9月19日(金) 芋粥と排骨飯と最後の夜市は寧夏路

ちょっと観光客風味?〜「永和清粥大王」

台湾4日目。丸1日動けるのは今日が最後だ。ひととおり小龍包屋も行ったし、夜市も2夜堪能した。でもまだまだ物足りない。茶藝館は1つも行ってないね、レストランの台湾料理を食べるのもいいよね、と最後の1日を堪能すべく動き出す。昨日は早めに就寝したので、午前8時頃には全員元気に目を覚ました。朝御飯は、お粥!

なんでも地下鉄で数駅先に行けば「お粥横町」とか「お粥通り」とか「お粥街」とか言われている場所があるらしい。24時間営業が基本とか、けっこうな数のお粥屋さんが並んでいるとかいう記述を本で見て、そこに行ってみることにした。お粥がいろいろ選べるなんて、幸せじゃなーい?とわくわくしながらおでかけ。向かう先は「科技大樓站」という駅。確かにちょこちょこっとお粥屋さんは10軒ほど並んでいたけど……全然営業していなかった。多くの店は昼頃からの営業で、深夜もしくは早朝までが営業時間であるらしい。
「ぜんぜん"お粥街"じゃなーい……」
「ぜんぜんオープンしていなーい……」
思ったほどの店の数がなく、更にはそれらの多くが営業していない時間帯に行っちゃったものだから、なんだかがっかり。

目の前にはモノレールが上部を走る大通り。信号が青になるのと同時に十数台の50ccバイクがバババババババと一斉に走っていく。今はちょうど通勤通学時間帯。車も多いけれどそれ以上にバイクの数は圧倒的だ。排気ガス除けにデザインも模様も様々なマスクを装着している人が多い。皆さん思いきり軽装だけど、カーディガンやジャケットを逆向きにはおっている女性がいたりして(服の背中側を前にして、袖を通す。……エプロンみたい?風よけに良いかもしれない……)。パワフルだなぁ……と思う。

ともかく、どこかで朝飯を摂らなければいけない。数少ない営業中のお店の中には割と小綺麗な「永和清粥大王」という店があった。ほんの数メートル先には別のドアがあり、そこは「永和清豆漿大王」という豆乳の店の入り口になっている。共にセルフサービス式の店で、テーブルは両店共通となっているようだ。お粥店は大混雑。地元客で混んでいるのかと思ったら、店の前にはいかにもな観光バスが横づけされていて、お客はそこから吐き出されているようだった。「台湾の定番朝食、お粥を味わっていただきます」なんてキャッチコピーが脳裏に浮かんでくる。
「激しくハズレの予感……」
「んー、でも、地元客っぽい人もちょこちょこ吸い込まれているようでもあるね」
「他にお店、ないしなぁ……」
不安を感じながらも、この店に入ることにした。
おかずたくさん。でも安くはない……

カウンターにずらずらっと段差をつけて大皿に盛られた総菜類が並べられ、店員さんに指さしで伝えるとお皿に盛りつけて渡してくれる。多くは炒め物。青菜の炒めはその種類がいくつもあり(黄ニラとかいんげんなども)、あとはシジミの醤油漬け(台湾料理のメジャーなおかずであるらしい)があったり、肉炒めがあったり。1皿だいたい70元。他で食べてきた料理を思うと、あまり安い方ではないような気がする。その料理によっては店員さんがレンジでチンしてくれるのだけど、基本的には"作り置き"であることに変わりはない。作り置きは別に気にしないけど、それにしては価格が高いし、料理に対する愛情も今ひとつ感じられない……という感じ。
塩味のない淡泊なお粥

ひととおりおかずをトレイに乗せると、最後にお粥。お粥は1種類のみで、複数人分だと大きな釜に店員さんが、がばっとよそってくれる。支払いを済ませて席につく。

台湾のお粥は「地瓜粥」という。さつまいもがごろりごろりと入った粥だ。芋の甘さはあるけれど、他に塩味も砂糖味もしない、シンプルきわまりないお粥だ。それはそれで優しい味でなかなかいける。飲み過ぎた日の翌朝にはぴったり、かもしれない。
いただいてきたおかずはチャーシューと甘辛そうな牛肉とピーマンなどの炒め、黄ニラの炒め、そして豆腐の脇に丸ごとの皮蛋がごろりと置かれただけの皮蛋豆腐。カウンターに置かれた醤油やカラシなどの調味料を適当に小皿にもらってきて添えつつ食べる。

