7月4日(星期三) 嗚呼、魅惑のチャーシューパイ

喫茶店で朝食を〜「大排[木當]」

香港3回目の朝。
「喫茶店みたいなところで朝御飯食べたいねぇ。」
と香港各地にあるチェーン店「大排[木當](Dai Pai Dong)」へ行ってみることにした。朝からやっているこの喫茶店、日本だったら「マイアミ」とか「ルノワール」とかいう感じになるのだろうか。しかし木製テーブルと木製椅子が並ぶ洒落た空間のその店のターゲットはサラリーマンというよりも学生や若い女性という感じがうかがえる。

朝のメニューはトーストやサンドイッチ、そして「通粉」が主体らしい。「通粉」はマカロニ。スープの中にマカロニとハムを沈めた料理は、こちらの一般的な朝御飯の1つであるらしい。
「マカロニとハムがお湯に入ってるだけでしょー?美味しくなさそうだよ……」
「いや、絶対旨いよ。だってスープに浸ってるんだよ?考えただけで美味しそうじゃない。」
夫婦の間でまっぷたつに意見が割れていた「火腿通粉」、すなわちハムマカロニをだんなに喰わせるのがこの食事の目的のひとつだった。

これが「火腿通粉」。ハム山盛り〜。私が頼んだのは「多士」、つまりトースト。「[女乃]油」、つまりコンデンスミルクのかかったトーストにしてみた。コーヒーか紅茶がついてHK$22。

苦く感じるほど濃くいれられた紅茶には、たっぷりと牛乳も入った濃厚なミルクティーになっている。砂糖を入れて甘苦くなったアツアツの紅茶を飲みながら、バタートーストにたっぷりコンデンスミルクがかかったトーストを囓る。……甘い。甘いけど、美味しい。バターとミルクで、乳製品だらけのトーストになっている。
息子用には冷たい牛乳。トーストやマカロニを適当に分けながら食べる。

はたして、だんなが頼んだ「火腿通粉」は確かに悪くない味なのだった。ラーメンどんぶりのような深さのある器にマカロニがたっぷり、そしてハムもてんこ盛りになってスープに浸っている。ミックスベジタブルが飾りとしてかちょこちょことマカロニと混ざっていて、何だか華やかな色のどんぶりになっていた。良く見ると、そばで食べているスーツ姿のお兄ちゃんもこのマカロニを食べているた。スープに浸ったマカロニは、「これも香港の味?」って感じの奥深さがある。
朝御飯にマカロニかぁ……。深いぜ香港。

尖沙咀「大排[木當](Dai Pai Dong)」にて
大排[木當]多士([女乃]油)
火腿通粉
鮮[女乃]
HK$22.00
HK$30.00
HK$7.00

はっきり言って、これだけじゃ朝御飯に足りないのである。
で、どうするかというと、こういう時の「ダーパオ」だ。ホテルの部屋には昨夜の北京ダックが残っているのであった。

部屋に帰るなり中国茶を入れ、おもむろに北京ダックを食べ始める私たち。8切れほど残っていた北京ダックを、ビニール袋に入れてくれていた皮で包んで美味しくいただいた。ちゃんと葱やタレも小袋に入って納められていて、その丁寧な包みに感動が止まらない。
「ああっ翌日でも全然美味しい、美味しいよー。」
「冷めても全然おっけー!」
朝から北京ダック喰っても胃もたれしない私たちなのであった。

……あれ?

