午前も早く、綺麗に掃き清められた護国神社には人の姿はない。鳥居から本堂に向かう砂利道には綺麗に筋がつけられていて、その上に申し訳ないと思いながら足跡を点々とつけていく。

常設展示観覧券は200円。それを払ってようやく辿りついた美術館の中を散策する。企画展も相当数やっているらしく、常設展示外のエリアもかなり広そうだ。今回の目当ては近代洋画であるので、2階の近代作品コーナーをメインに回る。
展示数は、多いような少ないような。ダリやシャガール、ミロ、デルヴォー、キース・ヘリングなどの有名どころがぽんぽんと1点ずつ、10枚ほどの絵の他はあまり名も知らない国内外の作品が続く。油絵の具を盛り上げて塗りたくったような前衛的な絵画ははっきり言って意味不明。

そんな中、大枚はたいて福岡市が購入したのだというサルバドール・ダリ作の聖母の絵は目玉作品であるらしかった。2階に入って絵画展示コーナーに入った途端、目の前にどーんと飾られているのだ。かなり巨大な絵であるので、それだけで存在感もある。ダリの妻、ガラの顔がそのまま聖母の顔になっているこの絵はダリの絵の中でも有名な方で、これまで何度か開かれたダリ展で見たことがあるものだった。そう、私はダリが大好きなのだ。とろける時計とか足が奇妙に長い麒麟とか、その狂気のモチーフを見るとぞくぞくしちゃう。

階下、1階には対して古美術が並ぶ。東光院のものだという仏像の一群は素晴らしく重厚で良い雰囲気だ。広くはない展示室の中、みっちりと仏像が並ぶ。久しぶりの芸術鑑賞、息子に至ってはこれが初めての美術館観覧だ。平日午前中の美術館はガラガラで、息子の存在もそうは迷惑にならなかったようで一安心。
では、繁華街に戻ることにしよう。

名物、柳川のせいろ蒸し

バスを4駅乗って「天神」まで戻ってきた。ここにはデパートが5〜6軒集中している。その中の一つ、「IWATAYA Z-SIDE」なる若者向けファッションビルの地下食料品売場には沖縄名物タコライスが売られているらしいので、買い求めに行くことにする。タコライス、レトルトだけれど妙に旨いのだ。ご飯の上にレトルトパックのスパイシーひき肉を盛り、レタスとトマトをざくざく切って添え、添付のスパイスをふりかけつつかき混ぜて食べるという、メキシコ料理タコスのご飯版であるタコライス。これを3箱購入し、そろそろ昼御飯も食べなきゃなぁと思いつつ歩く。

デパートならば子連れでも気兼ねなく入れるだろう。福岡っぽいものが食べられるデパート内飲食店はないものかとあちこち覗いてみるけれど、ろくなところがない。アフタヌーンティーやKIHACHIなど、東京にいくらでも生えているようなお店ばかりが目について、入りたいところが見つからない。ああ、福岡名物のご飯はないかしら。明太子を買っても、そのまま囓るわけにはいかないし。ホテルのルームサービスで「白いご飯2つください」なんて注文するのもなぁ。

思案しながら福岡三越を歩いていたところで、旨そうなシュークリームと目が合った。「こじま亭」と言うらしい。有名な店なのかどうかは知らないけど、ショーケースの上には「料理の鉄人」に出場した時の写真がうらうらと飾ってある。ん〜、どうしようかな、感じ悪い。でもシュークリームは美味しそうだな。しかも、良く見ると下には「マンゴーブリュレ」なる商品があるじゃあないか。マンゴープリン道を探求する私としてはこれも買ってみなくちゃいけないでしょう。……と、何故か大きなケーキの箱を抱えることになった私。

そのままぽてぽてと福岡三越地下を歩く。これまた旨そうな鰻のせいろ蒸しを売っている。「柳川」と大きな文字。
「柳川」というエリアは福岡市からかなり南下した、有明海の湾岸近くにあるらしい。北原白秋の出生地だ。ここの名物が鰻のせいろ蒸し。ご飯の上に鰻が乗っているところは一見すると鰻重と同じであるけれども、そのご飯が茶色く染まっている。鰻を煮たタレがまぶされているような、つやつやとした美味しそうなご飯なのであった。ううう、これ、美味しそう。名物発見。これを買って、ホテルで食べちゃうことにしよう。息子用には同じ店で高菜のおむすびと赤飯のおむすびのセットを買ってみた。