釜に入ったお粥はたっぷり3膳分はあった。おかずをつまみつつさらさらと1杯食べ、ちょっと味変えて食べたいよねと胡麻油垂らしてみたり、醤油をちょっと入れてみたり。
お粥そのものは美味しかったし、全体的に「不味い」というほどに美味しくないわけではなかったのだけど、結果的には「台湾で一番イケてない食事」となってしまったような感が……。

東區エリア 「永和清粥大王」にて
黄ニラ炒め
牛肉炒め
焼き豚
皮蛋豆腐
地瓜粥
 
 
 
 
計280元

台湾チックなお買い物〜「生活工場」

朝食を終えると、もうすぐ9時というところ。気になる買い物スポットがそろそろ開店する時間帯だったので、寄り道してからホテルに戻ることにした。

地下鉄に乗り「西門」駅に。西側に行けば一昨日訪れた大繁華街だけれど、東側には書店街などのある商店街だ。小さなビルが並んでいる。東に向かってぽてぽて歩く。
「このへんにね、天仁茗茶があるんだけど、その近くに"陸羽茶藝中心"って店もあるみたいなんだなぁ……」
何冊かのガイドブックを見てマッピングした地図を持って歩くと、1階が天仁茗茶、2階が陸羽茶藝中心、という店にたどりついた。

おお……同じビルであったか、と、とりあえず中に入る。それぞれ別のコーナーに茶器などが飾られ、広い店内をぷらぷらと見て歩く。茶葉はなぁ……そんなにいらないし、茶器もなぁ……ちょっと私には重厚すぎるものが多いし……と「買うもの、ないな」と出ようとしたところでお茶を収納するステンレスの缶と目が合った。二重蓋になっている100元前後くらいのものもあるし、50gほどの茶葉を収納するのにぴったりな小ぶりの缶もある。茶缶はけっこう高かったりするのだけれど、ここで売られている品は80元となかなか求めやすい価格だった。で、3個お買いあげ。

西南エリア 「天仁茗茶」にてお買い物
茶缶
3×80元

再び歩く。次の目的地は「伍中行」。カラスミで有名な中華食材屋さんだ。カラスミは買っちゃった後だったし、他にめぼしいものもさほどなかったので、ちらりと見てから通過。書店街をひやかしながら北東に向かう。書店街を抜けるともう宿泊ホテルはほど近い。

書店街はお粥街とは異なって、見事なまでの書店街だった。大きな通り沿い、両側には本屋さんが大量に並んでいる。地図が得意、とか辞書が得意、コンピューター本専門などなど、その本屋の傾向は色々。神保町によく似た匂いが漂っていて、時間があるなら一日中籠もっていたい場所だった。が、今回はホテルに帰還。喉が乾いたね、と、途中のドリンクスタンドで1人1杯のジュースを購入し、飲みつつ帰る。途中、一昨日もジュースを買った「飲脚亭」(本当にこの名かどうかは謎←店名ロゴがすっごく読みにくい……)だ。
「私ね私ね、杏仁味のミルクティー♪」
「ぼくねぼくね、いちごのジュースゥゥゥ」
「俺は……これかな、レモンハチミツ水」
相変わらずメニューは盛りだくさんで、おおいに悩む。やっぱり1杯100円弱で、口にも懐にも美味しいジュースだ。

台北車站近く 「飲脚亭」にて
杏仁[女乃]茶
草苺雪泡
檸檬蜂蜜水
25元
25元
30元

"アーモンド風味"というような生ぬるいものじゃない、しっかりくっきり杏仁の味がするミルクティーは、杏仁特有の苦さも少々感じられて、なにやら体によさそうな味わい。でも杏仁の香りがぷんぷん漂い、甘さ控えめ、良い感じだ。ほのかにヨーグルト味もするようなミルクたっぷりイチゴのシェークに、だんなの檸檬蜂蜜水はライムに似たちょっと渋みのある爽やかな味だった。うまー。

お店でもらってきたカードを見ると、砂糖や氷の量、タピオカなどのトッピングの有無など細かく注文できるらしい。好みの味を伝えるのはすごく大変そうだけど、すっかりこの店が気に入っている私だった。