「大排[木當]」に入ったころは、大丈夫だった。北京ダック喰ってるときもまだ、平気だった。
だけど突然、悪寒が背中を滑り降りるような感覚がし始めてしまったのだ。今日はホテルを移らねばならないので、荷物の梱包をしなければならない。でも、私はもはや寝室で毛布ひっかぶって寝ているしかできなくなってしまったのだ。下手すると歯の根が合わなくなりそうなこの感覚は、どう考えても「熱の出る前兆」なのだった。やばい。風邪ひいた。

思えばこのホテル、空調が涼しすぎると昨日から思っていたのだ。空調を「切」にしてもまだしばらく冷たい風が通気口からぶんぶん出てくる。しかも、この風呂だ。バスタブの遙か上に固定されたシャワーヘッドは動かせず、上からシャボシャボ出てくるお湯で頭も身体も洗わなければならなかった。しかも、寒い。「さむいよさむいよ〜」と思いつつ入った風呂と、そのまま「さむいよさむいよ〜」と薄っぺらい毛布1枚で眠ったのがマズかったのだろう。

「ご、ごめん、梱包できない……」
とそのまま倒れ伏して眠ってしまった私。ま、チェックアウトの時間まではまだ2時間ほどある。
だんながその間、ホテルの売店で風邪薬を買ってきてくれた。バラ売りされていたらしい、「COLDREX」という錠剤の薬だ。とりあえずこれを飲み下して、行かねばならぬ、行かねばならぬのだ。今日は昼食も夕食も予約済みで、しかもどちらもとても楽しみにしていた店ばかりなのだから。

よろよろしながら「基督教青年會(YMCA of HK)」をチェックアウト。今度は防寒対策をしっかりしてから泊まりにこよう。寒さと風呂を除けば快適(しかも安い)だったのだから。

嗚呼、魅惑のチャーシューパイ〜「嘉麟樓」

「半島酒店(The Peninsula)」内にある中華料理店「嘉麟樓(Spring Moon)」。
もう10年近くも前、香港の中華料理店でマンゴプリンが続々と供されるようになった、その発端の店がここであったと聞く。私が「すきすきまんごぷりん」なんてページを作り始めたのも、5年前にこの店のマンゴプリンを食べてしまったからかもしれない。思い出の店だった。

12時開店の店に、12時で予約を入れてある。荷物は先のホテルに預けておき、のんびりと歩いて「半島酒店(The Peninsula)」の表玄関から足を踏み入れた。煌びやかなホテルホール、階段に敷かれた絨毯もふかふかだ。「ここが世界のペニンシュラ」という顔で君臨するこのホテルは、相変わらず高級感に満ち満ちていた。しずしずと2階のレストランに向かう。開店直後のレストランは、まだ1人の客もいなかった。奥まったところに用意された席には、豪奢な子供椅子までセットされている。金糸で編まれたふかふかのクッションつきの黒光りする子供椅子なんて、私はうまれて初めて見てしまったぞ。

風邪薬を飲んだ身体にアルコールは厳禁だろう。おとなしくプーアル茶を飲みつつメニューの検討。マンゴプリンは当然喰わねばならない。また、5年前に食べてそれはそれは絶品だったチャーシューパイもまた外してはならないだろう。5年前、私とだんなは熱愛中だった。香港から逐一「これを食べたよ、美味しかったよ」なんて報告を日記のようにメールしていたのだけれど、彼が一番「俺も食べたい〜」とじたばたしていたのがここのチャーシューパイだったのだ。

「やっぱり小龍包とか食べてみたいなぁ。」
「あ、蝦餃も外せないよね。」
と、一般の料理メニューを眺めつつも、ついつい飲茶メニューから主に注文してしまう。

悪寒を取り除くべくプーアル茶をがばがば飲みつつ待つこと数分、目の前に蒸籠と小皿がいくつも並べられた。点心はどれも大きめで、ムチムチした蝦餃は4個入り、他のはだいたい3個入りだ。皮も身もプリプリねっちりした蝦餃は期待通り(いや、期待以上かも)の美味しさだし、ニラが入った小龍包は、身と皮の間のスープはなかったけれども身そのものがスープをたっぷり含んだ面白い食感のものだった。そのまま食べても香ばしく美味しいし、添付の赤酢につけた針生姜を乗せつつ食べると、味わいがまた全く違うものになる。
大きな海老が1尾、ごろりと飾られたフカヒレ焼売もまたゴージャスな味わいだ。ムチムチの海老の歯ごたえが楽しい焼売の中には、確かにフカヒレもたっぷりと感じられた。1つ1つが大きめなのがしみじみ嬉しい豪華な点心類だ。