こうして、ホテルの部屋にてデパ地下食材のお昼御飯。豪華デザートつきである。好きなもの買ってきて、周囲に気兼ねすることなく部屋でゆっくり食べる御飯もまた格別。
ホテルの部屋には既に1リットルペットボトルの烏龍茶が私たちの手によって配備されている。すまんホテル。ぼったくり箱(=部屋備えつけ冷蔵庫)内の定価の3倍する飲み物は飲む気にならんのよ。エレベーターホール近くの給氷機から氷をざくざく持ってきて、冷たいグラスに氷と烏龍茶を満たして息子と乾杯。

御飯にこってり甘辛いたれが染みたせいろ蒸しは、鰻もとろんと柔らかく美味だ。蒸して焼いたり、あるいはただ焼くだけの鰻重の鰻とはまた違った食感。ツヤツヤテラテラと光っていてふくっと柔らかい。鰻の横には筍の煮付けと甘辛く煮染めたごぼう入り。息子は自分用のおむすびよりもこちらのせいろ蒸しが気になるようで(そりゃこっちが美味しそうだよねぇ)、結局ご飯の半分ほどと鰻の半分以上を持って行かれてしまった。
引き続きデザートにマンゴーブリュレと紅茶のプリン。息子と分け合い……もとい奪い合い、ぎゃーぎゃー騒ぎながらプリンを食べた。淡い甘さにとろける柔らかさのプリン。こちらも旨い。ああ、満足……。

天神 福岡三越「鰻匠」の
うなぎのせいろ蒸し
天神 福岡三越「こじま亭」の
マンゴーブリュレ

友とお茶会

昼飯食べて、息子と一緒に軽く昼寝。
本日は午後3時にひとつ約束が入っていた。元福岡在住、現大阪在住のお友達との邂逅だ。友人といっても、実際会うのは今日が初めてだ。私の運営しているマンゴプリンページでそれはそれはお世話になっている方であったりする。やたらと趣味が似通っていて、何だかとても気が合いそうなのであった。

目覚まし時計をセットして起きたのが2時48分。トイレ行って着替えて化粧しなおして、とバタバタしている間に3時2分。どひーどひーどひーと息せき切ってエレベーターを降りてみた。ロビーフロアに降りてきょろきょろすると、「あっ」という感じにこちらを見た華奢な女性がすたすたとやってきた。「はじめましてー」「はじめましてー」「お茶、しましょうか」「そうしましょう」とそのまま横のカフェラウンジに流れこむ。ポット入り紅茶を飲みながらお菓子つまんでおしゃべりおしゃべり。定常状態で眼が"笑い眼"になっているような子鹿の顔したKさんとの邂逅は楽しかった。いやぁKさん美人でした。とても香港の麗晶軒でマンゴプリンn個一気食いした人には見えません。
今度は東京で会合しましょう、そうしましょう。

日航ホテル福岡「TEA&COCKTAILLOUNGE」にて
ダージリンティー
クッキー盛り合わせ

何だかお菓子三昧だ

5時過ぎ。だんながホテルに戻ってきた。
「今日はお客さん並んでなかったからさー」
とシュークリームの袋を1つ。中にはシュークリームが3つ。「銀のすぷーん」というお店のこのシュークリーム、さきほど会ったKさんが「美味しいですよー」と以前教えてくれたお店のだ。先月の福岡出張ではだんな、混雑していたその店に予約してまで購入し、「2時間しか持って歩いちゃいけませんよ」と言われたこのシュークリームを空輸して自宅まで持ち帰ってきた。ちょっと水分を含んでしっとりしていたシュークリーム、確かに美味しかったのだ。

しかし……私も「こじま亭」のシュークリームを買ってきていたのだ。こちらも3つ。ホテルの一室に3人の人間、6個のシュークリーム。どうしましょう。とりあえず、だんなが買ってきてくれた方がサクサク感がポイントであるらしいので、こちらを先に食べちゃうことにする。部屋に備えつけのティーカップとティーバッグで紅茶を入れて、午後5時過ぎのおやつ。わっしと手づかみでシュークリームを持ち、わしわしと食べる。

今日の買いたてシュークリーム、正真正銘サクサクだ。パリパリとも違う、水分を多少含んだサクサクした生地に柔らかなクリームがてれっと入っている。やっぱり買いたては圧倒的に美味しい。
……じゃ、夕飯食べに行こう。ラーメン!