ホテルで一休みした後は、再び町へ。滞在ホテルに隣接する地元デパート「大亜百貨」を歩き、上階の「誠品書店」をぷらぷら。「台湾のチェーン書店の中でも洒落た雰囲気」というこの書、確かに本の配置や品揃えが青山ブックセンター的。とっても写真の綺麗な小吃本を2冊購入した。1冊は自分用、1冊は友人のお土産に。伝統的な小吃のお店とその店での作り方(でも分量などは載っていないのでレシピとは言い難い)が載っている。台湾料理本の世界は、まだまだその料理写真は美しくないものが多い(7年くらい前の日本を見ているよう)。その中にもちらちらとレイアウトが洒落ていて写真に映る小物などにも凝っている本が登場しつつある……というのが現状のようだけれど、その中でもきわめて綺麗な本だった。書物名は『台灣老字號小吃』。んもう涎が出そうなほど美味しそうな写真の数々が載っている。食べ歩きするのにも使えそうな本だ。

台湾車站近く 「誠品書店」にてお買い物
『台灣老字號小吃』
2×249元

続いて近くのビル内にあったお店、「生活工場」へ。台湾内に展開する生活雑貨チェーン店で、その雰囲気や品揃えは「無印良品」に似ているという。生活雑貨の類が大好きな私は、一度は覗いてみたいと思っていた店だ。ホテルの近くのビルのその看板を見つけ、いざいざと行ってみる。

確かに品揃えはとても無印良品的。食器や文具類、お茶っ葉やお菓子類など、整然と棚に並べられている。基本的に無地でありアースカラーが主体の無印良品に比べると、デザインや柄に個性の感じられるものが多い。同系色の円模様をつなげた様々な色合いの食器セットとか、キッチュな柄のマグカップなどが良い感じ。私は茶系のランチョンマットと、tea、sugarなどの筆記体の英文字が不揃いに並ぶ柄のランチョンマットが気に入り、1枚100〜200円のそれを持って店内を更にぷらぷら。台湾らしく、中には中国茶器も並べられている。セール品だった黒塗りの竹製の盆は300元。だんなは砂糖とミルクの粉入りの「プーアルミルクティー」というなかなかすごいものを購入していた。

台北車站近辺 「生活工場」にてお買い物
ランチョンマット
ランチョンマット
竹製大盆
ポット保温用キャンドル
30元
60元
299元
99元

更にCD屋さんなども覗きながら大荷物と化してしまった私たちは再びホテルに。本当はそのまま昼食に行こうかななんて言っていただけど、とてもそれどころじゃなくなってしまったのだった(主に悪いのは私が買った竹製の巨大盆……)

大王な排骨なのよー〜「排骨大王」

お昼に目指したのは排骨屋さん。

私は昔々、中学生の時分から「排骨飯」なるものに並々ならぬ関心を抱いていた。海外旅行なんてしたこともない、他の国の料理なんてさっぱりわからない、なんて頃だったのに、「排骨飯」とか「マンゴープリン」とかには見果てぬ夢を抱えていた。理由は、当時購入していた雑誌『ファンロード』。アニメや漫画の雑誌である。キャプテン翼とか聖闘士星矢とかバオー来訪者とか、ラムちゃんとか赤い彗星とかたわばとかあわびゅとか、そんな世界の本である(知らない人は知らないでよろしい……)。漫画好きな中高生が喜んで読みそうな本だった。メジャーだった『アニメージュ』『アニメディア』などよりは多分に同人的雰囲気が漂う本だ。さすがに現在は買っていない。もう10年以上も前に卒業している。

どういうわけかその雑誌には、いや、どういうわけかも何も編集長の趣味ということで、年に数度は台湾特集とか香港特集が組まれていた。特集にはその国の漫画アニメ事情と共に、なんとも美味しそうな料理が写真と共に掲載されている。特に力強く何度も登場していたのが「排骨飯」。育ち盛りの子供には、なんともインパクトのある食べ物だった。骨付き豚肉を香辛料風味で唐揚げにして、御飯に乗せたもの……と説明されても、味の想像なんて当時はできなかったものだから、よけいに夢がつもりつもってしまった。おかげで日本でもそう珍しいものではなくなった現在でも、排骨飯にはちょっとした思いを抱いている。美味しいよねぇ……。