美味絶品の叉焼酥♪♪♪ そして、やはり叉焼酥(チャーシューパイ)。
ほんのり温められたパイが3つ、小皿に乗ってやってくる。パイの皮はサクサクというよりも「モロモロモロ……」と囓った途端に粉になってしまうような危ういもの。モロモロの皮の中には、こってりと甘いツヤツヤ光るチャーシューのかけらがみっちりと詰まっているのだ。皮のモロモロ感と旨味の塊のようなチャーシューのバランスは、やっぱり他の店では味わえない最高のものだった。そうそうこれこれ、このチャーシューパイ!嗚呼、香港に来て良かった……。

「3個のチャーシューパイ、私が2個いただいて……だんなはふかひれの焼売を2個お食べ〜。」
「ああ、しかしこのパイはいかんよ。旨いよ。もう一皿?もう一皿?」
体調が悪いはずの私も、点心の中では蝦餃を愛してやまないだんなも、今この時点ではすっかりチャーシューパイに魅了されまくっているのであった。
計6個のチャーシューパイをもりもりと食べる。息子も食べる。

蓮の葉蒸しの炒飯。あと3つ位喰えそうな感じ……。そして、点心を堪能した後は「今月のお勧め」だか「今週のお勧め」だかいう小さな1枚紙メニューに掲載されていた、蓮の葉にくるまれた炒飯。1人分ずつ、ちんまりと蓮に包まれた炒飯は海老や乾燥貝柱などがたっぷり入っていて、茶色くキラキラと光っていた。蓮の葉の香ばしい香りが染みた炒飯はパラパラの長い米。スプーンで口に運ぶと御飯以外の素材の味がふわふわと立ち上ってくる、何とも言えず香ばしい炒飯だった。
息子用にイーフー麺を注文してやったにも関わらず、彼は麺よりもこちらの炒飯が気になるらしい。
「そっち、そっちちょうだい。」
とだんなは炒飯を奪われてしまった。イーフー麺よりも炒飯が美味しいらしいと看破したらしい息子に、私たちは密かに「あー、そんなに食べちゃダメー」と拳を握りしめてしまうのだった。美味しいもの、ちゃんとわかってるのね息子……。

最後には、小ぶりの蛋撻(タンタ)と、上品なマンゴプリン
この店に限ったことではなく、どうも香港のお店においては「ぎりぎりの固さ」というものが好まれる傾向があるらしい。蛋撻は手で持ち上げるだけでくしゃっと潰れてしまうような繊細なもので、まだ焼きたてのそれはプルプルと柔らかに震えている。口の中の火傷を覚悟して食べると、またもモロモロ崩れていく皮の中に、口の中でとろんと崩れ消えてしまうプリン生地がたっぷりと。卵の後味が最後にふわふわと漂う蛋撻は、警戒していたにも関わらず上顎を火傷させてくれたのだった。だが、焼きたての蛋撻の味は代えがたい美味なのだ。

足つきグラスの入ったマンゴプリンは、5年前と変わらず上品な味だった。柔らかで甘いマンゴーがざくざく入っていて、そのマンゴーの柔らかさと同じ柔らかさを目指したような生地はすくうだけで自重で崩れてしまいそう。生クリームなどのミルク感も漂うリッチなプリンに、飾りはラズベリー1個。なんともシンプルで品のあるものだった。王者の風格のマンゴプリンに、もう私はテーブルに突っ伏して眠ってしまいたいくらい……(ああ熱が……)