博多地下街「銀のスプーン しゅうくりぃむ屋さん」の
シューサクくん

雰囲気もサービスも最高なのに〜キャナルシティ「CIAO MEIN」

夕食1軒めは、ホテルから徒歩10分ほどの「キャナルシティ」なるスポットに行ってみることにする。この中にあるホテル、グランドハイアット内の中華料理店にはマンゴプリンがあるらしい。それが目当て。
人工運河"キャナル"をとりまくように立っている建物群は、さしずめ「福岡版お台場」という感じ。クリスマス装飾がピカピカと華やかに輝く何とも良い雰囲気だ。キャナルの中からは時折プシューッと噴水が飛び出してくる。シパッシパッと水が跳ねる情景、何だか楽しい。わくわくする。

キャナルシティの夜景

キャナル側が一面ガラス張りになったグランドハイアットホテルに入る。1Fのメインダイニング「CHI-NA(チャイナ)」の店頭に行き、メニューをチェックする……がどうも重厚そうな感じである。ジーパン姿のだんなにボーダーシャツの私にご機嫌な息子が入店するにはちょっと躊躇してしまう。地下には同じく中華料理店だけどカジュアル版の「CIAO MEIN(チャオメン)」なるところもあるらしい。そっちの方が無難だろう。ぞろぞろと家族、階段を降りる。

この後ラーメンも控えていることだし、と控えめな注文。刺身のサラダと3種点心が4つずつやってくるセット、店頭にぶらさがっていた美味しそうなチャーシューにだんな垂涎の豚肉の角煮。生ビールを注文し、キャナルを真横にするガラス張りの窓際の席に座して待つ。時折キャナルの中からシパパパパーッと出てくる噴水が良く見えるので見ていて飽きない光景だ。いいねぇ〜。

「CIAOMEIN」刺身のサラダ 最初に来たのが刺身のサラダ。白髪葱に香菜、揚げたワンタンの皮やナッツが刺身と一緒に盛られている。最初にざっくりと全体を混ぜてから食す。ごま油の効いた醤油だれを良く絡め、全体が混ざったところで口に。ナッツとワンタンのカリカリや葱のシャキシャキ具合が刺身と絡まってこれはイケる。ビールが進む。

続いて点心。蝦餃と小龍包、蟹焼売が4つずつ、小さな蒸籠に入っている。まずは蝦餃をぱくり。……皮が厚ぼったい。あんの海老のぷりぷり感が感じられない。旨味が足りない。いまひとつ。
次に小龍包をぱくり。……スープをこぼさないようにとわざわざレンゲを持ってきてもらったのにそのスープは一滴も入っていない。ぺしょっとした肉あんに厚ぼったくてやや固めの皮。小龍包と言えばその中に詰まるアツアツのスープが身上である。身上のない小龍包。いつもは小龍包を見やると「僕も僕も」と食べたがる息子も、一口囓ってから箸が止まる。2歳児にまで嫌われる小龍包。とほほである。
それでも蟹焼売はまぁまぁだった。あくまでも"まぁまぁ"である。何故こんなに点心が不味いんだろう。かなりがっかり。

ちと暗澹たる気持ちになりながら、続いてやってきたチャーシューを噛みしめる。店頭にぶら下がっていたチャーシューは赤々テラテラと輝いていて旨そうだった。目の前の周囲が真っ赤に染まっているチャーシューも確かに美味しそうだ。噛みしめると甘辛いあの味。悪くない。悪くないんだけど……何だかちと物足りない。噛みしめてじゅわっと出てくる肉汁が全然ないのだ。何だかパサパサしているのだ。脂身が全然ないのだ。豚バラ肉を使えとは言わないけど、もうちっと脂部分がある肉を使った方がしっとり美味しいような気がする。うーん、味は良いんだけどなぁ。

サービスはさすがホテル、という感じ。「ビールのお代わりはよろしいですか?」とグラスの中身が少なくなるとすかさず飛んできたスタッフは、いらないよと告げるとすぐに冷たい水を持ってきた。皿の取り替えなどもとても良く見てくれている。サービスはいいんだけどなぁ、なんでこういまひとつなんだろうか。店の調度も好みなんだけどなぁ。