「そういう次第で排骨食べに行きましょう」
「せっかくだから"大王"に行ってみましょう」
とホテルから歩いても行ける距離にあるそこに向かい、昼食時をほんのり過ぎた頃に行ってみる。「排骨大王」、その名のとおり排骨ものがメニューの中心の店だ。大小のサイズがある排骨麺、排骨飯に加え、豚肉ではなく骨つき鶏肉の唐揚げを乗せたものもある。あとは総菜類が数種類とスープが少し。店頭では続々と豚と鶏が揚げられ積み上げられていき、食卓と厨房が一体となったようなオープンキッチン状態の空間で丼や麺に加工されていく。もう1時半を過ぎているというのに客席はほぼ満席、大賑わいだ。
パーイクーウハーン♪

だんなは排骨麺、私は排骨飯。小でもけっこうな分量があるということだったので、2人とも小サイズ。息子にかなり飯も麺も喰われてしまうことになったので、後から思うと大にしとけばよかったな、と……。
パーイクーウメーン♪

さっすが大王!という感の、迫力の排骨飯だった。決して小さくはないどんぶりなのに、それを覆いつくすように巨大なこんがり豚肉が乗っている。衣は少なめ、スパイシーさはあるけれど、比較的シンプルな味の骨つき豚肉が、衣少なめな素揚げに近い状態で揚げられている。他店ではカレー粉の風味が強い排骨が多く出てくる中、シンプルだけど味わい深いこの店の排骨は確かに美味しかった。肉にすっかり隠されようとしているけれど、下には青菜炒めと高菜のようなものが。更に肉の真下には魯肉飯に盛られるような挽き肉煮込みも隠されていた。全体的に「後で喉が乾きそう〜」という味つけのものではあるのだけど、水やお茶はない。周囲を見ると、スープを別に注文するか、あるいは自らペットボトル入りのドリンクを持ち込んでいるか、どちらかのようだ。

ごっつい外見のワイルドさ漂う排骨飯。排骨麺も負けずに迫力があった。縮れのない白っぽい麺が茶色く澄んだスープに沈み、上にはやはり青菜と高菜的野菜と、こちらはざく切りされた排骨が。
「うう、排骨飯、うまっ」
「排骨麺も、うまうまっ」
「ぼくはねー、ぼくはねー、ごはんもおそばも、両方すきなんだなぁ〜」
どんぶり交換しましょ交換しましょ、あなたもお代わり欲しいの?なんてわやくちゃになりながら、額と鼻に汗してがつがつと食べた。なにしろオープンキッチンなものだから、漂ってくる熱気がすごい。お客さんもやっぱり続々とやってくるし。
ごっつぁんです。

西門町 「排骨大王」にて
排骨飯(小)
排骨麺(小)
85元
85元

73種のアイス屋さん〜「雪王冰淇淋供應中心」

「喉が乾くようなお昼御飯だったからね、デザート食べよう」
料理屋はもとより、デザート屋チェックは特に周到にやっていた私。ほんの200mほど離れたところにアイスクリーム屋さんがあるのをしっかりチェックしてあった。なんでも、すっごく種類が豊富なアイスクリーム屋さんであるらしい。中にはキワモノメニューもあるという。

銭湯の洗い場のような、タイル張りの白っぽい壁と白っぽい床のお店。アイスクリーム屋さんチックな冷蔵ケースの巨大なものが置かれているけれど、それを覗きこんで選ぶ風にはなっておらず、席に置かれているメニューを見て食べたいものを決めるのだ。
味が濃〜くておいしーの

材料の主体はフルーツ。イチゴや梨やスイカなど、馴染みの名前が並んでいる。ずらーっと眺めていくと、後ろの方には並ぶ並ぶ怪しげな名前。
「豆腐(無甜)」 (豆腐だ……甘さはない豆腐のアイス……)
「猪脚(鹹的)」 (しょっぱい豚足……)
「[口加]哩」 (カレーだ……)
「苦瓜」 (これはゴーヤ……)
ネタとしてヘンなものを食べてみるのも一興かと思ったのだけど、せっかくなら好きな味のものを食べたいし。私はライチ、だんなはイチゴ、息子は、
「ここなっつー♪」
ココナッツ……ですか。そりゃまたトロピカルな。

お店のおばちゃんは、イチゴが息子用だと判断したらしい(そりゃそうだ)。ガラスの器に盛られたライチアイスとココナッツアイス、そして紙カップに盛られたイチゴアイスが手渡された。木べらが添えられた各種アイスは自然な色合いで、いかにも美味しそう。安いものは100円程度だけど、ライチは高めで約300円。