尖沙咀「半島酒店(The Peninsula)」内「嘉麟樓(Spring Moon)」にて
HAR GAU(蝦餃)
S'FIN SIU MAI(ふかひれ焼売)
BBQ PORK PUFF(叉焼飽)×2
CHICKEN DUMPLING(鶏の湯葉餃子)
P.VEG PORK DUMPLING(小龍包)
SM DAILY SP 20(蓮葉蒸し炒飯)
BRASIED(イーフー麺)
MANGO PUDDING(マンゴプリン)×2
CUSTARD TART(蛋撻)
TEA(プーアル茶)×2
ICE OOLONG TEA(アイスウーロン茶)
HK$42.00
HK$42.00
HK$76.00
HK$38.00
HK$38.00
HK$70.00
HK$60.00
HK$70.00
HK$35.00
HK$30.00
HK$40.00

クマとアヒルの待つホテル

今回の旅行5泊のうち3泊が九龍側で過ぎていった。今日から2泊は香港島が本拠地になる。地下鉄を1駅乗って維多利亜港(Victoria Harbour)を越えたところに「金鐘(Admiralty)」駅がある。そこからショッピングモールの中を通って行ける「港麗酒店(Conrad International Hong Kong)」が今日からのお宿だ。「コンラッド」というといまひとつピンとこないけど、内実はヒルトンホテル系列のホテルなのだった。

このホテル、どういうわけか夜のベッドメイクの時に小さなクマのぬいぐるみが登場する。そしてバスタブの脇には「アヒルちゃん」が鎮座ましましているのだ。ビジネスマンも多く泊まるホテルであるらしいのに「クマとアヒル」とは、何だか笑ってしまう。

私の体調は、相変わらずいまひとつ。自分の皮膚の上に2cmほどの不透明な膜でもできているかのように、全ての感覚がすごく曖昧。ふらふらしながら地下鉄に向かおうとする私に、「荷物はまかせとけ!」とだんなが2つの巨大なスーツケースを引きずって歩いてくれた。ううう、すまぬ。私が不甲斐ないばっかりに。

午後2時頃、よれよれしながらホテルに到着。「I have a reservation, 〜」とだんながカウンター向こうの女性に話しかけたところ、
「○○様、ようこそおいでくださいました。」
と流暢過ぎる日本語の挨拶が返ってきた。日本人のスタッフさんなのだった。てきぱきとチェックインの手続きをその方がしてくれる。
「ただいま、お部屋が空いてございますので無料でハーバービューにグレードアップさせていただきますね。」
「お帰りは何時の便でございますか?夕方でしたら、今はあまり忙しくないので午後2時までお部屋を御利用いただいて大丈夫です。」
と、こちらが何も言わないのに色々おまけがついてきた。しかしそんなに暇なのだろうかコンラッド。
ともあれ、今から部屋に入れるのは有り難かった。43階という、今回の旅行で一番高いフロアが私たちの部屋。

キングサイズベッドがどーんと置かれた部屋は、案外と広い。こぢんまりとした応接セットに、大きくて使いやすいライティングデスク。コーヒーメーカーのついたミニバーに、充実した収納スペース。
高級ホテルな何が嬉しいって、バスルームの充実ぶりだ。トイレは当然バスとユニットになっておらず、ドアつきの個室。洗面所のシンクは2つ。シャワーブースも別についたバスタブは広々長々、だ。これで昨夜のように寒い思いをしながら風呂に入る必要がなくなる。
そしてそして、バスタブの隅にちょこんと座っていたのがアヒルちゃん、だった。おお〜、今日もキュートだねアヒルちゃん〜〜〜。

アヒルちゃ〜ん

窓からの眺めは、少しばかり前のビルが邪魔をして、あまり完璧な「ハーバービュー」とはいかなかったけれど、それでも湾が良く見えた。遙か彼方下方に、トラム(←香港島を走る2階建て路面電車)が積み木のように並んで走っているのが見える。
そして、パタパタとスタッフが部屋にやってきた。
「ウェルカムティーだよーん」
と熱い中国茶のポットがやってきて、更に
「ウェルカムフルーツだよーん」
とリンゴが3つ、籠に入ってやってくる。

このへんで、私の体力が尽きたらしい。
「……も、ダメ……」
と呟いて、スーツケースの中身の整理もそこそこに、キルティングのベッドカバーにくるまって私は寝てしまったのだった。