最後の角煮は、旨かった。テレンと程良く煮込まれた三枚肉は皮つきだ。皮つきの豚肉を使うのが正式な東坡肉である。周囲に添えられた青梗菜もシャキシャキな、八角の香り漂う美味なる東坡肉。これを食してちょっと落ち着くことができた。

麺や御飯ものは食べないまま、デザートに突入。マンゴプリン
ミルク分のほとんどない、妙に水っぽいマンゴープリンはほろっとした柔らかさでデザートとして悪くはなかったけど「美味しいマンゴプリン・不味いマンゴプリン」という仕訳で見たら不味い方に位置してしまう難しいものだった。香料の匂いはするし、マンゴプリンっぽさがほとんどないし、でもビールを飲んだほろ酔い気分の時にこういうデザートそのものは悪くない。大変謎なマンゴプリンだ。

釈然としないようなしたような気分を抱えてキャナルシティを後にする。
ホテルに戻る途中にあった「うま馬」なるラーメン屋で、夕飯のメインディッシュを食べることにしよう。

キャナルシティ「CIAO MEIN(チャオメン)」にて
鯛の刺身のサラダ
チャーシュー
点心盛り合わせ
豚肉の角煮
マンゴプリン
生ビール
\1200
\900
\1400
\900
\400
\650

屋台の流れを汲むお店〜博多区「うま馬」

「昭和初期の屋台の味を受け継ぐラーメン」であるという「うま馬」。何でも博多在住の人の多くが知る店であるらしい。
キャナルシティから我らのお宿、ホテル日航福岡へ歩いていく道中にその店はある。「うま馬」と書かれた看板も目立つわかりやすい店だった。

ガラス戸を開けるとカウンターとテーブル席、あまり多くはない席がほとんど埋まっている。入り口そばのカウンターが3席空いていたのを幸いに皆で席につく。カウンターには仕込済、焼かれるのを待つ焼き鳥が積まれている。気難しそうな顔をした若い兄ちゃんが串を動かしていた。周囲の人も焼き鳥を摘む人、多し。ラーメンだけを頼むのは失礼かと思いつつ、だんなが「ラーメン、2つね」と注文した。

「あいよー、ラーメン2丁!」「ラーメン2丁!」
店中で唱和。「お子さんの小さなどんぶり、要りますか?」とミニどんぶりを出してくれた。

「うま馬」 ラーメン、テーブルに来るなりいきなり周囲にケダモノ臭さが濃厚に漂う。我が家で牛すじ肉の下茹でをするとき、あるいは鶏がらスープの山とでるアクと戦っているときによく嗅ぐ匂いだ。この匂い、私もだんなも嫌いじゃないけれど嫌いな人は嫌いであろう、そういう匂い。匂いの強いスープは白濁はしていない。ほんのり濁った醤油ラーメンと言われたらそうかと思う。中には平麺が美しく沈んでおり、小さめのチャーシューが2枚、上には葱がどばっとかかっている。

臭みの強いスープは、でも飲み込むとクセはほとんどない。鼻孔に来る刺激と比して、舌への刺激はあまりない。旨味濃厚でもすっきり、さっぱりしたスープが食道を下っていく。このスープが絡んだ麺もまた、濃厚な匂いを持ちながらさっぱりと口に入る。葱も一緒に噛みしめることでよりさっぱり。スープを取った"だしがら"のような感じのちょっとパサついたチャーシューも、不思議と悪くない。

店の客は全員オヤジである。平均年齢47歳といった感じのスーツ姿のおやじ達が赤い顔して焼き鳥を喰っている。脇に座った2人組のおやじは2人でラーメンを啜り始めた。ラーメンだけの客というのもいなくはないのだ。

博多区「うま馬」にて
ラーメン
\550

濃厚さっぱりなとんこつラーメンで、今日の夕御飯終了。満腹満腹。
「一人だったらあと2〜3軒行くところかなっ!」
とほざく人が約1名存在していたので、「じゃあ行ってきなよ留守番してるし」と言ったらば本当に行ってしまった。何杯喰って帰ってくるつもりなのだろう……(「ピカいち」を目指して行って「ひろいち」なる別の店に入っちゃってそりゃもう大変だったらしいぞ)。
私と息子は早々に風呂に入り、テレビ見ながらベッドでごろごろ。