器を全員でくるくるととりかえっこしながら一通り味見。お店のおばちゃんの判断は正しかったようで、ものの数十秒で息子は
「やっぱりイチゴがおいしーなー……」
とピンク色のアイスクリームの独占体制に入ってしまった。
ライチアイスは、「こんな濃厚なライチ味アイスは食べたことない」と断言できるほど、たまらなくライチライチライチしたもの。その分舌触りは滑らかツルツルというわけにはいかないようで、果実の繊維や薄皮のかけらのようなものが混ざっている。ココナッツアイスもほのかに繊維質の存在が感じられるし、イチゴアイスも果肉の粒が感じられるようなもの。それはそれで、材料の味がそのまま凝縮されているような味わいで美味しかった。どれもあまりミルクミルクした味ではなく、どちらかというとシャーベットに近い。排骨の食後の甘じょっぱさがすっかり消えて、ご機嫌でホテルに帰還した私たちだった。

西門町 「雪王冰淇淋供應中心」にて
茘枝
草苺
椰子
85元
35元
60元

老舗の味の魯肉飯〜「老圓環三元號」

さすがにここ2日ほどの町歩きに疲れが溜まっていたようで、遅めの昼食後は部屋でだらだら。お腹はいっぱいだし、持ち金もそろそろ底をつきかけてるし、
「まぁ、ちょっと休もう……」
「ごろごろしよう、夜に備えて……」
ホテルの部屋でごろごろごろ。やっぱり最終夜の今夜は夜市探索で締めるつもりらしい私たちだった。

美味しそうな担仔麺屋さんが気になっていて、まずそこに行ってから夜市に移動しようかとか、そもそもどの夜市に行こうかとか、だんなと相談。
行っていない夜市の中で有名なものというと、饒河街夜市(大規模で楽しそうだけど、地下鉄駅からは距離があるみたい)、華西街夜市(ヘビを裂いたりするパフォーマンスが見られるらしい。でもなんだかいかにも観光向けって感じ)、臨江街夜市(かなり大規模。地元客も多そうで良い感じ。でも、地下鉄を乗り換えて行かなきゃいけないのでちと面倒……)。あそこでもないここでもない、と調べて最後に気になったのは「寧夏路夜市」だった。

場所は乾物問屋が並ぶ「迪化街」のすぐ近く。ホテルからほど近く、食べ物屋台も多いらしい。……が、最近できた夜市のようで、ガイドブックを開いても少しも案内のない本もある。
なんでも以前、すぐ近くに「圓環夜市」という夜市があったらしい。そちらが寂れてしまい、代わりに勃興したのが「寧夏路夜市」のようだ。手頃な規模で、食べ物屋が多いというところが気に入った。どんな夜市かという情報はいまいち少なかったけれどもとりあえず行ってみることに。夜市のエリア近くには、老舗の魯肉飯屋さんもあるようだし、まずはここで腹ごしらえをしてから。

地下鉄で台北車站から1駅、「中山」駅で下車して西に向かう。中山駅付近はデパートがいくつも並び、銀座のようなちょっと華やいだ雰囲気。駅の周囲は老人のガム売りと、車椅子に乗る宝くじ売りがうじゃうじゃと。この駅に限ったことではなく、台北市内のあちこち(主に地下鉄駅出入口、夜市の出入口など)でそのガム売り(キャンディー売り、ティッシュ売り、と内容はいろいろある)と宝くじ売りはよくみかける。宝くじは、身体障害者に販売免許が優先的に発行されているのだという話を後に聞いた。困ってしまうのはガム売りの方で、子供に向けてずいっと1本のガムを差し出してきたりするのだ。興味を惹かれるから子供はつい受け取ろうとしてしまう。
もさもさ食感魯肉飯。うまっ

観光客に限らず地元の親子連れなどにも同様に彼らはやや強引にガムやキャンディーを差し出してくるのだけれど、「ダメッ、ダメッたらダメッ」という風にガムを受け取ってしまった子供から無理矢理それをひっぺがし、怒りの表情でガム売りにつっ返すお母さんの姿を何度か見かけた。一度受け取ってしまったものを奪い取られてしまうので、小さな子供はそれで泣いてしまう。たまたま息子はたいした興味も示さなかったので泣かれたり騒いだりということはなかったけれど、親としてはすっごく迷惑な行為であることに変わりはない。幼児はガムなんて食べないよー……。