どこか遠くで、だんなが「お買い物に行ってくるよー。水とか、買ってくるねー。」と言っているのが聞こえた。
彼は息子と2人、スーパーに買い物に行ってくれたようだ。私は一人、こんこんと昼寝。あああ、「銅鑼灣(Causeway Bay)」あたりで買い物したかったのに、今日はもう全然ダメだ。とりあえず夕飯に備えて寝るにしよう。

午後6時半、荷物を抱えただんなと息子が帰ってきた。
「これ、いかにも効きそうに見えたから買ってきたー」
と差し出してくれたのが「幸福傷風素」なる風邪薬。あおり文句には「特強退熱鎮痛」と何だか凄い言葉が書いてあった。「特強退熱」なら、何だか大丈夫そうだ。2粒を水で飲み下し、しばらくすると本当に具合が良くなってきたのであった。

素晴らしき哉、巨大創作飲茶〜「譽滿坊」

銅鑼灣(Causeway Bay)から500mほど南に下ったところに「[足包]馬地(Happy Valley)」という地がある。競馬場があることで有名。繁華街とは言い難いその街に「譽滿坊(Dim Sum)」なるちょっと変わった飲茶屋があるらしい。一風変わった点心も多く、何しろマンゴプリンも美味しいということだ。
昨日のうちに「明日の午後7時半から行くよ〜」と電話で予約を入れてある。

「[足包]馬地」までは、トラムが走っているらしい。ポイント切り替えで走っていくトラムは、宿泊ホテルの前の同じ乗り場から乗り込んでも、行き先が何通りもある。
「これは銅鑼灣行きだわ。」
「……じゃ、ダメ。」
「なんとか街行きって書いてある……。」
「なんか違う気がするから止めておこう。」
「あったぁ「[足包]馬地行き!」
「それだぁ!」
とトラム前面に書かれる目的地を眺めつつ目的のものに乗車。車内放送などはないので、マップを眺めて現在位置を確認しながら乗っていく。結局終点まで行ったところが、どうやら目的の店に近いところだったようだ。

トラムの終点から、更にてくてくと歩く。緩い坂がだらだらと続いていて、少々汗をかきつつえっさえっさと上っていった先に「譽滿坊」の看板が見えた。どこかレトロな2階建ての店は、まだ空席も目立つ程度の混み具合。が、続々と客で一杯になっていくようだった。

背後に仕切りのついた、4人がけのベンチ席に腰掛ける。メニューも兼ねたチェックシートとペンが各テーブルに置いてあり、客はそれをチェックして店員に渡すようになっている。どれもちょっとばかり装飾のついた品名は、長めのものが多い。「燕液帝皇明蝦餃」は海老餃子のことらしい。「燕液」とは何だろう……(つ、燕の唾液?)。

まるでパズルでもするように「あ、ここに"咸水角"の文字発見!」とか言いながら楽しくチェックする私たちだった。クリアファイル入りの日本語メニューも出てきたけれど、漢字から想像する方が本当は楽しい。

茶を啜りつつ待つこと数分、ほかほかの蒸籠類がたっぷりと目の前に並べられた。ぞくぞくするほど美味しそうだ。

「燕液帝皇明蝦餃」。巨大だ……。「燕液帝皇明蝦餃」は海老餃子。両手の親指と人差し指を使って円を作ったくらいの、通常サイズより小さな小さな蒸籠には、溢れんばかりの(いや、実際溢れているような)ムチムチの薄皮餃子が2個、詰まっている。蒸籠が小さいのでそう見える効果もあるけれど、その餃子は恐ろしく巨大だ。巨大な餃子の中には、1つの中に3尾の海老が、ほとんどその形を残したままプリプリと詰まっている。「いかに口当たりを良くするか」と海老を歯ごたえを残しつつ細かく切ったり工夫している他店に比べ、あまりにも思い切った海老の使い方だ。口の中でプリプリの海老が飛び跳ねる。こりゃ……美味しいよ。
「ああああ、俺の中で暫定世界一の蝦餃の座が、座が……」
とだんながハフハフしながら感動している。どうやらたった今、彼の中での「俺的世界一好きな蝦餃」の座が入れ替わってしまったようだ。そんなに旨いか。いや、旨いな。うんうん。

「鮑翅鮮蝦焼焼賣皇」はアワビとフカヒレ入りの焼売。蝦餃と同じく、小さな小さな蒸籠にムチムチと2つ入っている。上にフカヒレがひらひらと盛られた焼売は、これまた海老肉たっぷり。噛むと中のひき肉の肉汁と共に海老のプリプリ味が口の中にむわわわわん、と広がってくる。一口で食べきれない大ぶりな焼売を囓る快感ときたら、しみじみ幸せになってくる。熱も下がってくる。風邪も治ってしまいそうだ。

こちらは「清蒸香滑蘿蔔[米羔]」。やっぱり巨大。そして「魚翅鮮肉小籠飽」。これまたフカヒレ入りの小龍包。スープが程良く詰まった、皮がふくふくと柔らかなものだった。肉汁たっぷり、フカヒレのゴージャスに詰まっている。ああ、だんだん顔がニヤけてきてそれが直らなくなってきた。

「川椒治味煎窩貼」は豚肉の焼き餃子、とあった。大ぶりの餃子がごろんごろんと皿に4つ転がる様は、「焼き餃子」というよりも「揚げ餃子」という感じ。しかも皮の存在はあまり伺えず、餃子の具を豚肉の薄切り肉で包んで揚げたような味がした。こんがりと揚がった表面のサクサク具合がとても良い感じだ。中のあんも肉たっぷりのジューシーなもの。ビールが恋しくなってくる。でも、風邪薬大量服用中の今はアルコールは避けておかなければならない。ひたすらお茶を飲みつつ、「うめー」「うめー」と食べ続ける。

まだまだ、来る。
「五香治味咸水角」。五香粉の香りがする揚げ餅餃子だ。甘く炒められた肉あんからスパイシーな香りが立ち上り、それがモチモチした皮に包まれてこんがりと揚がっている。アツアツのところを火傷しないようにかぶりつく。
息子用にと注文した「清蒸香滑蘿蔔[米羔]」もまた、面白いものだった。海老や貝柱がざくざく入った大根餅は、通常平たい四角なものなのに、これは立方体をしている。皿からどかんと立ち上るような、迫力ある大根餅だ。醤油だれが底に敷かれた立方体ごろんごろんの大根餅が3個。上には香菜がちんまりと盛られている。ふわふわで香り豊かな品だった。息子は皿を抱えてわしわしと嬉しそうに喰っている。そうか、旨いか。母も旨いぞ。

最後に御飯。竹筒に詰まった御飯は鮑の薄切りと鶏肉入り。名前も「竹筒鮑片鶏粒飯」とそのまんまだ。
茶色く味つけられたポロポロの御飯はほんのり竹の香りがし、上に鶏肉を細かく叩いて筍などと混ぜ込んだものが蓋をするように盛られている。中には鮑の切り身が数片。しっかりと味のついた御飯は、どこか懐かしいような味までするのだった。

風邪はいったい何処へ行った?というくらいにしっかり食べた後には、当然デザート。期待のマンゴプリンに杏仁豆腐、そして蛋撻。
エバミルクが別添でついてくるマンゴプリンは、果肉の粒がざくざくと感じられるとてもフルーティーなもの。ホテルの高級中華料理店もかくやと思われるほどリッチなマンゴー感が堪能できるものだった。どこか素朴さが感じられるのも心地よい。
若干ポクポクとした固さが感じられる食べ応えのある杏仁豆腐からはしっかりと杏仁の香り。他の点心と同じく、若干大きめな蛋撻も卵たっぷりのプルプルサクサクの絶品のものだった。