ともあれ夜市のエリアを目指し、車の行き交いは多いけれど人はあまり歩いていない太い道路沿いの道をてくてくと歩く。女性の一人歩きだとちょっと怖いような、薄暗い小学校の脇の道を抜けたりして。300mほど歩くと巨大な六叉路にぶちあたる。ここが圓環。そこからのびる寧夏路に夜市が立っているという。寧夏路の端に立って奥を見やると、100mほど先から屋台の電灯がいくつもいくつも揺れているのが見える。7時になるかならないかという時間帯だったけれど、屋台の多くが営業を始めているし、人々も集まりつつある様子。うーん、胸躍る。

魚食感のカマボコ、って感じ……? はやる気持ちを抑えつつ、最初に寄ってみたのは、創業ン十年という老舗の魯肉飯屋さん。「確かこのへんに……」と夜市の端のエリアを歩いていたところ、すぐにやたらと客の入りがよい魯肉飯屋さんが見つかった。スーツ姿の仕事帰り風情の兄さんが、入ってすぐのところにあるガラスケースからおかずを2皿ほど出し、奥のカウンターで魯肉飯を1杯もらってそれを片手におかずをかっこんでいたりする。いる人いる人、食べているのは魯肉飯だ。

1杯20元の魯肉飯を2杯いただき、それだけではちと食卓が物足りないなぁ、とガラスケースからおかずを1品選んでもってきた。カマボコに似た物体の上に刻み生姜がたっぷり盛られ、わさびと醤油が添えられている。

このおかず、かまぼこというよりもはっきりと「魚の肉」という食感。火を通した白身魚特有のホロホロ感もろもろ感がある。お刺身のようにスライスされ、さっぱりしている。生姜とわさびが良く似合う。
そして、魯肉飯は脂身少なめのさっぱり風味のこってり味。脂身少なめの肉をことこと煮込んだような肉が汁ごと御飯にかかっている。脂のじゅくじゅく感は感じられないけど、煮込んでぐずぐずになったじゃがいもに似た食感が味わえる、これもまた味のある魯肉飯だった。どこで食べても美味しくて幸せだ、魯肉飯。

圓環 「老圓環三元號」にて
魯肉飯
魚のかまぼこ的おかず
2×20元
50元

食べ物ばっかり。魚介もたっぷり〜「寧夏路夜市」

うー、いい感じいい感じ♪ さて、いよいよ夜市!ますます空も暗くなり、いーい感じの夜市の空気が漂いつつある。
道幅7mほどはある広い通り、両側に食べ物屋台がずらずらーっと300mほど建ち並び、食べ物以外の屋台はほとんど見かけられない。8割、いや9割以上は食べ物屋台な夜市だった。

しかも魚介を扱う店が妙に多い。鮮度とか衛生状態が気になるのが屋台飯だけれど、氷をみっちり詰めた上に並べられる魚や貝や海老類は腐臭を放つことなくピチピチと輝いている様子。注文するとすぐに炒め物やスープなどに仕立ててくれるようだ。店頭でえんえんと牡蠣入り卵焼きを焼いている屋台もある。話に聞くより衛生状態も"ちゃんとしている"店が多いように見受けられた。
たかが屋台、されど屋台で、昼間にじっくり時間をかけて仕込んだとみえるツヤツヤした丸鶏の蒸しものなどをカウンター上に並べて準備している店などは、そこらの一般店よりよほど美味しいものを食べさせてくれるんじゃないかという気がしてくる。「うちの自慢の味だよ」と屋台全面から気合いがにじみ出ているような店は、見ているだけでわくわくしてしまう。

どんな料理があるのか気になるので、まずは何も買わず、何も飲み食いせずに屋台を眺めながら奥まで進んでしまうことに。「あそこのあれ、美味しそうだったね」「あそこも気になった」とか言いながら、大通りと交差して屋台が左右に展開するエリアのあたりまで散策する。途中にはものすごく人気の魚介料理屋さんがあり、道路にはみ出す勢いでテーブルや椅子が並べられている。お客は50人ほどもいるだろうか。更に続々と集まりつつある。すごいすごい。

だんなは、
「汁麺じゃなくてね、タレをかけただけの乾麺が食べたいんだよねぇ……」
と、麺屋さんを探していた。あ、ここ、ある……と立ち止まった「麺食棧」という店のメニューには麺料理の名前がずらりと並べられている。道幅が広めの屋台街なので、屋台の近くには椅子とテーブルのセットが何組も置かれており、ちゃんと座って食べられるようになっている。この麺屋さんの背後にはコンビニもあって、こりゃ良いやとお茶ペットボトルも買ってきた。
「僕、炸醤麺ねー」
「私、麻醤麺食べてみるー」
「あ、更に僕は卵もつけちゃうもんね」
ついさっき魯肉飯食べたばかりなのに、いきなり飛ばしている。