繁華街から遠く離れて、それでもファンを惹き付けてやまないというこの店の魅力がわかったような気がする。
「きっとまた来ちゃうねー」
「もうもう蝦餃や焼売がサイコー」
と胃も心も満足して午後9時前、店を後にした。始発のトラムに乗り込んで二階の一番前に座り、夜風を感じながら銅鑼灣(Causeway Bay)に戻ることにしよう。

[足包]馬地「譽滿坊(Dim Sum)」にて
燕液帝皇明蝦餃
鮑翅鮮蝦焼焼賣皇
魚翅鮮肉小籠飽
川椒治味煎窩貼
五香治味咸水角
清蒸香滑蘿蔔[米羔]
竹筒鮑片鶏粒飯
呂宋香芒凍布甸
雜果杏仁豆腐花
農場酥皮鮮蛋撻
HK$30.00
HK$30.00
HK$30.00
HK$25.00
HK$25.00
HK$30.00
HK$35.00
HK$25.00
HK$25.00
HK$20.00

後味ビリビリ、生姜のプリン〜「義順牛[女乃]公司」

銅鑼灣(Causeway Bay)、トラムの線路が走るそのすぐ脇に、昨日尖沙咀で入った「義順牛[女乃]公司(Yee Shun Milk Company)」がここにもある。
「お店マークの器、まだ欲しいね。」
「私は生姜プリンが食べたいわぁ。」
とあれだけ喰った後なのに、今日もまた夜のおやつ。

私は生姜プリン、だんなは真っ黄色の卵プリン、息子にはバナナミルクのジュース。
ジョッキで出てくるここの飲み物は、牛乳もの大好きな私には心痺れるものばかり。息子のバナナミルクのジュースも、日本で飲む某ジューススタンドの「白いバナナミルク」の味がした。バナナと牛乳だけで素直に作ったような、ほの甘くてミルキーなジュース。

卵の黄身の味がふわふわと漂うツルリと冷たい卵プリンもまた、期待通りの美味なるもの。生姜のプリンは、第一印象は甘いにも関わらず飲み込む直前から「生姜!」と生姜の主張がガツンとやってくる。飲み込んだ後も、舌の根から食道まで生姜の辛さがビリビリと伝わってくるような、なんとも辛くて甘い、ちょっと面白い味がした。「何もこんなに、辛くなるまで生姜をいれなくても……」と思いつつ、でもその後味が妙にくせになってきてしまうのだ。
食後は今日も、「食器売ってくれる?」の交渉。尖沙咀の店は「あんまり持っていかないで」てな感じの対応だったけど、この店は「いいよいいよ、何個欲しいの?」という感じだった。ただし、椀とレンゲのセットは昨日よりHK$1高い。18円やそこら高くても、まぁ良いじゃないかと思うけど。
これで椀のセットが4組と、ジョッキが2つ入手できた。我が家に帰ったら存分に可愛がって使うからね、むふふふふ……。

銅鑼灣「義順牛[女乃]公司(Yee Shun Milk Company)」にて
巧手姜汁燉鮮[女乃]
冰花燉鶏蛋
冰凍香焦汁鮮[女乃]
店マーク入り椀とレンゲのセット×2
店マーク入りジョッキ
HK$20.00
HK$16.00
HK$20.00
HK$20.00
HK$20.00

時間は10時前。やっとホテルに戻ってきた。
ナイトベッドメイクもされた部屋で、「クマは!?クマは!?」とバタバタと探す私たち。このホテル、夜のベッドメーキングのときにクマがやってくるのだ。
見ると、ベッドシーツにくるまるように、3匹のクマがころころと挟まっていた。ちゃんと家族分、3匹あるのに大笑い。もちろん3匹、持って帰るのだ。

クマ3匹〜。キュート。

さっとシャワーを浴びてからは、もう「寝るしかない」という心持ちだった。早く寝て、とっとと体調を戻さねばならぬ。
「特強退熱鎮痛」な薬を飲んで、小林製薬の「退熱貼」(←"熱さまシート"だ……)を貼り、クマを抱えて祈るような気持ちで迎えた4日目の夜だった。