こっちが炸醤麺 こっちが麻醤麺

どちらもきしめんに似た平たく白い麺。「炸醤麺」は甘辛味の肉と豆腐の炒めが麺に盛られたもので、私の「麻醤麺」は胡麻味ダレが麺にかけられたもの。たっぷりのもやしと刻み葱がトッピング。汁麺ではないけれど、湯通ししたアツアツの麺に温かいタレがかかっているので、冷麺というわけではない。
追加注文した「滷蛋」は、2つに割られたそれに刻み葱とピリ辛甘味のタレがちろりとかけられていた。些細な細工だけど、それがまた妙にツボだったりして。

麻醤麺は、ちと舌にもたれる胡麻ごってり味だったけれど、でも美味しかった。だんなの炸醤麺は適度な肉っけ、適度な味付け塩加減で、かなーり良い感じ。シンプルだけどすごく美味しい。麺をぺろりと平らげた直後、だんなは
「今後はピンが食べたいなー」
とか言って、すぐ近くの屋台で売られていた「肥肉胡椒餅」を買い求めてしまっている。肉入り饅頭というより、 「肉入りパン」な様相の、しかも巨大な物体だったけれど、これがまた肉ごろごろ野菜ごろごろピリリと効いた胡椒の香り、でめちゃめちゃ旨いものだったらしい(一口もらった。旨かったー)。
「うめっうーまー」
とがふがふ囓りながら歩くわが夫。この人も相当夜市が気に入っているとみた。

寧夏路夜市 「麺食棧」にて
炸醤麺
麻醤麺
滷蛋
35元
35元
10元

夜なのに……こんなに子供が 食べ物屋台だらけのこの夜市だけれど、ちょこちょこっと子供向けのコーナーがある。小さなパチンコ台に、金魚すくいなど。数少ないそこはすっかり「子供の社交場」のようになっていて、すごい人だかりができている。
「ぼくも!ぼくもパチンコしたい!あれやりたい!」
息子がじたばたし始めたので、じゃあ10元だけやりたいようにやりなさい、とおこづかいをあげた(10元……たったの35円)。

特に子供が集まっていたパチンコ台は、1元入れると1回球が発射される仕組み。1投ごとに点灯する場所が変わる複数の出口のうち、見事光るそこに球を入れることができれば、更に1回発射できる上にチケットが1枚ずるずるっと出てくる。チケットを集めれば20枚でこれ、200枚でこれ、とあれこれグッズがもらえる仕組みだ。1元1元楽しそうに投入しては発射させていた息子だったけれど、チケット取得は4枚だけ。スーパーボールを1個もらって子供の社交場を後にした。しっかしすごい人だねぇ……。

次に試したのは、台湾滞在中2回目の挑戦となる「麺線」。とある屋台で煮られていたそれが、少しもケダモノ臭のえぐい匂いがなく、どころかすんごく美味しそうな香りを漂わせていたのだ。看板には「[虫可]仔麺線」という文字があり、牡蠣入りの麺線のようである。看板の下、小さく「鵝血入:15元」と書いてあって、え?血を入れるの?ガチョウの?と背筋を少々凍らせながら、それでも気になるので1碗いただいてみた。もちろん血は抜きだ。まだ台湾ビギナーだし。
ああ、美味しい。めっちゃめちゃ美味しい……

さすがに1人1杯食べられるほどの胃袋の余裕もなく、テーブルの中央に丼を置いて、私とだんなの2人でレンゲをのばす。無口だけどにこにこと愛想の良いオヤジさんが、見かねてもう1つ空のどんぶりを貸してくれた。猫舌な私はありがたく丼からちょこちょこ麺とスープをすくい取り分けては食べていく。

……うっまーい。
めっちゃめちゃめちゃめちゃ、うっまーい。
何よなんなのよこの美味しさはっ!先日の西門町の人気麺線屋の味に全然負けてない。ていうか、こちらの方が圧倒的に美味しいかもしれないと言っても良いほど、その味は心にずんと来た。鰹だしと豚モツと牡蠣という、バランバランな味のものが絶妙のバランスで1つの碗の中に溶け合っている。

スープは鰹だしの風味(ほんのりほんだしの風味)。中には小指の先ほどのサイズの豚モツがごろごろと入り、豚モツ以上に大量の小粒の牡蠣がこれでもかと20粒以上入っている。とろみのあるスープと一体化しているように、素麺に似た細く白い麺がぷわぷわとたゆたっている。見かけは何がなんだかという謎を感じさせるものなのに、このどろっとした碗の中はたまんなく美味しいのだった。ああ、やっぱり麺線サイコー。麺線ブラボー。

ほんの10分前には
「半分……食べられるかな?お腹一杯なんだけど」
「2人で1杯ならなんとかなる……かな?」
なんて店頭で相談していたのも忘れ、奪い合うように麺線は消え失せてしまった。
「おいしー!おっちゃん、美味しいよ、ハオチーだよ」
「ヘン、ハオチーラ!(とっても美味しかった) ありがと、シェイシェイ、美味しかったぁ……」
片言の日本語を話すおっちゃんに旨かった、旨かったよー、と言いながら屋台を去る。

寧夏路夜市にて
[虫可]仔麺線
35元

満腹だー満腹だー言っていても、美味しいものを食べてしまうと不思議とその後も詰め込むことができちゃったりするのである。塩気のある熱いものを食べちゃったので、
「そうするとね、次は甘くて冷たいものが食べたくなっちゃうんだなぁ〜」
と、呆れるだんなを後ろに従え、私は愛玉子の屋台に急ぐ。

「愛玉子」も有名な台湾デザートの1つ。夜市の屋台の中でもかなりメジャーな部類に入る。「あいたまご」ではなく、「オーギョーチー」と発音する。台湾でしか採れない植物の種を乾燥させたものが材料で、乾物屋街でも見かけることができた。米の籾殻をうんと小さくしたような感じの、いかにも種でございます、といった外見のものがたっぷり1袋に入れられ100円そこそこの価格だっただろうか。これを水に浸して揉むとエキスが染み出てくるらしい。ゼラチンや寒天の助けを借りなくてもそのエキス入りの水はゼリー状に凝固し、そのゼリーをレモン味のシロップに沈めて供するのが一般的な食べ方になる。日本でも何度か食べたことがあり、あの爽やかなシロップがまた美味しいんだよねぇ……と以前からお気に入りのデザートだ。

汁気のあるものをカップに入れられて渡されても、屋外じゃ食べにくいかも……と思いつつ25元のそれを1杯いただいてみた。おばちゃんがプラカップにレモン水とぷるぷるしたゼリーを入れ、更にそこにかき氷状に削った氷をひとすくい、がばっと詰め込んだところで蓋して軽くシェイクし、手渡してくれる。カップに刺されるのはスプーンではなく、ぶっといストロー。ゼリー入り飲料と貸した愛玉子を手渡され、ああ、これなら屋台街でも食べやすいよねぇ……とすっかり感心して受け取った。

細かい氷がシャラシャラと溶けて、その冷たさがまた嬉しい。適度な酸味と甘さもこれまた良い感じ。細かく砕けた愛玉子がレモン水と一緒にチュルチュルと太いストローを上ってきて、ほんと、まんま"ゼリー入り飲料"だ。
「おいしい?おいしい?」
と聞いてきた息子に手渡してやると、そのまま「僕はもうこれを離さないもんね」モードに突入してしまった。こりゃ確かに美味しいもんなぁ……と諦めてもう1杯購入。肺活量が少々必要な(太いストローを吸い上げるのって、けっこう疲れるのよね)ゼリー飲料をずびずびずーと吸いながら再び屋台を覗きつつ、帰路についた。

歩いては食べ、食べては歩きというパターンになりがちな夜市歩きだけど、この夜市はまた格別。何しろ食べ物屋の屋台ばかりが並び、やってくる人は多からず少なすぎず、適度な混雑。
これだけさんざん飲み食いして、今日の夕飯は全部でたったの1000円くらい。魯肉飯美味しかった、麺も美味しかった。麺線はサイコーだった、デザートの愛玉子も食べられたし……と、満足しきりでホテルに戻る。やっとやっと、屋台に書かれた品名を見て、「ああ、あれはああいう食べ物だ」と理解できるようになったのに、明日の夜にはもう帰国。また絶対来るぞー、夜市〜。

寧夏路夜市にて
愛玉子
2×25元